STAGE☆07 「ぼっちの冒険者生活」
領主様に買い取ってもらった素材の代金が金貨8枚と銀貨28枚。市場適正価格は守られている。
呼び出されたギルドで先ずは報奨金が渡された。
ゴブリン193匹×銅貨30枚。
ホブゴブリン56匹×銀貨1枚。
ゴブリンメイジ5匹×銀貨2枚と銅貨50枚。
ゴブリンキング1匹×金貨1枚。
あとはゴブリンから採取した魔石が238個。一緒に現場に行ったDランク冒険者は、ギブン的に権利は彼らにあるとする7個の魔石を受け取らなかった。
ゴブリンの肉や骨はお金にならない。売り物になるのは魔石だけだが、ゴブリンにしては質のいい魔石が揃っていて、金額は全部で金貨1枚と銀貨32枚、銅貨68枚になった。
「魔石がなかったから、17匹の証明はできなかったんだけど……」
と不思議に思っていたが、依頼報告受付担当のララルナル・ケラーは聞きもしないギブンに、「巣の状態確認は完了してます。討伐個体数に間違いはありませんよ」と教えてくれた。
「それにしてもトンでもないなお前さん。その実力でランクFなんて、バランスの悪いままに仕事を回すのは難しくなるな」
ギルドマスターのアウヴヒムは特例中の特例で、ギブンをランクFからDに2ランク昇格させた。
「よし、これで新人だけど、ランク的には中級冒険者として認められるはず」
と期待したのだけれど、ギブンと共にゴブリン退治の依頼を請け負ったDランク冒険者の2人は首を縦に振ってはくれなかった。
「俺らなんかじゃあ、あんたの足手まといにしかならないよ」
パーティーを組みたいギブンに、仲介してくれたフィーヴィーは、そんな返事をもらってきてくれた。
「しょうがないよな。1人で受けられる依頼があればいいけど」
特にランクに見合った仕事をなんて考えているわけではない。
ギブンは受付に行き、気になっていた相手との再会をした。
「君は……」
「お、おはようございます。先日は失礼しました」
エレラに案内してもらって、初めてギルドへやって来た時に受付にいた……。
「えーっと……」
「シーナ・ネーブルです」
「ああ、……もう、大丈夫なのか」
片言なのがもどかしい。
「ありがとうございます。もう平気です。昨日の夜、エレラともお話しできましたので」
そう言えば今朝にエレラもそんな事を言っていた。「彼女とは昔、エンザを取り合ってたんです」プレーバックされる朝の記憶に、ギブンの胸は別の意味でザワついた。
「今日はどうされます?」
「こ、これを……」
「お仕事ですね。って、これFランク用の依頼じゃあないですか」
薬草の採取、場所が北か南かの森違いでランクが変わる。
「もしかして、この薬草をすでにお持ちとか?」
「いや、これから」
「申し訳ございません。この町にもFランク冒険者がいないわけではないんです。こちらの依頼は午後までは新人冒険者のみの依頼なので、ギブンさんにはご遠慮いただきたいんですけど」
ランクに合わせてと言われるとしょうがないが、ギブンのレベルはゴブリンキング討伐で15になったばかり。新人冒険者なのは違いないのだけれど。
「お、お薦めは?」
ギブンは反論したがったが、どうせ無理なのだとも分かっている。
こうして片言での会話を続けているうちに、実はギブンはこの地方の言葉をほとんど喋れず、コミュニケーションが困難な相手だと、今後ギルド辺りから広まっていくこととなる。
「そうですね……」
「なんなら俺たちと一緒に攻略にいかないか? べっぴんさん」
「フォレドさん……」
ギブンは声を掛けてきたフォレドよりも、シーナの反応が気になった。
「Cランクのフォレド・ザザーレだ。俺のパーティーはこれから北西にある廃城の探索に行くんだがな」
「フォレスさん達が受領されたのはBランクの依頼ですよ。ギルドのルールを無視して無理矢理受けておいて、ギブンさんを巻き込むのはやめてください」
「俺、あんたに話しかけちゃあないんだがな。受付前は邪魔なようだから兄さん、あっちで話そうぜ」
馴れ馴れしく肩に腕を回されて、逆らう事はできるが暴れられるのは困る。
「兄さんは分かってくれると思ってたぜ」
「ギブンさん……」
心配してくれるシーナには悪いが、Bランクの依頼というのが気になってしょうがない。
「依頼内容は至って簡単だ。城に住み着いたオーガの群れが、近隣の村や町に住む人間や家畜を襲っている。そいつらの討伐依頼が出てるんだが、知っての通りオーガは強い。そこで俺らが受けたのは敵情視察ってやつだ。でも殺れるようなら殺っちまおうと思って、戦力を集めてるんだよ」
