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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
83/120

STAGE☆83 「ぼっち男と二度目の魔界」



「お前はギブンとどうなりたいんだ?」


 ギブンは仲間に等しく愛情を注いでくれている。そう感じているのはブレリアだけではない。


 しかしそれがいつまでも続くという自信もない。


 ブレリアは自分は、がさつで大雑把だと自覚している。年の差だって大きい。


 (中には200歳以上離れた者もいるが)正直に言えば、結婚してもらっても不安は残っている。


「つまり、彼をどう思っているかってこと? そうね。好きよ」


「むぐっ!」


「ただしそれが愛かどうかは、今の所は自分でも分からない。ただ1つ自覚しているのは、私がこの人に愛される保証はどこにもない。ってことかしら?」


 愛という言葉が耳に届き、ギブンはハタと気付く。


 確かにみんなの事は、ただの仲間以上に大切に思うし、強い好意を抱いている。


 愛情、言葉は知っていても、どんな感情なのかには気付けていない。


「興味深いし、一緒にいて楽しいし、なにより魔法に対する探求心は尊敬に値するし、私の良き理解者だと思っているわ」


 雄弁に語るエミリアの表情を見れば、それだけでブレリアには十分な答えに感じられた。


「……まぁ、いいわ。あたし自身、あんたの事は嫌いじゃあないし、背中を任せられる力は持っているようだし、それじゃああんたも魔界まで行くって事でいいのね」


「こんなところで置いて行かれたら私、簡単に死ぬわよ」


 霧の中心と思われる魔力が最も高い場所。


 右も左も分からない岩場で意識を集中すると、瘴気が濃い地点に気付く。


「これか?」


 ギブンは先陣を切って濃霧の中を歩きだす。


 霧で様子は窺えないが、ギブンの歩く先には大きな岩が現われる。


「この岩で間違いないはずだ。その辺りに頑張れば入れる穴があるだろう?」


 岩塊には人が1人通るのが、やっとの穴があった事をブレリアは記憶している。


 逸れないように腰に巻いて繋いだロープが引っ張られる。ギブンが入口を見つけたようだ。


 やがて真っ暗になり、手を横に伸ばすこともできないほど狭い中。


「アイタ!?」


「高さもないから気をつけろよ」


 最後尾のエミリアが頭をぶつけたのだろう。ブレリアは失笑しながら注意する。


「そう言う事は早く言いなさい。天才の頭がおバカになったらどうするつもり!」


 一歩がなかなか前に出ない暗闇で、エミリアがふと思い出す。


「そうだ、便利なものがあったんだった」


 ここではどうやら魔力が吸収される様なので、灯火ライティングを出したところで、たちまち吸われて消えてしまう。


「こういう所で便利なのよ」


「おお! なんだそれ、光が消えないぞ」


「乾電池って本当にすごいのよ。こんな空間でも魔力が吸収される事がなく、こうして灯りを維持できるのだから」


 灯りが点っても見える範囲は、半端ではなく狭い。それでも手探りをしなくてよくなる分、足が進むのも早くなり、しばらくして明るいところに出ることができた。


 ようやく出た広い場所は、こちらもまた岩山だった。


「すごい魔力。なんなのここ?」


「ここから獣神の谷に、魔力が流れている。って感じだな」


 興奮気味のエミリアに、冷静に分析するギブン。


 その脇に立つブレリアには言葉がない。


「どうかした? ブレリアさん」


「いや、ここって本当に魔界なのか? ってな」


「そうだね。俺もここが本当に魔界なのか、自信はないけど空気が変わった事は肌に感じるよ」


 それはブレリアも感じている。エミリアは実感がないようだが、ギブンの異次元収納に入れてもらっていた機材を出してもらい、あちこち調べ始める。


「魔人の砦を見た事があるんだろ?」


「見たうちに入らないくらい遠くからだよ。山や森、砂漠なんかにも行ったけど、同じ景色を見ても、分からないんじゃあないかな?」


 周りに危険な生物などはいなさそう。少なくとも見上げる空にグリフォンは飛んでいない。


「エミリアの調査が終わるまで休憩だな」


「ええ、私1人に働かせて、2人は乳繰り合うですって?」


「言ってねぇだろ。待ってる間はどうするんだ? ギブン」


「もういっそ、今日はここで野営しようか?」


「もしかして野宿? いやよ私」


「野宿でないならいいだろ?」


 そう言って取り出したのは、以前から使っている馬車。


「まさかここで寝ろと?」


「まぁまぁ、いいから中に入ってみてくれよ」


 ホロの中がどれだけ豪華だとしても所詮は馬車、狭いところに押し込められては、落ち着くこともできやしない。


「結界について研究してみたんだけど、魔力を駆使して空間圧縮ができるようになったから試しに改装したんだけど、どうかな?」


