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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆59 「ぼっち男の全力解放」



「ま、魔界へだって!?」


 魔人だった頃のバサラがゲートを開くのには、数週間をかけて魔力を集めないといけなかった。


 しかし今なら従者契約するギブンから魔力が譲渡されるので、人が2、3人通れるくらいのゲートは簡単に作れると言う。


「驚いたな。そんなことができるなんて」


「行けるのは3人までか……」


「ギブンさんとバサラさんにあと1人ですね」


「いや、残念だけどな。何人通れようが行けるのは、全属性持ちのピシュだけだ。他は魔界に入った途端に、高濃度の闇魔力に廃人にされちまうぞ」


 これは脅しでも何でもない。


「分かった。それじゃあピシュ2人を頼むぞ。あたしらはちょっと、お前らが気になる穴ってのを見てくるからさ。ギブン、ヒダカとライカも連れて行っていいか? ピシュ、ピントも借りるぞ」


 ブレリア達はおそらくダンジョンとなっている、魔力だまりを潰すつもりだろう。


 魔人がいるようなら無理をせずに戻ってきて、ギブン達を待つと言って別れた。


「それじゃあ行くか主人あるじよ」」


「魔力の全力使用か。楽しみだな」


「アテにしてるよ。ピシュ」


「ねぇ、ねぇ、緊張しちゃうね。魔界だなんて」


 ゲートは簡単に魔界と繋がった。


「どこに繋がっているんだ?」


 ゲートを抜けると、そこは森の中。まぁどこに繋がっていようと、ギブンには分かりはしないのだが。


「ああ、魔界軍の施設からは離れた場所に繋いださ。ただし、ここがどこかは私も知らん」


「ここが魔界? 人間界と一緒じゃない」


 最後にゲートから出てきたピシュが感嘆の声を上げる。樹々はさほど高くはなく、広い空も見えている。


「一緒ではないがな。……おいピシュ、魔界をどんな風に思ってたんだ?」


「えー、いつも曇ってて、湿気があって、陰鬱な空気が流れている場所」


「もしそうだったら、魔王様の降臨に関係なく人間界を奪い取ってるよ」


 過ごしやすさで言えば、人間界も魔界も変わりはないとバサラは言う。


「それじゃあここで、魔力を解き放っていいんだな」


「お前、人の話聞いてたか? 私もここがどこかはよく分かってないと言ってるんだ。辺りが安全かどうかを確認してからにしろよ」


 そう言われて、ギブンはバサラを横抱きにして浮遊する。


「なっ、おいお前!?」


「えっ、ダメだったか? 空から見るにもキミが一緒でないと意味がないし」


「も、もういい。落とされてもかなわないから、もっとくっつかせてもらうぞ」


 ピシュも飛んできて、「いいなぁ~」と指をくわえる。


「えーっと、なるほどな。つまりあれはラボラバ山脈か。この辺りなら多少派手にしても……、いや暴れるのはギブンだからな……」


「おい、バサラ?」


「よし、少し東に向かうぞ。ここだとレイラインを痛めかねんからな」


 彼女が指さす方には砂漠があるらしい。なるほど何となくそこなら問題ない気がする。


 バサラを抱えたギブンは飛んだまま移動する。ピシュは一人、追いつくのがやっとである。


 ハクウほど早くは飛べないけど、2人の移動力は山五つをあっと言う間に飛び越える。


「遠くに大きな都市があったけど」


「あれが王都だ。もう建築時から7000年は経つと聞いている」


 他には都市や町は見当たらず、ちらほらと集落が見えるだけだった。


「魔力が弱い者は、魔物にも怯えながら生活しているからな。大きな集落になると、魔物から逃げるのも大変だろう?」


「魔王軍は手を貸さないのか? 例えば頑強な塀を建てて住民を守るとか?」


「弱い者は所詮、魔王様のために戦う事もできぬ無能な存在。せめてあの人間界の村人のように無力であれば、人間のフリもできるのだろうに」


 魔王軍に役立てない者を守ってやる価値はなしというのが、魔界の掟である。


「責めて魔獣を狩って、魔王軍の兵糧を守れんようでは、何の役にも立てないという事だな」


 多少は人間界を知るバサラは、なぜ人間界はあれだけ意味のない人間が多くいるのかと、未だに疑問に思っている。


 結果として王都周辺以外の僻地の弱者は、死と隣り合わせで生きていくしかないのだ。


