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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
56/120

STAGE☆56 「ぼっち男とあやしい村」



「外から見た感じは、特におかしいところはなさそうだな」


「うん、のどかな風景だよね」


 記憶系のゲームでブレリア達に、まったく太刀打ちできなかったピシュは沈み気味。


「とにかく冒険者ギルドに行こう。ここは誰かが兼任せずに、冒険者ギルドが独立して運営されているんだってさ」


 村にしては人口も多く、建物の数も多い。


「なんだか静かなところね。ちゃんと人はいるのに、息を潜めてこっちを見ているみたいね」


 ピシュが索敵で村人の居場所を探り。


「みたいじゃあないよ。しっかり見られてる」


 ブレンダが気配の視線を感じる。


「ちょっと嫌な空気だな」


 俺達がというより、よそ者を警戒している様子だ。


「あれがギルドだな」


「待つんだよ、バサラ。中の人の様子がおかしいんだよ」


「そうですね。緊張の空気が張り詰めています。扉を開けた途端に襲ってくるでしょう」


 マハーヌも気配を能力で読み、オリビアは冒険者の鼻を利かせて危機を察知する。


「俺が最初に入るよ」


 ギブンはそう言うと、剣の柄に触れていた左手を離して、ノーガードになる。


「待て待て、この中で一番防御力が高いのは、この暴力女だぞ」


「そうです。この私にお任せください旦那様、ってちょっとブレリアさん! またそのような……」


「ちょっとじゃないよ。オリビア今、言うに事欠いてギブンの事を旦那様って呼んだでしょ」


「ピシュさん……、今はそのようなお話の流れではありませんよ」


 こんな時も平常運転なのは、頼もしいと言うべきなのか?


「いいから、俺が先に入るから、みんなも平然と続いてくれ」


 風の結界の上に粘りのある水の結界をはり、ギブンはギルドに入っていった。


「だから戦闘狂を先に行かせろ。って言ったろ?」


 いや、オリビアを先にしたら何人か、いや全員が怪我、またはそれ以上の惨状に発展してしまうだろう。


「なんなんだキミは、なぜ刃が届かない?」


「魔法って面白いんですよ。俺にとっては料理を作っている感覚というか」


「説明になっとらん!」


 初老の男性が1人に若い男女が2人、同時に三本の剣がギブンを襲った。


「ですから粘りのある水を生み出して……」


 この世界に来てできた、魔法研究の趣味を誰かに理解して欲しい。ギブンは男性の言葉を聞いていない。


「おい、ピシュ。ギブンの奴、止めた方がいいんじゃあないか?」


「そうは思うけど、たぶんギブンは自覚なく楽しんでる。邪魔はしたくないなぁ~」


「たくっ! こいつちょっと前まで、まともに人と話す事もできなかったんだろ?」


「軍人肌のバサラには合わない?」


「そ、そんな事は言ってない。それもこいつの個性だと、慈しんでやろう」


 ピシュも同じ意見だが、ブレリアが言った通り、そろそろ話を先に進ませたい。


「うん?」


「どうかしたんだよ? バサラ、なにがあったんだよ?」


「ああ、えーっとな。……おい爺さん。もしかしてクラッダ・アルバートとか言わないか?」


 バサラは何かを思い出したかのようで、先頭の初老男性に声をかけた。


「どうして私の名前を……。うん? お嬢ちゃん、どこかで会った事があるの、か? なにやら懐かしい感じがするのだが」


 バサラの身長は140センチくらい。


 みんなからは13歳くらいに見られているが、長命な魔人族として228年生きていた。


 胸の大きさだけで言えば、ブレリアやオリビアほどではないが、ピシュよりは大きい。


 魔人は200歳を超えれば、子供が産める体になるのだとか。


「私だ。覚えておらんか? バサラ・ティラムーンだ」


「バ、バサラ様ですと! いやしかし、その御姿は……」


「うん? そう言えばお前の特殊能力は……、これならどうだ?」


「このオーラは、間違いない。バサラ、バサラ・ティラムーン様」


 やはりバサラの知り合いに違いなさそうだ。


「バサラ、この未だに殺気を向けてくるこの人達は?」


「うん? このジジイは魔人時代の私の部下だった男だ。若いのは知らん」


 元のという事は……。


「ああ、人間界にいる魔族って事か」


「これはいったい? バサラ様? この人間は……」


「こいつか? こいつはその……、ご主人様だ」


「ご、ごしゅじん~~~!? こ、これは大変失礼しました。私はクラッダ・アルバート。お察しの通りの元魔族です。今は人間としてこのタナボルム村の村長をしています。後ろの者はここのギルドマスターとその娘、ルージェス・アルバートとサザナ・アルバートです」