「サルーアみたいな内装ね」


「マネしてみた。1階には大きめの部屋とトイレとお風呂、2階には3部屋あって中には2人分のベッドが置いてある」


 空間圧縮には膨大な魔力が必要だが、ギブンにはこれくらいは造作もない。


 一度圧縮した空間を固定してしまえば、後は毎日大きめのバッテリーボックスに魔力を蓄えてやればいい。


「これならみんなで泊まれるだろ。1人一部屋で休めるぞ」


「待て! あたしとお前はもう夫婦なんだ。しかも新婚だ。もう少しくらいは甘えさせろ。だから同じ部屋でいいだろ」


 サルーアでも我慢してきた。贅沢は言わないが、新妻はちょっと甘えたかった。


「待ってくれ、そう言うのは気が緩められる所でにしよう。せっかく1人一部屋使えるんだから……」


 大部屋にはベッドになるソファーが置いてある。仲間が合流すればギブンはそこで寝ようと考えている。


「いいじゃない? 2人で寝れば、私は1人で寂しく枕を濡らすわ」


「なんかその、なんだな。またゆっくりできるようになったら、その時は絶対だからな、ギブン」


 エミリアの視線に戸惑う2人。


「……うん、分かってるよ」


 とにかく泊まるところの心配もなくなり、エミリアは色々としらべてきた成分表をまとめて、データ化するからとソファーに座り、“パソコン”になんとなく似た魔道具と睨み合う間、ギブンは久し振りに手料理を2人に振る舞う準備をした。


「私、正式にギブンに求婚するわ」


 初めてギブンの手料理を口にしたエミリアが、瞳を輝かせた。


「気持ちは分かるが、それは却下だ。そんな軽い気持ちでプロポーズするんじゃあないよ」


 とブレリアは言うが気持ちは分かる。


 この料理にはそれほどの中毒性があると、ブレリアも思っている。


 そして思う。エミリアは近い未来に肩を並べる存在になるだろうと。






 岩陰を出ると、そこは無数のストーンゴーレムが徘徊する広い岩場だった。


 同じAランクの魔物でも、グリフォンのようにスピードも俊敏性も劣る分、パワーや強度は厄介だがブレリアとエミリアにはやり易い相手だと言える。


「こんなに斬れ味が増すとは、なるほどこれが魔道具か。ヒュードイルの連中はこんないいモン持ってながら、なんでグレバランスにずっと負け続けていたんだ?」


「ウチの兵達は魔法適性が著しく悪いから。っと、これは極秘事項だった」


 魔道具によって叩きつける力が増し、また戦斧の強度も上がって、ゴーレムを一刀で魔石ごと真っ二つに割ってしまえる力が供わった。


「あなた、私のフォローなんてなくても、1人でゴーレムを倒せるんじゃあないの?」


 エミリアの銃撃は牽制はできても、ゴーレムを倒せる力はない。もっともサルーアに置いてきた大筒があれば話は別なのだけど。


「悔しいが、ゴーレムとのリーチ差は、ハクウの力を借りても埋められないな」


 後方支援があってこそ、安心して懐に潜り込めるのだと、即席の相棒に感謝する獣人の姫だった。


「これで大体は片付いたかな」


 魔界に来て最初の戦闘は楽勝と言える内容だった。


 ギブンが女神様から授かった剣は、魔道具による追加付与を受け付けない。


 そもそもがそんな物を必要としないくらいに強いから問題はないのだけれど。


「正に神剣よね。恐ろしい切れ味なのに、その上に補助魔法をかけることができるなんて」


 魔道具には武器に魔法属性を持たせられる物もある。しかし神剣ソード・オブ・ゴッデスに魔法付与できるのはギブンの魔力のみ。とは言え、これ以上の強化が可能なことにも驚かされる。


「本当にずりぃよな! まぁ、それだけの強さになったのも、血の滲むような努力があって、なんだろうけどさ」


 ただ単に不慮の通り魔事件で前世を終え、女神様に転生ボーナスをこれでもかと与えられただけ。


 なんて本当の事は言えないから、努力の結晶という恥ずかしいフレーズを受け入れるしかない。


「けど2人がいなかったら、俺1人であの数を相手にしなくちゃならなかった。流石にそれはキツイし、だから本当に助かった。この先もアテにさせてもらう。ほんと心強いよ」


 ここが魔界かどうかの確認はできていないが、あんな強力な魔物が跋扈する場所だとしたら、どのみち誰かの助けがなければギブンは前に進めない。


 それは違いない。


 ぼっちだった自分のままなら、こうしてピシュとバサラを追う事もできなかった。


「……ぼっちのままなら、追いかける仲間もいない。ってことだもんな」


 自嘲気味に笑う男を見て、2人は首を傾げる。


 ギブンは思う。この世界に連れてきてもらった事で、前世に残っていたはずの運を全て使い切ったに違いない。


 今世の運はまだ残っているようだけど、それもいつ使い果たすか分からない。


 男は改めて仲間の存在に感謝した。

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