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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
37/120

STAGE☆37 「2人ぼっちの1対2」



 この世界の魔法は、精霊が術者の考えを理解できれば、どんなイメージも形にすることができる。


 呪文の詠唱が必要な理由は、この世界の人間の想像力が低くく、書き残された呪文を理解せず、丸暗記して読み上げる方法しか知らないからだ。


 頭の中でちゃんと内容を理解できている人間は、無詠唱で魔法を使う事ができる。


 逆に魔術の法則を理解して、組み替える事ができれば、新魔法を生み出す事もできるのだ。


「土を掘り返して踏み固めるなんて、今ある魔法を少し書き換えるだけで、簡単にできるんだよ」


「ギブンって、前世から魔法の事とか想像していたんでしょ? ゲームしながら」


 特に創作をしていたわけでもないのに、いろんな想像はしていた。


「よく学校行って、予習復習して、料理の研究までしていたのに、本当にすごいよね」


「学校にいる間に必要な勉強はできたし、時間の掛かる料理は作ってなかったし、割と空き時間は取れたよ」


 転生後は実験しながら魔法の研究ができたから、ギブンの魔法の進歩は、自分でも自慢したくなるほどだ。


 西ルートの坂は2~3時間かかったけど、2度目の南ルートの坂は1時間で完成した。


「また騒ぎになるね。小道が見つかって整備を開始したら、いつの間にか別ルートもできてたなんて」


「俺がやったってバレなかったら、別にいいよ騒がれたって」


 昨晩テントの中での出来事が、2人にギクシャクした空気を生んで、今も残っているのは間違いない。


 けれどピシュが努めて気にしないでいてくれるから、ギブンも気持ちを切り替える努力ができた。


 彼女は昨日の夜。布の壁を見て気持ちが治まらなくなったらしい。


「まだ知り合ったばかりだけど、この世界で一生一緒にいたい。本気なの! ……あなたのお嫁さんになりたい」


 そう言ったピシュの言葉はちゃんと、ギブンの耳にも届いた。


 しかしギブンは自然に眠りにつくまで、ジッと黙って返事をしなかった。


 先に寝たのはギブンの方だった。


 だが駄天使も男を起こすことなく、睡眠はしっかりとれたと思う。


 逆に少女の朝は目を真っ赤にし、涙の跡が残っている。そんな顔で笑いながら挨拶してくれたのは男の胸を熱くした。


「今は答えがないんだ。けどちゃんと考えるから」


 男に返せる言葉はそれしか思い浮かばなかった。


 ピシュは「うん」と言って、何もなかったように振る舞おうとしてくれている。


「やっぱり、地図スキルって便利だな」


「心配しなくていいよ。ピシュがずっと俺と冒険してくれるなら、俺が使えれば問題ないだろ」


 彼女が仲間になってくれたのは、駄天使のことやピシュの気持ちとは関係なしに、ギブンにとっても嬉しい事だった。


「南境行きの最短コース、あったら便利なのに、誰も思いつかなかったのかしら」


 ギブンが勝手に木を倒して、地面を掘り起こして踏み固めた小道。


 エバーランスがインフラを整備して、魔物が嫌う魔力素材で柵を作る。


 口で言ってしまえば、いたって簡単な企画に思える。


「そうか、ギブンみたいな地図スキルがなければ、最短ルートで道を造るのは難しいんだ」


「いや、そんなの浮遊魔法を使える人がいれば解消する。安易に柵を設けたからって、この森が危険な場所なのは変わりない。冒険者のためだけに、突如道が現れたからって、切り拓く権力者は珍しいんじゃあないかな」


