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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
38/120

STAGE☆38 「2人ぼっちの真剣勝負」



 後で聞いた話。


 駄天使には転移スキルがあって、焼いた森にいた生物は、全て別に飛ばしたと言う事。


 ギブンが初めて駄を付けずに天使様と思った出来事。


 因みにピシュに転移スキルは授かっていない。駄天使が乗り移った時だけ使えるようだ。


「ピ、ピシュさん、あなた転移魔法なんて使えるんですか?」


 と聞いたら。


「使えるわけないでしょ! 私、ギブンみたいに器用でも頭良くもないもん」


 と返された。


 一騎打ちの始まりだ。


 ピシュはずっと一カ所に留まっている。


 なのに火球が四方八方からギブンを襲う。


 発現場所をどうやって精霊に伝えているのかが、想像できないギブンはかなり焦っている。


「これって本当に転移魔法じゃないのか?」


 しかも彼女は無詠唱をさらに進化させた。ギブンと喋りながらも魔法が途切れない。


 ギブンは宙に浮かず走り回り、ピシュの魔法を回避し続ける。近付いては離れを繰り返し隙を窺う。


 彼女の隙か誘い水か? 飛び込むラインの見えたギブンはスピードを上げる。


 手が届く距離まで近づいた地面が吹き上がる。石の炸裂団が頭上から降りつける。


「なんで全部避けられるのよ!」


「索敵はまだ俺の方が上だな」


 目で追っていては間に合わない。


 索敵スキルで魔力を感知して、発現場所を特定し最短で躱す。


 そうして相手に取り付くチャンスを生み出す。プランに変更はない。


「近付いたからって、私の魔法障壁は簡単に抜けないよ」


 自信満々であっても過信はしていないピシュは、突っ込んでくるギブンに向かって尖った氷塊を飛ばす。


 しかしその攻撃も読んでいたギブンはギリギリをすり抜けて、右手刀でピシュの障壁を切り裂いた。


「きゃっ!?」


 ピシュはその場で尻もちをつく、頭があった場所をギブンの右手が過ぎていく。


「なっ、なっ、なっ、なにしたのよ?!」


 多重属性結界で作った魔法障壁を、一気に突破する切れ味を生んだのは、手の回りに纏わせた砂鉄の刃。


 攻撃を躱すのに宙には逃げず、走り回る間に土魔法で集めた砂鉄を、雷魔法と水魔法で鋭い刃で、多重障壁を切ったのだ。


「そんなので斬られたら、顔が真っ二つになっちゃうじゃない!」


 そうはならないように、衝撃波をピシュの胸に当てて転ばせた。彼女は驚いた拍子に転んでラッキーくらいに思っているはずだ。


 ピシュの鼻先に手刀を突きつけてチェックメイト。のはずが少女はまだ諦めていない。


 横殴りの突風で飛ばされると、ギブンは巨大な火球の中に閉じこめられてしまう。


 完全に覆われる前に、生み出した水玉の中に入ったことで、ダメージは回避した。だが早く抜け出さないと溺れてしまう。


 2人の魔力比べ。ギブンが水で火を消し去るか? ピシュの火で水を蒸発してしまうか?


「よし! 私の勝ちぃ~」


「そうはいかないよ」


「なんでさ!? いったいどうやったの?」


 火球は勢いを殺すことなく縮小した。つまりは中の水が蒸発してギブンを飲み込んだはず。焼き殺さないうちに鎮火、しかしそこに男の姿はなかった。


「キミの死角、後ろに水の力を一点集中して飛び出しただけさ」


 純粋な魔法力だけなら明らかにピシュの方が強い。


 けれど少年は天賦の才で、状況を見極め、臨機応変に対処する。心眼を備えているのだ。


 自動回復のスキルも、即死する衝撃や継続する力の前には意味を成さない。


 そんな即死魔法の応酬はまだ続く。


 ピシュの連弾は一撃一撃が必殺級で、ギブンの身体能力ならいつでもピシュの首を狙えた。


 そうして30分ほど戦い続けたあたりで決着がついた。


「えっ、うそ!なんで? なんでそんなのに当たってるのよ!?」


 それはただの風の槍だった。スピードもパワーも鋭利な切れ味も高かったが、ギブンがもろに食らって、胸を貫けるほどの魔法ではなかったはず。


「やだやだやだやだやだやだぁ~」


 派手な血飛沫を上げて、少年は倒れてしまう。


 少女は号泣しながら、少年の元に駆け寄った。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 以前にギブンから教えてもらった。女神様からもらった回復スキルは、死んだモノの状態次第では、生き返らせる事ができると。


