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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
82/120

STAGE☆82 「ぼっち男と獣神の谷」



 獣神の谷がある山の麓まで、サルーアで来られたのは幸いだった。


「昨晩もお楽しみだったの?」


 昨晩、つまりは試合の日の夜。


「“も”、とはなんだ“も”とは!? そりゃあ昨晩はよかったが……」


「やめてくれ!」


 真っ赤になって昨日の事を、つまびらかにしそうになるブレリアの口を、ギブンは両手で塞いだ。


 詳しい話が聞けると思っていたエミリアとフリュイは不満げだが、ブレリアの照れ笑いを見れば、もうこの話題が終わった事は察しが付く。


「さてここからは歩きだけど、2人はどうする?」


「私は付いていくわよ。道中の足と危険回避はギブンに任せるから、ヨロシク」


「私はここでサルーアを整備しておきます」


 エミリアは同行を望み、フリュイは留守番を希望する。


「自分の身は自分で護る。それができないんなら、お前も残れ」


「お邪魔虫は来るなって事?」


「役立たずは、だ!!」


 その点においてはギブンは心配していない。


 移動手段はどう考えているかは分からないが、エミリアも銃の扱いには長けていると聞く。戦闘に関してはアテにしてもいいだろう。


「突貫で仕上げたからね。もし失敗していたら、ギブンにお姫様抱っこで山越えしてもらうから」


 エミリアはギブンがデザインした、1人乗りの魔道具を2日がかりで組み上げた。


 見た目はセグウェイそっくりの二輪車には、貴重な魔法結晶が使われていて、重力を制御して悪路も走破できる。……予定だ。


「うまく動かなかったら、ヒダカかライカに運んでもらえばいいさ」


 エミリアが用意した魔道車は2つ。


 ブレリアはハクウに乗せてもらい、ギブンとエミリアは並んで山道を進む。


「ブレリアさん、機嫌直しなよ。こういうのは向き不向きがあるもんだからさ」


「別になにも気にしてないさ。そんな欠陥商品に乗れなかったからって」


 魔力回路がまだ組み込まれていないとかで、魔法結晶の調整をしながら操作をしなくてはならない。


 その方法を口でいくら説明されても、理解できないブレリアは動かすこともままならない。


 そうして1ミリも動かすことなく、早々に諦めてハクウに跨った。


「ちゃんとできあがったら乗せてあげるから、機嫌直してちょうだいな」


 慣れれば手を放しても平気なのよなどと、ブレリアを挑発しながらエミリアは魔銃をぶっ放す。


 道中現れる魔物も、そのほとんどをエミリアが撃ち倒してくれる。


 しかしそれも最初のうちだけだった。


「ギブンじゃなくても、魔物の位置が分かるのは助かるな」


 ブレリアは渡されたメガネ型の魔道具を使って、奇襲を仕掛けてくる魔物を返り討ちにする。


「それにしてもこの山の魔物、なんて強さなの? 私の魔道具をもってしても一撃で倒せなくなってきている」


「心配するな。お前がダメージを与えてくれるから、後始末がしやすい。あたしのトドメはほぼ一発で決まっているんだからな」


 2人の連係は素晴らしいと言っていいだろう。ギブンの出る幕がやってこない。


「なんて、ギブンに楽させてやれたのも、ここまでだな。Aランクの魔物が出てきたぞ!」


 ギブンもまたエミリアから貰った魔銃を使う。魔力量の差だろうか、男は一撃で魔物を退治して進む。


「魔界に繋がる特殊な霧か、きっとこいつの所為だろう。ここいらの魔物はゲネフの森と同じクラスの強さがある」


「こんな霧、子供の頃にはなかったんだけどな」


 ブレリアは子供の頃から、何度か父親に連れられた時の記憶が甦る。


「子連れでこんな所に? イカレてるわね」


「あん? 3日くらい寝泊まりした事もあるぞ」


 ただあの頃出てきた魔物は、今回ほど強いモノはいなかった気がする。


「つまりこの霧が魔物を狂暴化して、凶悪化させているってことなのかしら? 興味深いわね」


「魔王復活が原因なのかもな」


 そんな魔物の巣で2人に負けない働きをするエミリア、ブレリアは魔道具の力を改めて見直す。


「目的地は近くは霧が晴れているんだな」


「獣神の谷が近いのか? それであんなとんでもない奴がいるんだな」


 空にはグリフォンが群れになって飛んでいる。


「この辺りって、つまり魔界に一番近いってことだよな。霧の発生は獣神の谷からじゃあないのか?」


「霧の発生箇所はここで間違いないわよ。ほら」


 垂れ込める霧が渦状になって舞い上がり、グリフォンよりも高く雲のように拡がっていく。


「谷から離れたところで、また地表に降りてくるのか。ただの水蒸気ではないみたいだな」


「ただの水蒸気よ。魔力が混ざってるから不自然さもあるけど、なんの警戒も必要ないわ。それより……」


 宙を舞っていたグリフォンが降りてきた。狙いはもちろんこの3人。


 これまでダンジョンのゲート絡みで大量発生する魔物を退治してきたが、A級魔獣の群れを相手にするのはこれが初めて、ギブンは得意とする火魔法を中心に大群が、一度に押し寄せないように牽制する。


