表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
55/120

STAGE☆55 「ぼっち男の幌馬車道中」



 馬車の旅は思った以上に順調で、領界までは3日もかからなかった。


「お昼くらいには着くよ。平原続きだと街道で盗賊に襲われる事もなかったし、順調だね」


「そんなフラグ立てなくていいよ、ピシュ」


 手綱を引くピシュと隣にはギブンが座っている。


 サラマンダー姉妹に拒まれて御者はできないが、ノンビリと幌の中で休んでいるだけというのも申し訳ない。


 寝る時以外はギブンの異次元収納に寝具をしまっているので、幌の中はそれなりに広い。


「おい、剣バカ女! こんな狭い場所で剣を振るんじゃない」


「ご心配なく、ふっ! 幌を破ったりは、ふっ! いたしませんから、ふっ!」


「そんな事を言ってるんじゃあねぇ! 寛いでるあたしらの事を考えやがれってんだ」


 ブレリアはバサラ相手に真剣勝負中。


 領主城で試しにお願いしたら、上質の紙がもらえた。


 ギブンは旅のお供にと、粘りのある水魔法を神に吸わせて、闇の重力魔法で数枚を1枚に圧着する。風魔法で手に持てる大きさで、全く同じサイズの長方形に切り、土魔法で模様を付けて完成したのが。


