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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆49 「ぼっち男の奇策」



 バサラの隠し球は、かなり厄介だった。


 魔人は灯火ライティングで周囲を明るくしたかと思えば、突然ギブンの目の前から姿を消した。


 ギブンに直感が走る。深夜アニメで見た事のある展開だ。


『なぜだ!?』


 完全に背中をとらえ、真っ二つになる男を見下ろすはずだった。


「ふぅ……、かなりギリギリだったな」


 想像していた通りになったはずなのに、いま避けられたのはほぼ偶然だった。


 もっと離れたところに出たなら索敵で探れるが、こんな近距離でのジャンプには対応しきれない。


 しかし今のが思った通りの能力なら……。


灯火ライティングマルチプリズム!」


 彼女の瞬間移動の正体が、影から影へ渡る能力と想定した。


 だとしたら無数の光源で影を消してやればいい。


『私のとっておきだったのだぞ! まさか影移動に気付いたなんて! ……まさかシャドーバインドにも気づいたと言うのか?』


「うん? ああ、そう言えば俺が出した灯火ライティングを、覆い潰そうとする闇魔法の力を感じるけど、シャドーバインドだっけ? そんな隠し球まであったとは」


 領域魔法は設定した範囲の全てに効果を示す。使っているのはただの灯火ライティングだが、闇魔法が主たる魔族には、動きを制限する事にもなる。


『嫌みのつもりか! くそ、お前本当にただの人間か? いや、違うな。魔力量で魔族の私を上回るなんて、おかしいと思っていたんだ』


 しかもその光魔法の使い手がギブンとなれば。


『魔力が体から抜けていく……』


「えっ? ええぇ~~~~~!?」


 バサラの肌が、髪が、眼球が……?


 黒い肌は色が抜けてピシュ並みに薄くなり、灰色の髪も緑色に、目は黄色く輝きを帯びる。


「へへぇ~、どこからどう見ても人間だな」


 魔族の軍服なのだろう黒い衣服に、白い肌が映える。


「くっ、こ、殺しなさい。生き恥を晒すくらいならいっそ」


 言葉までが人間族のモノに変わっている。


「本当に人間になった? いったいどういう事だ?」


「いいから、殺しなさい! 私は栄光ある魔王軍として、この呪われた体質を打ち消すために、魔王様侵攻のお役に立てないといかんのだ。それなのに足を引っ張るくらいなら、この場で死んだほうがいい」


 聞きたい事が更に増えたバサラを、ここで斬り捨てるのは勿体ない。


 最低でも情報は手に入れて、可能ならオーラの物質化や影移動の能力を研究したい。


「キミは魔族で魔人だよね」


「何を今さら!?」


「だったら!」


 それはただの思いつき。上手くいけば 目っけ物くらいのチャレンジ。


「な、な、な、な、なぁ~~~~~!?!?」


 バサラの左手の甲に紋章が刻まれる。


「くそ、くそ、くそぉ!」


 バサラは真っ赤になるほど左手を擦るが、そんなことで消えるはずがない。


「すごいすごい。本当に契約できちまった」


 これは人間や獣人や人魚でも叶わないこと。(ついつい気になって、みんなに協力してもらったことがあるギブン)


