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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
80/120

STAGE☆80 「ぼっち男と獣人国」



 まるで選挙演説みたいだと、ブレリアが牽引車の屋根に立っている姿を、ギブンはボーッと眺める。


「拡声器。面白い道具ね」


「ああ、宣伝するには便利な道具だ。だけどそれより驚いたのは、ブレリアさんが獣人国で、こんなに有名で、人気のある存在だったなんて」


「彼女の事はどうでもいいわ。それよりも、拡声器は戦でも役立ちそうね。電撃の魔法はもの凄く便利だわ。あなたの提案で作った“電池”だっけ? あれは革命だわ。あのテキストのどこに書いてたのかしら」


 いやそれは、理科の実験で電池の仕組みを習った事を思い出して、作ってもらった筒に魔法で蓄電したにすぎない。


 この世界において、電池の発明はギブンがオリジナルとなる。


「にしてもやっぱりこいつは目立つな。大小関係なく、集落の側に近付くたびに、武装した住人に囲まれて。なのに彼女が一声かけるだけで緊張が解けるなんて、あの人って本当に何者なんだ?」


「あなたのフィアンセじゃあなかったの?」


 聞いてみてもブレリアからは、らしからぬ態度ではぐらかされるだけで、理由を話してはくれなかった。


 獣人国の中央より、やや東にある大集落にたどり着いたのは、ベルベックを出てから2日目の夕暮れ時。


「ほらみろ、飛んでこなかったから、こんなに時間が掛かったじゃあないか」


 障害物を避けて走ってきたのもあるが、昨日の陽の沈んだ後は移動を控えたのだ。これでも早かった方だと、ギブンは感心している。


「もう目と鼻の先なのに、またここで一晩を過ごすのか?」


「連絡も入れずにいきなり訪れるんだから、せめて陽が昇っている時間にするべきだろう」


 獣人の国では都であっても集落と呼んでいる。けど町並みは人間の国とさほど変わらない。


 しかし陽が暮れても外套もなく、暗くなる前に家に帰る。それは家族との時間を大事にする為なのだとか。


「明日にするべきじゃあないかな。ブレリアさんが自分家に帰るのは止めないけど」


「バカ言うな。お前とその女を2人にできるか! いいか、面白いヤツでもちゃんと線引きってのは必要なんだからな」


「やぁね。あなたがいようといまいと寝込みは襲うわよ」


「とか言ってるけど、俺に全くその気がない事は、この2日でブレリアさんにも分かったと思うけど?」


 2階建てのコンテナの1階は研究施設になっているが、2階にはほぼベッドだけの個室がが4つと、トイレにお風呂がある。


 先頭側に階段があり、前から順番にトイレ、バス、エミリアの部屋、フリュイの部屋、ブレリアの部屋、ギブンの部屋と割り振られている。


「わざわざ部下の部屋も間に挟んでるのよ。あなたがいないからって、下手な真似はできないわよ」


「いいなギブン、ちゃんと鍵を掛けて寝るんだぞ。結界も忘れるなよ」


「うん、それ、昨日も聞いた」


 とかなんとか。結局ブレリアは先に実家に帰ることなく、サルーアの個室でグッスリと眠りにつくのだった。






 小王国グレバランスよりも軍需国ヒュードイルよりも、国土の狭いブルーグレラの首都エポイラゥは、木造の建物はほとんどなく、石造りの街は立派な観光地になりそうなほど美しい。


