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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
73/120

STAGE☆73 「ぼっち男のタイミング」



 狭い入り口付近からの脱出。いや逃げ場のない大空洞まで戻ってきた2人は、高い足場に立つとドラゴンゾンビと目が合い、睨み合う。


「直ぐに魔族が追ってくるよ」


「分かってるっての! いいかピシュ! ドラゴンを瞬殺するぞ」


「って、もしかして私の魔法をアテにしてる?」


「当たり前だろ!? あのデカ物の腹ん中に、でっかい花火をぶち込んでやれ!」


 ブレリアは簡単に言ってくれるが、上位魔法を遠距離発動するには、それなりの時間もいるし、それこそ動く相手の腹の中にとなれば、目標は止まっていないと当てられない。


「うんだよ。ならあいつの動きを止めてやるから、合図よこしな。あんま時間掛けるなよ!」


 ドラゴンゾンビに飛びかかったブレリアは、一頭目の竜の頭蓋を戦斧で割り、二頭目の喉を爪で斬った。


 上空で投げ出した戦斧を着地と同時に受け止める。


「無茶苦茶だなブレリアは」


 ピントを箒に見立てて魔女のように跨って飛び、ピシュは動かなくなったゾンビの腹の中に爆焔エクスプロージョンの魔法をぶち込んだ。


 既に退治された後の二頭は、完全に焼き尽くされて灰になる。


「やったな。っつか魔力を込める? 速攻だったじゃあないかよ」


「やったな。じゃあないよ。ドラゴン2匹を1人で倒せるなら、私の魔法いらなかったじゃん。無駄に魔力を消費しちゃったよ」


「まさかあんなにあっさり片が付くなんて、思ってなかったさ。お前もだろ?」


 なにはともあれ、追っ手が追いつく前に舞台を整える事ができた。


「おいでなすった。……見ろよあの、奴らの固まった表情をよ」


「うん、あれは絶対に油断なんてしてくれない顔だねって、いきなり魔弾の雨霰ぇ~」


 ピシュはブレリアを前に押し出して、盾にする。


「お、おま、おま、おま、おま! おい、ピシュてめぇ!?」


 魔法障壁が得意とは言えないブレリアは大慌て。


 辛うじてハクウの防御力が助けてくれるが、ブレリアは痛みに耐えてピシュを守る。


 魔人の剣士が地面に届く直前、ピシュは大技を放つ。


 大精霊魔力砲エレメンタルブラストはブレリアと魔人の間に発生し、指向性を持って天井へと向かっていった。


「おいお前、ピシュ!? なにやらかした? あたしがいるってのに!?」


「もう、私の魔法で怪我は1つもしてないでしょ? それよりも私、魔力切れだから、あと、よろしく、ね」


「待て待て待て待て、怪我ならイッパイしてるぞ。魔族の魔弾をどれだけ受けたと思ってんだ」


「だから私の魔法、関係ない。それに、それ、だけ、元気なら……、大丈夫でしょ?」


 睡魔に負けたピシュが気を失う。


「チクショウ、天井ぶち抜いたんだ。結界も消えたみたいだし、一踏ん張りだな! こいつくらい抱えて帰れってやる」


 敵諸共に結界も一掃された。


 ちょっとくらい荷が重くても問題はないだろう。そう考えたのはあさはかだった。


「いちちちち、まさかここまでド派手にやってくれるとはな」


「ふぅ、ほんとうにぃビックリだよぉ~」


「こんな時にもお前は、呑気な口調でよぉ」


 最悪の展開だ。やばそうな魔人が残っている。


「それにしても助かった。お前の側にいたあたしだけか、助かったのは?」


「うん、他の子達のぉ、気配は消えちゃったねぇ~」


 他の魔族はやっつけられたようだが、残って欲しくない2人が健在。


「おお、見つけた。まったく、やってくれたなぁ、おい!」


 体中の痛みを堪え、眠るピシュを守り、2人の強敵と戦う。


「なんて、できるはずもないよな。ハクウ」


「くぅ~ん」


 鼻を鳴らすハクウにも魔力は残っていない。


「飛べそうにもない?」


「なぁ~~~~……」


 マントモードだったハクウは小猫に戻る。


 ブレリアの手に守るべきモノがまた1つ。


「やばいな。あいつらも無傷ではないだろうが、……見逃してはくれないだろうな」


 残された魔人2人はジワジワとブレリアに近付いてくる。


「さてさて手こずらしてくれたが、あんたらは魔界にご案内だ。色々と面白い実験体ができそうだな」


「うんうん、魔法使いちゃんはぁ~、わたしがあーでもないぃこーでもないぃことぉ~、させてもらうからねぇ~」


 この2人の口ぶり、魔人は自由に異世界を移動できるようになったようだ。


