STAGE☆42 「2人ぼっちの新道中」
「俺はもうオリビアを幸せにしてやれん。だがオーゼよりはよっぽど、アニキらしくはあったんだぜ」
ラフォーゼはオーゼほどに近しい数人の前でしか、見せなくなった素の部分をギブンに晒した。
オリビアの手紙を読んで、彼女が本気でギブンのモノに成りたがっていると察して、つい厳しく査定するような真似をしてしまった事を謝罪する。
「だが、俺の目を誤魔化そうとしたのは許せないな」
ラフォーゼ王子が気を許せる仲間内に1人、ギブンのようなテイマーがいる。
「あんな簡単にウルボア貝を潰してしまうとはな。そうそうわざと残した15匹は、後で片付けに行ってもらうからな」
まさかの後始末。ギブンは第一王子を嫌いになりそうだった。
結果から言えばラフォーゼ王子は、ギブンの支援者にはなってもらえなかった。とピシュに説明した。
理由はギブンの力量が計れなかったからと、今後も本当の事を話しそうにないから。
言い返す事もできないまま、またギブンも考え方を改める気はないと返事をした。
「けど第二王子様の言われもない嫌疑は、晴らしてくれるんでしょ?」
「ゼオール殿下もわざとらしいよね。逮捕状を出すんじゃあなくて、参考人として呼び出しなんて」
「国家反逆罪。ギブンが企てたんじゃあなくて、賛同者ってことにしてるって、何か特があるの?」
「さぁね。結局ゼオール王子にじゃあなく、ラフォーゼ王子に魔族の話もしちゃったし、気にしなくていいんじゃあない?」
2人の今晩は、城の客室を使わせてもらうことになった。
昨晩のグラアナ家同様に、2人の寝室は別。
明日の予定をピシュに伝えて寝室に入ると、ギブンは2日続けてのフカフカなベッドでゆっくりする。
思い出すのはラフォーゼ王子達との対談。
「つまりキミとは表向きは関わりを持たず、裏で支援をするという流れだ」
オリビアの兄、オーゼがこれからを計画し、ギブンの承諾を取ろうと考えを述べる。
「キミにはフリーランスとして、どの冒険者ギルドとも登録なしに自由に振る舞ってもらう」
フリーランスの後ろ盾は王家となり、領主からの干渉を跳ねのける権利が生まれる。
フリー冒険者としてのデメリットもなくなり、保険金の手続きが要らなくなる。
「領主からの干渉、つまり国王以外の王位継承者様からの圧力が、掛けられなくなるわけだな」
王家からの信頼を勝ち取れば、ランクにかかわらずフリーランスになれると言う。
「お前は既に、オバート・フォン・エバーランス叔父上と、ケーリッヒ国王の承認を受けている。第1王子の俺も承認してやる。それとウチには俺が預かる第5、第6王子がいるしな。フリーランスになる条件は揃っているからな」
七人の王子の過半数が承認していれば問題なし。さらに国王代行の立場にいるエバーランス領主に認められたギブンに、文句がつけられる心配はない。
「だがキミには念のために、東部と北岸に行って、第3王子と第4王子の許可も取ってもらう。ゼオール様に関してはキミに任せよう。しかし可能なら承諾を得てもらえる方が、軋轢を生まなくて助かる」
明日、朝食を頂いたら出発、気付けばギブンが望んだ悠々スローライフではなく、王族に買われる便利屋冒険者になってしまった。
「ピシュが嫌がるようなら、パーティー解消になるんだろうな。また1人か……」
などと考えた夜が明けて朝を迎える。
「なんでそうなるのよ!?」
朝になって「実は」を話し、なんなら自由にしてくれていいと提案したら、かなり本気で怒られた。
「もう頭に来た。私はこの世界で生きている限り、ギブンに付いて行くって決めてるのに!? ブレリアに釘打たれたけど、そんなの言ってられない!」
ピシュはギブンの唇に自分の唇を重ねた。
「あっ、えーっと、俺はそれでも一緒に来て欲しいって、言いたかったんだけど」
ピシュはギブンでも分かるように、はっきりとお嫁にして欲しいと言ってくれている。
だから変な気遣いは無用だと、この後10分ほど懇々と説教をされた。
「ふぅ、それじゃあ行きましょうか」
今日のピシュは黄色とピンクと白の水着。
さっきあんな事があったばかりで、ギブンは彼女に目を向けられない。
『もう! ギブン、あなたにとって私は何? 将来どうなってるの?』
さっきのように頬を両手で挟まれる。
