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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
40/120

STAGE☆40 「2人ぼっちのお宅訪問」



 南境バンクイゼの中央都市、琵琶湖よりも大きいフルベリア湖の畔にある町、ベルベックに到着したギブンは憲兵隊を引き連れて、先ずはグラアナ公爵家のお屋敷にやって来た。


 ギブン達を公爵家まで届けたとして、憲兵隊は先に城へ行くとその場を離れた。


 家名の入った手紙を屋敷の門番に渡すと、2人は応接室に通されて結構な時間待たされる。


 寝ていたピントには、召還獣が暮らす異次元に行ってもらっている。


「場所の移動をお願いします」


 とメイド姿の女性が呼びに来て、ギブンとピシュは長い食卓の置かれた、大きな部屋へ移された。


「お話しする雰囲気じゃあないよね」


「俺たちまだ警戒されるんだよ。声の届く範囲で、離れて座れる部屋ってことじゃあないかな? 武器持った強そうな人に囲まれてるし」


「えぇ、そんなに信用ないんなら、取調室でマジックミラー越しに、観察でもすればいいじゃん」


「ピシュ、この世界でマジックミラーって、見た事あるの?」


「そりゃあ……ないけどさ」


 ふざけて緊張を解こうとしてみるが、2人は広い空間に落ち着けないまま。


「じゃあさ、じゃあさ……」


 ピシュが再チャレンジしようとした瞬間、扉が開いた。


「待たせて、すまなかった」


 髭に立派な髭を生やした紳士が入ってきた。


 紳士は2人とは反対側の、長テーブルの中央に座り、同じく入ってきた清楚なご婦人が右斜め隣に座った。


「娘に手紙を書かせてくれたそうでありがとう。先ずは礼を言わせてくれたまえ」


「いえ、俺……、失礼しました。私たちも公爵様に直接お会いできて、光栄に思っております。ありがとうございました」


 ギブンは口からスラスラと言葉が出てくるのに、我ながら驚いてしまう。


「堅苦しくなくても宜しいかな? できればキミたちもそうしてくれると嬉しく思う」


 思ったよりも気さくに話しかけてくれる。これも手紙の効果なのかもしれない。


「しかしあのバカ娘には、ほとほと困ったモノだ」


 バカ娘の一言にギブンの思考は止まる。


「あなた、気を抜くにも程がありますよ」


 やはりお隣は奥方様であったようで。


「それで、あの子は元気にしておるのか?」


「はい、今はエバーランスを離れ、ウエルシュトークにいると思われます。A級冒険者として活躍なさってますよ」


 ハクウが今どこにいるかは、離れていても分かるが、それを知られる訳にはいかない、曖昧に答えたが今ので十分だろう。


「ブレリアと共に、そろそろレングランドの町に、到着している頃じゃあないでしょうか」


 ピシュが2人を思い出して、近況を伝える。


「ピシュさん、あなた様もあの子の良い知己になって頂いたようですね。手紙に書いておりました。母親としてはとても有り難いです」


 手紙には家を出てから冒険者となり、今はシェレンコフと名乗り、頑張っていると書かれている。オリビアの手紙を読んだ婦人は涙した。


「全くなんて跳ねっ返りに育ってしまったんだ。私の言う事を聞いて、素直にラフォーゼ殿下の后にならないばかりか、冒険者なんぞになりおって」


 同じく娘の手紙を読んだ父親の反応は、母親とは真逆でギブン達を歓迎するようなムードでもない。


「ってオリビア、王子様のお嫁さんになるはずだったの!? ってことは許嫁だったとか? きゃー! なんだか憧れちゃう」


「……よくそんな小声ではしゃげるね。けどピシュ、ちょっと空気読んでね」


「はっ!? すみませんすみません、ごめんなさい!」


「ふふふ、あの子にもあなたみたいな楽しいお友達ができたのですね」


 ピシュの奇行に微笑む奥方と、表情が軟化する公爵。ギブンは心でピシュに“グッジョブ”を送った。


「さて娘の突然の手紙によって、ラフォーゼ殿下との謁見の橋渡しを任された訳だが、あのバカ娘は殿下の用意なさった陳情箱にまで文を入れさせておる。王子の民を思う御心を何だと思っているのか」


