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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆78 「ぼっち男と魔道具研究」



 これまでより時間を掛け、戦後協定についての話し合をするラフォーゼ王子。特に魔道具についての交渉に時間を割き、協議は十日に及んだ。


「確かに今までのマジックアイテムよりも簡単に使えて、強力な魔法銃は手に入れたいよな」


「そんなものですか? 私は補助魔法のかかった魔道具の方が、使い勝手がいいように思うんですけど」


「確かに慣れは大事だけど、結果は出したからね。君が言うように熟練度が高ければ、勝っていたのは向こうだったかもしれない」


「当然です。負ける道理はなかった。あなたがいなければ勝ったのは我々です」


 砦内で待機を命じられたギブンはオリビアと2人のヒュードイル人。


 男爵はオーゼ秘書官の許可を得て、1人の要人と談話する機会を得た。


「はじめまして、開発室長さん」


「はじめまして、U級冒険者男爵様」


 ギブンに冷ややかな目線を向ける女性は、浅く腰掛ける椅子の背もたれに体重を預け、腕と足を組んでいる。


 紫の髪は耳の上あたりで束ねられた所謂ツインテール。ロリータゴシックと言ったか、黒のワンピースにはたっぷりのフリルがされていて、格好だけなら幼子のようだが、その鋭い視線と落ち着いた姿勢は17歳とは思えない貫禄を持っている。


「あなた……、どこから来たの?」


「どこって?」


「……どの世界から来たのかって、聞いてるのよ」


 ギブンは彼女が何を言いたいのかを一瞬で理解した。


 それと同時に彼女が、ギブンが想像した通りの存在である確信にも繋がった。


「言っている意味が分からない。どの世界ってどういう事? 俺が魔界の住人だって言いたいのですか?」


 17歳という若さで、開発室長を任された彼女の表情が変わる。


「魔法銃を相手にあんな戦い方で勝っちゃうなんて、自慢じゃあないけどウチの兄貴を相手に、例え前代未聞のU級だからって」


 言い切った。確かにマーグ・ラズヘイドは、剣と魔法の世界の軍人とは思えないほどの銃の腕だった。もしかして彼も世界を渡った存在なのだろうか?


 いや、あれはそんな感じではなかった。


 今、目の前にいる少女とは明らかに違う。この世界の生き方に馴染んでいて、この世界以外の存在を知っている様子ではなかった。


「キミはその、違う世界というのを知っているのか?」


「もし、本に見る別世界ってのがあるのなら、詳しく聞きたいと思ったのよ。知っていたら聞かないわ」


 もっともらしい事を言ってはいるが、ギブンは彼女、エミリア・ラズヘイドは間違いなく地球人であると踏んでいる。


 それこそ今とは全く違う年齢で、もしかしたら性別も違っていたのではないかと。


 魔銃の装飾があまりに地球の銃に酷似していたからだ。


 銃マニアの女の子がいないとは思わないけど、あの渋さはサバイバルゲーム好きのオジサンを匂わせる。


 いずれにしても剣と魔法の世界で兵器が生まれた。その作り手である彼女はきっと世界を渡った転生者に違いない。


 しかしそれを口にしてしまえば、自分も異世界人であると証明するようなもの。ここは1つ1つ丁寧に検証していく必要がある。


「おい、これはなんだ? 俺達は確かに敗戦国ではあるが捕虜になったつもりはないぞ。尋問なんて受ける筋合いはないからな!」


 室長の後ろで壁に背を預け、一本足で立って腕組みをしていた補佐官が割って入ってくる。


「落ち着きなさいな! 男爵は私の問いにもちゃんと答えてくれているでしょ? どこをどう見れば、これが尋問に見えるのよ」


「し、しかしだなぁ……、いてててて!?」


 寄ってきた兄の頬をつまんで捻る妹に容赦はない。


「話の腰を折るだけなら、とっとと出て行って頂戴」


 その凍てつく目差しに補佐官は黙って引き下がり、再び壁に背中を預けた。


「えーっと、何の話だったかしら?」


「キミの魔道具について。特にあの通信装置について、詳しく聞きたいんだけど」


「通信と言えば、あなたが戦場を正確に把握していたみたいだ。って、兄貴が言ってたけど。それこそ誰かと意思疎通をして、ウチの軍の動きを誘導していたんじゃあないかって?」


 それを聞いて、ギブンにも通信手段があることに気付いたというのか?


