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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆74 「ぼっち男の魔獣同調」



 明くる朝、オリビアの元へ向かわせたファンタムバードのファムが、ギブンの元へ帰ってきた。驚くべき手段を使って。


「なぁにぃ~この子、4枚羽根の小鳥ぃ~」


「ピシュ、落ち着いて」


「いやいやギブン、落ち着いてなんていられないだろう、なんなんだこの魔獣は!?」


 何もない場所に揺らぎが生じて、突然鳥が飛び出してきたのだ。


「ファンタムバードの固有スキルらしいよ」


 ギブンは食物図鑑の中にファンタムバードを見つけ、それがどれだけ希少で多才かを知った。


「オリビアさんには会えたのか?」


『その声はギブンさん? よかったぁ、小鳥さんがいきなり消えてしまったから、心配しました。あなたの元へ行ったのですね』


 ギブンはファムがオリビアに会えることと、懐いてくれることを願って空に放った。


 心配はしていなかったが、ちゃんとたどり着き、上手く仲良くなってくれたようでホッとする。


「な、なんであいつの声がするんだ?」


 状況が掴めないピシュとブレリアはギブンに詰め寄る。


 キャラバンが出発するまではまだしばらく時間があるようだから、3人は腰を落として話をする。


「こいつがオリビアさんに送った従魔だよ。名前はファム、ファンタムバードって知ってるかな?」


「ファンタムって!? これが鳥型の魔獣で最上位種の1つと言われるあれなのか?」


 肩を並べる鳥獣魔はいくつか上げられるが、最強に数えられる魔物をギブンはほぼ無傷で味方にした。


『あのぉ……』


「ああ、ごめんごめん。ファムを寄越したってことは、何か急用でもあるの?」


『確かにギブンさんに相談できたらなぁ~。とは考えましたけど、それでその子があなたの下に飛んでいくとは思っていませんでした』


 顔は見えないが声から不安が伝わってくる。


「なにがあった?」


『ええ、私は今、南境のベルベックに、実家に戻っているのですが、こちらは戦争の準備中でして……』


 相手は隣国のヒュードイル。バンクイゼの南にある、南境と同じくらいの領土しかない小国。


「ただし軍事については大陸随一と言っていい。グレバランスは騎士兵士や冒険者を地道に育てているが、ヒュードイルってのは、新兵でも一端に戦える武器や魔武具が五万とあるんだとよ」


