STAGE☆47 「ぼっち男の新スキル」
「2人もフリーランスに?」
「ラフォーゼ様の手回しが早くて、ウエルシュトークで三つほど依頼をこなした後に、そういう立場になったと言われました」
この流れの結論は……。
ギブンは朝食後、村長宅兼冒険者ギルド、ギルドマスターの村長に出発の挨拶をした。
「こんな小さな村には大した冒険者がいなくてね」
挨拶の後、大河都市フェルナンデスへ向かう予定だったのだが、1つの依頼書がテーブルに置かれた。
「高ランクダンジョンの疑いがあって、これはウチのギルド指定ではないのだが、この周辺にはウチのような小さな村しかなくてね」
こういった条件では、領都から上位冒険者や兵士が出動するそうだが、早馬で派遣要請書が城に届くのは、早くて明朝。
それから会議が開かれて準備が整い、到着は早くて4日後といったところだ。従来ならば。
「ダンジョンが見つかったのは、クレイジーボアが出没したあの森なんだが、見つけたのはウチの猟師だよ。あっ、今回の依頼書もワシが書いたんだがね」
村長は元冒険者で、朝からダンジョンの確認を済ませてきたそうだ。
「領都へ向かう前にお願いできないかな?」
元冒険者ということであれば、ダンジョンの特定は可能だろう。
けどそこが高ランクのモノだという断定は、どうやったのだろう?
「ああ、ワシは鑑定スキル持ちだからな。ステータス鑑定の依頼も受けておるんよ」
女神様から授からなくても、スキルを手に入れる人は少なくはない。
そのほとんどはダンジョンで授かれるのだが、ギブンはまだ冒険でのゲットは経験していない。
「ではまだ魔物が地上に溢れ出ては、いないのですか?」
「ああ、朝見に行った時はな。今はどうなっているか分からんが」
これは急いだ方が良さそうだ。
ギブンは皆の意見を聞くことなくクエストを請けた。だから「乗り気でなければ、残ってもらってもいいから」と言ったら、全員から怒られた。
村の冒険者が先に行っていると言われたが、ギルドマスターから教えられた、森の中にできた陥没穴。辺りには誰もいない。
5メートルほどの深い穴ができていて、降りてみると横向きの洞窟へと繋がっていた。
「入ってすぐに左に折れている。入ってみないと分からないか」
このパーティーで灯火が使えないのはオリビアだけ、彼女はブレリアとペアを組んでもらい、ついでにピシュとマハーヌをペアとした。
「ハクウとピントの位置は、どこにいても分かるから、俺が殿につくよ」
魔物の反応もあるが、ギブンがあった事のない相手らしく判別はできない。
だが実力と実績のA&Bランク。
バランスの良い前衛と後衛の人魚と転生者。
「……」
「どうかしましたか? ブレリアさん」
「オリビア、ピシュと組めよ。あたしはそこの人魚と行く事にするぜ」
経験を重ねた冒険者の勘なのだろうか、オリビアが直ぐに同意する。
「分かった。ピシュもマハーヌもそれでいいかな?」
「私は別にいいけど?」
「私もブレリアの方がいいんだよ」
方がという言い方に引っ掛かるピシュだが、仕事前に揉め事もどうかと思って引き下がる。
「それじゃあ先ずは私たちから参りますわね。行きますよピシュさん」
「う、うん」
先鋒は入って直ぐの三叉路で、右通路を選んだ。
女性陣を見送ったギブン。
三叉路となっていた、入り口の最後に残った真ん中に入ったところ、急に辺りが明るくなった。
『パンパカパ~ン!』
聞き覚えのある声、馴染みやすい人当たり。
「お久しぶりです、ネフラージュ様」
『あらあら、私だと分かりましたか? 相変わらず達観されてますね』
神様なのにこのノリの軽さは、一柱だけであって欲しいと思うギブンである。
「それでなんなのでしょう、俺へのダメ出しかなんかですか?」
「ダメ出しぃ~、と言えばダメ出しですね』
日頃出てくる天使のピシュが言っているような事かと聞けば、『あの子の言葉は悪友の悪ふざけだと、切ってくださって良いんですよ』と言われる。
『でもあの子も、たまには良い仕事しているな。と思う事もあるのですよ。どうして彼女たちの好意に応えてあげられないのですか?』
