STAGE☆51 「ぼっち男と二人の戦い」
剣士オリビア・シェレンコフの自慢の装備〝バイアランの鎧”は、有名な神クラスのスミスが、ラフォーゼ王子から依頼されて、オリビア専用に作られたアーティファクト。
魔力硬化されれば、B級モンスターの攻撃をも防ぐとされるが、今までオリビアが鎧に助けられたことは一度もない。物理魔法障壁が備わっている上に、装備者の身体強化もしてくれる。
そして魔剣レイバンスもまた強力な武器だが、普段のクエストではオリビアが魔剣の力を使うことはない。
「確かに恐ろしい力を感じるな。装備自由は言い過ぎたかもしれん」
バサラのもう一つの能力“解析鑑定”で、この二つの装備が如何に強力かを感じとってしまう。
「オーラブレイドでしたか? それだけでも脅威なのに、影移動なんて卑怯な技が使え、本来なら人の心も読めるだなんて、なんて恐ろしい魔人が相手ですからね」
これで条件は同じ、みんなにも納得のいく決闘になるだろう。
「それにしてもバサラさんが敵でなくなったというのは僥倖です。私たちにとってはギブンさんこそが、勇者だと言えましょう」
オリビアは剣を抜き、バサラも指の抜けた手袋をはめる。他の皆は草原に腰を下ろした。
ここまでの道程を考えれば、日暮れまでには大河都市フェルナンデスにたどり着けただろうに。
ルール無用。
勝敗はどちらかが降参するか、ギブンもしくはブレリアがストップを掛けるまで。
「死なない限りは完全回復させられると思うけど、できたら寸止めにして欲しい」
いい死に方をなら蘇生できるけど、そこは今はまだギブンと2人だけの内緒の話だ。
絶対のスキルではない以上、万が一があっては取り返しがつかないので、相手を殺したら負けとするルールだけは追加しておく。
「それじゃあいくぞ。いいなオリビア」
「はい、構いませんよブレリアさん」
「バサラは?」
「……いつでも」
「よし!」
審判のブレリアが右手を挙げる。ピシュは息をのみ、マハーヌはおやつを頬張る。
「始め!」
開始早々、バサラは灯火で目眩ましをし、オリビアの背後に飛ぶ。
「あれが影移動!?」
ピシュの驚きはそれだけに留まらない。
オリビアの剣は9本になる。同じ物が9本に。
1本は剣士の手に、8本は宙に浮いて、順々にバサラを襲う。
「な、おい、ちょっとこれ、反則だぞ、こんな物!」
バサラは左手にもシャインブレイドを出して、二刀流で対応するが、8本の剣はオリビアの意のままに飛び回る。
「このこのこのこの!」
バサラは四方八方から襲い来る剣に、生み出しては投げ捨てを繰り返す。
オリビアの剣は素早く動き回るが、支える力が加わっていない為か、物質化剣が当たっただけで落下する。
オリビアが再度魔力を注げば、魔剣は飛び上がるが、お互いに決め手を欠いた攻防をこのまま続ければ、魔力要領の小さいオリビアが先に息切れをしてしまう。
オリビアは魔法が使えないわけではない。しかし重戦士のブレリアにも劣る魔法技術では、魔人のバサラに敵うはずがない。
だが魔剣レイバンスの能力は、これだけにあらず。
少量の魔力でも抜群の効果を発揮する魔法剣は、火水風土の4属性全ての力を秘めた精霊剣となる。
「一撃が重い! それに恐ろしいくらい早い! これじゃあ影移動が使えない」
A級冒険者が弱いわけがないとは思っていたが、本気のオリビアがこれほどとは、ギブンも彼女の実力を分かっていなかった。
バサラの方が弱いわけでなく、相性というのもあるだろうけど、オリビアが単に強いのだ。
「このままでは終わらないからな!」
「えっ?」
「どうしたギブン」
横並びになって観戦してたブレリアが、ギブンの反応の異変に気付く。
「バサラに闇魔法が流れ込んでいく」
「なに!?」
彼女に変化は見られない。いや、左手の指先が黒く変色している。おそらくは手袋の下も黒いのだろう。そこからシャドーブレイドが生み出された。
「光の剣と闇の剣だと!?」
マハーヌ以外の皆が驚く。
恐るべきは魔人族の幹部候補。ここに来て自分に課せられた、状況を利用した新技を生み出した。
四精霊剣と光闇剣の鍔迫り合いは拮抗する。
「もういいぜ、2人とも。バサラの実力は分かったし、今後の立ち位置も見えた。ありがとうよ」
ブレリアの掛け声を聞いて、バサラは光闇剣を消した。
「おい、ギブン」
「はっ、はい!」
「急いでオリビアの鎧を外して、そいつの胸を揉め!」
「ええ、えー!?」
「急げよ! 大変なことになるぞ。お前じゃあないとダメなんだ」
そう言われてオリビアの前に立ち、彼女の鎧を外した。
「うわっ! ちょ、ちょっとオリビアさん?」
突然オリビアは剣を振るってくる。
