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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆79 「ぼっち男と新たな問題」



「ブ、ブレリアさん!?」


 唐突に扉が開いて、立ち入り禁止の部屋に乗り込んできたのは、仲間であり婚約者である虎人族の重戦士。


「あら、おっきな人。ギブンのお知り合いなのね」


「おい、ギブンお前! オリビアと正式に結婚したそうじゃないか!? それだけでも信じられん裏切りなのに、更に新しい女とはどういう了見だ?」


「待て待て待て、待ってくれ! 確かに流されたとはいえ、みんなに相談なしにオリビアと結婚したのは悪いと思っている。けど連絡のしようもなかったんだ。ねっ、落ち着いてブレリアさん」


 スゴイ剣幕で詰め寄るブレリアの肩を押し返す。


「なんでオリビアを呼び捨てにしてるのに、あたしのことは“さん”付けなんだ!?」


「そこは、えっ? ちょっと待って、えっ?」


 フビライ・ハンスのキャラバン護衛の仕事を終えたブレリアは、急いでベルベックに行き、大忙しのオリビアを捕まえて、この場所を聞き出したらしい。


「ったく、あたしらの目を盗んで、新しい女とイチャイチャと……」


「してないしてない。この人とは魔道具の研究をしていただけだ」


「今晩はお楽しみの予定だけどね。昨晩徹夜をした彼は疲れてグッスリ、明くる朝には既成事実のできあがり」


「そんなことを考えていたのか? 俺達、まだ知り合ったばかりだろう」


「ギブンは優良物件だからな。気持ちは分かるが、お前がこいつに相応しいかは、あたしらに見極める権利がある。覚悟して向かってこいよ!」


「だからそうじゃあない! 勝手に話を進めるなって。それよりブレリアさん……ブ、ブレリアはそんなに慌てて、何をしに来たんだ」


「そうだ! 大変なんだ。ピシュが!」


 ギブンはブレリアに椅子を勧めて、落ち着かせてから詳細を訊ねる。


「だからピシュを、バサラが魔界に連れて行っちまったんだよ」


 フビライと別れ、バンクイゼの領主城へ向かう2人は、ギブンが拓けたゲネフの森の抜け道で、西嶺ウエルシュトーク領主城から解放されたバサラが合流した。


 かと思えば、あっと言う間にゲートを開いて、ピシュだけを引き込んで消えてしまった。


「ゲートの向こう側は魔界だって言うんだろ? あたしには確証はないが、お前達の話を聞いてそう思っただけだ」


 2人はブレリアに理由も告げずに消えた。


 1人になったブレリアは、ハクウと同調して休むことなく走ってここまできた。


「魔界に行ったというのなら……。俺たちは信じて待つしかないよな」


「ピシュをか? それともバサラか?」


 ピシュにはピントが付いている。


 試しに従魔の状態を探ってみるが、本当に魔界へ渡ったからか、繋がりがかなり希薄になっていて、ピントのすぐ側にはジャガービートルのアードがいるくらいは分かるのだが。


「従魔の事なら多少は分かるんだな? それで2人の事はどうなんだ?」


「ピシュがピントと同調しているなら、少しは分かるだろうけど、今はなんにも……」


 分からないからこそ、当然気になるわけだが、バサラ抜きでは魔界に行く方法がない。


「もしかしてバサラには、転移のスキルがあるんじゃあないのか?」


「どうだろうね。俺は教えてもらってないけど」


「あいつはお前の従者なんだから、隠してるスキルがあるってのも考えにくいか」


「……従者か」


「なんだよ?」


「いや、従魔は離れていても俺の意志で従魔界に戻せるんだけど」


「バサラは言う事を聞かないと」


「本人がそうしたいってのなら、強制はできないから。まぁ、うん。信じて待つしかない」


 ギブンは不安を隠そうとしているが、チーム1洞察力の鋭いブレリアの目は誤魔化せない。


「2人が心配なんだろ? そうならそうと素直になれよ」


 ギブンの頭を左の小脇に抱えて、右拳で額をグリグリする。


「けど、ここで慌てても、どうしようもないんだし」


「魔界へ行く方法、あたしは1つだけ心当たりがあるぞ」


「えっ?」


 だからこそ急いでここまでやって来たのだと、ブレリアはギブンから離れて左手を腰に、右手の拳の親指を立てた。






 どうやって第1王子ラフォーゼ王子と、式典後も戦の決着を見届けようと滞在していた、第7王子にして国王のケーリッヒからの許可を得ようかと、妙案が浮かばないまま真っ直ぐにぶつけてみたところ。