 無事にキャラバンに戻って、この事実を知らせないといけないし、なにより捕まって実験動物にされるなんてまっぴらだ。


 しかし為す術なく捕まるのは時間の問題。


「2人とも、おつかれさん」


 その声は魔人の向こうから聞こえた。


「誰だお前は? 人間? いつどうやってここへ?」


 魔人剣士は振り返って剣を構える。


「ったく、遅いんだよ、お前は!」


「そう? 俺としてはベストタイミングのつもりだったんだけど」


 ギブンは足を止めた魔人を中心にゆっくりと回り込んで、ブレリアの元へ行く。


「ずっと見てたんだろ? あたしらの会話も聞いてたのか?」


「そこまで便利なもんじゃあないよ。俺が分かるのは、ハクウとピントの具合だったり魔力だったり、なにか言いたい事があれば、なんとなく伝わってくる程度だよ」


「つまりあたしらのピンチには気付いていた。ってことだよな、ギブン」


「たぶん、2人が諦めているとかは伝わってくるよ。だからベストなタイミングは今だと思ったのさ」


「本当に性格悪いな。……助かったよ」


 第一ブレリアもピシュも中途半端で助けに入ったら、それはそれで責められていただろう。


「やばやばぁ、なにあれぇ~、ほんとうにぃ人間~」


 ギブンはブレリアを回復し、ピシュに少しだけ魔力を渡した。


「ああこれ、本気で就寝中だな。まぁいいか、寝かせておこう」


 杖の状態で寝ていたピントは、目を覚まして小犬になる。


「おお、お前も回復したか、ハクウ」


 ギブンはしゃがんでハクウのあごを撫でてやる。


「ちょっとぉ~、わたし達をほっといてぇ~」


「やる気がないんなら引っ込んでな!」


 尻込み後退りながら、剣士は何らかのアーティファクトを取り出した。


「まずいぞ、あいつら妙な魔道具を使うんだ。ピシュの魔法を掻き消したのもそうだ。注意しろよギブン」


 魔法使いはグローブのアミュレットで、ピシュの魔法を掻き消した。恐らく2人が無事なのも、その力であの極大魔法を減退かさせたからだろう。


「なるほど完全ではないにしろ、ピシュの大魔法を受けて生きている。それだけの力はあるんだな」


 因みに剣士の剣もアーティファクト。効果は軽量化、あれだけ大きな剣を軽々振り回せたのはその為だ。


「ギブン、勝てるか?」


「そうだな。油断はしないよ。勝てるかはやってみないと分からないけど」


 ギブンは剣を抜いた。魔法は効かないかもしれないが、魔法剣なら魔法使いにも効果的だと信じて。


「今日はここまでにしてやる! 勝った気でいるなよ。次はお前だからな!?」


 そう言って2人は消えた。


「あれ? 終わり?」


 目がおかしくなったのでなければ、彼女たちが消えたのは、突然浮かんだゲートのようなものの向こう。


「いや、本当にゲートなのかも? もしかしてバサラの研究が向こうで完成したのか? それはまずいな」


 バサラの推測が正しければ、ギブンの魔力が漏れてゲートが生まれる心配は当分ないはず。


 自然発生する以外のゲートが存在するとすれば、バサラの研究以外に思いつくものはない。


 いや、バサラ以外の誰かが、違う方法を編み出した説もあるのだけれど。


「……気配は完全に消えている。もうここにいない事は間違いないな」


 ギブンはピシュに更に魔力を与えて、肩を揺する。


「疲れが溜まっているのかな? ピント、大型犬化してピシュを運んでくれ。ブレリアさんも無理しないでハクウに乗ってくれ。キャラバンに戻ろう」


「にしてもなんだな、魔獣同調ってのは。お前が想像した形に、従魔が魔力で変化できるようになるんだろう?」


「元々ハクウが変身能力を持っていて、ピントがそれを真似るようになった。その能力を解析して理解した結果を、魔獣同調でみんなができるようになっただけさ」


「うん、何を言っているのか分からんが、とにかくスゴイな。お陰であたしも大幅にパワーアップしたしな」


「ああ、マハーヌが実験に協力してくれて、結果を出してくれたから、安心してくれ」


 ハクウもピントも2人にギブン以上に懐いている。力を合わせれば5倍10倍のパワーアップになるはずだ。


「さぁ、フビライさんが首を長くして待っている。夕飯は俺の料理を食べてもらおうかな」


「おお! 頑張ったあたしらへのご褒美だな。酒もケチるなよ」


 大きな問題を抱える事となったが、魔族の事は今は忘れて夕食を楽しむ。


 今後の事は明日考える。


 キャラバンに着くころにはピシュも目を覚まし、食事会は夜遅くまで続けられた。

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