 ダメで元々、魔獣が仲間になってくれるなら魔人だってと、何の根拠もなくやってみた。


「キミは俺の従魔、いや従者だ」


 バサラにとって最もあり得てはならない結果となってしまった。






 ここは村の宿。村長にダンジョン攻略の報告をし、無数のトロールから取れた魔石を納めてきた後。


「ギブンがまた女の子に絡まれてる」


「ちょっとそこの女! 誰が絡んでるだ!? 私の方が被害者なんだぞ」


「……あなたがどこの誰かは知らないけど、分かりやすい嘘はやめときなさいよ。それから私の名前はピシュだから」


 ピシュの機嫌がみるみる損なわれていく。


「えーっと、彼女の名前はバサラ・ティラムーン」


「ちょっと待って、なんで私の名前をお前が知っている? フルネームを名告った覚えはないぞ」


「従魔契約を交わした魔族だ」


「はぁ!?」


 バサラ以外の女性4人が食いついた。


「それと彼女が言うように、俺が彼女を捕まえて連れてきた。話を聞くためにな」


「だからなぜ私の名前を?」


「しかしギブンさん。魔族は墨のように黒い肌、剣のような銀色の髪、血のように赤い目であるはず」


「ああ、それはですね……」


「おいキサマ、私を無視してからに! はっ!? これはイジメ、イジメと言う奴か?」


「ああもう、分かった分かった。けどその前に約束だ。なにを聞いても怒るなよ」


「……分かった。このままだと気持ち悪くてしょうがない。本当の事を教えてくれ」


 他の4人には察しが付いているが、ギブンは分かりやすく口に出して答えた。


「私の思考を読めるだとぉ! しかも頭に思い浮かべてない事まで分かるなんて……」


「約束するよ。必要以上に覗いたりしないって、だからキミは俺達の質問に正直に答えて欲しい」


「ぐぬぬ、読心は私の専売特許のはずなのに」


「それと、キミのその能力は制限させてもらう。無闇にみんなの心を読まれないようにね」


 ギブンの所行は魔族以上に鬼畜だが、主導権はこの男にある。


 契約の紋章がある以上、逆らう事はできない。もちろん自害をしようとしてもそれも叶わない。


「本当に魔族なんだな」


「ブレリア、油断したらダメよ。なんせギブン絡みの女の子なんだから」


「ああ、そうだな。ピシュ! それとマハーヌ、ちゃんと約束守れよ」


「わ、分かってるんだよ。後の事はブレリアに任せるんだよ」


 なにかよからぬ事を考えていそうだけれど、もうじき日も暮れるし、ギブンは晩ご飯を用意し、バサラの話はピシュ達に聞いてもらう事にした。


「ああ、もう! 私は魔王軍四天王ラージ様の配下、バサラ・ティラムーンだ。人間界侵攻先遣隊としてゲートを完成させるのが使命だった」


 人間界に来たのは、前魔王城に発生したゲートを使った、オーガと共に通り抜けてきたそうだ。


 そう、オーガを他の冒険者を出し抜いて、ギブンが全滅した、あの事件の時だ。


 それから人間界に残って、時間を掛けてゲートを改良し、発生後の実験は部下に任せて、バサラはずっとデータ収集に勤めてきた。


 そうしてようやく使い物になるゲートが完成して、自らが現場で確認を行っていたところ、ギブンがやって来て、まさかの方法でバサラを捕獲してしまったのだ。


 因みにゲートの主導権もギブンに奪われてしまった。


「それで? あなたはなぜ、そんなに人間そっくりな姿をしているのですか?」


 オリビアは1つ1つ、疑問を解決していく方針だ。


「……言いたくない」


 オリビアの考えは始めの一歩で挫かれた。


「ああ、うん。そこは繊細なところだから、スルーしてやってくれ。マハーヌみたいに変身能力があると思ってやってほしい。ただその変身も俺が制限してるから、ただの人間だと思ってくれて構わない」


 ギブンには既に見られているようだ。必要以上には覗かないと言っているが、いったいどこまで知られてしまっているのか?


 バサラはギブンに更なる殺意を抱いた。


 だからと言って、他の人に教える気はない。


 バサラは魔族の父と人間の母から生まれた混血。生まれは人間界の小さな村だ。


 両親以外は誰も(本人も)魔族の血が流れているなんて知らずに育った。


 成長と共に魔力が大きくなり、肌の色や髪の色が変わるまでは、集落の子供として可愛がられた。


 バサラの体の変化で、一家秘密を知った村人は両親を殺し、少女に手を掛けようとしたが、彼女は突発的に影移動を使って逃げ出した。


 彼女が魔力制御を覚えて、人間のフリができるようになるのはまだまだ先のこと。


 両親を亡くしたバサラが生き残れたのは、前魔王が人間界に侵攻してきてくれたからだ。


 まだ子供のバサラは魔界で保護された。


「私が魔族を裏切って、人間の側に付く事はない。絶対あり得ないというのに」


 ギブンはバサラの全てを奪ってしまった。だがまだ諦めてはいない。男が死にさえすれば、また魔王軍に復帰できるはずだ。


「できたよ。後は食べながらにしよう」


 バサラの生い立ちを知るのはギブンだけ。いや、知ったとしても対応は変わらないだろうけど。


「一緒に食べるの?」


 ピシュ達の警戒は厳しく。問題はないと言うギブンは信じられても、今は不安しかないのだから。


「でもせっかく温かい料理を用意したんだから、1人で食べろってのは可哀相だろ?」


 その考えを理解できるのはピシュだけ。


 だったのだけれど、他の3人も深い溜め息は吐いたが、ギブンが決定した事に口を挟む気はない。


「それはそうとだ。ギブン、ちょっといいか?」


「な、なにかな?」


「夜の話だ。お前もいい加減問題を片付けたいだろう。そこでちょっと提案がある。お前の新しいスキルの制度にもよるがな」


 ブレリアはどうやら、女神ネフラージュ様の案に気付いているようだ。

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