表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
81/120

STAGE☆81 「ぼっち男と一騎打ち」



 覚悟を決めて舞台上に立つギブンの前に、乱入してきたのは獣人族の姫君だった。


「なんでブレリアさんが?」


「いいからやらせてくれ! 数年振りに、親父様と本気でやり合いたくなった」


 突然のハプニングに会場は沸いた。


 貧弱な人間と総族長の一戦よりも、よほど面白くなりそうだったからだ。


 姫が選んだ人間が少しでも、族長と観られる試合をできるように、ハンデを埋める前哨戦としてエキシビジョンが成立。


 とは言え前座であるため、時間に制限を設けたスリーノックダウン制で行われる。


「さて人間の国でどれだけの力を付けたのか? その鍛えられた体が本物かどうか?」


「親父様も4年振りだからって、手を抜いたり、ましてや衰えたなんてガッカリ、させてくれるなよ」


 獣人国は日々の生活も大事だが、同じくらい修練の時間を大切にする。


 日々のトレーニング量で言えば、族長の方が娘の数倍も時間を割いてきただろう。しかし冒険者が実戦で得る経験値は、間違いなく濃密なトレーニングに匹敵する。


「圧勝だったね、ブレリアさん」


「う~ん、なんか物足りなかったな。親父様の動きはあたしの記憶の中のどれよりも速かった。年の所為でもないし、修練不足って感じでもなかった」


 ブレリアは一つのダウンも奪われることなく勝利した。


「それはキミが強くなったって証だね」


 娘にあっさりと負けてしまった総族長は、本番の舞台に上がってくる事はなかった。


「だからって、なんでこうなった?」


 数時間前に締め切られた、族長との戦いの賭は成立しなかった。


 しかしその掛け金は、次のスペシャルマッチに持ち越されることになった。


「本当にハクウと一緒でもいいのか?」


「うん、武器は使わない、魔法はありっていうのなら、せめてそれくらいは有りでいいだろう」


「魔法っつっても攻撃系のは禁止なんだぞ」


「補助系の魔法でも、色々と面白いことができるもんさ」


 負けるわけにはいかないが、お互いが本気と思わせられなければ、民衆にギブンを認めてもらえない。


「本気だから加減ができない。そうなるとあっさり君に勝ってしまう。けどハクウが要れば」


「五分と五分……。でもそれであたしが勝ったら?」


「挑戦権は、一度だけじゃあないんだろ?」


 その言葉だけでブレリアは十分だった。


 それならば心置きなく全力で戦える。一度やってみたいと思っていた、ギブンとのど突合いができる。


「それに俺には切り札がある」


「言われてみれば、そうだな」


 賭の成立を待って、昼食から1時間後に舞台に再登場した2人を、観客は大歓迎した。


「オッズは 0.01:0.99 か。族長の時よりも下回るとはな」


 先のエキシビジョンは会場の空気を、長い待ち時間の間も温め続けてくれた。


「大歓声だな」


「すごいだろ! 闘技会はこの国1番の娯楽だからな。半端な見せ物は命の危機に繋がると思いな」


 だがその心配は、開始直後のぶつかり合いで吹っ飛ばされる。


 足を止めての殴り合い、連打の応酬が収まった瞬間の、割れんばかりの歓声が会場を震撼させた。


「ハクウとのシンクロ率の高さに驚かされるよ。みんなにも従魔は渡したけど、やっぱりブレリアさんが一番上手い。魔獣とのつき合い方が」


「よく言うぜ! そこまで褒めちぎるあたしが全力を尽くしているのに、汗1つ掻かずにあしらいやがって」


 元々は同じような身長のギブンと、腕の長さの差はほとんどない。


 けれどハクウの拳の大きさの分だけ伸びたブレリアのリーチは、ギブンの届かない位置がベストポイントになっている。


 距離の差を埋めるために、ギブンはフットワークを効かせて避け続け、時折彼女に密着して、数発殴っては離れた。


「なんだその姑息な動きは!?」


「昔よく読んでいた漫画理論を、少し試しているだけなんだけどね」


「昔? まんが? 何を言ってるか分からんが、理論だけで拳闘が強くなるなんてデタラメな。本当にお前は底が知れないヤツだ」


 ギブンの形ばかりのヒット&アウェイはヒットしても、ブレリアにダメージを与える強さを持っていない。


 ハクウの防御力も、ブレリアの魔力の強さに比例して上がるのだ。


「そんな手打ちじゃあ、痛くも痒くもないぞ」


 などと言ってはいるが、内心のブレリアの焦りが手に取るように伝わってくる。


