STAGE☆50 「ぼっち男と彼女たちの想い」
「本当にいいのかな?」
「別に良いんじゃあない? 少なくとも私は妥協する事に決めたけど?」
「妥協、……だよね」
「あのね。もう一度ハッキリ私の気持ちを伝えるよ。私はあなたが心の底から好きなの。12歳で脳内結婚を済ませている私が言ってるのよ」
それはなかなか恥ずかしいカミングアウトである。
「あなたと一緒にいる為なら重婚も認めるし、こんな形の初体験も受け入れる。こんな話せる女、元の世界じゃあいなかったでしょ?」
ピシュと一緒にいるのは楽しい。だから許される限り一緒にいたい。
でも重婚云々はまだ忘れていた。
「本当にいいのかな?」その2
「だから! あたし等から、それでもいいと頼んでるんだろう? 提案者のあたしが言うのも何だが、お前のスキルはおかしすぎる。マジで神様は不公平だって思うぜ」
「あはは、それは俺もそう思うよ」
ネフラージュ様の名前を出したら、さぞ驚く事だろう。いや、納得されるだけか。
「でもまぁ、こうでもしないと先に進めねぇ。って言うなら、お前のスキル運に感謝するぜ。これも神様のお告げなんだろうさ」
「うん、それもそうなんだけどね」
「だから受け入れてくれ! その先はまた別の話だ。なっ! 今夜は特別だ」
ブレリアがこのパーティーにいてくれたのは、本当に幸運だったのかもしれない。
そうだ今夜は特別なのだ。
「本当にいいのかな?」その3
「正直に言うと私は、あなたに謝らないといけない事があります」
ラフォーゼ王子の好意から逃げるのに、新人で有望なギブンに目を付けて、男なんて美貌で簡単に虜にできる。という傲りもあったらしい。
「でも私に靡かないあなたが逆に、日に日に異性として気になるようになって……」
頭まで下げる必要ないのに、誠意を必死に伝えようとしてくれる。
「そうだったんですね。俺は先輩冒険者として、色々指導してもらえて、本当に尊敬できる人だと思ってました」
「そう仕向けたのは打算的な私でしたね。本当に失敗でした。ラフォーゼ様にずっとよくして頂いていたのに、納得できなかった何かをあなたに感じたのです。ですからこういった形でも、あなたに受け入れてもらえるなら本望です」
人から崇められて、憧れの存在とされるオリビアに、こんな風に言わせて……。
ラフォーゼ王子に言われたからではないが、大切にしないといけないと感じる。
「本当にいいのかな?」その4
「人魚は人間よりも子供を授かりづらい種族なんだよ。なのに人間の半分の寿命しかないんだよ。だから子作りは重要だし、相手選びは最も大事なんだよ」
確かにそんな話をずっとしていた。これまでは軽いノリだったから、もっと気軽に聞いていた気もする。
「そんなに大変な事なのに、わざわざ俺を探してくれたのか?」
「強さは大事なんだよ。それにギブンは最初に感じた時のままで、私の思った通りの人だったのが嬉しかったんだよ。強さは大事だけど、それ以上に自分の気持ちは大切なんだよ」
誰でもいいけど、誰でも言い訳じゃあない。大切な事をマハーヌは教えてくれた。
こうして一夜が過ぎていった。
「お早う、じゃあないね。遅ようギブン」
「おはようって事にしておいてよピシュ。俺は明け方にやっと寝られたんだから」
今朝は彼女の距離感が近い。
肩が寄り添うほどに近付かれても、ギブンに抵抗はない。
ただし胸のドキドキは前以上に感じるようになり、それが心地好くもなっている。
「みんなは?」
「オリビアとマハーヌはまだ寝てるよ。ブレリアはバサラと一緒に、昨日のダンジョンへ行ってる。ここの冒険者と一緒に確認クエストだって」
「ブレリアさんは本当に面倒見がいいね」
「あなたを信頼してるのよ。今ならバサラと仲良くなれるって。ピシュ天ちゃんに夜の見張りをお願いしてるでしょ、ギブン。それも直ぐに必要なくなるんじゃあない?」
ピシュ天ちゃんね。駄天使で十分なのにと思うギブンだが、確かにいいネーミングだとは思う。
「ギブン、出発は明日?」
「そのつもりだけど、なにかあるのか?」
「ただの確認よ。けど今日は何もないわよね。だったらお料理再チャレンジよ」
今残っている肉はクレイジーボアのみ。野菜はまだ余裕があるのだが。
「卵もまだあったっけ、カツ丼なんてどうかな?」
「が、頑張ります」
その夜の晩餐は、お手本を食べて満足げな4人と、微妙な顔で食するギブンとピシュとなった。
明くる朝の鋭気を養い、ぐっすりと休んだパーティは、フェルナンデス目指して歩き出す。
