STAGE☆34 「2人ぼっちの魔人討伐」
オリビアは3人と言っていたが、飛び出したギブンの目には2人しかいないように見える。
黒い肌をした銀髪。間違いない魔族だ。
「人間? もうゲートの存在に気付いたのかよ」
魔人語は、こっちの人間の言語とは異なる。
聞いた事もない言葉が理解出来るのは、女神の加護のチートのお陰か?
「今回の実験もここまでだな。失敗だ。これからどうする?」
「こいつらを殺して、先に着いた奴らを探す」
ギブンは剣を抜いた。今回は少し相手の出方を見てみることにする。
「人間界からゲートを開く計画が進んいるはずだ」
「こちらからもゲートを開いてやって、安定させる完璧な計画、今度こそ成功させられるだろう」
「その為にも先ずは2人を探さなきゃならん。俺たちはまだ、ギリギリ3人目も呼び出せない小さなゲートしか用意できないのだからな」
オリビアが3人目を見たというのは本当だったらしい。
「最下級のゴブリンでは大きなゲートにならなかった。オークにしてようやく1人が通れたな」
ギブンがエバーランスの北にあるクフムの森で、初めて出会った魔族の事だろう。
「オーガではゲートを維持できなかったな」
「ゲートを拡げようとマーマンどもを放った後に、中級の水生モンスターを使ったら、俺たち魔人が通る前に消滅したな」
「あれは中級がゲートを不安定にしたから失敗したんだ」
その後にレヴィアタンが出てきたことを知らないようだ。
「ゲートが安定すれば弱い魔物で育てる事もないし、強い魔物を送り込む事も、魔人が抜けられる穴も作れるようになるのだぞ」
この魔人は2人とも、随分とお喋りである。おかげでゲート事件のおおよそを聞く事ができた。
「さっさとこの人間を殺して、早く先の2人と合流するぞ」
魔界からこの時代に来た魔人は、これで4人目ということか。
「ギブンが魔族をやっつけたって話だよね。それじゃあこの2人を倒せば、魔人騒ぎは表ざたにならないんだね」
「ピシュ、キミまで来たのか?」
後の2人の姿はない。ピシュなら魔族相手でも直ぐにやられることはないだろう。
それに言葉が理解できるなら、話せば分かるかも。好戦的な人間は言葉以上の壁があるものだけれど。
「おいキサマ! 今のはなんの戯れ言だ!?」
「人間風情にあいつらが!?」
対話以前の問題!
仲間の仇はここにいるギブンだと、ピシュがばらしてしまった。
言葉が理解できる所為で戦闘は避けられなくなった。
前の2人のように問答無用で斬り伏せば、1人は片付くと思ったのだが、警戒されては奇襲は通用しない。
「魔人は人間を侮っているから、前は簡単に殺れたけど……」
ピシュを責めたりはできないが、まだ実力を計れていない相手に、痛恨のミスとなった。
先手必勝である。相手が武器を持つ前に倒してしまえば。
「なんだこれは? これが貧弱な人間の力か!?」
ギブンの剣を受け止めたのは、棒状の魔力のかたまり。武器は持たずに魔力のみで戦うスタイルなのか。
「魔力の高さに自信があるから武器も魔法で生み出すって事か」
武器なしで戦えと言われたらギブンなら、全身から魔力の刃を生み出して攻撃をするだろう。
どれだけの刃がどこから襲ってくるか分からないと、受け止めるのは難しそうだ。
「ふぅ~ん、無詠唱で魔法が使えるんだ。やっぱり方法はあったんだね」
ピシュを襲うもう一方は、魔法戦に応じたようだ。魔法勝負なら魔人が負けるはずがないと思ったのだろう。
「大丈夫か、ピシュ?」
「うん、まだ向こうも手探りの段階なんでしょ? このくらいなら全然平気」
なるほどまだ小手調べという事か。それはきっとこちらも同じに違いない。
通りで魔人の動きが鈍すぎる訳だ。
この程度のスピードなら空中歩行を使うまでもなく、ヒット&アウェイを決める事ができる。
「なっ、なんなんだ? こいつら本当に人間か?」
「俺の魔法が通じないだと!? いったいどういう事だ? 聞いた話では、我らと対等に渡り合えるのは勇者だけのはず」
「まさかこいつらが、その勇者だというのか?」
「いや、そんなはずはない。勇者は魔王様が降臨した時に現れるはず」
「ならばなんなのだ、こいつらは? 全くもって説明がつかんぞ」