なるほど、そこで1人でゴブリンの巣を潰した、ギブンに白羽の矢を立てたという訳だ。
さっきのシーナの様子を見るに、この冒険者は何度か問題を起こしていると思われる。
「直ぐに出発だ」
「何人だ?」
「メンバーか? 俺の記憶では……20人くらいだったと思うがな」
たった20人で討伐を視野に入れた威力偵察なんてありえない。隠密偵察なら逆に多すぎるし、この男は胡散臭すぎる。同行は考え直すべきかとも思ったが、ギブンはフォレドの後ろに続いてギルドを出る。
廃城とは、魔王軍の前線砦跡。確かにオーガの出入りが頻繁にある。
「俺らは砦を包囲する手筈を整えておくから、あんたは先行偵察に出てくれないか?」
ここにいるのはフォレドと、荒くれ者にしか見えない出で立ちの男が3人。
包囲するのに20人が配置していると言っておいて、一カ所の人数がこれはないだろう。全員がBランクならまだしも。
こういうヤツは、ここで引き下がったりしたら、後からなにをしてくるか分からない。
中学時代はもう、ぼっちに目をつけてちょっかい掛けてくる連中から、コソコソと隠れて逃げ回る能力を身につけて、無事に生き抜いた前世の記憶。そんな生き方はこの世界では必要ないと思っていた。
「任せてもらおう」
ギブンの処世術、雲隠れの能力はオーガ相手にも役だった。
「この向こうが玉座だな」
城塞の最上階中央ホールには22匹のオーガがいる。
「知能がゴブリンとは比べられないほど高いな。聞き取れないけど、言葉みたいなのでコミュニケーションをとってるみたいだ」
ゴブリン相手には感じなかった罪悪感だったが。
ギブンは少し悩んだが、火雨で攻撃した。
「やっぱり魔物だからかな。この悲鳴を聞いても何とも思わないな」
オーガ1匹のステータスは平均してかなりの高さだ。ゴブリンと比べるのが間違っているのだろうけど、能力の低い個体でもゴブリンキング以上。
「当然、こんな低レベルの魔法ではやっつけられないか」
ギブンは物陰から飛び出し、こちらに気付いた魔物が向かってくる順番に切り刻んでいった。
「なんだこいつら、ゴブリンでも連携取ってたのに、個人プレーが過ぎるな」
こちらにとっては有難い話だけど、こうも単純に一列になって向かってくるとは思わなかった。
「流石は魔王の砦だな。壁が分厚くて外に音が漏れないのか、これだけ暴れても援軍はこなかいなんてな。……オーガも素材になるのは魔石だけか。魔物は大きさに比例して魔石も大きくなるんだな。一際大きかったヤツ。あれが大将なのかな?」
この個体のステータスはゴブリンの10倍。ロードを冠する進化体のオーガだったようだ。
「オーガにもキングはいるみたいだけど、オーガロードも一振りでは倒せなかった。オーガは一撃だったけど。……よし、これでここの魔石回収は終わったな」
索敵のマーカーを見る限り、ロードは1匹だけ、後は簡単に討つ事ができる。
「フォレドが外から様子を見ているなら、さっきの火魔法の灯りには気づいているはずだけどな」
冒険者達が入ってきた様子はない。
「ここから外に向かって潰していく事もできるだろうけど、フォレドの奴はゴブリン退治の時の彼らみたいに、紳士的に権利を認めてくれる。とは思わない方がいい。よな」
ギブンは辺りにある調度品の残骸を集めて火を放った。
このホールは4階建ての城砦、最上階の中央にある。
「この煙でフォレド達が来るなら、少しは信用できるって事かな?」
ホールの扉は4枚。その全てを風魔法で吹き飛ばすと、狙い通りにオーガ達が順々に入ってきた。
「俺って魔力は結構あるのに、覚えている魔法は、まだ下級の物ばかりだからな。斬って斬って斬りまくるぞぉ」
幸いな事に女神様の剣は、魔物をどれだけ斬っても、切れ味が落ちる事はない。
オーガの全滅に掛かった時間は、太陽の位置からして突入から4時間ほど。最後の一匹まで玉座の間まで上がってくれていれば、楽で良かったのだが。
ギブンは省内を走り回り、敵を全滅させたが、ここからなら上に登るより出口に向かった方が早い。
しかしギブンは魔石の回収が残っているので、城塞をまた上に登ることにした。
「最後まで入ってこなかったな。あの4人」
魔石回収には2時間がかかった。もう陽も暮れようとしている。
「どうするかなぁ?」
フォレドの仲間の3人は皆ランクDだった。
「結局やつらは、俺を突っ込ませて、オーガの群れの驚異度を外から計るのが目的だった。と言う事か。あいつらは最初から戦う気なんてなかったんだな」
ギブンは燃える炎に更に薪をくべ、日暮れを待って城塞を抜け出して町に戻った。




