表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
36/120

STAGE☆36 「2人ぼっちと湯煙旅情」



「なんだお前達、水着なんて持ってたのか?」


「ブレリア!? なんでこんな所に?」


 ピシュはブレリアさんを、呼び捨ているのがギブンは気になる。


「ああ、こちらの用件を済ませて、晩飯食ってからハクウに連れてきてもらった」


「ハクウちゃん、帰ってこないから心配してたんだよ。私もギブンも」


 小さくなった子虎サイズの魔獣はピシュに抱かれて、ノドをゴロゴロ鳴らしている。


「あたしらは領主へ報告した後は、またお前達に合流するつもりだったから、ハクウには残ってもらったのさ。満腹にして撫でてやったら、大人しくしてくれてたからな」


 やはりブレリアに手懐けられていたようだ。


「おーい、なにしてんだオリビア」


「だ、だってそこには、ギブンさんもいるのでしょ?」


「そんなの最初から分かってた事だろ。自分から脱いでおいて、今さらなにを言ってんだ」


 ブレリアに手を引かれて、アワアワと慌てるオリビアは、火の光が届くところに出てきた。


「わ、私はあなたと違って、男性と湯を共にするのはまだ3回目なんですよ。いいから離しなさい! この破廉恥女」


 隠せるタオルもなにも持っておらず、大きくてバランスのいい肢体が晒されている。


「……ギブン、なにマジマジと見てるのよ!」


 ピシュに指摘され、ギブンは後ろを向いてお風呂に口元まで浸かる。


「それにしても、こんないい女が裸になってるのに、少しは興奮してみせろよ」


 ……確かに魅惑的な2人の全裸を前に、人見知りのギブンが落ち着いているのは、なぜなのだろう?


