STAGE☆52 「ぼっち男と家族」
ギブン・ネフラはBランク冒険者となった。
理由などは何でもいい。
王家が認める冒険者が低ランクであってはならない。それだけである。
このまま全ての王子から承認を賜れば、ギブン・ネフラはアルティメットランク。U級冒険者となる。
「究極って、……恥ずかしくてしょうがないんですけど。俺、雲隠れしていいか?」
昨晩はお城でお泊まり。
それはいつも通りのパターンだが、この日はギブンを含めた全員で一部屋を与えられた。
ただジオート王子は、クレイジーボアとトロルの件について報告してきた村からは、ギブンのパーティーは5人と聞いていたので、ベッドは3つしか用意していない。と言われた。
ギブンは1つ、他は2人ずつで使えばいいと言われたが、これだと誰かが男と一緒に寝る事になる。
「立派な天蓋付きなんだ。キュウキュウに詰めれば、全員で寝られるんじゃあないか?」
ブレリアの案に、女性陣は「ああ!」と賛同し、しかしこうなったらなったで、誰がギブンのどこに位置するのかで揉めてしまう。
「なんだバサラ、お前も一緒に寝たいのか?」
「そんなわけがないだろう。私はこっちで広々としたベッドを、独り占めするからな」
まだ仲間意識を受け入れられない1人が脱落した。
「ギブン、あなたはどう? 何人までならゆっくり眠れそう?」
ピシュ達も分かっている。以前に4人で囲った時は、間違いなく寝苦しかったに違いないと。
「そりゃあ1人の方が……」
「ギブン(さん)!」
男を睨んで抗議する目は3人分。遅れて人魚も首を縦に振る。
「で、できたら1人にして欲しいけど、2人までならゆっくりできる。と思う」
ここはそう、ピシュが教えたジャンケン勝負。
4人もいるからなかなか決まらなかったが、その結果は?
「なんでお前まで参加してるんだよ」
「しょ、勝負事と聞いては黙ってられんからな」
バサラは勝負方法をピシュに聞き、ルールを覚えて面白そうだと参戦した。
「そんでもって、なんでお前が勝つんだよ」
「ふん、勝負だからな。当然勝者の権利も頂くとする」
ピシュとバサラに挟まれて、やはりギブンは窮屈な思いをしながら寝るしかない運命。
「よし! 第2回戦だ」
ブレリアの合図で3人がグーを握る。
「はぁ!? どういうことですか、それ?」
「あん? 当然夜中で交代する奴を決めるのさ。残念だが、ここで負けた奴は権利無しだ」
その結果、人魚が涙をのむ事になる。
まさか窮屈な態勢で、しかも夜中に1度起こされるなんて……とギブンは涙した。
「それでは寝ましょうか」
ギブンの腕はピシュとバサラに拘束された。
1人肩を落とすマハーヌが、着替えをしてベッドに入る。
彼女は寝ている間に人魚になり、下着を破ってしまわないように、長丈シャツ以外は身につけない。
ベッドに入る姿は非常に目のやり場に困ってしまう。
「もう堪能した? あなたって、奥手な割にムッツリよね」
「いや、それはその……」
ベッドに入り「さぁ、寝ましょ」となるはずもなく、ギブンはあまりよく寝られなかった。
ギブンは昨夜のあれやそれやを洗い流そうと、城に許可をもらって朝から湯に浸かった。
朝から湯を沸かすのは勿体ないことだと、嫌みをもらったので、火魔法は自分で使った。
「ふぅ、よわったな。これで次は北岸。場合によってはまた西嶺にもか」
「何がよわったって?」
「低ランク冒険者でノンビリのはずが、気がつけば究極ランクにだなんてね」
「良かったじゃあないか。栄誉あることだろう」
「それはそうだろうけど……、って、えっ? ジオート様!?」
王族が冒険者と湯を共にするなんて?