「気が付けば大所帯って感じだね」
ピシュはギブンの隣をちゃっかりキープし、振り返って呟いた。
「女ばっかりな。あたしとオリビアがこいつに目を付けた時は、何に対してもオドオドして、他の影なんてちらつきもしてなかったのにな」
一行は大河に出た。
マハーヌには水着で食材確保に潜ってもらい、魚や甲殻類などを少し多めにとってもらった。
「へぇ、人魚の鱗って、キラキラして綺麗ですね」
「ああ、プックリしていて旨そうだな」
「本当に」
「こらぁ、ブレリアもオリビアも! 私は食材じゃあないんだよ」
領都までの道程は順調そのもの、和気藹々と歩を進める。
「なんなんだ、お前らは……」
「バサラ、どうかしたのか?」
「魔王様再臨の報を受けておいて、なにを呑気にピクニック気分でノンビリしている? 早く権力者に真実を報せようと思わんのか?」
今のバサラはギブンに逆らう事はできないが、毒舌を吐いて自我を保つことは許されている。
「魔王討伐のための勇者は他にいるんだろ? 俺達が慌てる事じゃあないさ。俺達じゃあどんなに足掻いたって、魔王軍には敵わないんだから」
「ふん、当たり前だ。直に私の元へも魔族が現れて、キサマを殺して私を解放してくれるだろう」
「今のあんたは人間その物だけど、大丈夫なの? 魔族に会ったら一緒に殺されるわよ?」
ピシュの指摘は当を得ている。
「そうでしょうね。でもそうすれば、あなたが望む第二の願いが叶うじゃあないですか」
ギブンが死んで魔族軍に返り咲くが第一だが、バサラはオリビアの言うように、魔王軍の邪魔になるようなら死んだほうがいいと言っている。
だがそれが人間としてだなんて、死んでも死にきれない。
「第二の人生だと思って、殺しに来る奴とは戦っちまえばいいんだよ。人間も魔人も関係ない、自衛だ自衛」
ブレリアの言葉に、バサラは膝を折って四つん這いになる。
「そうか、私は魔王軍とも戦うしかないのか」
「俺はキミを仲間と呼んでくれるなら、全力でキミを守ると誓うよ」
「ギブン、あなたのその天然カッコウ付けが、5人の女の子を繋ぎ止めているのよ」
「待て待て待て待て!? ピシュとやら、私はまだこの男に靡いてなど……」
「ふふっ、「まだ」、なんでしょ?」
マハーヌの相手をした後、朝までギブンといたのは誰か? 早めに目を覚ましたピシュは、それを知っている。
「彼の傍らの居心地の良さなら、直ぐにも気付けるわよ」
昨日よりもバサラの表情が緩くなっている。ギブンとマハーヌ以外はそれに気付いている。
人間に獣人、異世界人に人魚、そして魔族。
「そう言えば! おい、バサラとかっての?」
「なによ、獣人」
「いや、悪い。ケンカを売りたいんじゃあないんだ。ただ1つ確認したいんだがお前、魔力を封じられても戦えるのか?」
人間が太刀打ちできない魔力があるから、魔人は恐れられている。
実際、ギブンとピシュを除けば。人間族にも、獣人族にも、人魚族にも魔力で低級魔族が負けることはない。
新勇者の実力の程は分からないが。
「その心配ならいらないよ。私の魔力は、人間になっちゃった前と変わりないから」
「魔力が戻ったってのか? ならなんで魔人に戻らないのさ」
「ブレリアさん。それは俺が闇魔法を光魔法に入れ替えて、バサラに戻したからだよ」
それでも闇ではなく光の魔力で、物質化剣も作り出せる。
それに影移動はそもそもが闇属性ではないから、光と影があれば使える特殊能力だ。
“シャドーバインド”は闇魔法に拘らなければ、どの属性でも使える技。
今のバサラは“シャインバインド”が使える。
「なるほどな。それじゃあ後は、その実力を見せてもらうだけか」
「ちょっと待った。ブレリアさん、キミはもしかして!?」
「ああ、確かめさせてもらうぜ。マハーヌの実力はダンジョンで見せてもらったが、バサラの力も知っておく必要があるからな」
ここぞとばかりにブレリアは上級冒険者らしい、リーダーシップを見せる。
「さぁバサラ、誰が相手でもいいぜ」
「そう? 誰でもっていうならオリビア・シェレンコフ、このパーティー唯一の剣士の実力が知りたい」
「……いいですわよ。ただし、剣しか能のない私はハンデとして、フル装備で戦わせてもらいますよ」
「ああ、全力で向かってきてくれ。でないと私の実力も示せないだろうからな」
ギブンはイヤな予感しかしないが、反対はしない。
彼女たちが納得できるように、ただ見守るだけだ。




