表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
41/120

STAGE☆41 「2人ぼっちの水中冒険譚」



 広大なフルベリア湖を見ていると、北岸の海を思い出す。


 ギブンとピシュは漁船に乗せられて湖の真ん中へ、漁船の後ろからは大きな商業渡船が付いてくる。


 渡船を貸し切りにして、第一王子様とグラアナ公爵家に上級貴族参列する、大宴席が設けられる予定。憲兵隊も同乗している。


 彼らが眺めているのは当然、漁船のギブンとピシュ。


「見せ物にされてる……」


「ピシュの新しい水着のお披露目だね」


「そ、そう言う言い方をしないで。ギブンなのに生意気だぞ!」


 温泉用の水着は、男女とも無地の白だった。


 少女に可愛くないと駄々をこねられて、ベルベックの町で色々見て回った。


 湖畔の都市だけあって、水着を置いてるお店も多く。


 ギブンは一着を、ピシュは8セットくらいビキニの水着を買っていた。


「ピシュは肌が白いから赤がよく似合うね。青も緑も良かったし、俺も目の保養をさせてもらってる」


 こういう時はゲームを思い出して、相棒が機嫌良くしてもらえるチャンス。


 と言う打算は読まれているが、ピシュはそれでも嬉しくて、水着の赤に負けないくら頬を染める。


「ウルボア貝って、いうんだっけ?」


「ああ、食物図鑑によると、大きさが2メートルほどある二枚貝で、300㎏にもなるって。見た目もオオシャコ貝によく似ているようだよ」


 違いがあるとすれば、ウルボア貝は自ら近付くモノを襲い、栄養にされてしまうという事。


「ようは食材であって、敵となる魔物ということだ」


「深い場所にあって、大きくて重くて凶暴でって、誰がそんなのを捕ってこれるって言うの? やっぱりただの嫌がらせじゃあないの?」


 嫌がらせをされる理由が思いつかないギブンは、首を傾げる。


「ピシュ、俺が使う魔法泳法はできそう?」


「えっ? うん、問題ないと思う。簡単そうだし」


「捕獲は風魔法で俺の異次元収納に入れればいいし、難しい仕事じゃあないよ。たぶん」


 入水後、再度ピシュに魔法の使い方を説明する。


「もう、分かってるって、体を風魔法で覆って、圧縮した空気で水を取り込み、足の方からジェット噴射するんでしょ。任せてよ」


 やはり魔法の扱い方はピシュの方が上である。


『うわぁ、早い早い! 前世でこれができてたらオリンピック選手にもなれたよね』


 魔法世界だったらなんて妄想は、ギブンにも経験がある。


『ねぇ、ねぇ、これって水上よりも会話しやすいんじゃあない?』


 水中での会話は、2人の風の幕を風の管で繋いで可能にしている。


「ピシュ、灯火ライティングをお願いして良いかな? 回収は俺が担当するから」


 どちらも自分でやれるけど、仕事を分担しないとピシュが怒り出すかもしれない。


『潜れば潜るほどに魔獣が大きくなるね。大きさも魔力も』


「うん、けど必要以上はやっつけないでね。襲ってくるヤツと、図鑑に美味しい。って書いてるの以外はスルーするから」


 獣肉はそこそこ在庫があるが、海魚肉のストックはとっくになくなっている。


 ゲネフの森の川魚はいくらかあるが、大きな湖の大きな魚、2人分の補給はしておきたい。


『美味しいより襲ってくるのがほとんどなんだね』


「漁船に護衛の冒険者が乗るのも当然か」


 漁船の護衛をすると、討伐した魔物もゲットできて、割と実入りがいいらしい。


 漁師や冒険者に恨まれないように、必要最小限の捕獲に留めなくてはならない。


「それじゃあ、メインに取り掛かろうか」


『なに、こいつ!? 他の魔物より凶悪じゃない?』


 ウルボア貝は水魔法が使える。魚並みに移動して、重量と強度を武器に向かってくる。


『ないないない!? シャコ貝に触手なんてなかったよね』


 水を切り裂く勢いで振り回される触手は、ギブンの風刃ウインドカッターで斬り落とす。


 手をなくした貝は、推進用のジェット噴流を攻撃に転用。金属をも切り刻める水の刃が襲い掛かる。


 ピシュは水槍アクアジャベリンで貝殻ごと粉砕、一匹目を片付けた。


『これを10個も捕ってこいなんて、やっぱりかなりの嫌がらせじゃん!』


 そう、ウルボア貝は危険度が高く、水深も深いことがあって誰も捕獲しようとしない。


 そうして放置されると数が増え、さらに驚異度は災害級にまで成長する。


 なので数年に一度は、大勢の最上級冒険者によって、大討伐が実施されるのだ。


「浮上はしてこないけど、湖の生態系が崩れるからな。とは言ってもこの貝、底物だから逃げるのは簡単なんだって。冒険者の実力を計るのには、ちょうどいいってさ」


 ギブンの実力は、オリビアの手紙を信じるなら2~3匹の討伐はできて当然、頑張れば5匹は捕らえるはずと、オリビアの兄、オーゼが推察した。


『どうする? 王子様の無茶ぶりに応えて10匹にする?』


「いや、そもそもオーゼさんの設定だって、A級冒険者としての認定なんだって。今の俺はC級もいらないってのに、あまり期待に応えてもね。渡すのは3匹でいいんじゃあないかな」


