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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆85 「ぼっち男とぼっち男の初談話」



 これからまだまだ成長する可能性を秘めたギブン15歳、現在180㎝。こっちに来た(ゲームデータを元に初期設定がされた)頃よりも2㎝伸びている。


「子供?」


 立ち上がらせた鎧男の頭頂はギブンの腹の辺り、成人はしていないように見える。中学生になりたてといった感じだろうか?


 実はギブンと同い年だというピシュと、目の前の男は同い年に見える。


「失敬な! こう見えてもオイラは19歳っす!!」


 いきり立った男の手甲が落ちる。


「えっ? なんで……?」


 散切りにした赤髪の男は、キョトンとして自分の手の平を見る。


「もしかしてキミは人間ではないのか?」


「人間っす! 全くどいつもこいつも、オイラを見るとすぐ亜人種扱いしようとするんすか」


 ギブンの問いに気を悪くして、詰め寄ろうとするテンケは蹴躓いてしまう。


「いったい、どうなってるっすか?」


 なにをそんなに驚いているのか? ギブンにそう尋ねられたテンケは、咳払いをして気を落ち着かせた。


「いや、この鎧には呪いがかけられていて、脱ぎたくても脱げなかったっす。ううっ、三ヶ月くらい、風呂にも入られなかったんすよぉぉぉ!!」


 と言って残りの鎧も全て脱ぎ捨てた。


「はぁぁぁ、やっと軽くなった。……やっぱり痒い、体中が痒いっす」


 落ち着いて話せる状態ではないようなので、ギブンはテンケを湖に連れて行った。


「悪いな、俺のコンテナがあれば、温かいシャワーを使わせてやれるんだが……」


「シャワー? ってのは何か分からないっすけど、この気候なら問題ないっす」


 テンケは衣服のまま水に飛び込む。


「おいおい、服ぐらい脱いで飛び込めよ」


「この服もずっと洗えてなかったんっす。こうすれば一石二鳥っすよ」


「それならキミが水浴びをしている間に、俺が洗ってやるよ。魔法で乾かしてもやるから」


「いいっすいいっす、今さらっす」


 そう言いながら水から上がったテンケは、衣服の上から洗剤を付けて、髪も顔も服も一緒くたにして、泡だらけになる。


 小雨エリアレインを自ら唱えて、泡を奇麗に流すと人間洗濯終了!


「ふぅ、温風サンキューっす。さっぱりしたっす」


 ようやく落ち着きを取り戻したようだ。


 しかしゆっくりと話を聞くには、もう一手間が必要だった。


「大きな腹の虫を抱えているようだな。ここのところ落ち着いて料理をする暇もなかったから、ビーフシチューくらいしか残っていないけど、食うか?」


 魔物除けの護符を付けた3人用のテントを取り出して、テンケを中に招き入れる。


「はぁ、すごい! 異次元収納のスキルを持っているんすね?」


「話は後でいいから、ゆっくり味わってくれ。どうかな? 口にあうか?」


 彼の事は色々聞き出したいが、こちらの情報は極力知られたくはない。


「はい、とっても旨いっす。それはもうビックリするくらい」


 話題を異次元収納から逸らして、ギブンも自分の分を口にする。


「本当に旨いっす。本当に……」


 よほど空腹だったのか? 鍋一杯のビーフシチューも空になり、テンケも緊張を解いてくれたようで、ようやく話を先に進める事ができた。


「なんであんな呪いの鎧をつけて、あんな何もない草原で1人、何をしていたんだ?」


「あの鎧は勇者様に頂いた物で、まさか呪われているとは思っていなかったっす」


「勇者?」


「ああ、オイラは勇者ジオウ様のパーティーに参加してるっす」


 勇者ジオウの名は聞いた事がある。今回の魔王復活にあたって、人間の手で召還されたと言う噂を耳にした。


「つまりテンケは勇者パーティーの一員って事か」


 では勇者様ご一行は、もう獣人国のそばまで来ているという事なのだろうか?


「今はちょうど大陸の真ん中辺りって感じっすかね」


 それだとまだまだ遠い。


 しかし徒歩での旅だとしたら、五ヶ月でその辺りなら早いようにも感じる。


「いや、馬車や魔物なんかを使ってれば、妥当な距離と言えるか」


 けれどテンケの話が本当なら、ここは元いた人間界で、ギブンはただ場所を移動しただけ、という可能性が出てくる。


「オイラはいつも通りに周囲の安全確認をしに森に入ったっす。森の中で洞のように大きな穴のある大樹を見つけたっす。その中はやたら広くて、中に入ったオイラは直ぐにやばいところだと感じて、慌てて外に出たっす。したら深い霧に閉ざされてて、気が付いたらここに居たっす」