「トランプって言うんだ。54枚で一組、馬車の中でも遊べる暇潰しになると思うよ」


 馬車旅初日の夜に渡したところ、またまた徹夜をさせられてしまった。


「もう! ババ抜きならみんなでワイワイできるのに」


 ピシュは手綱を握って頬を膨らませている。


「ごめんな。もう一組作ろうと思ったんだけど、まさか8枚も足りないなんて、我ながらどうにかしてたよ」


 簡単な遊びよりも、ギャンブル性の高いポーカーどはまりのブレリアとバサラ。


 この世界にも木札で楽しむ、同じような遊びがあるそうだが、札の数が更に多く、肌感もいいトランプの方がエキサイティングできるんだとか。


「ブレリア、そろそろ町に着くよ」


「おお! この一勝負で決着とするよ」


 お金はかけてないけど点数は付けていて、今はブレリアの方が高い。


 次のブレリアがストレート止まりなら、バサラもストレートフラッシュ以上で逆転ができる。


「もう! 昨日からあれのせいであの子達、一度も変わってくれなかったんだよ」


「ああ、昨日は俺が寝ている間も、やってたらしいからね」


 ギブンは朝になっても、寝かせてくれないブレリアを振り切って横になったが、これだけ楽しんでくれるなら、作った甲斐はあったというもの。


 だけどみんなで決めたルールくらいは、守ってもわなきゃだ。


「けど俺、そもそも手綱持ってないから、強くは言えないや」


「もう、ギブンはみんなに甘いんだから」


 そこはみんなに分け隔てなくやってるつもりだから許して欲しい。


 北岸と東部の境にある町、都市と呼べる広さがある。


「ここが東部と北岸の領界町アラバストロか」


 王子達も領土争いをしているわけではないので、ここは北岸でありながら東部なのである。






 昼食をとり、この町の代表、ウルム・レバン伯爵に挨拶に行くと、貴族が手ぐすね引いて待ち構えていた。


 ギブンの噂を聞きつけたと伯爵は言うが、その噂の出所がオリビアの父グラアナ卿であり、ラフォーゼ王子も噛んでいるとなる言い逃れは難しい。


「キミは魔族に詳しく、いくつかの問題も解決していると聞いたのだが」


 噂というか告げ口のような伝わり方に、深い溜め息が漏れだした。


「いったいどう言った用件でしょう」


「ここより馬で半日戻ったコール大河付近に、小さな村があるのだが……」


 伯爵はその村の問題を、フリーランスであるギブン達に解決して欲しいと言う。


 いい加減ゆっくり眠りたいギブンはあっさりと依頼を受けて、出発は明日にしたいと言うと、町に出て手頃な宿に入った。


 部屋は3部屋。


 1人部屋と2人部屋と3人部屋を用意してもらった。


 ギブンに「ちょっと今日くらいは1人で寝かせて欲しい」と言われ、女性陣は渋々OKした。


「ふぅ、みんなと一緒も楽しいけど、たまにはな。風呂のない宿だけど、それもたまには有りだな」


 みんなは公衆浴場に行って来ると言っていたし、晩ご飯まで寝ていようとベッドに入るギブンだった。


『……、そろそろ起きて、もう朝だよ』


「……えっ? なに言ってんだよピシュ、いくらなんでもそんなには寝てないよ」


『まだ寝ぼけているの? 早く起きてギブン」


 ピシュの言葉はハッキリ理解できるけど、なんとも現実味が感じられない。


「キミはもしかしてピシュ天か?」


『あら、思ったより勘がいいのね。にしてもいい名前もらったものよね。そもそもが私がこの子の名前を気に入っただけなのに、本当に最高のネーミングよね』


 甲高かった駄天使の声が、ピシュ本人と同じになっている。


「それで人の枕元に立って、何のようなのかな?」


『あなた、みんなに平等になんて態度で振る舞って、満足しちゃったりしてないでしょうね』


「……大丈夫だよ。流石の俺もこれ以上は、無責任にみんなに甘えてはいられないとは思っているよ」


 ただ、どう態度に示せばいいのかが、分からないだけだ。


『こんなに多種多様な女の子に囲まれていれば、どの子といるのが一番心地いいかくらいは、直ぐに答えが出せそうだけどなぁ~』


 それが分かれば苦労はしない。


 ……いや違う苦労がありそうだけど、だいたいそんなに焦らせないで欲しい。


 なんせギブンはこの世界に来て、まだ二ヶ月半しか過ぎていないのだから。


「それもこれもネフラージュ様のおかげなのかもしれないけど、ちょっとはゆっくりとこの世界を堪能したいよ」


『ネフラージュ様を悪く言うんじゃあないわよ。全て私の一存なんだから』


「それが一番質が悪いわ!」


『とにかく! しっかりしなさいよ……。できたらピシュを選ぶのよ。できなくてもピシュを選ぶのよぉ』


 どんどん駄天使の声が遠くなる。


「……、そろそろ起きて、もう朝だよ」


「……今度は本物か」


「本物? ああ、ピシュ天ちゃんとお話ししてたのね」


 ピシュは駄天使の存在は知っていても、感じる事はできない。


「って、なんでピシュが俺の部屋に? 寝姿のままで? というか本当に朝なのか?」


「べ、別になにもしてないよ。昨日はずっと私が手綱を持ってたから、みんなが譲ってくれたけど、ただ添い寝しただけだからね」


 ここに来たなら添い寝はしょうがない。この部屋にはベッドは1つ。


「それにギブン、晩御飯も食べないでずっとねたまんまだから、心配もしたんだからね」


 にしてもそんなに寝てたのか。


「本当に何もなかった?


「一度してもらったからって、みんなほど次も次もなんて思わないよ。心は日本人なんだし」


「そうだよな。やっぱり俺達は今でも日本人なんだよな。それに俺は未だに相応な人付き合いしかできないままだしな」


「それはそう感じるかな。私だって独占したい思いと、みんなと分かり合いたい気持ちを両天秤にかけちゃってるし」


 端から見ると、ベッドの中でイチャイチャしている2人を、引き裂くように扉が大きく開かれる。


「いつまで寝てんだよ。もしかしてピシュてめぇ! あたしらの厚意に甘えて、シッポリやってくれちゃってたわけじゃあないだろうな!?」


「やってたらどうだって言うの? 別にいいじゃない。チャンスは平等にあったんだもの」


「なんだ、なにもなかったのかよ。だらしねぇな。けど今言ったよな、チャンスは平等だって。お前の次の番はこっちの4人の後だからな」


「なっ!」


 ブレリアとピシュのぶつかり合いを、昨日交わせなかった伯爵との約定を持ってきた執事が、困った顔をして扉の向こうから眺めていた。


「申し訳ない。直ぐに準備するのでもう少し待ってほしい」


 オリビアが隣で頭を下げ、扉を閉めてくれた。


 ギブンはお急ぎで着替え、書類にサインすると早速魔族が絡むとされる村目指して出発する。


 御者はマハーヌ。隣にはギブン。


 幌の中では4人が神経衰弱で、夜の順番決めをしている。


 何度やっても一度も勝てないマハーヌの代わりはピシュ。


 もしもマハーヌを勝たせたら、2番手にしてもらうと、ブレリアに無理矢理首を縦に振らせた勝負だったが、見事最下位になる15歳の乙女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