 家名が同じという事は、クラッダの息子であり、孫娘ということか。


 場所をギルドの談話室に移し、落ち着いて話すことにする。


「なるほど、魔界に生まれたものの闇の魔力が弱く、人間界に移住した人達か。確か少し前に教えてもらったな、バサラに」


「ああ、魔界は闇の魔力に満ちていて、魔力容量が小さいと体を壊してしまうからな」


 しかも闇魔力が体の許容量を超えると死に至ってしまう。


 それではこの老人、いやこの一家は魔人の血族なのだ。


「この村は全員が魔族とその血族です。魔族を裏切りはしましたが、人間も信用できないので、あまり関わることなく生活しているわけです」


 クラッダも若い頃は間者として魔界のために働いていたが、所帯を持った時に通信を途絶させたそうだ。


 そして魔族に戻れない魔人が安心して過ごせる地として、この村を拓いたのだとか。


 あまりここの領主からの干渉を受けないように、形だけの窓口としてギルドだけは設置している。


「辺鄙な場所なので、旅人も承認も訪れなくて、穏やかに過ごしております」


「もしかして今までも、外から来る冒険者を?」


「そんな事はしてません。今回は特別です。あなたの魔力が異常すぎて、なにかをされる前にどうにかしようと、先走った事は謝ります」


「そうそう、お前の索敵能力は、神の加護に匹敵するからな」


 つまりは得体の知れないよそ者を、被害が出る前に暗殺してしまおうと考えたわけだ。


 魔人が長命なのは、闇魔力が体の細胞を活性化するからであり、魔界出身者でも人間に近い魔力保持者は、人間の寿命とさほど変わらないのだという。


「そもそも魔王ってなんなんだ? どうして人間界に侵攻してくるんだ?」


「なんだ、そんな事も知らないのか?」


「そうかバサラなら知ってるよな。そうだよな、聞くのを忘れていたよ」


 バサラの事を忘れていたと言うよりも、魔王の事を知ろうとしてこなかったのだ。


「魔王様は特別に王として生まれる訳じゃあない。魔界の神からある日、啓示を受けるらしい。そして人間界を滅ぼせと言う命を受けるのだとか」


 その時に特別な魔力を授かり、魔界を統べるだけの力を得るのだ。


「それでバサラ様はなぜここへ? それになぜ闇の魔力がほとんど感じられないのですか?」


「本当にお前は優秀だな。魔族軍としては、お前が抜けたのは大きな損失だったんだぞ」


 バサラはギブンと会った時からの経緯を、クラッダに聞かせた。


「まさかそんな、この少年が魔族軍幹部のバサラ様を従者に!?」


 ただの人間にしか見えないギブンが、実力も実績もある魔人を従えているなんて。しかもご主人様の意味がそちらだったとは。


「いや、ご主人様の意味は、二通りとも本当だぞ」


 孫娘の反応は薄いが、ギルドマスターの息子は村長と同じ表情をしている。ピシュとオリビアとブレリアも複雑な顔をしている。


「それで皆様は何をしにこの村へ?」


 孫娘サザナが、村長もギルドマスターも聞きそびれている事を問うてきた。


「人間の町で噂になっているらしいんだ。数ヶ月前に目撃された魔族が、この辺りで消息を絶ったと。その調査に来たんだよ」


「そうだったのか?」


「なんでバサラが聞くのさ?」


 みんなには、今回の依頼については説明済みだ。


「たはははは、聞いてなかった。と言うかお前、私とブレリアがカード勝負中に言ってたよな。だから頭に残らなかったんだよ」


 元軍人の言葉とは思えない。しかし今の目撃された魔族は、やっぱりバサラ本人のことのようだ。


「村には入らなかったから、そんな噂を立てられていたとも思ってなかった」


 そもそもこの村の事にも気付いてないし、川に潜って大河を渡り、隣国まで行ったから監視者を撒けたのだろう。


「つまりはこの村とは全く接触もなかったって事だね。さてどう報告すべきか?」


「難しく考える必要はありませんわ。聞き込みの結果、疑わしい話は出なかった。これで解決です」


 オリビア案は簡単に言うが、そんなに単純でいいものだろうか?


 魔人が潜んでいたらギブンに対処して欲しい。と言うのが伯爵の本当の依頼だ。


「……それで十分か。何もなかったで通すことにしよう」


 しかし話を聞き込むとなると、1日2日は掛けるべきだろう。


「時間ができてしまったな」


 それならと村長は大きな宴を設けて、村人を集めるので歓迎させて欲しいと提案してくれた。


 おそらくはまだまだ、バサラの話が聞きたいのだろう。

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