STAGE☆08 「ぼっちの新たな依頼」
ギブンは領主の屋敷で、この地方の地図を見せてもらった。
驚いた事に自動地図作製スキルは、地図を目で見ただけで地形を把握することができた。
オーガの核を売るために、適当なギルドを探す。
昨日のクエストはフォレドにくれてやるつもりで、ギルドにキャンセルを出した。
フィーヴィーは、ギブンからの依頼を受理した覚えはないと、彼の履歴に失敗印は押さなかった。
それでフォレドの事後報告は、成功報酬を受け取りはしたが、本人が言う討伐者としては、実証ができないからと、受け取れたのは偵察依頼の取り分だけだったそうだ。
「ギブン様! はい、あ~ん」
ギブンは1人で隣の町にでも行こうとしていた。
しかし「他のギルドが見たい」ただそれだけの説明しかしなかったら、王都へ向かうフロワランス・フォン・エバーランス領主令嬢の護衛を請け負う事となった。
「こ、これは?」
「“レブアの実”はご存じではありませんか?」
「ああ、キウイみたいなやつか」
「キウイ? ウエルシュトークではそう呼ぶのですか?」
「あ、いや……」
聞いておいて果物の名前に興味がないフランは、「あーん」と突き出したフルーツに集中する。
「い、頂こう」
初めての経験が多い異世界。まだ十日も経っていないのに、ギブンには前世と比べても濃厚な時を過ごしている。
「また、王都へ?」
「ええ、お父様のお使いですの。昨夜、何者かにオーガの巣が潰されたそうで」
ギブンは背を正し、正面を向く。
「冒険者からの報告があって、確認にはお父様の騎士団が向かったのですが、中はオーガの死体のみ。核が抜き取られていたとの事ですが、報告を持ってきた冒険者の仕業ではないと、騎士団の詰問で判明したそうです」
なるほど、エバーランスの町には騎士団というのもあるようだ。ギブンは初めて知った。
「徹夜で作られた報告書を持ってこられた方は、目が血走っていたそうですよ」
エバーランスの騎士団は働き者のようだ(汗)。
「ギブン様も同行し、偵察をなさってきたのでしょう? なにかご存じではありませんか?」
知っているもなにもではあるが、それを言うわけにはいかない。Bランクの魔物を単身討伐したなんて知られたら、また冒険者ランクを上げられてしまうかもしれない。
王都に着いても、オークの核を売る事は諦めた方が良さそうだ。
「ふぅ、ギブン様。理由はお聞きしませんが、手柄を棒に振るようなマネは、あまりお薦めできませんわよ」
バレている? としてもここはシラをつき通すしかない。
「まぁ、いいですわ。つきましてはあなた様に、領主代理として、ご依頼したい案件がございます」
フランはこのところ、グレバランス王国の王都とエバーランス領付近に発生している、魔物の大量発生事件についての情報伝達役を仰せつかっている。
「今度はオークか」
「ええ、王都とエバーランスのちょうど中間に位置する、山林のエルフの里に標的を向けているようなのです。どうやらオークはかなりの数が発生していて、里を根絶やしにするのではと見られているのです」
グレバランスは大陸北部にある小王国の1つである。
小さな国ではあるが、元魔王の城があったここは、魔物の大量発生も珍しくはない。
だからギルドには多くの公金が流れるし、騎士団、兵士団、魔法士団もかなりの手練が揃っている。
「本来なら王都軍のみで片付く話なのですが、今、北の海にはA級、B級のモンスターが大量に港町へ押し寄せているのです」
本来ならエルフとオークの睨み合いは、状況の見極めという場面ではあるが、王国にはエルフとの盟約が存在する。
森の恵みをいただく代わりに、一大事があれば救援をよこす。今がその時なのだと、エルフの長が使いを寄越したのだという。
「王都はエバーランスの冒険者ギルドにも要請して、高ランク冒険者を北へ派遣いたしました。今はオークの集団と事を構えられる、中級冒険者を急遽集めています」
「そこに参加しろと?」
「はい、冒険者はギルドに加盟しているとは言え、依頼を受けるか否かは本人の自由。人手が足りないのです」
オークという魔物は、ゲームによって扱いが大きく変わるキャラクターである。
その実力を知らずに、二つ返事でOKはしにくい。
昨日のオーガにしても、この鎧と自動魔力治癒のスキルがなければ、命を落としていた場面は多くあった。ギブンは即死であっても、魔力が尽きぬ限り瞬間再生される。
だがそれも魔力がある内の話だ。
聞く限りオークの群れは、総数を把握できないほどにいるらしい。
エルフが持ち堪えているのは、戦いの場が森の中だからにすぎない。