 エミリアが一匹ずつ羽を焼いて、地面に落下させる。


 ブレリアがなるべく一匹ずつを相手にし、トドメを刺す。


 と言った段取りの作戦を立てるが、流石は上位種の魔物、エミリアが墜落させるタイミングを合わせるのも困難だし、堕ちてきたグリフォンを倒すのにも、ブレリアはそれなりの時間が必要だった。


「お、おいおい、まだこっちが残っているのに、墜とすヤツがいるか!?」


「あなたがさっさと倒していれば、抜群のタイミングだったはずよ!」


 自分の仕事をこなしているのはギブンだけ。


 お互いをカバーしあえるほど2人の息が合っていれば、グリフォンが相手でも怖くないかもしれない。だがそんな連係を、たった数日のつき合いしかない2人ができるわけがない。


「ブレリアさん。谷はもう近いんだろう?」


「ああ、あの霧が立ち上る柱が目的地のはずだ」


 そこまで行けば魔界に繋がる、開かれたままの扉があるという。


 獣の神が張ったとされる結界は、獣人の総族長の血族だけが入る事のできる谷。獣神が棲まう聖なる地。


「走ろう」


 エミリアの乗り物はギブンの異次元収納に入れて、3人はハクウに跨り、山の中を駆け抜けた。


「空を飛べば向こうの方が早いだろうけど、山野を駆けるなら虎が獅子に、ましてや鷲に負けるわけがないっての」


 相手は飛んでいるので、スピードで言えば向こうが上なのだが、地面に追突するのを恐れるグリフォンは早々に、ハクウを襲うのを諦めた。


 敵がいなくなっても、走るのを止めないウイングタイガーは、一気に野山を走り抜けた。


「ここまで来れば大丈夫だな」


 また濃い霧に包まれて、3人はハクウから降りた。ハクウも子虎になる。


「いつまでギブンに、しがみついてるつもりだ、てめぇ!?」


「あ、あああ、あんな、激しい揺れなんて、ギ、ギギギ、ギブンがいなかったら、あっさり振り落とされていたわよ」


 膝がガクガクしていて、立っているのがやっとと言った様子だ。


「ふん、しょうがないから旦那の腕を貸してやる。けど忘れるなよ。あたしの夫なのだからな」


「けどあなた達は一夫多妻を認め合っているのでしょう?」


「条件を満たした相手に限るがな」


 火花をバチバチと散らす元気があるのはいいことだが、当分は自分で歩いてはくれそうにない。


「流石にこの足場じゃあ、これを出しても意味はないか? 車輪じゃあ進めそうにないもんな」


「もう一つの機能を試してみるわ」


「もう一つの機能?」


「ええ、このセグワムは走るだけの能なしじゃあないのよ。はい、これ」


 あれ似のそれは“セグワム”と名付けられた。


「これって」


 エミリアから渡された魔道具は身につけて使う物のようだ。


「もしかして魔力吸収装置なのか?」


「私の魔力じゃあ、あっと言う間に枯渇するのよ」


 イヤな予感がしてならないが、一応は安全装置も付いているという話を信じて、リストバンドを手首に填める。


「おお、浮いた。確かにこれなら先に進めるか」


 地面から5センチ浮き上がり、周囲の状況に合わせ10センチくらいまで緩やかに上昇もする。


「魔道具って、本当に便利だな」


「そう思うんなら、あなたにも作ってあげてもいいわよ」


「……いや、いい。あたしにはギブンほどの魔力はないしな」


「乾電池を改良すれば、近いうちに誰にでも使える道具に、仕上げられると思うのよね」


「出来上がった物を見て、欲しいと思えたら頼むよ。それよりもだ」


 ブレリアはエミリアに、今までよりも厳しい視線を向けて、牙をむき出しにして戦斧を突きつけた。


「お前、正直に答えてもらうぞ」


 ブレリアの気迫を受けて、エミリアも魔銃の引き金に指を掛ける。

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