 ブレリアはギルドなんかで聞く、ヒュードイルについて話してくれた。


「その軍需国となんで戦争を?」


『ベルベックでは今、ヒュードイルからの突然の襲撃で大混乱のただ中です。我が公爵家も間もなく領都を出立し、最前線に赴く事となります』


 家を出て冒険者となったオリビアは、家名に縛られる事はないが、戦争には参加するつもりだという。


「そう言えばオリビアさん、お父さんの容態は?」


『……あの、えーっと、ちょっ、ちょっと呼ばれていますので、また』


 ファムはオリビアの声で鳴かなくなった。


 ピシュとブレリアは互いに顔を合わせて、首を縦に振る。


「ギブン、フビライさんのことは私とブレリアに任せて、ピントとハクウちゃんもいてくれるし、もう道程の三分の一は過ぎたんだし、心配しないで」


 とピシュは言ってくれるが昨日、新手の魔族に襲われたばかり、それももしかしたら魔界と自由に行き来ができて、2人が苦戦するような強者に。


「次は完璧なコンビプレーで圧勝してやるよ」


 ファムはオリビアの想いを感じ取って、ここへ飛んできたのは間違いない。彼女は不安を抱えているはずだ。


「……それじゃあ、ひとっ飛び行ってくるよ。2人とも無理はしないように」


 フビライが手に入れたルート、その掃除は始まったばかり、おそらくはまだ強力な魔物と遭遇する確率は高いはず。


「ゲネフの大樹海が近いからな。油断はできないが、ピシュと2人なんだからやれるさ」


「ゲネフってエバーランスの?」


「そうそう。って、空を飛んだりしておきながら、まさか樹海の広さに気付いてなかったのか?」


「いやぁ、やけに広い森があるなぁとは思ってたけど、俺がさまよった森と同じ場所だとは思ってもみなかったよ」


 最初の転移場所、恐ろしい魔物がウジャウジャいると、エバーランスで聞かされた事を思い出す。


「そうか、あの森か。だったら心配はないか。冒険者になる前の俺が生きて出られた場所なんだし」


「なんだよそれ? 初めて聞いたぞ」


「大丈夫だよ、ブレリア。なんたってあの森に抜け道を造って横切ったんだから、この人」


 ピシュもその一部だが目の当たりにしている。


「それじゃあフビライさんと話してくる」


 ギブンはフビライに事情を説明し、キャラバンから離れた。


 隊が出発するのを見送り、ギブンはレヴィアタンのヴィヴィを呼びだした。


「う~ん、従魔のみんなが俺のイメージした形になる事はわかった。けどヴィヴィはハクウやピントみたいに小動物にはなれないようだな」


 大鷲よりも大きなファムだって小鳥になれるのに、レヴィアタンやサラマンダーのように、元が大きな魔物は小さくするにも限界があるようだ。


「小さくできないのなら、ちょっと趣味に走ってみるか」


 南境のバンクイゼの湖畔都市ベルベックには、ヴィヴィのお陰で昼までに到着する事ができた。






 空を飛ぶ、レヴィアタンとは思えない姿となった、ヴィヴィの広い背に乗って。


 今まではそうだったが、ギブンは高速での移動でも風を受ける事のなくなったヴィヴィの背の中で、前方と同じように透化する床から外を見下ろす。


「全体的に細長い形になるのはしょうがないか。でも本当に飛行機になってくれたとは」


 どんな形になったとしても、魔力で浮遊する魔物に、揚力がどうとか空気抵抗がこうとかはなく、単なる趣味でイメージを戦闘機にしてしまった。


「ベルベックだ。思ったよりも早く着いたな」


 肩に乗せたファムが落ち着かない。オリビアの身に何かあったのかもしれない。


 空中静止するヴィヴィ、ギブンは外に出て、町に向けて飛び降りた。


 ヴィヴィは従魔界に帰還し、自由落下するギブンをファムが大きくなって上に乗せる。


 町を囲う壁の外に降りて、門まで行くと門兵にギルドカードを見せる。


「キミがギブン・ネフラか。随分とかわいらしい坊やだな。本当にそんなにスゴイ冒険者なのか?」


 U級を目指すギブンだが、長い間ギルドに行っていないので、今もC級のまま。


「今すぐギルドに?」


「ああ、第1王子ラフォーゼ様からのお達しだ。まさか本当に現れるとは思わなかった」


 王子様の書状を受け取るが、今はオリビアに会うのが先決。


 小さくなったファムの後を追う。向かった先はグラアナ公爵邸。


 大きな門の前で待っていると、ファムがオリビアを連れてきてくれる。


「ギブンさん、本当に来てくれるなんて……」


 真っ白なドレス姿のオリビアは、公爵家のご令嬢らしい見目で、ギブンを出迎えてくれた。


「思った以上に元気そうだ。それで公爵様の容態は?」


「はい、えーっとどう言えばいいか……、簡単に言えば勘当した娘を呼び戻すほどではありませんでした。と言うか、私を連れ戻したのはラフォーゼ様で、お父様とはまだお会いしてないんです。ケガをしたのは本当らしいのですけど」


 お恥ずかしいと言った顔をするが、どこか寂しげでもある。


「あの、ギブンさん。中へお招きしてもよろしいですか?」


「えっ? ああうん、俺なんかが入っていいのなら」


 冒険者といった出で立ちでも構わないと言うなら、当然こちらは断る理由はない。


「兄、オーゼ・フォード・グラアナが帰ってきているので、会って欲しいのです」


 オリビアの兄さんは、前にも会った事のある第1王子の秘書官である。


「今日の俺はオリビアの兄だ。キミにとっても義兄と呼ばれる立場だったか?」


 いきなりプレッシャーを掛けられ、会った事を少し後悔する。


「えーっと、俺になにか御用ですか?」


「単刀直入に言おう。君にはオリビアを説得するのを手伝ってほしい」


「説得ですか?」


 オーゼは兄としても、共にオリビアの参加を反対するラフォーゼの秘書としても、冒険者オリビア・シェレンコフをこの屋敷に留まらせたいのだ。


 彼女はオーゼの部屋にギブンを連れてくると、お茶を入れると出て行った。


 オーゼはギブンに本音を求めている。


「……すみません。俺は冒険者の彼女しか知らないので、2人の考えとは異なるのですが、彼女の人生は彼女が決めるべきだと思います」


 彼女はギブンにとっても掛替えのない仲間であり、家族に等しい存在だ。


「キミの考えは分かった。ではギブン・ネフラ、キミにはオリビアを護ってもらいたい」


 ようは戦争に参加しろと言う事だ。


「だがその前に……」


 オーゼ・フォード・グラアナ秘書官兼近衛師団長、戦闘力は最上位のS級冒険者に匹敵するという。


 その彼がギブンの鼻先に、剣を抜いて突き付けた。

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