『ギブンがそれで良いんなら、私は別に反対はしないよ。けど……』


 いつまでもギブンが侮られているのは面白くない。


「うん、ありがとう。ウルボア貝の大討伐はいつも、20匹を超えるかどうかって話だったな」


『どう見ても50匹は超えてるよ』


「50匹程度じゃあ、ゲートが発生した訳じゃあないよな。異常発生の理由があるはずだけど」


 今は異常発生の原因をつきとめる時ではない。


「15匹を残して狩り尽くそう。貝の中身だけを異次元収納に入れて、貝殻は捨てていこう」


 この程度の魔物、ヴィヴィに掛かれば、あっと言う間に狩り尽くしてくれる。


 ギブンは動かなくなった貝の貝柱を切って、殻を外して食用にできる部分を剥ぎ取る。


『なにこれ!? おっきい真珠だよ』


「ピシュ、3個は触らずに置いておいてよ。他は好きにしていいから」


『分かってる、分かってる♪』


 ヴィヴィが相手ではウルボア貝は黙って狩られるだけ、あっと言う間に予定の15匹を残して息の根を止め、ミッションは完了した。






「なんだ、3匹だけなのか?」


「十分ですよ王子。お二人はDランクとEランクの冒険者ですよ」


「いや、俺はサポートしただけで、捕獲は彼女の魔法に頼りっきりでした」


「ちょっ、なに言ってるのよギブン」


 ピシュの言葉は王子達には届いていない。風魔法で声を遮断したのだ。


「もぉ!」


 この場は、手柄をピシュに受け持ってほしい。


「……お二人の昇格は検討させてもらいます。今日の所はお疲れ様でした」


 わざわざ王子と秘書官は、漁船まで降りてきてくれたが、この後に商業渡船の上で宴会があるので戻っていった。


 2人も着替えを済ませて、大型船に乗り移る。


 船上では様々な料理が並べられて、立食パーティーが始まっている。


 ピシュは王子の元に、ギブンは料理人の元に連れて行かれる。


「おお、こっちだこっち」


 王子から離れたオーゼは、秘書官の任から解かれて、態度も少し大きくなっている。


「王子はオリビアの手紙に書かれたキミ自慢を、全て見定めるつもりだ」


 目の前には高級な食材が並べられて、一流の料理人が次々と調理していく。


「それで? 貝を捌いた事は?」


「ないですよ。山と森の物なら、多少は触った事もありますけど」


「なるほど、ジビエ料理が作れるのか。冒険者だもんな」


 旅をする冒険者なら、多少の料理は作れて当然。


「それではウルボア貝はこちらで調理してもらうから、キミはなにか得意料理を作ってくれ」


 得意料理でと言われても、今からカレーを煮込む時間があるのだろうか?


 だったら簡単な物にした方がいい気もする。


 ギブンは大量の玉子をもらって、ふわとろオムレツを続々と量産した。


 玉子料理はプロの手によって数々テーブルに並んでいるが、火力調整がキモになるオムレツは多くの招待客の舌鼓を打った。


 宴会の後、玉座の間。男3人が顔を向け合っている。


「お前達の実力、オリビアの手紙ほどではないようにも思えるが、少しは認めざるを得ないな」


 王子は玉座に肘をついて、頭を支えている。


「いいだろう、2人ともC級に上がれるようにギルドに通しておこう」


 注目を浴びる事は、コミュニケーションに繋がるから今までは、なるべくレベルアップすることを避けてきた。


 しかしまだ不安は残るものの、この世界に来たばかりに比べれば、ゲーム感覚がリアルに勝つようになってきたギブンも、多少のランクアップはしたいと思うようになっている。


 ついさっきまでは、これ以上の昇級はいいと思っていたはずなのに、実際上がって喜んでいる自分に驚きもする。


「それでギブン・ネフラ。キミはまだ色んな物を隠してないか?」


 気怠そうなラフォーゼ王子。美貌と知性はどこへやら。


「殿下、地が出てますよ」


「お前は堅すぎなのだオーゼ。この場には我々しかいないのだぞ」


 ギブンは時間を掛けてでも、オリビアの手を借りることなく、ラフォーゼ王子に会う努力をしなくてはならなかったようだ。


「……男の嫉妬はみっともないな。私も王族として、政略結婚を受け入れた身だ。今さら彼女を手元になんてムシのいい話だな」


 大きな溜め息を吐き出して、王子はギブンに向けていた険しい表情を緩めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