STAGE☆71 「ぼっち男の出番なし」
南嶺の領都が把握していない山村を災厄が襲った。
死者は土葬されるのが村のしきたり、瘴気が先か、死人が先かは分からないが、ゾンビは村を壊滅させた。
動く死者は生者のいなくなった地に、今尚留まりさまよい続けている。
「オリビアほど取り乱したりしないが、確かに不気味ってもんじゃあないな」
冷や汗を流し、プレリアは三体の頭をブッ飛ばす。終わったら戦斧を奇麗に洗いたい。
「魔物なんて大抵は可愛くないよ。可愛いフリして牙を剝くのもいるし」
ピシュは自分の魔力を使うまでもなく、ピントの力で魔物を焼いていく。
従属の首輪は外せていないが、従魔との連係で戦う事はできる。
「魔法は使えるけど、遠距離発動ができないよ」
「ああ、ギブンのやろうが言ってたな。お前のあれは、お前のセンスがなせる技で、ピントにはピンっときてないようだ。ってさ」
離れた敵でも動きの大したことのないゾンビになら、ピントの放つ最下級の火球でも倒すことはできる。今はそれでいい。
「しかしスゴイ数だな。小さな村なのに、なんでこんなに死体があるんだ?」
土葬であっても人の形はいつまでも残らない。骨が残されていたとしても、それから生まれるのはスケルトンのはず。
「ミイラになって残ってるとか?」
「ミイラとゾンビはかなり違うぞ。それにあれって、砂漠地帯みたいな乾燥した地域にできるもんだろ? こんな高地で簡単にミイラ化なんてしないだろう」
意外と博識なブレリアの説明は分かりやすい。
ピシュも頭を捻るが、このゾンビ事件の原因に行き着く事はできそうにない。
「おいピシュ! 油断するなよ。新手の出没だ!!」
ゾンビは人のみにあらず、出てきたのは……。
「犬!? 子犬までいるじゃない」
「油断するなよ。間違いなく人よりも手強いぞ」
それは子犬であっても、魔獣の素早さはバカにできない。
「ってブレリア? そうでもないみたいだよ。ワンちゃんならとっくに飛びかかってくる距離なのに、トロトロ動いてる」
と言いながら攻撃しようともしないピシュに代わって、ピントが火球を飛ばす。
「きゃっ!?」
「大丈夫か、ピシュ?」
火球が犬を焼く寸前、魔物は動きを素早くして、攻撃を避けてピシュに襲いかかる」
「あ、あぶなかった。……ありがとうブレリア」
戦斧を投げ出して、ハクウが伸ばした爪で獣を切り裂く。
ピシュは自らの意志で守ってくれようとした、ピントの頭を撫でる。
「どういう事だ? 人型がまた増えたぞ」
「どうしようブレリア、犬だけじゃあないよ。他の動物のゾンビも出てきた」
ゾンビに噛まれると感染してゾンビになる。それが獣のゾンビでも同じ効果を持っているとしたら、すばしっこい子犬や猫は要注意となる。他の個体もゾンビ化前よりもかなり力を増している。
「馬鹿力な連中ばっかで気が抜けないっての」
「まぁ、私は状態異常無効化で守られているから、ちょっとは気が楽だけどね」
「ずるいぞ、ピシュ!?」
ブレリアは身の危険を感じて首輪に手を掛け、思い切って引きちぎろうとする。
「なっ!? こいつもの凄く脆いぞ」
「だ、大丈夫なの? 呪いの道具なんでしょ?」
「……今のところはなんともないぞ。それに魔力も思うように込められるし」
ブレリアは「何か異変があったら助けてくれよ」と言って、全力で暴れ出す。
「……そうか、脆いのか。……これを壊して呪われるなら、そっちの方が対処しやすいかも?」
ピシュもブレリアにならって、首輪をピントに噛み砕いてもらう。
「おお! やったやった、頭が軽くなったよ。なんだぁ~見かけ倒しの張り子の虎だったんだね」
「ハリコ?」
「ああ、何でもない何でもない。よぉ~し、これなら!」
ピシュは遠距離魔法を発動させて、百発百中で小魔獣を撃滅する。
「やっぱりおかしいぞ、この感じ。もしかしてどこかにダンジョンがあるんじゃあないか?」
「おおー、なんか久し振りな名前だね。なるほどこの濃い瘴気の正体はそれなんだね」
「ピシュ、お前は瘴気を感じられるのか?」
「分かるよ。魔界で黒の魔力に触れたのと同じ感覚だもん。瘴気ってのは何かをバサラが教えてくれたんだ」
それに気付けたなら、ピシュの索敵スキルでも魔力の出所は探せる。
「……あっちだよ」
「だろうな。ゾンビがワラワラやってくるのも、あっちなんだから」