 ランクDでやっと入れる魔獣の森。


 なるべくB級以上の魔獣が徘徊していない場所を選んだつもりだけど、運が良ければ盗賊に狙われることなく通り抜けられる。程度のメリットだ。


「あれだけの道幅があれば馬車も通れると思うけど、護衛は必須だな。やっぱり利用者はほとんど冒険者になるんじゃあないかな」


 そもそも自分たちが便利ってだけで作った道だ。他の誰かが利用したところで気にする必要はない。


「話変わるけどさぁ」


 本当に180度くらい話題が変わった。


「ギブンって学校の成績良かったでしょ」


「テストの答案だけはよかったよ。通知票はそこそこだったけどね」


「体育は?」


「引き籠もりの料理男子だよ。いいわけないじゃん」


 長い間病院生活をして、ゲーム廃人をしていたピシュの成績を聞くのは、マナー違反と感じて黙っておくことにした。


「ああー、私の事バカだと思ってるでしょ!? ちゃんと勉強もしてたんだからね!」


 整地しながらの旅路は、最初の1人旅と違い、2人だと楽しくて反復作業も苦にはならない。


「あははっ、前世でギブンに会ったとしても、きっと友達にならなかったよね。私も友達少なかったけど、ギブンなんて友達ゼロだったんでしょ」


「ピシュは意地悪ばかり言うからね。特に避けて通ってたと思うよ」


「ひっどぉ~い、あなたが感じてる意地悪だって、愛情表現の1つなんだよ」


 日本では確かに友達どころか、知り合おうとも、思わなかっただろう。


 それが今は掛け替えのない仲間。思えば不思議な関係だ。


「ねぇ、ギブンは……私のこと好きだよね」


「好きだよ」


「その言い方だと、女の子としてじゃあないよね」


「えーっと、ごめん」


 小声で「謝らないでよね」とピシュが漏らしたのを、敢えて聞こえない振りをして、派手に地面を掘り起こして、大きな石を粉々にした。


「ちょっと待ちなさいよ!」


「……駄、天使様? こんな昼間に? ピシュも眠そうにしてなかったのに」


 眠る宿主の体を借りる事はできると聞かされていたが、まさか好きな時に出て来られるとは。


「もう我慢ならないわ。ギブン、私と決闘なさい!!」


 ピシュが女神様からもらった憂知ゆうちの杖に、強大な魔力が込めらる。


「そうか、ピシュがキミに力を貸している。ピシュは起きたままで、キミに体を貸したのか」


「あんたって、本当は賢いのかバカなのかどっちなのよ? 賢いのだったらこんな簡単な答え、さっさと出しなさいよね」


 ピシュは怒鳴り散らし、火魔法で周囲の樹を燃やし続け、かなりの範囲を尽くすと、水魔法で森林火災を鎮火する。自然を破壊し、騎馬隊の演習場並みの広場をつくった。


「決闘よ! この子はあんたみたいに丈夫じゃあないから、攻撃方法は魔法のみ! 私が勝ったら言う事を聞いてもらう。いいわね!」


「俺が勝ったら?」


「仕切り直しよ! 私が勝つまで終わらせないわ」


 理不尽。


 しかしピシュ本人は起きているはずなのに、駄天使の好きにさせているのは、彼女も同意しているという事なのだろうか。


「こちらからも条件を出させてもらう」


「な、なによ?」


「ピシュが終わらせたいと思ったなら、直ぐに終わらせる事! 無理はさせないように」


「い、言われるまでもないわよ」


「よし分かった始めよう。キミが勝ったら1つだけ言う事を聞いてやる」


 ギブンが申し込みを受け入れて走り出すのと同時に、ピシュは先制攻撃の土魔法を発動、地面から土柱が盛り上がる。


「ちょ、ちょっと、1つなんて言ってないわよ」


「否定する前に始めたのはそっちだ。決闘は成立している」


 ギブンは空中浮遊で柱を躱し、彼女の頭上に立ち止まると、風魔法で大きな渦を生み出す。


「きゃぁ~あ!」


 渦に水と雷をミックス。大抵の生物はこれでご臨終だ。


「あ、甘いわよ。魔法特化のピシュ・モーガンに、この程度で勝てると思わなっ!」


 彼女が無傷と知って、土魔法に風魔法を兼ね合わせて、土煙で視界を奪い、さらに炎で周囲を囲うと、爆炎を内側に収束した。


「な、なんて魔法使うのよ!?」


「分かったかな。キミじゃあピシュのように戦えない。力だけじゃあダメなんだ。キミは俺には勝てない」


 戦うのは力だけじゃあない。それを教えるためだけに、即死魔法を容赦なく使うギブンに、本気で怒り心頭になったのは。


「ギ、ブ、ン~ン! 女の子の髪の毛を燃やすとか、なんてことしてくれたのよ!?」


 怒りのベクトルが駄天使と違い過ぎて、ギブンはどうしていいかが思い浮かばず。


「ま、参りました。お許しください!!」


 仁王様の目の前に土下座で着地して、深々と頭を下げた。


「まったくもぉ! 言いたいことは分かるけど、やる事がめちゃくちゃだよ。本当に死んだらどうするつもりだったのよ」


 自動回復魔法で元通りのピシュは、ギブンの肩に手を置いておもてを上げさせる。


 彼女の顔が近く、目が合わせられないギブンは、赤べこのように頭を振られる。目が合うまでやめてくれない。


「ちょちょ、ピシュやめて……」


「ふふっ、ギブンあなた、私が触れても平気になったの?」


「えっ、あっ! ああ~、あわあわあわ……」


 ギブンは震えながら、彼女から距離をとろうとする。


「……わざとらしいぞ」


 ピシュは手を離してくれない。


「うん、どうして分かった?」


「だって全然汗かいてないじゃない」


 答えをもらって頭をひねる。


「えっ、俺って、ずっとそうだったの?」


「そうだよ。だから以前は悪いことしたな。って思ってたんだから」


 それじゃあ、あの二人にもバレバレだった?


「本当に私の勝ちでいいのかな? けどそれじゃあ面白くないかな。ねぇ、もう一本やらない? ピシュちゃんとじゃあなくて、私ともう一本! 真剣勝負で」


 正直言ってギブンは続けたくはない。


 けどそれでピシュのわだかまりを解消できるなら。


「目が燃えている」


 ピシュは駄天使の努力を無にした。それはゲーマーの血が滾ったからに違いない。


「あっ! 真剣勝負だけど、ルールはピシュちゃんと結んだのと同じでね」


 ピシュはゲーマーとして、例に漏れることなく負けず嫌いのようだった。

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