STAGE☆56 「ぼっち男とあやしい村」
「外から見た感じは、特におかしいところはなさそうだな」
「うん、のどかな風景だよね」
記憶系のゲームでブレリア達に、まったく太刀打ちできなかったピシュは沈み気味。
「とにかく冒険者ギルドに行こう。ここは誰かが兼任せずに、冒険者ギルドが独立して運営されているんだってさ」
村にしては人口も多く、建物の数も多い。
「なんだか静かなところね。ちゃんと人はいるのに、息を潜めてこっちを見ているみたいね」
ピシュが索敵で村人の居場所を探り。
「みたいじゃあないよ。しっかり見られてる」
ブレンダが気配の視線を感じる。
「ちょっと嫌な空気だな」
俺達がというより、よそ者を警戒している様子だ。
「あれがギルドだな」
「待つんだよ、バサラ。中の人の様子がおかしいんだよ」
「そうですね。緊張の空気が張り詰めています。扉を開けた途端に襲ってくるでしょう」
マハーヌも気配を能力で読み、オリビアは冒険者の鼻を利かせて危機を察知する。
「俺が最初に入るよ」
ギブンはそう言うと、剣の柄に触れていた左手を離して、ノーガードになる。
「待て待て、この中で一番防御力が高いのは、この暴力女だぞ」
「そうです。この私にお任せください旦那様、ってちょっとブレリアさん! またそのような……」
「ちょっとじゃないよ。オリビア今、言うに事欠いてギブンの事を旦那様って呼んだでしょ」
「ピシュさん……、今はそのようなお話の流れではありませんよ」
こんな時も平常運転なのは、頼もしいと言うべきなのか?
「いいから、俺が先に入るから、みんなも平然と続いてくれ」
風の結界の上に粘りのある水の結界をはり、ギブンはギルドに入っていった。
「だから戦闘狂を先に行かせろ。って言ったろ?」
いや、オリビアを先にしたら何人か、いや全員が怪我、またはそれ以上の惨状に発展してしまうだろう。
「なんなんだキミは、なぜ刃が届かない?」
「魔法って面白いんですよ。俺にとっては料理を作っている感覚というか」
「説明になっとらん!」
初老の男性が1人に若い男女が2人、同時に三本の剣がギブンを襲った。
「ですから粘りのある水を生み出して……」
この世界に来てできた、魔法研究の趣味を誰かに理解して欲しい。ギブンは男性の言葉を聞いていない。
「おい、ピシュ。ギブンの奴、止めた方がいいんじゃあないか?」
「そうは思うけど、たぶんギブンは自覚なく楽しんでる。邪魔はしたくないなぁ~」
「たくっ! こいつちょっと前まで、まともに人と話す事もできなかったんだろ?」
「軍人肌のバサラには合わない?」
「そ、そんな事は言ってない。それもこいつの個性だと、慈しんでやろう」
ピシュも同じ意見だが、ブレリアが言った通り、そろそろ話を先に進ませたい。
「うん?」
「どうかしたんだよ? バサラ、なにがあったんだよ?」
「ああ、えーっとな。……おい爺さん。もしかしてクラッダ・アルバートとか言わないか?」
バサラは何かを思い出したかのようで、先頭の初老男性に声をかけた。
「どうして私の名前を……。うん? お嬢ちゃん、どこかで会った事があるの、か? なにやら懐かしい感じがするのだが」
バサラの身長は140センチくらい。
みんなからは13歳くらいに見られているが、長命な魔人族として228年生きていた。
胸の大きさだけで言えば、ブレリアやオリビアほどではないが、ピシュよりは大きい。
魔人は200歳を超えれば、子供が産める体になるのだとか。
「私だ。覚えておらんか? バサラ・ティラムーンだ」
「バ、バサラ様ですと! いやしかし、その御姿は……」
「うん? そう言えばお前の特殊能力は……、これならどうだ?」
「このオーラは、間違いない。バサラ、バサラ・ティラムーン様」
やはりバサラの知り合いに違いなさそうだ。
「バサラ、この未だに殺気を向けてくるこの人達は?」
「うん? このジジイは魔人時代の私の部下だった男だ。若いのは知らん」
元のという事は……。
「ああ、人間界にいる魔族って事か」
「これはいったい? バサラ様? この人間は……」
「こいつか? こいつはその……、ご主人様だ」
「ご、ごしゅじん~~~!? こ、これは大変失礼しました。私はクラッダ・アルバート。お察しの通りの元魔族です。今は人間としてこのタナボルム村の村長をしています。後ろの者はここのギルドマスターとその娘、ルージェス・アルバートとサザナ・アルバートです」