向かう先はおそらくダンジョンだ。それを確認して、早急に対処しなくてはならない。
「あそこだな」
見るからにの洞窟をブレリアが発見する。
「そうだね、お馴染みの風景だね」
入り口付近にゾンビがゆっくりと、出てきて廃村へ向かう。
2人はゾンビを蹴散らして洞窟内に入る。
「見て、ブレリア」
「ああ、ここにはゾンビだけでなくゴーストなんかもいやがる。不気味さが増してきやがる」
数は知れているゴーストだが、外に出ようとしないでこの出口付近をウロチョロとしている。
「ああもう! めんどくさい奴らだな」
ゴーストには肉弾戦が通用しない。
魔法が使えるピシュにはゴーストも対処はゾンビと一緒、焼いてしまえばいいだけの雑魚。
「ゴーストは私に任せてブレリアはゾンビをお願い」
「いいや、あたしだって炎は扱えるさ」
戦斧に炎をまとわせて、ゴーストもゾンビもまとめて焼き尽くす。
「こっちを気にする必要はないが、換気は頼むぞピシュ。窒息なんてしたくはないからな」
「オーケー!」
ギブンのように無双しながら奥へ進む2人。
「下に向かってる?」
「思った以上に広そうだな。流石に一度戻るか?」
時間の経過を考えても、一度雇い主への報告に戻る必要も考えないといけない。
「ダイジョブダイジョブ! フビライさんは私たちに任せる。って言ってくれたじゃん」
意見は真っ二つ、だからと言ってここに、ピシュを一人でおいては帰れない。
「それに私たちも足枷がなくなって、ピントたちの力も加わったんだし、もっとやれるでしょ?」
それはブレリアも実感しているが、実力を試したいなら、こんな未知の空間は避けなければならない。
「ギブンにも心配かける事になるぞ」
「うっ!? い、いいもん! ギブンだっていつもいつも私たちに心配かけてきたんだから」
「まぁな。でもそれって、自分がされたくない事なんだろ?」
「いいの! 人がどれだけ心配しているかを教えてあげるの!」
「わかったわかった。付き合ってやるから落ち着け」
ピシュは説得を諦めたブレリアの手を引いて先に進む。
「ピントお願い」
クーヌフガルーの子は大人になり、狭い洞窟内を走り回って、ゾンビ化した魔獣の首を爪で切り落としていく。
「お前はいいよな。ゾンビの最大の武器である、感染症を気にする必要がないんだからさ。あたしやハクウはそう言うわけにはいかないんだぞ」
「ピントは平気そうにしてるよ。この子も状態異常無効化スキルを持ってるのかな?」
「なんだ、知らないのか? クーヌフガルーは九尾に聖なる力を宿しているんだよ。だから死霊どもはピントに噛みつく事ができないのさ。それどころか近付きもできないだろうよ」
逆に闇属性のハクウにはゾンビが寄ってきやすい。
従魔の事を思えば、このままブレリアのマントをしている方がハクウは安全だろう。
「大丈夫だよ。任せて! ブレリアがもし死んでも、私が生き返らせてあげるから」
「本当にお前もギブンも常識外れなスキル持ちだよな。けどそれ、死に方によってはどうにもならない事もあるって聞いてるぞ」
「おお、それもそうだね。その時はごめんね」
「ごめんね。じゃあねぇよ!?」
ギブンのモノほど高性能ではないが、ピシュの索敵スキルがゲートの近くまで来ている事を教えてくれる。
「いきなり広い空間に出たな」
しかも厄介な事に、とんでもない数の動く死体がゲートを守っている。
「他の奴はともかく、あいつ等はかなり面倒だぞ」
「じゃあ戻る? ギブンももう十分に心配してくれている頃だろうし」
「しかしこれを見ちゃうとな。ここをこのままにして離れるわけにはいかないぞ」
今までとは明らかに違う巨大なゲート、引き戻さずに来たのは吉なのか? 凶だったのか?
「魔族もいるぞ」
「うん、なんだかドンドン出てくるね。バサラの研究を他の人が完成させたって事かな?」
ゲートを守る2体のドラゴンゾンビだって面倒なのに、果たしてこの状況を2人でどうにかできるのか。
「ダメだ。ここでやられたら無駄死にだ。やっぱり戻って、キャラバンを移動させるんだ」
「じゃあ、あれは放っておくの?」
「たまたま見つけただけだ。あたしらの所為じゃあない。いいから逃げるぞ」
そんな2人のやりとりに、魔族が気付いて向かってくる。
2人は逃げるタイミングも失い、やむなくピシュがゲートを遠距離から破壊、乱戦が始まる。




