表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
5/120

STAGE☆05 「ぼっちのギルド試験」



 冒険者ギルドは3階建て。


 入り口を潜ると直ぐは、冒険者のたまり場となっている。


「なんだ、なんだ! こんな所にメイドさんがなんのようだ?」

「俺たち今日はもう上がりだから、遊びに行こうぜ」

「こんな時間に油売って、首にでもなったのか?」


 ガラの悪さにギブンは内心萎縮しているが、流浪の騎士はこんな事に怯んだりしない。


 ゴロツキのような冒険者に睨みを利かせた。……つもりだったが。


「おお、そっちの美人の兄ちゃん。俺たちと一緒に飲もうぜ」


「こっちこいよ。奢ってやるぜ」


 メイドさんよりも人気が高い事は、誰の目にも明らか。


「流石ですね。ギブン様。残念ですが先にカウンターへ参りましょう」


 いやいやなにも残念などではない。


 それにそんなことよりも、エレラの機嫌が若干悪くなった気がした方が気になる。


「いらっしゃい。あら珍しいわねエレラ。エンザとは仲良くやってる?」


 なにを言ってくれているのだ、この黒髪の受付嬢は!?


 ギブンの堪忍袋の緒は切れる寸前。


「あはは、彼とはもう終わっちゃった」


「えっ、なに、なにがあったの?」


 顔見知りの軽口を明るく返す彼女を見ていると、自然と涙が溢れそうになるが、辛うじて堪える。


「ごめんなさい。私、そんなつもりじゃあなくて」


「分かってるわシーナ。街の噂には耳聡くても、貴族様の事はすぐには伝わってこないでしょ」


 大丈夫よと言われても、シーナはエレラの顔を真っ直ぐに見られない。


 彼女は一言断って、他の受付嬢と代わってもらった。


「悪気はないのです。シーナも私もエンザとは幼い頃からの付き合いなんです」


 だからこその日常的なやり取りか。ギブンは反省をする。心の中でシーナに謝罪した。


「……そう、それは大変だったわね。騎士様もありがとうございます。お嬢様やエレラ達を助けてくださって」


 代わって受付に立った赤髪の少女、フィーヴィーにエレラは事情を説明する。


「ギブンさんは騎士様ではないのですか。レベルは10ですか……。失礼ですが冒険者になるのはもっと東にある街で」


「平気よフィー。ギブン様は数字では語れない実力者なのよ」


「詳しく聞かせてもらうわ。お二人とも奥の部屋へ」


 フィーヴィーは受付を臨時に、依頼報告のカウンター嬢に任せ、奥の個室に2人を通した。


「ふん、ふん」


 10分の間フィーヴィーは相槌を打ちながら、ずっとギブンを眺めていた。


「あなた、私の話をちゃんと聞いてたんでしょうね」


「なっ、ちゃんと聞いてたに決まってるでしょ。えーっと、エレラの話は間違いないんですよね」


「ああ、間違いない」


「そうですか。それでは手続きの前に、このエバーランス周辺について、説明させてもらいます」


 フィーヴィーがレベル10と聞いて、難色を示したのには理由がある。


「この辺りは100年前まで、魔王の居城があった場所なんです」


 つまり出没する魔物は並みの強さではなく、ランクの低い者ではとても依頼を熟せるもんじゃあない。


「冒険者になるには、登録試験となる依頼を受けてもらいます」


 適性を見極め、今後も依頼を任せられるかの試験。


 この町で受けられる登録試験はS、AからFまであるランクのD相当。


 その試験に合格しても、なれるのは最下級のFランク冒険者だという。


 それ故にここで試験を受ける者は皆無に等しい。


「ゼロではないのか?」


 上級冒険者が連れている若者が数年に一度、パーティーで依頼を受けて試験に挑むことがある。なるほどなるほど。


「それでギブンさんにも、どなたかが同伴なさるので?」


「いや、俺は、一人、で……」


「そんな事は前例がありません。基本冒険者が依頼を受けるのは自己責任です。ですが失敗確実となれば、依頼受諾を拒む権利がギルド側にはあります」


 もしかしてここで手詰まり? まだ冒険は始まっていないのに。


「ギブン様は南の森を五日もさまよい、ようやくこの町にやって来たのよ。ずっと南の国から」


「えっ、あの森で五日も!?」


「なにか?」


「い、いえ、今ある依頼で試験に使えそうなものは、あの森でのクエストばかりなんです」