「いてててて……、やられた、かぁ~。障壁なしでも防げると思ったんだけどな」


 目を開けたギブンは仰向けに寝かされている。その姿勢のまま、胸に縋り付くピシュの頭を撫でる。


「助けてくれてありがとう」


 少女の涙が治まるまでの3分間、左手の甲の感触に、手をひっくり返して、改めて嘗めてもらった。






「私の勝ちぃ!」


 さっきまで泣いていた仔猫がもう笑っている。


 彼女の腕の中で、モフモフされている子犬も嬉しそうだ。


「とは言え、ギブンはこの子を助けようとして、魔法が当たっちゃったんだもんね」


 それでも勝ちは勝ち、涙する少女にそう何度も何度も言い聞かせた。


「あなたに集中するあまり、この子の索敵ができなかった。やっぱり私ってまだまだだな」


 九本の尾っぽを持つオオカミの子供。けどその灰色のモフモフは狐のよう。


「クーヌフガルーか、親からはぐれて迷い出たんだろうな」


「ねぇ、ギブン。この子のお母さんを捜してあげようよ」


 しかしこの旅は急ぎではないと言っても、ノンビリしすぎる事もできない。


「う~ん、そいつの事はキミに任せていいかな? 俺は先に森の小道を仕上げてくるよ」


 子犬はギブンに助けられた恩を感じてか、2人から離れようとしないが、本当なら親元を離れる年ではないはず(食物図鑑による)。


 だったら探しているであろう親を見つけて、返してやるのが1番。


「そうだよね、返してあげなきゃだよね……」


 モフモフが止められないピシュの目に涙。


「そ、それじゃあ頼んだよ」


 ギブンは振り返ることなく、小道に入って土魔法を使う。2時間ほどが経って元の場所に戻る、と。


「あれ? ピシュさんピシュさん、もしかしてずっとここに?」


「うぐっ、ち、違うんだよ。私は森に入って、この子のご両親を探そうと思っていたんだよ」


 子犬は彼女に抱かれて、気持ちよさそうに眠っている。


 そう、この2時間ずっと寝ていたのだ。


「動いたら起きちゃいそうで、可哀相だったから……」


「それじゃあ今夜はここで野営だな。明日の午前中は2人で探して、見つからなかったら、可哀相だけどここに置いていくよ」


「……うん、分かった」


 テントを立てて、今日は道具を広げてカレーを作る事にした。


「へぇ、カレールーなんて、どこで手に入れたの?」


「いや、スパイスから調合するんだよ。口に合わなかったら言ってよ。やり直すから」


 ビレッジフォーでは良い買い物ができた。


 口に会わなかったらとは言ったけど、できあがったカレーの芳しさを嗅いだら、絶対の自身が沸き上がる。


 食べた時のピシュの満足げな顔と「おいしい」の一言にホッとして、ギブンも口にする。


「見てみて、ピントもおいしそうに食べてるよ」


「ピント? その子のこと?」


「うん! クーヌヌガフー(クーヌフガルー)って言いにくいし、直ぐに忘れる自信しかないし」


 それはそうとして、人間の食べる物を、無暗に野生の魔獣に食べさせるなんて。


「ねぇ、ギブン。私が勝ったら言うこと聞いてくれるって言ったよね。お願い、この子と従魔契約してよ。もし明日の朝、この子の親が見つかったら、ちゃんと返すけど、今晩私たちが寝ている間に、勝手にテントを出て行っちゃって、危険な目にあったら可哀相だもの」


 確かにそう言うことなら、契約をしておくのも悪くはない。


 食後の片づけを済ませて、クーヌフガルーの子供と従魔契約をする。


「これで約束は叶えたね。ふぅ、今日は疲れたよ。もう二度とピシュとは戦いたくないな」


「それはこっちのセリフだよ。だから命令はもうできないけど、お願いなら聞いてもらえるかな?」


「……それってズルくない?」


「ズルくないズルくない。だからお願い、夜眠るまで顔を見てお喋りしたいから」


 テントの中、2人を隔てる布の撤去をお願いされ、ギブンは首を縦に振った。


 条件としてはスキンシップは控えめに。


 不服そうな顔をしながらもピシュはOKをした。ギブンは布を異次元収納に投げ入れた。


「それじゃあ、寝よ寝よ」


 ギブンは明くる朝、自分のミスに気付かされる。


 布はとっても、2人の間に荷物を置いて、境界線をハッキリさせるべきだった。


 ピシュは恐らく無意識に毛布を渡って、ギブンに抱きついて寝てしまっていた。

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