「すごいなお前、本気になったオリビアと互角なんてよ」
「ちょ、ちょっとぉ! ブレリアさん今はバサラよりもこっちの事!?」
「おお、そいつは今、暴走状態だ。死にたくなかったら早く胸を揉んでやれよ」
事態が分からないまま、今は言うことを聞くしかない。
「お願いだ。オリビアさん、止まってくれ」
「ダメだよそれじゃあ、触るだけじゃあない。しっかりと揉むんだ! ためらうな! いまさらだろ」
オリビアはなかなか捕えられないギブンに、浮遊剣も使い始める。
ギブンはブレリアを信じて、両手を開いて掴みかかった。
「へっ? ええ! きゃぁ~~~~~!?」
ギブンは失う寸でのところで、手を引き戻した。
「ギ、ギブンさん? ああ、えっとその、……申し訳ありませんでした」
「って、えっ、いやそれは俺の方こそごめんなさい。って、ちょっとブレリアさん?」
「わははははっ! いや、悪い悪い」
ブレリアは大喜びをし、ギブンは涙目のオリビアに手を合わせて謝罪した。
「オリビアはマジで強い相手と戦うと、我を忘れちまうんだよ。そのまま戦わせていたら、リミットを掛けている魔力も全部解放して暴れていたろうな。そこまでいくとオッパイだけじゃあ治まらなくなっちまう」
ブレリアとオリビアの付き合いは長い。
「あたしはそいつに、殺されそうになった事があるんだよ」
それでも自制が聞かず、騎士団に入る事もできず、仲間を作らない冒険者になったオリビアをブレリアは放っておけなかった。
「第1王子の寵愛を跳ねのけて、よく頑張ったもんだよ」
強さへの探求で生まれた悪癖だとブレリアは言うが、オリビアが故郷を離れ、何にも負けない強さを求めた理由がよく分かった。
「オリビアがお前に惹かれたのは、万が一の時に何とかしてくれる。って思いもあったんじゃあないか?」
狼狽えながらも胸を触り、揉み解すギブンの手により着崩れた胸元を、オリビアは背中を向けて直している。
「と言うか、前もって教えておいてくださいよ」
「そうしたらお前、そいつの乳を揉めたか?」
「そういう事じゃあないでしょ?」
苦情はもっともだが、理由を教えてやるわけにはいかない。
オリビアが体中で最も感じる性感帯が胸であり、その刺激が正気を取り戻す一番の近道であること。
ただし揉んだりしたらほぼ必ず、斬り捨てられてしまう。この中で一番反射神経のいいギブンに任せるのが一番だとブレリアが思った事も。
「そいつの事はお前に任せたからな、ギブン」
ブレリアは「これであたしはようやく、ただのダチでいられるぜ」と締めくくった。
「久し振り……でもないか。よく来たなオリビア・フォード・グラアナ。ではなかったな。オリビア・シュレンコフ」
「はい、ジオート・アウグス・グレバランス様。こちらがギブン・ネフラにございます」
突然の王宮、突然の第4王子との謁見である。
町に到着早々門番に止められ、問答無用で城に連れてこられてしまった。
謁見前にお風呂へ入れと言われ、ギブンは前世を含めても最も高級なスーツに手を通した。
着替えて連れてこられたのは、大広間のような応接室。贅の限りが尽くされていて、1冒険者が通されるような場所ではない。
順々に入ってくる女性陣。
艶やかなドレス姿にギブンは目を丸くし、穴が開くくらいにみんなを眺めた。
「もう! お風呂で変身解いて、泳ぐのやめてよね」
「そう言うピシュも泳ぎたそうにしてたけどな」
「ブ、ブレリアも泳ぎたかったんじゃあないの?」
「そうだそうだ。あれだけ広くて、あれくらい深かったら、泳がないと勿体ないんだよ」
「お前らと一緒にするな」
「と言う事で、お待たせしましたギブンさん」
「あはははは、平気ですよオリビアさん」
なんてやりとりをしていたが、待っていたのはこの人も同じ。
部屋に入ってきた第4王子に、オリビアが貴族令嬢らしい挨拶をしてくれる。
王子の許可があって着席すると、ジオートはオリビアの右手側に座るギブンへ目を向ける。
「ラフォーゼ兄さんから聞いている。魔族と戦ったんだってな」
焦るバサラだったが王子他、城の者は誰も彼女を見ていない。
「はい、いくらかのゲートに出会して、いくらかの魔人に遭遇しました」
「エバーランスで新人として、登録したばかりの冒険者がか?」
それは伝説級の武器のおかげだと言ったが、風呂に入っている間に調べられ、鑑定士は確かに業物ではあるが、これだけで魔人を倒した説明はできないと結論付けられた。
「そう言えば、召還獣も従えさせているんだってな」
またバサラがビクッ! となるが、全員がギブンに注目している。
この後もしばらくの間はギブンへの質問ばかりで、オリビア以外の女性達は、絶品スイーツを雑談しながら堪能した。