 つまりギブンはあの森に入り、依頼を達成できる可能性があると言う事だ。


「因みにどのような……」


 手元に置いてある資料から、フィーヴィーは3枚の用紙を提示する。


「1つは森のほぼ中央にある湖に生息する、アベハタという魚を50匹釣り上げる事」


 森の地図は完全には埋まってはいないが、森の中央の湖なら地図に記入済み。


 あそこで釣りをした覚えもある。


「1つは森を抜けた岸壁辺りに生える貴重な薬草、クラウセン20束」


 それはもしかして完全に道を間違えて出てしまった山岳地。


 眺望を楽しんで振り返った足下にあった、あれの事か?


「1つはクレイジーボアという魔物です。通常のイノシシの5倍以上の大きさで、非常に凶暴な獣です。その肉と魔石が必要という事です。数は大型の物であれば一匹で十分ですね」


 食物図鑑のスキルがなかったら、どれがどんな物かを知る事はできなかった。


 その魔物なら何度も遭遇している。


「それって本当にDランクの依頼?」


「クレイジーボアはランクCの魔物ね。他の物も場所がゲネフの森でなければ、低ランクなんだけどね」


 あの場所でとれる素材は、遭遇する魔物次第で難易度は跳ね上がるのだ。


「依頼品は、ここで出して、よいのか?」


「はい? えっと、素材の受け渡しは、受付カウンター左手の、依頼報告のカウンターですが?」


「なら、カウンターへ」


 首を傾げるフィーヴィーとエレラ。ギブンの試験の話は保留して、カウンターへ移動する。


「この上で、よいだろうか?」


 ギブンはカウンターテーブルの上にある、素材置きのトレーに、異次元収納の中の獲物を引き出した。


「ええーっ!? アベハタ72匹、クラウセン58束……」


 最後にクレイジーボア7頭は、足下に出して置いた。


「生け捕りでないとダメか?」


「いえいえいえいえ、これで十分です。と言うか十分すぎます」


「解体は?」


「こちらで行います。完璧です。完璧すぎますよ。ええーっ!?」


 驚きを隠せないのはフィーヴィーだけではない。


 ギブンの魅了を受けて、彼が気になっていた冒険者もまた、冒険者登録に訪れた新人の成果に歓喜の声を上げた。


「ど、どう? ギブン様はスゴイ方でしょ」


 と言うエレラもまた、目を丸くして冷や汗を流している。


「合格か?」


「えっ? そう、そうですね。依頼は達成されましたが、今までこの様な形の合格者はいませんので、この事をギルドマスターに報告して、合否を決定してもらいます」


 これでうまくいったと、安堵した分だけ、ギブンのショックは大きかった。


 よろめいて、その場で尻もちをつくと、その様子を見たその場にいる全員が寄ってきて、ギブンを支えようと手を差し伸べた。


 いきなり大勢に囲まれてギブンは硬直する。


「ああ、ああ、あああああ……」


「ギブン様、お手を」


 目の前の手を選び、ギブンは立ち上がる。


「あ、ありがとう。エレラ」


「はい」


 正気を取り戻したギブンは2階へと案内された。


「私がギルド長のアウヴヒム・へルヴィーだ」


 禿頭の厳つい親父を前に、相手はたった一人なのに、ギブンは立ったままで気を失いそうになる。


「お前さんか、トンでもないルーキーってのは?」


「ギブンだ。ギブン・ネフラ」


「おお、よろしくなギブン。でなんだが、お前さんの冒険者登録だが……」


 なぜここで間をおくのか?


「合格だ!」


 だからなぜそこで間をおくのか?


「そうか、助かる」


「いや、助かるのは我々の方だ。お前さんのポテンシャルは計り知れないと、メイドが持ってきた書状にも書いてあったしな」


 そんなものを預かっていたのか。


「と言うことで、お前さんは試験抜きで合格だったんだが」


 つまりあの様な長々とした手続きを、受ける必要はなかったということか。


 何はともあれ、これでギブンもエバーランス冒険者の仲間入りだ。


 この後、ゲネフの森で採集した獲物を全て換金しようとしたら、「ギルドの金庫がパンクします」と、フィーヴィーに一部を除いて突っ返されてしまった。


 その話を聞いた領主様が、しっかりと査定して買い取ってくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