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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
87/120

STAGE☆87 「ぼっち男達のキッチン」



「遅かったわね」


「本当にいた」


 サルーアのキャッチした反応を追って、たどり着いたのはエミリアが高級そうな椅子に座る魔族の砦。


「やっぱりここは魔界だったんだな」


「疑っていたの?」


「証明できるものがなかった」


 とは言ってもまだ、ギブン地震が魔人の姿を見たわけではない。


「死体と一緒なんてごめんだもの、ブレリアに魔物の巣に捨ててきてもらったわよ」


 魔人を倒したのは、ほとんどブレリアだったそうだが、エミリアの魔銃も魔人を驚愕の表情に変えたと自慢する。


「で、そのブレリアさんは?」


「だから遅かったわね。って言ったのよ。彼女は出て行ったわよ。あなたを探しに行くんだってね」


 仲間の中で一番冷静なタイプな彼女がまさかの単独行動!?


「愛の力ね」


「室長が言うと白々しいですね」


「言うようになったわね、フリュイ」


 エミリアは立ち上がり、ギブンの隣に立つ助手の領の頬をつねる。


「で、その子、誰? また新しい女?」


「オイラは男っす!」


「そうだぞ。19歳とか言ってるけど、13歳のれっきとした男だぞ」


「なぜ、オイラの本当の年齢を!?」


 最高ランクの鑑定スキルを持つギブンに、年齢や性別を隠せやしない。


 服ごと湖に入った時に疑って、つい見てしまったが、ギブンも普段は無闇にノゾキをする事はない。


「そうか、ブレリアさんいないのか。どうしたものか……?」


「放っておけば、そのうちここに戻ってくるかもだし」


 それも一理あるが、ここが魔界だと断定された今、ただ待っているわけにもいかない。


「それじゃあエミリアはまたここに残って……」


「ごめん被るわ」


 ギブンがサルーアと共に迎えに来てくれた。なのになぜ、何もないこの魔族の砦に居なくてはならないのか。そう言われれば返す言葉もない。


 フリュイは……。


「嫌、だよな。しょうがない。メッセージを残して探しに行くか」


「探す必要なんてないわ。ちゃんと発信機は渡しているもの」


 早くそれを言ってほしい。


「けどこっちの世界は、私たちの世界と違って魔力が不安定で困るわね。私のは時間を掛けて仕上げたものだけど、彼女に渡したのは今日ごしらえしたものだからね。近付かないと反応しないかも」


