STAGE☆53 「ぼっち男と仲間の絆」
子供のサラマンダーはバサラに倒された後、治療のために再召喚し、こうあればいいのにと念じながら回復させたら、丸い体がスマートになった。
ギブンの中で最も早く走るトカゲのイメージ。
エリマキはないが二本足で走るスタイルに変わったヒダカとライカに、竜騎兵用の手綱や鞍が使えたのは有り難かった。
クーヌフガルーのピントは、空は飛べないが2人を乗せて、ハクウよりも早く移動ができる。
ハクウの走力だって馬の倍はある。スピードだけで数の差をどれだけ埋められるかは分からないが。
「絶対に負けられない。ピシュ、キミにも無理をさせちゃうけど、頑張ってほしい」
「分かってるわよ。私だってこんな形で、マハーヌがいなくなるなんてイヤだから」
牙ウサギはこの辺りでは毎年、一匹の雌から10匹以上の子を生み、巣穴の中で十分育ってから、この季節になって一斉に外へ出てくるという話だ。
牙ウサギは心配はしていなかったが、当然のように食物図鑑に載っていて、種別索敵も可能な状態。
マップ上には多くの獣の反応がマークされている。
「右斜め前方7匹、左11時に3匹」
ギブンの指示で、自分の索敵スキルでも確認してピシュは魔法を放つ。
離れたところに魔法を発生させられるピシュの攻撃は、ウサギは何が起きたか分からないうちに死んでいく。
傷つき出血があるウサギを、ピントの鼻が嗅ぎ分けて駆け付ける。
「そうだ! ウサギの血抜きは後回しにしよう。異次元収納なら時間の経過がないからな。日が暮れてウサギを数える前に血抜きをして渡せばいいんだ。それならルール違反には当たらないはずだ」
「ヤメといた方がいいよ。オリビアのお墨付きったって、どこまで信用できるんだか」
ピシュの魔法で氷の矢をウサギの頭に突き刺す。身に傷を付ける事はないが、血抜きをしていない肉は売り物にはならない。
この勝負は駆除を目的とした、食糧確保が求められているのだ。
血抜きもしなくてはならない事なら、忘れないうちにやっておくべきだ。
予定より時間がかかってしまっているが、それでも誰よりも多くしとめているはずだ。きっと。
冒険者としての技量を疑うべくもないオリビアとブレリアも、猟師顔負けの働きでウサギを回収しまくっている。
「ブレリアさん。すばらしいですよ。まさかハクウちゃんよりもあなたの鼻が、こんなに役立つなんて」
「鼻は鼻でも直感の方だからな。草花のざわめきや風の囁きで、小さな生き物を感じ取ってるんだからな」
「ええ、ええ、その異常な働きに答えて、私の剣がズバズバと肉を捌いて差し上げますわよ」
「確かにお前は異常だよ。動いている相手の頸動脈を確実に斬って、血抜きも同時に済ませちまうんだからよ」
ハクウも空には上がらず、ピントほどではないが、馬よりも早く草原を駆けめぐっていく。
「くそ! あいつら私たちにこのような乗り物を宛がいよって、自分たちばっかり、あんなに早くて乗り心地の良さそうなの使いやがって、ムカつく!」
それは聞き捨てならないと、サラマンダーは「ギギ」と抗議する。
ヒダカの訴えをバサラは気にも止めず、オーラブレイドをナイフサイズにして投げ飛ばし、それを消える前にウサギに命中させる。
飛び道具のないマハーヌは、ウサギの回収に専念する。
自分のためにみんなが頑張ってくれているのに申し訳ない。という思いで一生懸命に働いた。
「あっ!? それは私たちがしとめたウサギなんだよ」
「うるせぇ、どこにそんな証拠があるんだ? 殺したウサギは俺の手の中だ。変な言いがかりをしてくるんじゃあねぇ」
兵士の男が1人、横から割って入り、高笑いしながら馬の腹を蹴って、遠ざかっていく。
「あんな奴は気にすんな。次行くぞ」
バサラはマハーヌを責めることなく、背中を押した。
マハーヌにまた1つ、負けられない理由ができた。
念には念をと、ギブンは日暮れまでは、まだ時間が残っているのに領都に戻って、みんなを待った。
「どう思う? 勝てそう?」
ピシュは拭えぬ不安をギブンにぶちまけた。
かわいげのない新顔だけど、もう仲間として、掛け替えのない存在になっているマハーヌを、どうにか守ってあげたい。
しかし戻ってきたバサラとマハーヌの顔は、青く染まっている。
「何かあったのか?」
「何かなんてもんじゃあねぇ。あいつら狩りのついでも何でもない。最初から私たちの獲物を横取りする事が目的だったのさ」
バサラも影移動を使って、いくらかは取り戻しもしたが、最終的に革袋を持っていたマハーヌが襲われて、力尽くで奪われてしまい、日暮れを迎えてしまった。