ピシュを押しのけなかった自分を褒めてやりたい。口には出せないけど。
『なぁ~に? またキスされると思った? 私はもっとイチャイチャしたいけど、そこまでしちゃったら、あの2人に悪いから今は我慢してるんだよ』
「それなんだけど、本当に俺はあの2人にも、ピシュくらい好かれてるのか?」
面倒見の良い2人ではある。
ブレリアとの初対面は強く噛みつかれて最悪だった。
その後すぐに緩和したかと思えば、冗談めかして夜の誘いをしてくる始末。オドオドする新人をからかっていると感じた。
生真面目なオリビアは、不安そうにしているギブンから、目が離せないだけだろうと思っていた。
『本当に2人には同情しちゃうけど、これはもう私が先に既成事実を作らないといけないようね』
今日は漁船も用意されておらず、湖の中心まで泳いでいき、底を目指して潜っていく。
宴会で食べたウルボア貝は、危険を冒してまで食べたいほどの味ではなかった。
だから全滅させて問題なしと言われている。
ベルベックでは毎度、駆除したところで稚貝までは取りきれないと、諦められていた。
海ならともかく、湖内で天敵がいないウルボア貝が、食欲のままに暴食が過ぎれば、食用の魚介類がいなくなってしまう。
「俺は稚貝を片付けるから、デカイのを任せていいかな?」
『うん! 昨日はギブンがほとんどやっつけちゃったけど、こっちは任せて! 私の索敵スキルじゃあ、小さいのは見つけられないから』
昨日出されたウルボア貝は、確かに美味しい物ではなかったけど、食べようと思えば食べられる。
つまりは食べる必要がないなら、食べたくない物だそうな。
「もっと上手く処理すれば、美味しくなると思うんだけどな」
王子には全部持っていっていい。と言われている。今夜にでも試してみよう。
全てを駆除し終え、2人は呼びだしたヴィヴィに乗って水中を湖岸へ向かう。
目標はベルベックから少し離れた川。
「この川を下っていくと、東部に出られるんだっけ?」
「そうらしいよ。東部アーグルーシア領の大河都市フェルナンデスに繋がっていて、その先は北岸にも繋がっているらしい」
アーグルーシアには隣国からも多くの川が合流し、大河の中央が国境になっている。
五つに領地を分割するグレバランス小王国でも、最も面積の狭い領地だが、アーグルーシアはそのほとんどが平地になっていて、住人の数は南陵バンクイゼに次ぐという。
「第四王子様に会ったことがあるんだよね」
「ジオート様か、俺もしかしたら、あの人とはまた筆談になるかもしれない」
全く言葉を交わしてないのに、ギブンは直感で苦手なタイプと分類している。
領界もまだまだ先だが、ヴィヴィを降りてノンビリ歩く事にした。
時間を掛けてもう少し、うまくコミュニケーションが取れるようになりたい。
ピシュはかなり上機嫌だった。
まだ腕を組む事もさせてくれないが、ギブンもずっと一緒にいたいのだと知って、気分ハレバレといったところだ。
その気分は10分が過ぎて、変わってしまう。
「あれ、もしかして私、まだギブンから好きって言ってもらってない?」
好きと言ってくれたのは、ラブではなくライクだった。
念のために聞いてみると。
「その違いはよく分からないけど、ピシュの事は好きだよ」
と改めて言ってくれた。やはりラブではないようだ。
改善方法が、今はないのは確か。
キスをしてもあまり感情が動かされていないギブンは、それでもまだスキンシップを嫌がっている。
「女としての自信が底をついたよ。ピントちゃん、モフモフで私の心を癒してね」
プリプリのピシュは街道を先行する。
お昼も近いので食事でもと声を掛けても、一瞬止めた足も直ぐに動かして抵抗する。
何かの言葉を待っているのは間違いない。それが分かっていながら、ギブンは気持ちをそちらに向けられない。
「なんだこいつら、2人だけなのか?」
ピシュの道を阻んだのは、お約束の盗賊らしき下卑た笑い方をする数十人の男達。
「なに? また盗賊?」
「察しがいいな。男は身ぐるみ捨てていけ、女は売り飛ばす。それか下働きをするっていうなら、置いてやってもいいが、どうする?」
この世界ではどこへ行っても現れる輩、だが今のギブンにとっては救いの神。
だと思ったのだが、ピシュが諸手を挙げて、あっけなく人質になってしまった。