本来なら森の民が森で負けるのとは考えにくい。そう、本来なら。
「この戦いには唯一人ではありますが、A級の高位冒険者が参加してくれています。先ずは彼女の話を聞いて頂けますか」
話を詳しく聞けば聞くほどに断り辛くなる。本当なら断りたいところだが。
「もちろん報酬と、お望みであれば冒険者ランクの引き上げを先送りにし、オーガの核も買い取らせていただきます。如何ですか?」
ギブンはフランの顔を、あまりにも情けない表情で正面に捕らえた。
「わ、わ、わ、わかりました……」
「ありがとうございます!」
「わぁ~~~~~!?」
喜びのあまりに思い切り抱きついてくるフラン嬢。
あまりの驚きに絶叫する異世界冒険者。
王都に付いたギブンは王城に連れて行かれた。
城壁の内側には、集められた上位の冒険者達が、出発の準備をしている。
集められた冒険者達の中心に、真っ赤な防具を付けた筋骨隆々の美女。彼女がこの討伐隊のリーダーだろう。
「へぇ、あんたがゴブリンの巣を単身討伐したって言う新人冒険者? 随分とかわいい顔をしているね。冒険者より吟遊詩人にでもなった方が、多く稼げるんじゃあないの?」
「ちょっと、ブレリアさん! 初対面の方に対して、失礼ではありませんの!?」
「おおっと、お嬢様! この程度の軽口に肝を縮めるようなチキン野郎に、背中を預けられるほど、あたしらの仕事はヤワじゃあないんだ。深窓のご令嬢様が口を挟める話じゃあないんだよ」
このブレリアという女冒険者に、ギブンはすでに気後れしている。
しかしここ数日で、ポーカーフェイスには磨きが掛かっていた。
「へぇ、いい面構えだ。ちょっとだけ興味が沸いてきたよ。どうだ、あたしと少しだけ遊ばないか?」
「ブレリアさん! この様な最中に一体なにを考えておいでですの!?」
「だからスッコンでろって言ってるだろう、くそガキ!」
このガラの悪さだけで、ギブンには遊びたい気分の欠片も沸いてこないのだが、お嬢様に手伝うと言った手前、逃げ出す事もできない。いや、そもそも怖くて一歩も動けない。
「このジオート・アウグス・グレバランスの前で、下劣な物言いは控えてもらおう!」
「ちっ、第四王子様の御成かよ。なんですか? 総指揮官殿」
「我が叔父上、オバート・フォン・エバーランスの推薦せし、この冒険者にキツく当たるでない」
「お言葉ですが、お嬢様にも言ったとおり、今回の作戦で使えないヤツは足手まといにしかならない。こっちも命張ってるんですよ」
「心配いりませんよブレリアさん。その人、オーガを50体も倒したそうですから」
(うん、50体? 少し多いようだけど。ってか誰?)
「オリビア・シェレンコフ……」
これまた目を奪われる金髪の麗人のご登場。
ギブンの上乗せされた魅力値がなければ、足元にも及ばない絶世の美女である。
その上、魅力1011もあるとは……。
「お姉様!」
フランが前のめりに歩を進める。
「お姉様?」
「あ、いえギブン様、本当のお姉様ではありませんのよ。ただ私が一方的にお慕い申し上げているだけなのです」
なるほど、お嬢様はなかなかに惚れっぽいようだ。
「フラン様、ごきげんよう。申し訳ございませんが私は、こちらの冒険者さんとお話をしなくてはなりませんので」
「はい、それはそうですわね。もう時間もありませんし、私はジオート様と王宮へ参ります」
総指揮官なのに王子さまは同行しないようである。
「あなたは、ギブンさんと仰るのね」
それにしても立ち居振る舞いをみると、オリビア様もどこかの貴族子女なのでは?
「ギブンさん?」
「あっ、いや、つい見とれて……いや」
ただ相手がどちら様でも硬直するギブンでなくても、彼女を前に、こうなるのは仕方がないと思う。
「ふふっ、では参りましょう。お話をしながら進軍です」
「ちょっと待てよ!」
赤防具が来た。ギブンはそろそろ思考を停止しようとしている。賑やかさに脳がついていかない。
「ブレリアさん、揉め事は討伐が済んだ後に」
「ちげーよ! あたしはそいつに興味あるって言っただけさ。だから今夜あたしとしっぽりしようぜって、誘いに来ただけさ」
ビクンっと、ギブンが跳ね上がるのを見て、オリビアが苦笑を浮かべる。
「ギブンさんはあなたとの一夜を、望んではいないようですよ」
「うっせ、そんなの夜が深まれば変わるもんだ。スッコン出ろ小娘」
「残念ながら彼なら、その小娘と親密になる方を選んでくれますわ」
同じく男が肩をビクつかせるのを見て、大笑いするブレリアと、頬をふくらますオリビアの2人に腕を絡まされ、多くの男どもから嫉妬の視線を浴びせられるギブンだった。