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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆65 「ぼっち男と不思議な空間」



 魔女ネネーリアはギブンに直立不動に立ち、どんな痛みにも耐えろと言った。


 マハーヌには遠慮なく力一杯、男に抱きつけばいいと言った。


「初めましての魔女様が、随分と俺に厳しくするんだな」


「初めましてでもキミは、人間離れしすぎだって分かるからね」


 ネネーリアは抱き合う2人に全く同じ魔法を掛ける。


 眠ることなく夢を見る。


 いやそれはかなり鮮明で、夢という感じではない。


 触れたマハーヌの感触がかなりリアルで、意識もハッキリとしている。


『もしも~し、聞こえるかい、ギブンくん?』


「その声はネネーリアさんでいいのかな? まるで神様みたいな声だけど」


『おお、キミはお世辞が言える子だったのだな。うんうん、私の事はネネーリアでいいよ。敬称はいらない』


「ああ、うん、分かったよ。俺の事もギブンと呼んでくれ」


『そこはそれ、キミはかわいいから「くん」を付けさせてもらうよ』


 距離感も掴み所もない魔女だが悪い印象はない。


 何をさせられるかはまだ分からないが、信用はしてもいい気がする。


『ところでいつまでマハーヌちゃんと抱き合ってるんだい? もう離れても平気だってのにさ』


 言動は子供そのもの、前言撤回である。質の悪い弄られ方は単に疲れるだけ。


「なんでもいいけど、真面目にやってくれ」


 手を離したマハーヌはたちどころに消えてしまい、目の前には地上の平原が拡がる。


「魔力の流れだ。……俺を導いているのか?」


 もうネネーリアの気配も感じない。ヒントをくれる様子もない。


 ヒントと言えば……。


「従魔との繋がりも感じられない。妙なところに放り出されて、1人でなんとかするしかないのか」


 本当にヒントである保証はないが、向かうべき道は他に浮かばない。


「管理者がネネーリアなら無茶はさせられても、無茶苦茶にはしないよな」


 と安心してはいられなかった。


「魔物? 見た事ないし食物図鑑でも検索できない。でもどう見てもムカデだよな」


 脚が百本あるかは分からないが、その一本一本が鋭く研がれている様に見える。


 間違いなくよく切れる。そしてイメージ通りなら、頭の牙には毒がある。


「俺の前に立ちはだかるという事は、戦えってことか」


 ギブンが剣を抜いた途端に、巨大なムカデは男をぐるり囲って体を起こす。


「風の結界を簡単に切り裂かれるとは!? なにより早い!」


 宙に逃げはしたが、ついでに飛ばした火球ファイアボールも、ムカデは脚を振り回して消し去った。


「連弾で30以上飛ばしたんだぞ」


 スピードではもしかしたらムカデは、ギブンと同格かもしれない。


 ギブンは氷杭を一気に70本ほど生み出したのに、ムカデの脚の動きは想像以上に素早い。


「これ、斬り掛かったところで勝ち目はないな」


 剣一本で無数の脚と渡り合えるはずもなく、どう攻めるかと言ったところだが。


「爆裂魔法で全身を飲み込んでやれば丸焦げ……、ってこいつ飛べるのか!?」


 背中にトンボのような翅を前、真ん中、後ろに計12枚もっていて、飛行速度もかなり速い。


 真っ直ぐ飛び掛かってきて繰り出されるムカデの剣戟に、剣一本ではやはり太刀打ちはできない。氷剣を無数に生み出して隙を作り、ギブンは虫の頭を狙う。


「くっ! 牙の長さが足より長いってどういう事だよ!? 脇腹を切られちまった」


 やはりムカデには毒があったようで、直ぐに状態異常は消えてくれるが、右の牙に切られた腹は強烈に痺れた。スキルがなければ即死だっただろう。


「そう言えば、この世界で死んだらどうなるんだろうな?」


 ソード・オブ・ゴッデスの破壊力に、左の牙と頭を失ったムカデは落下して動かなくなる。


「あれ、現実世界にもいるのか? 虫だけどあの強さ、A級以上になると思うんだが」


 ギブンはこの世界に来て日が浅い。まだまだ知らない事があってもおかしくはない。


「あのムカデ、俺の鎧の隙間を狙ってねじ込んできたよな。恐ろしいヤツだった」


 などと振り返っている暇はない。