家名が同じという事は、クラッダの息子であり、孫娘ということか。
場所をギルドの談話室に移し、落ち着いて話すことにする。
「なるほど、魔界に生まれたものの闇の魔力が弱く、人間界に移住した人達か。確か少し前に教えてもらったな、バサラに」
「ああ、魔界は闇の魔力に満ちていて、魔力容量が小さいと体を壊してしまうからな」
しかも闇魔力が体の許容量を超えると死に至ってしまう。
それではこの老人、いやこの一家は魔人の血族なのだ。
「この村は全員が魔族とその血族です。魔族を裏切りはしましたが、人間も信用できないので、あまり関わることなく生活しているわけです」
クラッダも若い頃は間者として魔界のために働いていたが、所帯を持った時に通信を途絶させたそうだ。
そして魔族に戻れない魔人が安心して過ごせる地として、この村を拓いたのだとか。
あまりここの領主からの干渉を受けないように、形だけの窓口としてギルドだけは設置している。
「辺鄙な場所なので、旅人も承認も訪れなくて、穏やかに過ごしております」
「もしかして今までも、外から来る冒険者を?」
「そんな事はしてません。今回は特別です。あなたの魔力が異常すぎて、なにかをされる前にどうにかしようと、先走った事は謝ります」
「そうそう、お前の索敵能力は、神の加護に匹敵するからな」
つまりは得体の知れないよそ者を、被害が出る前に暗殺してしまおうと考えたわけだ。
魔人が長命なのは、闇魔力が体の細胞を活性化するからであり、魔界出身者でも人間に近い魔力保持者は、人間の寿命とさほど変わらないのだという。
「そもそも魔王ってなんなんだ? どうして人間界に侵攻してくるんだ?」
「なんだ、そんな事も知らないのか?」
「そうかバサラなら知ってるよな。そうだよな、聞くのを忘れていたよ」
バサラの事を忘れていたと言うよりも、魔王の事を知ろうとしてこなかったのだ。
「魔王様は特別に王として生まれる訳じゃあない。魔界の神からある日、啓示を受けるらしい。そして人間界を滅ぼせと言う命を受けるのだとか」
その時に特別な魔力を授かり、魔界を統べるだけの力を得るのだ。
「それでバサラ様はなぜここへ? それになぜ闇の魔力がほとんど感じられないのですか?」
「本当にお前は優秀だな。魔族軍としては、お前が抜けたのは大きな損失だったんだぞ」
バサラはギブンと会った時からの経緯を、クラッダに聞かせた。
「まさかそんな、この少年が魔族軍幹部のバサラ様を従者に!?」
ただの人間にしか見えないギブンが、実力も実績もある魔人を従えているなんて。しかもご主人様の意味がそちらだったとは。
「いや、ご主人様の意味は、二通りとも本当だぞ」
孫娘の反応は薄いが、ギルドマスターの息子は村長と同じ表情をしている。ピシュとオリビアとブレリアも複雑な顔をしている。
「それで皆様は何をしにこの村へ?」
孫娘サザナが、村長もギルドマスターも聞きそびれている事を問うてきた。
「人間の町で噂になっているらしいんだ。数ヶ月前に目撃された魔族が、この辺りで消息を絶ったと。その調査に来たんだよ」
「そうだったのか?」
「なんでバサラが聞くのさ?」
みんなには、今回の依頼については説明済みだ。
「たはははは、聞いてなかった。と言うかお前、私とブレリアがカード勝負中に言ってたよな。だから頭に残らなかったんだよ」
元軍人の言葉とは思えない。しかし今の目撃された魔族は、やっぱりバサラ本人のことのようだ。
「村には入らなかったから、そんな噂を立てられていたとも思ってなかった」
そもそもこの村の事にも気付いてないし、川に潜って大河を渡り、隣国まで行ったから監視者を撒けたのだろう。
「つまりはこの村とは全く接触もなかったって事だね。さてどう報告すべきか?」
「難しく考える必要はありませんわ。聞き込みの結果、疑わしい話は出なかった。これで解決です」
オリビア案は簡単に言うが、そんなに単純でいいものだろうか?
魔人が潜んでいたらギブンに対処して欲しい。と言うのが伯爵の本当の依頼だ。
「……それで十分か。何もなかったで通すことにしよう」
しかし話を聞き込むとなると、1日2日は掛けるべきだろう。
「時間ができてしまったな」
それならと村長は大きな宴を設けて、村人を集めるので歓迎させて欲しいと提案してくれた。
おそらくはまだまだ、バサラの話が聞きたいのだろう。