 ピシュは少し考えて、ある仮説を導き出した。


「ギブンって、まだ思春期を迎えていないとか?」


 引き籠もりで人との接点を持とうとせず、また環境も彼に人付き合いを強要してこなかった。そう聞いていたので、或いはと思ったのだが。


「思春期かぁ。確かに自覚はないかも」


 前世で性的ニュアンスに触れるのは、漫画アニメくらいでしかなかった為、初めての裸では驚いたが、今はその時の衝撃を感じなくなっている。


「そうか、ギブンはまだまだお子ちゃまだったのか。もったいない事だな」


「だ、だからって自分から見せるようなマネを……、いいから離しなさい! ブレリアさん?!」


「お前も立派なもん持ってるんだ。それそれそれそれ」


「や、やめなさい!? 私にそんな性癖は! あぁ、あぁ、あぁ……」


 ギブンは見えない背中側で、なにが起こっているのかを想像して、今さら興奮してきた。


「それでブレリア、さっき第一王子がどうとか言ってなかった?」


 ピシュはブレリアの悪ふざけをヤメさせて、自分たちもお湯に浸かって話を戻す。


「ピシュってブレリアさんと、随分仲良くなったね」


 ギブンもみんなの方を向く。


「まぁね。本当はオリビアさんとも、もっと仲良くしたいんだけどさ」


 濁り湯の温泉に、あごまで浸かるオリビアも少し落ち着いた。


「なぜ? 私とブレリアさんはどう違うのです? 私だって仲良くして欲しいですよ」


「ホント!? だったらあなたの事もオリビアって呼んでいいの?」


「もちろんです。もちろんです。あなたならきっと、このデリカシーのない人よりうまくやっていけます」


「お前はいつも一言多いよな」


 3人は笑顔を交わし合った。


「それでは第一王子の件ですが、その前に……」


 王族とも接点があると言うオリビアが、ギブンに質問をする。


「ギブンさんはゼオール様をどう感じました?」


「第二王子ですか? 野心家ではあると思いますが、道中で聞いた評判はかなりいいんですよね。牢屋であったあの人が、本物とは思えませんでした」


「お前の見る目は正しいよ。ウエルシュトークの連中が見てるのは第二王子本人じゃあないからな。牢屋で見たってのは、きっと本物の方だろう」


 ギブン達は会っていない、この西領で政治を預かっているのは、ゼオール王子の4歳したの妹、リナミラ・アウグス・グレランス第三王女殿下。


 ゼオール王子の影武者を勤める男装の令嬢は、嫁ぐことなく一生を兄に捧げたブラコン王女。


 領主としての才覚は、ゼオール王子よりもかなり高いと影で噂されている。


「しかし頭のキレは、ご兄弟の中でゼオール様が一番でしょう。完璧とされるラフォーゼ様よりも悪知恵が働くとも言われていますよ」


 オリビアがそこまで言うのなら、会って話をする価値はありそうだが、果たして庶民目線で話の通じる相手なのだろうか。


「ラフォーゼ様とは少しばかり縁があるので、私が一筆したためましょう」


「あっ、オリビアは付いて来てくれないんだ?」


「申し訳ありません。ちょっと事情がありまして」


 そう言われると、ピシュもしつこくは言えない。


「あたしも今は、こいつとコンビを組んでるから、一緒には行けないが何かあれば呼んでくれ。って、連絡の取りようがないか」


 都合は人それぞれ、不安は残るがここまで来てくれただけで感謝というもの。


 それからブレリアの気持ちも本当に有難い。


「ハクウ、構わないか」


 ピシュが抱えるハクウの頭を撫でながら、ギブンはなにかを確認する。


「ブレリアさん。よかったらハクウを預かって欲しいんだけど」


「えっ?」


 女性3人が同時に驚いた顔をギブンに向ける。


「いや、俺と従魔は精神界で繋がっているから、魔力を込めてハクウに話しかけてくれれば、会話が可能になるんだ」


 魔法は研究すればするほど、面白い現象に気付く事ができる。


 とりわけハクウのように、言葉は交わせなくても、気持ちを理解する頭のいい従魔は、いろんな能力を発揮してくれる。


「えぇー! ハクウちゃん、いなくなっちゃうの?」


「いなくなる訳じゃあないよ。ピシュはずっと可愛がってくれてたから、気持ちは分かるけど」


「ぶぅー、またモフモフの可愛い子と契約してよね」


「本当にいいのか?」


 ハクウのモフモフの虜になっているのは、ピシュばかりではない。


「ブレリアさんなら安心して預けられるよ」


「そうかそうか」


 あまり長湯をしていると逆上せてしまう。


 先にギブンが着替え、その間にピシュと一緒に2人の着衣を取りに行く。


「お帰り。それじゃあ3人は大きい方のテントを使ってくれ。俺は着替えのために出した、こっちのテントで寝るから」


 ビレッジフォーに売っていた、一番大きなテントは4人用で、分かれる必要はないのだが、目にするのは平気でも、人肌に触れるのにはかなり抵抗がある。


 テントの中を見て3人が、一緒でいいじゃないかと言ってくるが、さっさと小さいテントに入って、ギブンは結界を張った。


 今回買った二つのテントには、魔法を属性ごと吸収して、長時間持続する素材で作られている。


 寝ている間の外からの襲撃を防ぐ物で、王国の騎士団も採用している逸品。


 しかも込められてたギブンの魔法は、ドラゴンだって踏み潰せない力を持っている。


「おやすみ、みんな」


「おやすみなさい」


 軽快な男の声と、沈んだ女性達の声が重なった。






 追っ手が掛かっているかもしれない身だが、ギブンとピシュは歩いて南境バンクイゼへ向かう事にした。


 理由はオリビアの書いてくれた手紙を、立ち寄ったエバーランスで南行きの乗合馬車に預け、それの到着までの時間を稼ぐためである。


「オリビアさんも上級貴族だったなんてな」


 家名まで変えて冒険者となった10代、二度とその名を使うまいと思っていたのを、ギブンのために利用してくれる。本当に申し訳ない話だ。


 2人とはあの温泉で別れた。ギブン達と入れ替わりにウエルシュトークで登録をするという事だ。


 エバーランスから南へ向かうとゲネフの森に出る。


「小道が整備されている。なんで?」


 腕に自信のある冒険者なら利用できるだろう、程度に考えて作った小道は、幅が拡げられて歩きやすくなっている。少し先に工事現場が見える。


 2人は空を飛んで、人影がなくなった辺りで小道に降りた。


「これも領主様の手腕かな? もう崖の近くまで作業が進んでいるとは」


「それもギブンが最初に道にしたからでしょ。やっぱりスゴイのはギブンだよ」


 日暮れ頃に崖に出た2人は、見渡しのいい場所で野営をする事にした。


「ここから西を向いたらウエルシュトーク。南に向かうのなら坂道も反対側に造った方がいいかな?」


「それじゃあ明日は朝から、土木作業なんだね」


「ああ、でももう経験済みの事だし、3時間もあれば下まで出られるよ」


 ギブンは火を起こして、少し冷めてしまっているボルシチを温め直し、その間にピシュがこっそり買っていた2人用のテントを立てた。


「まさかこんな物を……」


「いいでしょ? 着替えようのは小さすぎるし、けど大きいのは2人じゃあ寂しいもの」


 ギブンは手持ちの布のアーティファクトを使うことを条件に了承した。結界なしでは気が休まらないので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