 もしあそこでギブンと出会わなかったら、サイズの合わない鎧と剣が邪魔をして逃げる事もできず魔物の餌食になっていたかもしれない。


 テンケはギブンの手を取って深々とお礼をした。


「そうか、キミも霧を通って、ここにたどり着いたということか」


 状況が自分と似てはいるが、ここが魔界だという確証に繋がる話ではなかった。


「勇者パーティーってことは、魔法使いや格闘家の少女がいて、戦士と僧侶もいたと思うんだけど、その僧侶に呪いを解いてはもらえなかったのか?」


 勇者パーティーの中に斥候がいると言う話は聞いた事がない。話題の方向を変えてみる。


「それそれ! なんでギブンさんは、あの呪いをそんなに簡単に解除できたっすか? コアンナさんの祈りでも、どうすることもできなかったっすよ!?」


 おっとこれは、こちらはまだ何も聞き出せていないのに、先に手の内の1つを握られてしまいそうだ。


「コアンナさんという人が僧侶なのか?」


 変な方向転換はかえって怪しまれる。ここは話の流れに乗る事にする。


「そうっす」


「その人は状態異常無効化のスキルは?」


「持ってるっす。そう本人は言ってたっす」


 神の啓示を受け、加護を授かった勇者の仲間達は、特殊スキルも有しているようだ。


「ふ~ん……、それはそうと俺の事はギブンでいいよ。敬語もいらない。俺も年上のテンケに気軽にしちゃってるし」


 ギブンはこのキャラでいるから人と会話ができる。


 敬語も使えないわけではないが、その為には騎士をイメージする必要がある。けど最近では騎士が一番気を遣うキャラクターだと感じるようになっている。


「オイラはこの喋り方が気楽なんで! 年の事も気にしないで欲しいっす」


 早く2人を探しにも行きたいところだが、テンケを置いてはいけない。それにまだ聞きたいことも多い。


「陽も陰り始めているし、俺は明日までここで体を休めるよ」


「このテントで?」


 魔除けのアミュレット付きテントは、今までもどんな魔物も遠ざけてくれた。従魔以外の魔物が寄ってくることはない。


「まぁ、寝るだけと考えたら、1人で使うにはちょっと広いけど、2人ならちょうどいいんじゃあないか?」


「泊めてくれるっすか?」


 勇者パーティーでは荷物運びも担っていたようだが、偵察のために全て置いてきたと言うし、こんなところに放ってはいけない。


「キミの武器は? まさか、あの剣が獲物ってわけはないよな」


「武器っすか? これっす」


 短剣が2本、なるほど身軽さが売りなら、妥当な選択だ。


「しばらく一緒に行動しよう。どちらかが知った場所に出るまでは、その方がいいだろう」


「そ、それは助かるっす。……でもオイラはきっとお荷物っすよ」


 暗い表情、たぶんギブンと同じ事を考えているに違いない。テンケは勇者パーティーでどんな扱いを受けてきたかを察する。


「キミはあんな鎧や剣が邪魔しなければ、グリフォンに怯える事もなかったんじゃあないか?」


 確かに大きな剣に振り回されてはいたが、無闇に大剣を振っていた感じではなかった。


「……どうっすかね? 戦うのは難しくとも、逃げる自信はあったっす」


「すばやいグリフォン相手に?」


「逃げ足だけは、Sランク冒険者にも負けない自信があるっす」


 自分の特技を胸を張って言える。それは大きな長所になると、いつだったかブレリアが言っていた事を思い出す。


「俺も全く知らない土地で、仲間とはぐれて途方に暮れていた。キミと協力し合えればありがたい」


「オイラの非力さを知ったら、勇者様達みたいになるだけっす」


「ごめん、小声過ぎて聞こえなかった」


「ああ、あははっ、独り言っす。それじゃあ人里に出るまでお願いするっす」


 先ずはどれだけ動けるかを、お互い見せ合おうと外に出る。


 近くにいたのはバジリスク。


「ヤバイ相手に出会したな」


「さ、3匹もいるっすよ」


 普通なら1匹でもかなり苦戦する相手だが、特に問題もないだろう。


 ギブンの状態異常は石化も回避できる。万が一テンケがやられてもほとんどの場合は、助ける事もできる。


「キミはA級の魔物相手でも、怯むことなく突っ込んでいけるんだな」


 スキルの乱用はまだ早いが仕方ないと考えるギブンだったが、それは杞憂にすぎた。


「ギブンがちゃんとオイラの事を見て、オイラが動き易いように攻撃してくれるからっす」


 確かにテンケの短剣は蛇の鱗を傷つける事もできなかったが、十分に牽制役をしてくれる。しかもこちらの動きを妨げないようによく考えてくれている。


 目を合わせる事もできない蛇が相手でも、危なげなく立ち回り、あっと言う間に退治した。


「今日はこれくらいにしてテントに戻ろう。テンケは料理は得意か?」


「別に苦手って事はないっす。けどギブンのシチューみたく、旨くは作れないっすよ」


「いや、作れるって言うならありがたい。明日に備えて早く寝るべきだろうけど、何日分かは作っておきたいから」


 非常食なら数日分あるが、どうせなら旨い物が食いたい。


 調子に乗るギブンは残りの食材を全て使い切る勢いで調理をし、気付けば翌日の朝を迎える時間まで、テンケを寝かせなかったのであった。

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