 一発の破壊力が生まれないギブンと、たったの一発も当てられないブレリア。


 端で見ている者の大半が、2人の動きを追えていない。


 しかし観衆は手に汗を握り、ボルテージが上がる。


「息切れして、いいのをもらっちゃう前に決めないと!」


 なにがなんでも勝利しなくてはならないギブンは、ブレリアと運営に許可を得て装着している、腕の魔道具に魔力を込めた。


「足りない破壊力をこれで生み出す」


 グローブの付いた籠手を填めているギブン、魔力を籠手に込めると、足りなかった破壊力が生まれる。


 圧縮された風魔法が、腕を振り回す手の動きに重なって、打ち抜く力が倍増する。


「どうだ!」


 手応え十分なアタリが拳に残っている。右から間髪入れずに左を打ち出す。


 さらに連打! ガードするハクウの腕を押しのけてのクリーンヒットが炸裂する。


「くっ!?」


 三連打でノーガードになったところを五連発でもらい、あえなくブレリアはダウンする。


「ちょ、ちょっと無理は……」


「うっせぇ……」


 10秒も経たない間に立ち上がろうとするブレリアだが、膝が笑ってうまくいかない。


 歯を食いしばるブレリアだったが、しかしファイティングポーズを取ろうとした瞬間に意識を失った。


「ルール無用の一騎打ち、悪いけどここで終わらせる」


 追い打ちを掛けるギブンの鳩尾への突き、そしてギブンは眠りの魔法を誰にも気付かれないように使って、倒れようとするブレリアを支えて右拳を高らかに上げた。






 熱戦だったと称賛を浴びて、舞台から降りる。


 2人の戦いを観ていた族長の心に火が付き、まさかの三戦目が行われ、パドゥラウンは娘に続き、人間の若造にまで伸される羽目になった。


 正直に言えばブレリアとの戦い、女神様から貰ったギフトを全力に使えば、魔道具に頼らずとも勝つ事はできた。


 しかし人間が武器も使わずに獣人に勝ったとなれば、強さを認められたとしても、その後の展開が面倒くさくなりそうだから、エミリアが研究のために持っていた、先々代の開発室長が作った魔道具があって助かった。


「人間の狡賢ずるがしこさは本当に腹立たしいな」


 恨み節を溢しはするが、ずっと仏頂面だった族長の表情は、かなり軟らかくなっていた。


 ギブン勝利を称えた宴席が設けられ、隣に座る族長が酒をドンドン注いでくる。


 苦笑いを浮かべて、ご返杯も許されないギブンは飲み続けた。


 もちろん状態異常無効化のスキルを使って、酔い潰れることなく、その飲みっぷりに族長は更に上機嫌になり同じペースで付き合うと、最後には酒瓶を抱えて高いびきをかきだした。


「お疲れさん」


「ブレリアさん……、もう大丈夫?」


「ああ、いいのはもらったけど、ダメージで失神した訳じゃあないからな。まったく、あんなズルで終わらせやがって」


 しかし攻撃系ではない魔法は許されているのだから、どこからもイチャもんを付けられる話ではなく、ブレリアは素直に負けを認めた。


「これで2人は晴れて、夫婦として認められたという事ね」


「お母様……」


 ブレリアの後ろにお妃様がいる事に、ギブンは気付いていなかった。


 いきなり声を掛けられた形となり、母、ベルエルの言葉が重くのし掛かってきた。


「あら? あなたはこの子をもらってくれるのでしょ?」


『も、もちろんです』


「また吹き出しになってるぞ。なんでお前はお母様にだけ、そんなに緊張するんだ?」


 まだ高校生になったばかりで、両親に挨拶なんて経験はずっと先だと思っていた。


 オリビアの父君、グラアナ伯爵にはお会いしたが、婦人とは顔を合わせていない。長期療養という事でベルベック不在だったからだ。


 戦争が終わり、落ち着いたらお見舞いに行く予定だった。


 どうも父親は平気なようだが、母親という存在にはなぜか緊張してしまう。ギブン自身はその理由に気付いていない。


「あなたももう24歳。早く孫の顔を見せてちょうだい」


 ギブンの緊張は更に増してしまう。


 宴会が終わってブレリアの4年間放置され、掃除されたばかりの部屋でも、緊張が解れることはなく、お妃様が望む夜とはならなかった。


 明くる日もギブンは硬くなりっぱなし。


「まぁ、いいわ。婚礼は今夜なんだし、初夜はしっかりするのよブレリア」


 このお妃様の一言で、更に追い込まれるギブンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