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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆61 「ぼっち男の指導」



 この場にいるのがオリビアかブレリアであればと、ギブンは脂汗を流すのだが、アテにしていたバサラは、高位の魔族軍士官なのに、経験がないと言って逃げの姿勢でいる。


「あなたしかいないじゃない。私は魔法が専門なんだから」


 これまでの経験と、オリビア達に鍛えられた技を彼らに伝える自信が持てないが、確かにギブンがやるしかない。


「そうそう、力任せだと押し負けた時に態勢を崩されるから、力負けしてると分かったら、受け流すんだ。そうしないと武器か腕を潰されてしまう」


 なんてらしくない事をやっているのかと、我ながら恥ずかしい事この上ない。


 それでも魔族の青年達はメキメキと腕を磨いていく。


 3日目には、冒険者で言うところの1ランクアップが、1人1人できるくらいには成長したと思う。


「俺達を待つ仲間がいるんでね。悪いんだけど、これで俺の訓練は終わりとさせてもらおうと思う」


「ああ、引き止めて本当に申し訳なかった。僻地巡回なんてのは、黒魔族か灰魔族がするものだと思っていたから、本当にビックリした。キミたちが良ければまた来てくれ」


 おそらくはもう二度と会う事もないだろうが、ギブンは青年達と握手を交わして村をあとにした。


 予定を3日も延ばしたから、当然バサラは直ぐにでもゲートを開いて、向こうに帰る事ができる。


「ちょっと寄り道してもいいかな?」


 バサラは有る事を思い出して、ギブンにお願いした。


「少し遠いんだがな。いけない距離でもないので、一目でいいから故郷を見たいんだ」


「う~ん、みんなをここまで待たせてなければ、俺も行きたいけど」


「ギブンギブン、私もバサラの生まれたところ、見てみたい」


 オリビア達はもう北摂に着いている頃だろうか?


「ああ、えーっと、ブレリアさん。聞こえるか?」


 想像通り、3人はこれから領主城へ向かうとの事。


 明日は必ず戻ると約束して、ギブン達はバサラの故郷を目指した。


 3日間も村に滞在していた間に、鞍を3人乗りに作り替えてもらい、アードの手綱はバサラが持ち、真ん中にギブンで最後はピシュ。


 ピシュはせっかくギブンに抱きつけると思っていたのに、なんというか「ありがとう」を心から言えなかった。


 アードも3人を乗せているのが楽になったと言うのか? さらにスピードを上げてくれた。


 2時間後には目的の付近。山の中にある魔人族の集落にたどり着いた。


「ここがバサラの故郷か」


「ああ、18歳までここで育った。あの頃と変わらないと言ったところだな」


 魔人は始め、薄魔人か無魔人として生まれてくる。


 成長と共に力を付けるようなら、肌の色が濃くなっていく。


「私は11歳までは無魔人として生きた。しかし成長期の身長が伸び始めたところで、肌の色が濃くなり始め、18歳には完全な黒魔人となった」


 無魔人の寿命は、人間よりほんの少しだけ長く平均で100年、長寿な者なら130歳まで生きると言われている。


 薄魔人の平均寿命は110年、灰魔人なら180年、黒魔人は320年まで寿命が延びるのだ。 


「黒魔人となると、体の成長も止まる。300歳まで現役を続けていけた者もいると聞く。私は250歳で引退するつもりだったがな」


 戦力外を決めるのは軍上層部なのだが。


「それで? 今のバサラは少しずつだけど、身長が伸びているじゃあないか?」


「そうなんだよ。これじゃあ無魔人そのものだな。魔力量は前と変わらないのに、どうも私は無魔人というより人間に偏っているように思えるのだ」


 そんな兆しまでみせているとは?


 しかしバサラももう228歳。眺める景色は変わらなくても、見知った魔人は1人もいなさそうである。


「……それじゃあバサラの今後は分からないけど、今日からキミは13歳だ。人間として俺達と生きていこう」


「なんで! 私が一番年下となるのだ?」


「見た目から」


「し、身長は低いが胸はピシュより大きいぞ!」


「なっ!? そう言うこという?」


「確かにピシュも見た目で言ったら、12歳だしな」


 ピシュは真っ赤な顔をして、ギブンに怒りのパンチを連打する。


「けど中身はしっかりしてて俺なんて、自分のガキっぽさに情けなくなるよ」


「はっ! えへへ……」


 ホンの些細な事で、機嫌が直るピシュよりも年下と言われて、バサラは釈然としなかったが、溜め息と共に飲み込んだ。


「村の中を見て回るか?」


「いや、前の村で分かっただろ。ここではヨソ者は目立つんだ」


「いいじゃないか。前みたいに無魔人でも実力があるから僻地巡礼をしていると言って」


「……いやいい。自分から見たいと言っておいてなんだが、そもそもこの村に私を知る者はいない」


 それでも少しは昔に戻れたことで、気持ちはそれなりに満たされた。


「それじゃあ、還るか」


「なんだね、キミたちは?」


 色は灰。老人のようだがまだ、どこか生気に満ちている。


「気にしないでくれ、たまたまこの場所に出てしまっただけだからな。まさかこんなところに村があるとは知らなかった。それにしても珍しいな、この辺で灰魔人の爺さんに出くわすなんて」