「王都で必要な農作物は自給自足で賄われていて、この辺りの集落からは税収もアテにされていない。と言う事か」


「税収?」


「もしかして、そう言う取り組みはされていないのか?」


「と、とりくみ?」


 戦う事と異次元ゲートの研究にしか興味のないバサラ、納税制度についてはなにも分かっていない。


 だから魔界は人間のように魔人を、産めや増やせやとはならないのだという。


「うぅ~ん、人間界にとっては、その方がいいと言う事か?」


 数が均衡すれば、底辺の兵士でもC級冒険者に匹敵する魔人に、軍配が上がるだろう。


 だが黒い魔人が生まれる確率は全人口の10%ほど、魔王軍補佐ができる灰色の魔人が20%。


 残りは茶色いほぼ魔王軍の役に立てない者と、人間そっくりの者となる。


「役立たずを守る人手なんて勿体ないだけだろ?」


 ギブンは民衆を増やし、国土を拡げて豊かな穀物や家畜を育てる。そうした環境で育った強者が増える意味をバサラに言って聞かせる。


「なんて事だ!?」


 今さらバサラが魔族のあり方に気付いたところで、人間界が災厄に見舞われることはないだろう。


「それはそれとして……」


「うん? どうかしたのギブン」


「いや、何でもないよ。ピシュ」


 砂漠に入り50㎞ほど進んだところで、地上に降りて予定通りに魔力を全身に込める。


「魔力だけで、この距離を飛んだりしたら……」


「ふぅ、けっこう疲れたよ」


「となるのが当然だが」


 ギブンに抱き着いたままのバサラを、ピシュが引きはがす。


「ピシュは魔力回復のスキルを持ってるじゃあないか」


「魔法を使いながら、魔力回復なんてできないよ」


 溜息をついて魔力を充填し、生気を取り戻す。


「それじゃあ今度は俺の番だな。いくぞ」


 ギブンは全身に染みわたるほどに込めた魔力を、今度は手に集中させる。


 だがよくよく考えると、どのくらいが全力なのかが分からない。


「……このぐらいでいいか」


 使用したのは一番得意な火魔法。


 天に掌をかざし、生まれたのはエバーランスの町を飲み込むほどの火球。


「なんだこのバカげたデカさは!? いくら何でも目立つ目立つ。早く天へ飛ばしてしまえ!」


 言われるままに放り投げた。


「ふぅ、本当にとんでもないな。でもこれでスッキリしただろう。倒れるかもと予想していたが、その時は私たちで運んでやろうと思っていたんだがな」


 いくら砂漠まで来たと言っても、今のは王都でも感知されただろうし、騒ぎになっているに違いない。


 魔王軍が偵察と確認にやってくる。その前に移動してしまわないといけない。


「……もう一度、撃ってもいいか?」


「なっ!? あれで終わりじゃあないのか?」


「うぅ~ん、いやかなり消耗した気がするけど、バサラの話だと俺は溜め込んだ力を一度吐き出しきらないといけないんだろ?」


「そうだ。なんなら立ってもいられないくらいに、空っぽになった方がいい」


「それだったら、今ので十分じゃあない気がする。……行くぞ」


 その火球は先ほどより更に大きく、おかげでギブンは自由の利かない体を、ピシュに預ける事になった。






 結果から言うと大成功である。肩コリがなくなったように思う。


 しかし巨大な魔力の消費は、それをもう一度溜めなくてはならない時間が必要となる。


 バサラがゲートを開くためのエネルギーも、ギブンが回復しないともらうことができない。


「ピシュみたいに魔力回復を持っていれば、直ぐに向こうへ帰れたのにな」


「私は既にお前が立っていられる方が気になるわ。スキルなしに、どうしてこんなに早く回復できているんだ?」


 そうは言われても自覚がないものを、説明なんてできやしない。


「ところで私にはもう一つ、気になる事があるのだが」


「なぁに? バサラ、その勿体ぶった言い方?」


 もう少しギブンに肩を貸してあげたかったピシュは、逆に今は男の腕にしがみついている。


「いや、平気そうな顔をして、それがやせ我慢でも何でもないのなら、なんで私はお前の魔力を感じ取れないままなんだ? 魔力解放をする前はずっとお前の力を感じていたのに」


「ああ、うん。ちょっと思いついたから実験中なんだよ」


「はぁ?」


 ギブンの魔法研究はすでにこの世界、人間や魔人の学者を上回る成果を上げているのだった。

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