「そのやり口、こちらにも同じようなのが現れたぜ」
バサラたちのすぐ後に戻ってきたブレリアが口を挟む。
「それもどう見ても盗賊がです。ここの騎士も兵士も、褒められたものではありませんね」
ただしその証拠はどこにもないとオリビアは言う。二組とも散々な目に合わされたようだ。
「それじゃあギブンさん、私は少し席を外しますね」
「オリビアさん、どこへ」
「えーっと、お花畑へ」
「ああ、ごめんなさい。……みんな、気持ちを切り替えよう。そろそろ集計が始まる」
ギブンは溜息混じりに腹をくくった。
先ずは第4王子の命に従い、ジオート様組からの集計。
「148匹! 王子の7匹もすばらしいが、騎士団の働きは流石と言えるでしょう」
因みに審判はジオート王子の太鼓持ちを噂される伯爵である。
「それではギブン・ネフラ。獲物を出したまえ」
そう言われてバサラ達が出したのは4匹。獲物を横取りされた後に、それだけ捕らえられたのは、執念のなせる技だと思える。
続いてはオリビアとブレリア、その数は22匹。
絶望的な空気が流れる。
だがその空気を払いのけたのは異世界組だった。
「ななな、お主等2人で124匹も捕らえたというのか!?」
「いえ、この子を入れて、2人と一匹です」
「ピシュ、今はそう言う事は言ってないって」
ピントも彼女に抱かれながら講義をしている。
「むむむ、しかもどの組よりも状態が良いではないか」
いくら兵士連中が影で繋がる盗賊を差し向けてこようと、次元収納にしまってしまえば奪われる事もなく、ついでに倒してしまえば、後で換金もできる。
「一石二鳥の狩りでした」
勝者はギブン・ネフラ組に!
その差は2匹。勝利できたのはバサラとマハーヌが、諦めなかったからである。
「これで満足ですか? ジオート様」
隣に立つオリビアは安堵の息を吐いてから、王子に問いかけた。
「そうだな。面白いものは見られたと思うぞ」
勝敗に関係なくただ狩りを楽しんだ王子は、もう言う事がない。
「不正を働く奴らがいるとは思っていたが、まさか盗賊まで抱え込んでいたとはな。急遽決めたイベントだぞ。これまでも繋がりがあったとしか考えられん。それらを炙り出せたのだ。これはもう私の1人勝ちといえるだろう?」
「マハーヌさんをダシにして、酷な事をされますね」
「あの者が栄誉ある称号をいらんと言うからだ。それにあやつの実力を見ておきたかったというのもあったしな」
報告では200匹は捕まえたはずだとの事だった。
「伯爵め、兵士どもがもってきた92匹を141匹とはよく言ったものだ。果たしてあやつの成果を先に聞いていたら、どう偽証していたのだろうな」
東部には鷹を使役して、千里を見渡すと称される魔法使いがいる。
草原を走り回ってたギブン達の行動を観察していた鷹は、盗賊の動きもしっかりと見ていた。
そんな事とはつゆ知らず、ピシュは勝利の喜びを表現して、ギブンに力強く抱き着いた。
「あとの83匹はどうするの?」
「俺達の食料さ。もうそろそろ肉を補充したかったからね」
ピシュが抱き着いたのを見て、ブレリアがマネをする。
「見ろよ。バサラが、マハーヌを慰めるんだぜ」
「ああ、今回一番うれしい出来事だよ」
「うん、これでまた、絆が深まったのは間違いないね」
王子の所へ行っていたオリビアが、ギブンを呼びに来た。
お呼びが掛かったのはギブン1人、オリビアは付いて来てはくれず、用意された数々の料理をみんなと楽しむと言う。
「俺も食事したかったんだけどな」
「そうだろうと思って、用意させておいたぞ」
場所はジオート王子の自室。広さは昨夜泊まらせてもらった3人部屋と同じサイズ。
2人分には思えない料理の数々。
「これで2人分?」
どう見ても6人分が並んでいるのに、なぜこの王子と2人なんだぁ~~~!!
でもちょうどいい。
「ジオート様、手心を入れて頂いてありがとうございました」
「何の話だ」
「だってあなたは1日かけた狩りでは、ウサギ如きは50匹を超えるのが当たり前と、騎士様に教えてもらいました」
この人が本気でマハーヌを欲していたなら、今こうして安心しては居られなかった。
「私は勝ちを譲った覚えはない。私の部下の断罪はこれからだが、不始末は気付いた時に拭う必要があると言うのが、私の考え方だからな」
こういう王子様であってくれるなら、ギブンも吹き出しに頼る必要はない。
この夜は王子と遅くまで、酒と食事を楽しむのだった。