 この戦いの意味は分からないが、魔力の道に沿って進むと。


「また虫か」


 ダンゴムシ、大きさは全く違うが、子供の頃に学校の校庭で見つけて遊んだ覚えがある。


 それソックリな球体になる魔物は、2本の触手を振り回しながらゴロゴロと転がり襲ってくる。


「なんて硬さだ。攻撃は大したことないけど、こっちの剣も魔法も効かないんじゃあ、やられはしなくても、いつまで経っても倒せないぞ」


 直線的に猪突猛進してくるだけで、避けるのは簡単だが、こちらの攻撃も全て弾かれてしまう。


「現実世界なら無視して、先に進めばいいと思うんだろうけど」


 魔物を倒す事に意義があるのだとしたら、逃げる事は許されない。


「ムカデやハクウ達に比べたら、それほどでもないけどそれなりに早いし、なにより堅い!」


 どこか弱点はないかと眺めてみれば、攻撃が通りそうな場所が2カ所見えてくる。


「そこを突かせないための触手か」


 その動きは熟練の鞭使いのように隙がない。


「邪魔なら根元から切っちまえばいいか」


 単純な考えだったけど、ダンゴムシの突進をギリギリで躱して、鞭打ちを喰らう前に触手の一本を切断。


「なぜ1本が5本になるかね!?」


 切ったのはダンゴムシの片側の1本だったが、そいつはあっと言う間に増殖して再生、反対側の触手も5本になって更に厄介になっている。


「いや、やる事は一緒だ」


 また球体が反転してきた。


 ギブンはまた先ほどと同じように虫を引きつけ、寸でで避けると同時に風の刃で触手を切り落とし、球の中心に向かって剣を突き刺した。


 その一撃で虫は球形を崩してひっくり返る。腹を見せた魔物は外殻を下にしてバタバタしている。


「これが頭で、ここにあるのが核だな」


 表に変える前に、核の魔石に剣を突きつける。


「……やったか?」


 女神の加護をこれでもかともらって転生して、それなりの苦労はあったが苦戦らしい苦戦はしてこなかった。


「やっぱりこれって、俺への試練じゃないのか?」


 この先どれだけの何があるのか見えないのが不安だが、体を動かしても疲れを感じないのであれば、あとは精神的な問題。


 やれるだけやるだけだと、ギブンは気を引き締める。






「なるほどなるほど、確かにマハーヌちゃんがちょっと会っただけで、忘れられなくて探し回った男の子、だけのことはあるかな」


 魔女ネネーリアは水晶を覗き込んで高みの見物。


 目の前には仁王立ちのギブンに抱きつくマハーヌの姿。2人とも意識はない。


「だいぶマハーヌちゃんの魔力も引き剥がれてきたかな」


 体中にこびり付いた魔力を剥いだところで、魔法を使うのが苦手なマハーヌが、成果を出せるようになるわけではないが、魔法を覚える意味がない現状からは、脱する事ができる。


「幻夢界の彼は大丈夫そうだけど、こっちの本体はいつまで保つ事やら」


 魔力が剥されるたびにマハーヌは悲痛な顔になり、男の背骨を圧迫する。まだ折れていないのが不思議なくらいに。


「本当にゴメンね、マハーヌちゃん。幼いあなたの実力を見誤った私のミスなのに」


 本気で魔法を覚えようとする幼女に、熱が入ったのは間違いない。


「魔法を必要としていないんだから、最低限の灯火ライティングと変身魔法を覚えた時点で解放してあげれば良かったね」


 マハーヌの魔力が異常であると、ネネーリアは最初から気付いていた。


 それでも先代からありとあらゆる物を受け継いだネネーリアには絶対の自信があった。


 しかし初めてのケースに、正しい判断ができなかったことは確か。


「けど安心してね。私がどうにかしてみせるから」


 マハーヌのいない間に調べた、この手段に光明を見出す。結果は男次第だが、成功は確信している。


「頼むよギブンくん。キミなら私もこの子も助けてくれると信じてるよ」


 幻夢界のギブンは魔物に負けても死んだりはしない。


 それを伝えなかったのは、その方が死ぬ気でやってくれると思ったからだが、ここまではそれこそ思った以上の結果を出してくれている。


「幻の中で死ぬ事はないけど、……キミの体は本当に、いつまで保つか分からないからね」


 マハーヌの痛みは抱きつくギブンにも伝播する。背骨が軋む音が徐々に大きくなっていく。

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