 民を思う陳情箱? つまりは目安箱みたいなものだろうか。


「キミたちが我が家を訪問したなら、直ぐにでも連れてくるようにと仰せつかっておるのだ。だから明朝、共に城へ向かってもらう」


 公爵が手を叩くと、豪華な食事が卓上に広げられる。


「今夜は賓客として寛いでもらおう。できれば娘の話をいっぱい聞かせて欲しい」


 どうやら公爵も、娘に使う以上の〝親バカ”であるようだ。






 憲兵隊も立ち会いの下、ラフォーゼ殿下と謁見の間でご尊顔を拝謁する。


 国王と第四王子、第二王子に次ぐ王族。形はそれぞれだけど、権力者と繋がりが生まれるのはRPGゲームをやってるようで楽しい。


「なるほどな、キミに関する憲兵が受け取った情報と、オリビアの手紙に書かれた内容の違い、じっくりと本人から聞かせてもらう必要がありそうだ」


 美貌と知性を兼ね備えた王子は、憲兵の情報よりもオリビアの手紙を信用しているようだ。


 できればそのオリビアの手紙を見せて欲しいところだけど、ギブン達を審査する前に教えてはくれないだろう。


 話が長くなりそうなので場所は移され、なんだか取調室みたいな所に入れられた。


「ねぇ、ギブン。もしかしてこの鏡って」


「うん、どうした娘? ……まさかこれが写し見の鏡だと気付いたのか?」


「写し身ってことはやっぱり……、この向こうに王子様がいらっしゃるのですか?」


 書官だと言う男は首を縦に振った。


「あったねぇ、この世界にもマジックミラーが」


 ピシュのドヤ顔な両頬をつねってやりたい所だが、今はじゃれていい時間ではない。


「自分は駆け出しの冒険者です。ある出来事があって、女神様のご加護を得ましたが、そのおかげもあり順調に冒険を続けられています」


 おかしな事に相手が偉い人でも、威圧されないようなら普通に喋られる様になっている。


 ギブンはある程度誤魔化しながら、女神様の加護持ちである事を打ち明かした。


 第二王子には念のために隠した事を、第一王子には直感で委ねられると思えたのだ。


「そう言った流れでゼオール様からの使者を薙ぎ払ってでも、ラフォーゼ様にお聞き頂きたいと思い、参上しました」


 調書を取り終えると直ぐに扉が開いて、王子の執務室へ招かれた。


「秘書官のオーゼ・フォード・グラアナです」


「グラアナ?」


「妹が世話になったと聞いている。聞き込みも見させてもらったが、キミの供述はゼオール様の証言以外は、憲兵のまとめた情報と一致していた。まもなくラフォーゼ様もおいでになるだろう」


 これでギブンとピシュは無害と認定された。


「今、ゼオール様の使いという冒険者からも、話を聞いているが心配しなくていい」


 あのしたたかな冒険者の事である、自分たちの立場を考えて、ギブンの不利益になる事は言わないだろう。


 逆恨みで虚偽報告をするかもしれないが、それで折に入れられるのは向こうになるみたいだ。


「バンクイゼに留まるというのなら、ギルドへの登録をしてくれ。ウエルシュトークの登録解除はギルドで行えるようにしておこう」


 秘書官と他にも色々と話しているうちに、王子様が入ってきた。


「あれ? ギブンもしかして王子様を怒らせた?」


 ピシュはギブンが言いにくい事を、ズバッと言葉にしてくれる。


「すまない。感情が上手く消せなかった」


 常日頃から穏和で、怒らせようとしても、顔色1つ変えないと聞いていたのだけれど。王子はまだご機嫌が斜めのままだ。


「どうやら私はキミを乗り越えないと、彼女を取り戻す事はできないようだ」


 こんな事になるのなら、オリビア本人から、色々と教えておいてもらうべきだった。


 公爵に寄れば、王子とオリビアは子供の頃からの付き合いで、10歳も離れているのに成人を迎えた15歳のラフォーゼは5歳の彼女を見初めて、周りの反対を押し切って唾をつけ、20歳になると正式に10歳の彼女と婚約をして、オリビアは成人となると同時に置き手紙1つで家出をした。


 以来、多くの者に探させてはいるが、2年経っても連れ戻す事ができていない。


 家名を捨てはしても、あれだけ派手に振る舞って、たった2年でA級冒険者となり、有名になったオリビアは憚ることなく自由に振る舞っている。


 完璧と称される第一王子、意外と抜けているところがあって、仲良くなれそうな気がする。


「彼女が恋心を抱く冒険者、まさかそっちからやって来ようとはね」


 それはどう考えたって、自分を利用して、王子を諦めさせようとしている、オリビアの策略だろう。ギブンは心で呟いた。


「ブレリア・アウグハーゲンと言う、彼女の仲間が証言しているぞ。そこのピシュくんに「抜け駆けは許さない」という伝言も綴っていた」


 この辺りの書き込みがあったからこそ、王子は全てを後回しにして、2人に会う事を優先させた。


「彼女がこれほどに買っている冒険者か。1つキミに依頼をしてもいいかな?」


 これまでも、事ある毎に実力を試そうとする依頼。


 第一王子は、素材集めをギブンに頼んだ。


 ここの湖の底でしか取れないという、貝を捕ってくるように言われた。


「ポイントまでは船で行くと良い。後は北岸の時と同じようにすれば、難しくはないのだろう?」


 オリビアの手紙には、ギブンに関する書き込みが事細かく記されていた。正にタウン誌並みの厚みになった手紙。


 それもまた、王子がギブンに嫉妬する理由の1つだった。

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