気が付けば周りは護衛の騎士だらけ。
「光栄に思いたまえ。王族と裸の付き合いなぞ、何人も許される事ではないんだぞ」
許しを請うた事も、頭の片隅に浮かべた事もない。
「そんな事よりもギブン・ネフラ」
「はっ、はい!」
「キミにお願いがあってな」
王子がわざわざに風呂まで入ってきたのはその願い事の為。
「マハーヌを?」
「そうだ。私に譲って欲しい」
昨日の女湯での出来事を聞いて、人魚を手に入れたいと考えたようだ。
「ベタかもしれませんけど、彼女は物ではありませんし、大切な俺達の家族です」
「そうか、でも王族がその気になれば、平民だろうが場合によっては貴族だろうと、全てを手放すしかないのだぞ」
本当に苦手な相手だ。吹き出しを使わなかっただけでも、自分は成長したと思いたい。
「ははは、許せ許せ。そう睨んでくれるな。私はそんな手もあると言っただけだ」
「それじゃあ……」
「いや、人魚を手に入れたいと言うのは本気だ。しかしお前のその心意気を蔑ろにはできんか。ただ無理強いするだけではつまらんしな」
王子は先に湯船から出る。お付きの侍女がバスローブをかける。いつの間に女性が……?
ギブンは口まで湯に浸かった。
「ギブン・ネフラよ。私と勝負をしようではないか」
領主であり騎士である第4王子は血気盛んな青年だった。
勝負方法は獣狩り、この季節になると一斉に繁殖する牙ウサギが、領都周辺の畑を荒らし、家畜を襲う。
食料にもなるウサギを刈り尽くすことはできないが、数が増えすぎても困る。
今の季節は冒険者だけでは手が足らず、いつも兵士や騎士も駆り出されて駆除して回る。
「ウサギ狩りは私の趣味の1つだが、この季節はお気楽な事も言っておられん。つまりは……」
「その討伐数を競い合うと?」
「正に。キミが勝ったなら風呂での話は水に流そう。だが」
「俺が負ければマハーヌを?」
「なに、キミばかりが損をしてはただの暴挙。私が負けたなら、あの人魚と緑髪の少女にもフリーランスの特権を与えよう。仲間にムラがあっては、後々困る事もあるだろう」
勝負は正々堂々と、と言っておきながら、王子は騎士団、兵士団の手柄も上乗せしようとしている。
バサラが王子の心を読んでくれたので、指摘すると「お前達も仲間と一緒に狩りをすればいい。これは最初から団体戦にするつもりだったのだ!」と半ギレされた。
王子サイドは兵士団20名に騎士団5名、「城や町の警備があるので、これだけしか出せぬが、お前達も26名までの参加は認めてやる」と、どう考えても後出しされたルールが追加された。
今から人を集める暇はない。こっちは26対6で首を縦に振るしかない。
「はぁ、まさかこんな事になるなんて……」
「ジオート様はご自分を正当化するために、後から難癖を付けてくる事はありませんから、とにかくあちらより早くウサギを狩るだけです。問題ないのでは?」
オリビアが第4王子は確かに横暴だが、信用はできる相手だと保証してくれた。今はそれだけで十分だ。
「それじゃあみんな、グループ分けをするぞ」
開始の合図はもう近いはず。
チームの采配はギブンに一任された。
「俺とピシュとピントで先ず一組。オリビアさんとブレリアさんとハクウで二組。マハーヌとバサラにはヒダカとライカを預けるからよろしく頼む」
ここのところ子供のサラマンダー達は、巨大で力強い母親と違いスマートに育っている。
炎を消してもらえば、背中に跨れることができるので、スピードの心配はない。
従魔の使用を許可して欲しいと言うと、王子は簡単にOKをくれた。
「さぁ、いよいよだな」
宮廷魔導師が火魔法を、花火のように打ち上げれば開始の合図。
日暮れの鐘に間に合った分だけが、捕獲物として認められる。
「ただ、気を付けてください。王子が約束通りに勝負をしてくれても、配下の者はそうではないかもしれません。手柄を上げた者には報償を与えるとお約束なさったと聞いています」
兵士や騎士が結果を出すために、ズルをするかもしれないとオリビアは言う。
「俺とピシュはそこそこ遠くまで行くから、近場はマハーヌ達。中間はオリビアさん達に任せる。どんなズルをしてきても、数の多い方が勝ちだ。いくぞ、家族を守るために」
火魔法の合図と、ギブン達が「オー!」と気合いを入れる声が重なった。