「やっぱり俺がおかしいんでしょうか? 地球ではまだ早いとされる年齢で、急にそう言った事を考えろと言われても、心も体もついていけないというか……」
『なるほどなるほど、そこであなたに新たなスキルを渡そうかと思って、ここに呼んだんですよ』
ネフラージュ様はそう言って、ギブンに魔獣同調のスキルを与えてくれた。
魔獣同調は呼んで字の如く、ギブンの意識を従魔に移せる、視界や感覚の100%共有ができるスキルである。
『意識が従魔にあっても、自分の体をゲーム感覚で、遠隔操作もできますので、もしもの時は夜に使ってみてください』
「それって、不誠実ではありませんか?」
『あはは、本当にマジメな方ですね。そんな貴方だと分かった上で、あの子達は側にいるのだという事だけは忘れないでください』
瞬きの間に元の場所に戻されて、ギブンは新しいスキルを試してみる。
「おお、よく見えるな! 2組とも相手にしてるのは……、分からないや」
大きな体に分厚い胸板。口鼻と耳が大きいが生気を感じない顔。
「もしかして、トロールってやつかな?」
強度と耐久力が高く、スタミナとパワーがバカみたいにデカい魔物、回復力が高いため一撃必殺が求められる巨人。
「はやく戦いたいな、どれくらい強いのかな?」
索敵ではギブンが選んだ道にはあまり魔物が折らず、しかし一番深い場所にはかなり大きな魔力反応がある。
「ここは1つ、魔獣同調の感覚共有を使って、ハクウとピントと一緒に戦ってみよう」
ギブンは器用にも、感覚を二つに分けて気合いを込める。
ハクウはウイングタイガーに戻り、ピントも成犬化し、大型犬サイズにまで大きくなる。
驚く少女達の声が何事かと聞いてくるので、ギブンはそれに答える。
「魔獣同調に成功したよ」
『な、なんだよそれ? って、ギブンの声じゃあないか』
『えっ、なんでなんで、ブレリアの声まで聞こえるの?』
「ああ、悪いけどピシュ、説明は依頼の後な。とにかく今の俺はハクウであり、ピントなんだ」
説明と言っても、いきなりクエストの最中に女神様に呼び出されて、新しいスキルをもらったなんて言えないから、このダンジョンで手に入れた事にしよう。
「さっき身に付けたばかりのスキルだけど、上手く制御できた。みんなを手伝うよ」
普通、宝物やスキルが手に入るのは、ダンジョン攻略後なのだが、クエスト中に手に入る事もあると、いつかどこかで教わった。
ハクウとピントの意識は感じるけど、2匹は大人しくギブンの思う通りに動いてくれる。
「ああ、流石に強いなトロール。はやく直接対決したいな」
なんて言っていると、ギブンの前に2匹の敵勢巨人が現れる。
従魔と繋がったままで、どこまで戦えるモノかを試してみたくなった。
「おお、流石に意識を3つに分けと混乱するな。けどやれない訳じゃあない。俺自身の体も従魔として、ハクウ達と同じように命令すれば、戦闘力を落とすことなく動かせる」
光魔法を通したソード・オブ・ゴッデスは、トロールを一閃で肉塊に変えてしまう。
「ゲーム感覚で体を動かすってのは、こういう事か」
リアルな感触はあるが、VRを遊んでいる気分になっているから、実体験と呼ぶにはちょっと曖昧すぎる気がする。
「これなら夜の関係も、覚悟を決めなくても結べるかも……、か」
それは本当に不誠実だ。
ギブンは分割した意識を自身に戻した。
ハクウとピントは小さくなり、4人との会話もできなくなった。
心配を掛けてはいけないので、ハクウとピントに思念を飛ばし、ブレリアとピシュに安心するように伝えた。
「さてと、この奥にある大きな反応。様子がおかしいんだよな」
A級レベルの魔力の大きさ、しかしその個体は人間サイズ。
しかし出会したことのある魔族とは異質の力。
「これは1人で視認するしかないな。他のみんなが来るのを待ってられそうもないし」
ギブンルート以外は、まだまだトロールだらけ。
1人で突き進むのには慣れているし抵抗もない。
「見極めに行きますか」
ギブンは後先考えずに、先走った。