「あっさりと聞き入れてもらえたと……」


「そう、条件付きでね」


 時は遡りベルベックへ向かうべく、ヒュードイルの開発室長エミリアが用意してくれた、一風変わった乗り物を前にして。


「これは!?」


「私の最高傑作の1つ。移動要塞サルーアよ」


「要塞? と呼ぶには小さすぎないか?」


 驚くギブンに、要塞らしからぬ小ささの箱を前に、眉を顰めるブレリア。


 移動要塞と言うからには、この小さな一軒家サイズの箱は、これもまたブレリアが見た事も聞いた事もない武装が施されている。


「機銃にロケット砲にミサイルランチャーか」


「あん? ギブン、なんか言ったか?」


「いや、なにも……た、確かに要塞としては小さいけど、この戦争で使われた魔道具は、確かに驚異的な強さだったよ」


 しかしこのサイズでは馬に引かせるわけにも行かないだろうし、大型の魔物だって、何十匹もいなければ牽引は不可能だろう。


「ドラゴンにでも牽かせるのかよ」


 これもまたギブンが読ませてもらった、テキストにあった魔道具の1つ。トレーラーが牽引するのは幅2車線分はあるコンテナで、高さは二階建てくらい、武装は全て後付けされているようだ。


「こんな物が本当に移動できるのか?」


「失礼ね。ヒュードイルから来たんだから、移動できるにきまってるでしょ」


 2人を反対側の扉から入るように言って、エミリアは自ら運転席に乗り込み。


「はぁ~、こんなんでいったい、何時たどり着けることやら」


「違うよブレリアさん。じゃないブレリア……」


「もういいから、呼びやすいように呼んでくれ」


「こほん、これはねブレリアさん。魔物や動物に引っ張らせる必要のない乗り物で、きっとスピードだって馬なんかよりずっと早いはずだ。そうだよね、エミリア室長」


「あら、私の事をいつまで室長と呼び続けるのかしら、そんなことじゃあ私は、本当に今夜あなたの寝室に……」


「お前、本当にいい度胸してんな……、気に入った。よろしくな!」


「ふふっ、あなたとなら私もよろしくしていいかしら」


 2人は固く手を握り合った。


 移動要塞サルーア。


 操縦者が魔力を込める事で操作できる、自走する簡易開発室。


 魔動機関エンジンという魔道具が動力を産み、馬の数倍は早く走れるのだとか。


「この乗り物はあったけど、その動力はテキストに載ってなかったと思うんだけど」


「ああ、それは第2巻に書かれていたものだったからよ」


「2巻があったのか?」


 流石は最高機密の禁書である。エミリアが言葉通りにギブンを信用しているとしても、見せられるものには制限があって当然。


「簡易的と言っても、研究をするには十分な機材が揃っているから、サルーアの運転は部下に任せて、ここで研究をつづけるわよギブン」


 ヒュードイルから開発室を簡単に移設できた理由もハッキリしたところで、1人だけ連れてきた部下のショートヘアをした金髪少女にハンドルを任せて、3人はコンテナに移動した。


「あの子はフリュイ・メルドラン、幼い顔してるのに巨乳な小生意気な小娘よ。と言っても私より2歳も年食ってるけどね」


 リューランド島の砦を出て直ぐに湖に入るサルーアは、水陸両用に作られていて航行も可能だ。


 なんてことが昨日。今日も早朝からバタバタして今もまた湖を東南東に向かっている。


「オヤジに昔聞いた話だ。獣人国ブルーグレラはその名の通り、人でありながら魔獣の血も受け継いだ民族、その出身は魔界だってな」


 魔界と人間界は鏡の裏と表のような物。この大地の裏側に魔界は拡がっていると唱える学者もいる。


「だから人間は獣人を恐れるし、迫害を受けてきた獣人国は人の国に関わらないように有り続けてきた」


 中にはブレリアや龍人族のラビアス・ドゥーアンのように、故郷を離れる変わり者もいなくはないが、基本的には不可侵条約が結ばれる人類未踏の地である。


「その国に魔界へのゲートがあるって言うのか……」


「それを使えるのは獣人族総族長、こっちで言う国王の許可を得た者だけなんだけどな」


 ホンの噂程度の話だけど。というブレリアだが、族長の許可ならとれる可能性があると、そちらは自信満々に断言してくれた。


「にしてもこの女がいなけりゃ、あたしら2人ならひとっ飛びだったのにな」


「確かに飛ぶのが一番早いだろうけど、これも十分早いよ」


 移動要塞は陽が沈みこむあたりで、獣人国との国境にたどり着く事ができた。

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