「それこそ大きなお世話だ、無魔人のお嬢さん。全盛期を過ぎてようやく、体が闇魔力に馴染んでな。そんな話は聞いた事もないといった顔だな」


 30半ばで薄魔人となり、70歳を超えた頃に急に体が活性化して、灰色になったことが、見た目が初老だったから、魔族軍に放置されたのだという。


「歳を聞いてもいいか?」


「わたしか? わたしは231歳だ。家族は孫達もみな死んでしまったが、薄魔人となったひ孫はまだ一応残っておるが、もう家族とは呼べん。天涯孤独みたいなものだ」


 老人は人間族で言えば100歳近い年齢だが、まだまだ若いイメージをしている。


「しかしお前さんはよく似ている。この村では他に成り変わりの出たことのない、黒魔人となった少女、わたしの妹に」


 生まれ変わりの少ない黒魔人もだが、年を取ってから灰魔人になるなんて耳にした事もない。


「いや本当に長生きもしてみるもんだな。こんな瓜二つの少女に出会えるなんて、何年ぶりの喜びだろうか」


「そうか、そう言ってくれるなら私も嬉しいぞ。また来られるようなら立ち寄ろう」


 この話の流れとバサラの様子。ギブンは話に割って入る。


「今日くらいはいいんじゃあないか? どうやら二人は話が合うようだし、出発は明日でも構わないんじゃあないか」


 ブレリア達には明日と言ってあるのだから、こちら側に問題はない。


「そうか、では良ければ我が家に来てくれ。この様な辺鄙な村だから、余所者は周りの目が気になるかもしれんが、わたしは腫れ物扱いだからな。迷惑も掛けんと思うぞ」


 そう言われて3人は村の中へ。


 確かに3人の人間は、魔人族としてだが好奇の目に晒される。


 しかし老人の言葉通り、寄ってくる者は誰もいない。


 集落の端にあり、最大で8人が住んでいたと言う、老人の実家はなかなかに立派で、今は空き部屋になっていても調度品はちゃんと手入れをしているから、急な来客でも泊まるのは平気だと言われた。


 老人の名はフレブス・ティラムーン。やはりバサラの実兄だった。


 しかしバサラは自分の正体を明かすつもりもなく、ブレリア・アウグハーゲンと名を偽った。


「さぁ、入ってくれ」


「おかえりなさぁ~い」


 フレブスは天涯孤独だと言っていたが、来訪した3人を、若い女性が出迎えてくれた。


「また来たのかオーナ。ここへは来るべきでないといつも……」


「なに言ってるの! 大祖父ちゃん1人で、大変だろうからって来てあげているんでしょ! いつも言ってるじゃあない。私の事は気にしないでって」


 オーナ・カラクルット18歳、フレブスの来孫である。


「孫の孫の娘か。よろしく頼むぞ、オーナ」


 バサラの親族となる少女だが、見た目は、いや13歳となった元魔人からすれば れっきとした年上である。


「よろしくねブレリアちゃん。ちゃんとお姉さんがあなた達を歓迎してあげるから」


「……ギブンよ。やはり私はせめて20歳くらいを名乗りたいぞ」


 兄に続いて家に入ろうとしていたバサラは、後ろに立つギブンに耳打ちをする。


「そうなると、毎回説明が面倒だからさ」


「しかしピシュの時は、ちゃんと毎回しているじゃあないか」


「そっちは本当の話だし、1人くらいなら流せるから」


「まったくご主人様は従者に優しくないな」


 肩を落とす元魔人は諦めて前を向いた。


「何をいつまでも、コソコソとお喋りしているんですか?」


「ああ、いえいえ申し訳ありません。オーナさん、ちょっとこの子のしつけについて……」


「あはは、入口でする話ではありませんね。大丈夫、この村の子たちと似たようなものなので、気にしてませんよ」


 ギブンだって十分年下だと言うのにこの対応の違い、しかもどうやらオーナは色目を向けているようだ。男は気付いていないが。


「お前は全く俺の話を聞かないな」


 呼称を「わたし」から「俺」に変えて、フレブスは溜息を零す。


「別にいいでしょ!? 灰魔人だからって、ただのお祖父ちゃんを怖がる方がどうかしてるのよ。そんな臆病者になに言われたって、私は平気だから」


 バサラは心打たれた。このように兄を想ってくれる身内があるのなら、余生を見届け看取ってくれる者がいる。


 一晩何かと語り合い、翌朝に人間界に戻る。


 兄は感慨深い表情をし、来孫は残念そうに男を見る。


 もう二度と会う事もないだろう兄との別れを笑顔で済ませると、ゲートを超える時に溢れたバサラの涙を、ギブンもピシュも見なかったことにした。

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