「あれは……」


「あれは私と旦那様の愛の結晶ですわ。ねぇ、ファムちゃん!」


 ギブンが躊躇しているところに横槍が入る。


 オリビアに少しの間、黙って見てて欲しいというと、頬を膨らませながらそっぽを向く。


「俺が使った魔獣同調は、そちらの物ほど便利なものじゃあない。争いだけじゃあない、普段の生活にも便利なその魔道具が欲しいんだ。できればどんな仕組みなのかを説明して欲しいんだけど」


 ラフォーゼ王子はもっぱら魔銃に興味を示していたが、欲しいのはそれじゃあない。


「なるほどね。けどこちらの情報では、あなたはかなりの魔法研究者ってなってるけど、その辺のお話を、私にも聞かせてもらえるのかしら?」


 手を取り合う2人を見て、補佐官は開いた口が塞がらず、ネフラ・グラアナ婦人は更に機嫌を損ねるのだった。






 一晩資料を読み続けたギブンは、魔道具の事を少しだけ理解する事ができた。


「ふぅ、もう朝か……」


 戦後会議が終わるまでは、U級冒険者もリューランド島に居残るように言われている。そして新妻は一人、実家に帰った。


 ギブンは領地も権利も有しない名ばかりの貴族であり、超々級冒険者であるがため、取り込もうとする有力貴族を牽制する必要がある。


 兄である秘書官はここを離れるわけにいかないので、オリビアが代わってあいさつ回りをすることになった。


 新婚生活に後ろ髪を引かれ、新しい女臭を気にしながらも、兄のオーゼ秘書官に背中を押され、渋々帰郷していった。


「おはよう、もしかして徹夜? 美人の新妻さんがいないからよく寝られなかったのかしら?」


「そんなはずないだろ!?」


「……もしかしてそれ、一晩で読み終えたの?」


「キミが用意してくれた資料は一通り、なかなか面白かったよ」


 ヒュードイル開発室長のエミリア・ラズヘイドは、リューランド島に出向という形で砦に駐在する事となる。つまりギブンも彼女と一つ屋根の下で生活すると言う事。


「夜這いに来るの待ってたのよ」


「……俺にも好みってものがあるんで」


「むっ!? じゃあ今夜は私から行ってあげる」


「そんなことより、気になる点を書きだしたから、ちょっと見てくれないか?」


「むむむむむ……!?」


 ここへエミリアが越してきたのはグレバランスの錬金術師と共に、新たな魔道具を開発する為。


「しかしヒュードイルの開発室を、よくこの短時間で移転できたもんだな」


「魔道具開発は錬金とは違うのよ。新しい研究所に機材が揃ってないなら、持ってくるしかないじゃない」


 エミリアが国王に無理を言って、戦後協定会議中にも関わらず、強行して施設を移設させたのは、ここにギブンがいるから。


「とにかく最低限の物は揃ったし、打ち合わせはできるわよ。けど、本当にこんなものから始めるの?」


 最初の共同研究の題材は通信機。


 今の段階では近場でしか使えない。それだけでも便利ではあるが、可能なら離れた場所と繋げられればと、その方法を模索する事から始める事にした。


「ああ、この魔道具開発のテキスト本に書いてあったことが本当なら、可能なはずなんだ」


 彼女は転生者であると考えていたが、どうやら本当に彼女はこの世界の人間であるようだと、話をしていて考えを改めたのだが、だとすればあの魔銃の形状はいったいどういう事なのか?


 その答えがテキスト本だった。


 その中身は正に趣味そのもの、本物を見た事はないが、モデルガンは知っている。このテキストを書いた人間はかなりの銃マニアだったのだろう。


「なに?」


「いや、こんな難解なテキストをよく理解できたもんだなって」


「あら、そんなに大したことではないわ。私からすれば、理解しがたい魔法なんて物を研究している、あなたの方がよっぽど変わっているわ」


 魔法は術者のイメージを、魔力を使って発現させるもの。イメージなんて人それぞれで、不確かな物なのに、進化の可能性はないに等しい。


 とされてきたが、ギブンの想像力は底知れず、挙句にテイムした魔獣と人を融合に近い同調をさせるなんてことをやって見せた。


「本当に興味深いわ」


 エミリアに見せてもらったテキスト本を書いたのは、先々代の勇者だと聞く。


 解析は難解で、これまでは魔道具とは、錬金錬成されたタリスマンやアーティファクトとさほど差のない、ただ量産が可能なマジックアイテムに過ぎなかった。


「キミはこの本の半分を読み解いたんだよな」


「あなたはテキストの全てを一晩で読み終えた。本当に異世界人じゃあないの?」


 読み解くのとただ読むのでは、その理解度にも差が出るが、そもそも異世界の言語を、難なく読めることが有り得ない。


「だから何度も言ってるだろう。俺には言語解析のスキルがあるんだって」


 女神ネフラージュから多くの加護を受けたギブンだが、その中に言語解析スキルなんて物はなかった。


 どうやらこれは、ギブンとピシュだけなのかもしれないが、転生者に無条件に与えられたギブトなのではないかと考えている。


「本当にデタラメよね。けどお陰で今まで読み飛ばしていた部分も、知ることができて助かったわ」


 ちゃんと分析をしなくてはならないが、これでテキストの中の発明品を再現できると思うと、興奮する

エミリアは、身悶えしながらギブンに擦り寄った。


「そこまでだ」


 突然に扉が開かれた。


「誰よ? ここには誰も来ないように言っておいたでしょう。立ち去りなさい」


「立ち入り禁止? そうか、ここの資料は全部、秘密事項の門外不出の国宝みたいなもんだもんな」


 ギブンが共同研究者にならなかったら、表紙すら目にすることもなかっただろう。


 その立ち入りの禁を破った者は、制止をモノとせずズカズカと入ってきた。

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