「あの城が族長の家、あたしの実家だ」


 頑なに黙ってきたブレリアだが、流石にここまで来て、目的地が自分にとって何なのかを口にしないわけにはいかないと、自分がこの国の姫様であると明かした。


「本当に帰ってきていたか? バカ娘」


「自分家に帰ってきて何が悪いんだ、バカ親父」


 熱い抱擁をしながら罵りあう親子。


「うむ、よく体を鍛えているようだな」


「旅の理由の一つだからな。親父様も衰えたりしてないだろうな」


「バカ言え! 現役族長であるうちは、そんじょそこらの若造に負けはせん」


 抱き合いながらお互いの筋肉を確認し合う。人間の国では考えられない風習だが、その洗礼は紹介されたギブンやエミリアの身にも向けられた。


「お、お許しください室長」


「ダメよ、フリュイ。あなただけ性被害に遭わないなんて」


 族長は遠慮を知らず、娘の客人だから、人間だからと加減なく体中に平手を這い回らせた。


 開発室長は弟子に今されたことを忠実に再現することで、自分の動揺を抑えた。


「なるほど、お前か? バカ娘が何年も放浪して、ようやく見つけたツガイか」


 ニヤニヤした顔を引き締めて、族長は玉座に着く。


 族長の隣に座る女性は奥方様か? 徐に立ち上がると族長の頬を強く捻った。


「いたたたたっ! なにをするベルエル!?」


「人間族の客人には我々の風習は通じないと、何度言えば分かるのです」


「いやしかしお前、これは必要な事だと分かっておるだろう」


「だからせめて同姓に留めろと言っているのです。娘の大事なことであっても、あちらの方に対しても、許しを得てからになさいと言ったでしょ」


「ブレリアさん」


「ああ、あの人はお妃のベルエル・アウグハーゲン、私の母上様だ」


 やはり女性は族長の奥方様で間違いなかった。どうやらギブン達のことは前もって知っていた様子だ。


「そうか、これも言い忘れていたな。私があの鈍亀の上で数人と話をしていたのは覚えているな」


「あ、ああ」


「その時、総族長に話を前もって通しておこうと頼んでおいたんだ」


 だから人間族でありながら、都でサルーアから降りたギブン達が囲まれることなく、無事に王城に上がれたのだろう。


「お前、名は何と言ったか?」


「お、俺ですか? ギ、ギブン・ネフラ・グラアナです」


「ギブン、お前はいい体をしている。俺と戦う資格はあるようだ。だからブレリアの婿に相応しいか、俺自らが確かめてやろう」


「なっ!? えっ、それはどういう事ですか?」


「娘が欲しいのだろう? つまりお前は俺より強くなくてはならん。それに獣神の谷に行けるのは、族長と認められた者だけだ。そうと決まればこうしてはおれん」


 族長は立ち上がり、謁見の間を出て行った。


「獣神の谷? 族長って……」


「悪いな。こういう事態には、したくなかったんだけどな」


「良かったのではありませんか?」


「お母様」


 族長の奥方という事は、族長の娘の母親である。当然の当たり前が現実味をまして、ギブンは久し振りに緊張してガチガチになる。


『は、は、はじめまして、おおお、おかあさま、じ、じぶんは、ギギギ……』


「あん? なんで今さら吹き出しなんか使ってんだ?」


 ギブンの引きつった顔を見て、ブレリアは思わず吹き出してしまう。


「それでお母様、良かったとは?」


「あなたという人は、はぁ……、まさか本当に獣人族の掟を、忘れてしまったわけではないでしょうね」


「あたしはもう人間の国で生きる冒険者だ。そしてあたしが選んだのも人間族の男だ」


「それは何があっても、実家に頼らない者が口にしていい話です」


 ブレリアがゆっくりと顔をギブンに向ける。


「むむむっ……、頼むギブン、親父様を倒してくれ」


「やっぱり今のって、そういう話の流れだったのか」


 獣人族は王族に関わらず、娘の結婚相手は父親と戦い、勝たなければ嫁と公言できないシキタリがある。


 獣人族の全盛期は三十代半ばまで。大抵の若者は一度は負けた父親でも挑戦を続ければ、いずれは娘を貰えるものである。


「しかし親父様は52歳にもなって、最強とされるバケモノだ。あたしは末っ子で、親父様が28歳の時に産まれたんだが」


 総族長が父親であるってだけで、ブレリアと結婚をしようなんて雄は、この大集落にはいない。


「この子は年頃になると、国内を修行の名目で渡り歩き、ついにはこの子自身に勝てる同世代がいない事に気づき、国を出る決心をしたんですよ」


「あ、あたしにも勝てないヤツが親父様になんて、挑む事すら許されないからな。それにそいつはただの切っ掛けでしかない。あたしは皆のように人族に思うところは何もないからな」


 母親としては相手が人間だとしても、こうして戻ってきてくれた事だけで十分。


 族長も人間の婿に抵抗はないからこそ、実力を試すと言ったに違いないとお妃さまが太鼓判を押す。


 人間を信用しない多くの国民の為にも、絶対必要な催しになるのだ。


「親父様は恐ろしく強いぞ。本当にいいのか?」


「もちろん。俺の事を知ってもらうのに丁度いいだろう」


 舞台は集落の中央にある闘技場、戦闘スタイルは武器を使わないナックルファイト。


 勝敗はどちらかが気絶するか、ギブアップをするまで続く一本勝負。


 最強獣人とぽっと出の人間の対戦なんて、結果は火を見るよりも明らか。


 それでも賭というものが成立するのは、どこにでも物好きが存在するという証拠だろう。


 オッズは 0.2:9.8 。


 胴元には国税年間費分に匹敵する掛け金が集まった。

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