「魔力に関しては、慣れればどうにかなるんだけどな」


「……本当に非常識。あなたが一緒だから、サルーアも駄々を捏ねずに動いてくれたのね」


 魔力で起動した後は、自動でマナを吸収して動力に換える移動要塞は、しかし魔界では装置が上手く動作せずにぐずついていた。


「マナをエーテルに変換する装置の方がちゃんと動いてくれたからな。フリュイにやり方を教わってやってみた」


「変換器の起動に、莫大な魔力が必要なんで放置していたけど、まさかあなたが本当に動かせるなんて、思ってもなかったわ」


 獣人国ではマナで動いていたサルーアも、こちらでは全く動こうとせず、フリュイがギブンに泣きついてきた。まさかこんな奥の手がされていたとは。


 とは言え、それもギブンがこの魔界でも、工夫次第で魔力が練られるようになると、気付けたから。


「初めからあのデカ物を、この魔界に持ってこなくて正解だったな」


 いまだから上手く起動できたが、あの時なら無駄に時間を浪費してしまっていた。


「もしかして発信機が機能するのは、電池がなくなるまでなのか?」


「当然よ。当たり前じゃない」


「やっぱり早く見つけないとだな」


 テンケの頭の上にちょこんと乗っている小さな蛇、フライングサーペントのラフォーは問題を抱えていない。同じ魔物であるハクウの能力も、落ちてはいないはずだ。


 砦の魔人も全滅させられるほどの力は持っている。とは言え危険なことに変わりはない。


「そう、その子にも従魔を……。ちょっと羨ましいわね。けれど見てなさい。すぐにアッと驚かせてみせるから」


 4人は砦から移動要塞に場所を移した。


 馬車はブレリアが乗って行った。あのコンテナごとである。


 とすれば安心して寝泊りできるし、幾日分かの食糧も積んである。


 心配ではあるけれど、2匹の子サラマンダーも一緒だし、ブレリアの事だ。うまくやってくれるだろう。


「にしても随分とあったもんだな」


 ギブンがもしかしたら使えるのではと思い、持ってきたのは魔族の砦にあった食材。


 サルーアの研究所スペースで広げてみた。


「ギブン、本当にこれ、オイラたちが食べても問題ないっすかね?」


 確かにテンケが心配するのも分かる。人間界では観た事のないモノばかりだが。


「大丈夫だ。心配しなくても、全部向こうと変わりなく使える物ばかりだよ。見た目が違うだけで、肉も野菜も果物も、人間界にある物と変わりない味だから」


 これも女神からもらった食物図鑑のスキルで、確認はとっくに済ませてある。


「ギブン、今さらっすけど、あんたは何者なんすか? 料理研究家にしても、まさか魔界の物まで熟知しているなんて信じられないっす」


 テンケは(テンケだけでなく仲間のみんなは)ギブンの桁外れな能力に首を捻るばかりだが、変に勘ぐったりはしない。


「それじゃあこれを使って、今日も何か作るっすね」


「ああ、まだ当分はストックだけでやっていけるけど、今日はもうサルーアを動かせない。ってエミリアに言われたからな」


 マナのエーテル変換はうまく働いたけど、問題が起きていないかオーバーホールが必要だと言われた。


 ひょっとしたらギブン達も手伝わされるのかと、聞いてみたところ。


「好きにしてもらっていいわよ。こっちは私たちだけで十分だから」


 意外な言葉を返されて、時間の空いた2人は魔界の食材で料理をすることにしたのだった。


 先ずはどの食材が、どんな物かを見極める必要がある。


「見た目はともかく、この辺のとか、色とか模様とかやばそうっすよ。毒がないか気を付けないとダメっすよね」


「さっきも言っただろ? ここに毒のある食材はないよ。魔族だって毒を食らって生きている訳じゃあないだろうし、気にしすぎだって」


「そうっすか。なら何から試すっすか?」


 ギブンはもうすでに何を作るか決めてある。転生してから作ったこともある、アレに必要なものはまだ残っている。


「数日分作っておくのもいいかな。異次元収納なら傷む心配もないんだから」


 早速調理を開始する。と、その前に。


「キッチンが必要だよな。ブレリアさんが持って行ったコンテナがあれば、問題なかったんだけど」


 住居として作ったコンテナハウスには、充実したキッチンを備えてある。


 エミリアの魔道具のお陰で、夢のオール電化が揃っている。


「ないモノはしょうがない。テントで使った道具でなんとかしよう」


「魔道コンロって超便利っすよね。スイッチ一つで火が出せるし。こっちのジャグチと言う魔道具も捻れるだけで、好きなだけ水が出てくるんすからね」


 水道の魔道具はサルーアのシャワーを見て、あまりの便利さにエミリアに分けてもらった物だ。当然馬車のコンテナハウスでも使っている。


「いいかテンケ、コンロの火も蛇口の水も、魔力を消費して出しているんだから、好きなだけなんて思っちゃダメだ。ちゃんと節約を心掛けないと」


 切った野菜を鍋に入れて、水に浸して火にかける。


 テンケはキレイに灰汁を取ってくれた鍋に、そこにフライパンで軽く火を通した、アグールブルのぶつ切り肉を入れる。


「俺はこっちで香辛料を合わせるから、鍋をしっかり見ててくれ」


「了解っす。ギブンの料理はどれも見たことない物ばかりっすね。どれもおいしくて毎回感動するっす」


 探せばきっと同じような料理は大陸のどこかにあるのだろうけど、ギブンが作っているのは日本で食べていたものばかり。物珍しいのは当然だろう。


「あら、なにかしらこのニオイ、ものすごく食欲をそそられるわね」


 スパイシーな香りは、外で作業をしていた2人を、呼びに行く前に中へ誘ってくれた。


「鼻がいいな、エミリア」


「こんな強烈で、食欲をそそるニオイが漂ってきたんだもの、つい作業の手が止まってしまったわ」


 エミリアの後ろから、ひょっこり頭を出したフリュイも、首を縦に振る。


「邪魔をしたみたいだけど、手が止まったのなら一緒に食おう。本当はもっと長時間煮込み続けた方がいいんだけど」


「御託はいいから、早くよそいなさいよ」


 ご飯もいいように炊けている。ギブンは人数分の更にご飯を乗せ、出来上がったばかりのカレーをかけた。


「なんだか赤いわね」


「それはこっちの野菜を使ったからだな。本当はもう少し茶色くなる予定だったんだけどな」


 以前作った時と同じスパイスを使ったのに、なぜか思いがけない色になってしまった。


「白いご飯に真っ赤なカレー、見た目だとかなり辛そうだけど」


 エミリアは恐る恐る口をつけた。


「あら、ピリッとはするけどそんなに辛くはないわね」


「これ、おいしいです。いくらでも食べられそうです」


「フリュイも気に入ってくれたか。いっぱい作ったからどんどん食べてくれ」


「はい!」


「フリュイ、そんな食べ方をしていると、後悔することになるわよ」


「はい?」


 幸せそうに食べるフリュイを見て嘲笑する、エミリアは気付いていた。


 ギブンの料理は正に天国と地獄。


 あまりの美味しさに口を動かし続けていると、近い将来に服が着れなくなることを。

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