本当にお喋り好きな魔人達である。
勇者の定義がゲームによくある転生者なら、確かにギブンとピシュには、その資格もあるのだろうけど、魔王降臨と共に現れるものなら、2人はやはり別物。
それでも今の会話で分かった。2人は魔人とも十分に戦えるのだ。
ギブンは魔人の1人に近付いた。
剣を構えることなく無表情でゆっくりと。
「う、うわ、うわぁ~~~!」
魔人は背中の真っ黒な皮翼を拡げて飛ぶ。
「やったよぉ~ギブン! 本当に無詠唱で火球が打てた」
喜ぶピシュの方に顔を向けた隙をつかれて、ギブンは敵の攻撃を許してしまった。
「こ、このぉ~~~!」
上空からの不意打ちなのに、声を上げて飛び込んでくる方向を教えてくれる。
「そんな、……バカ、な……」
相手に攻撃されて、ギブンは動きを止めた魔人の首を剣で刎ねた。
「首を飛ばしたのにまだ喋れるのか!?」
恐るべし魔人のしぶとさ。
即死しない敵が自動回復スキルを持っていたら、果たしてどう戦えばいいのか。
「……今はいいか。う~ん、ちゃんと研究してみないと、これはかなり難しそうだな」
ギブンは魔族がしたように、右手に持った剣でなく、左手から魔力の刃を出そうとしたのだが、失敗してしまった。
「大丈夫なの、ギブン?」
「ああ、もう動かなくなった。大丈夫さ」
「そう言う意味じゃあなくて、あなた無数の刃に斬られたんじゃあないの? 斬られても治るだろうけど、平気とは限らないでしょ」
自動治癒が働いたとしても斬られたら痛い。
確か今は8本の刃で斬られたはず。それを受けたのなら、かなり精神へのダメージがあったに違いない。
「そっちは平気。光の結界で防げたから」
魔族だから使っているのは、闇魔法だとアタリを付けて防御を張った。
「ほ、本当に、なんなんだ、お前達は……」
真っ黒焦げに焼かれた魔人が、突っ伏したまま顔を上げる。
「お前らこそ、なんでこっちの世界に来るんだ? 魔界ってのは、そんなに居心地が悪いのか?」
「はっ、魔界は最高の世界さ……、魔王様が生まれ、人間界を欲しがったりしなければ、こんな世界に興味を持つ魔人なんて、いやしない……」
「……死んじゃったか」
本当に最後までお喋りな魔人だった。
そのおかげで魔族情報を色々手に入れることができた。
「魔王だけが前のめりなんて、どんだけ迷惑な話だ」
「ギブンさぁ~ん!」
「あの2人、いたんだ?」
魔人と戦う前にスキルで確認した時は、引き返していたはずだった。
「うん、けど途中で戻ってきたんだよ。気付かなかった?」
「戦闘中だったから気付かなかったな。そう言えばキミ、魔法を無詠唱で使ったね」
「えへへぇ~、初めてだったけど、やってみれば意外と簡単だった。なんなら教えてあげようか?」
「いや大丈夫だよ。俺はほぼ最初から、詠唱無しで魔法を使えているし」
知ってたんならもっと早く教えてよ。ピシュはギブンの胸を両の拳でポカポカした。
なぜ教えなかったのかと聞かれて、ギブンは「ピシュはオタクだから、好きで詠唱しているのかと思っていた」と返した。
さらなるポカポカが男を襲った。
「オークも、もう残ってないな」
「ギブン、あっちに宝箱があるよ」
ピシュが、ブレリアが宝箱を見つけた。と呼びに来てくれた。
宝箱が見つかるのは、ダンジョン崩壊の印。
索敵に魔物の反応はない。一件落着でいいはずだ。
「ギブンさん、あのゲートから出てきた連中は、もしかして魔族だったんですか?」
「オリビアさん……、自分で言ってましたよ、魔界から来たって」
あれが魔人、漆黒の肌に銀の髪、ゲートから現れる魔王の尖兵。
「魔力は信じられないくらいに高いみたいですけど、あれが実力なら、怖い相手には思えないですね」
オリビアが戻ってきた理由は、魔族の戦闘力を見極めるため。
「あたしはあんたらの邪魔になるといけないと思って、ここを離れようとしたんだぜ。この脳筋女があたしの手を払いのけて、戻ってきやがったんだ」
「その脳筋っていうの、私の事だったんですね、ブレリアさん」
オリビアの怒りが剣身を怪しく光らせるが、ブレリアはスルー、転がる人型のそれをじっくり眺める。
「こんな筋肉じゃあ、ろくな動きもできないだろう」
「ブレリアさんみたいな筋肉フェチが言うのですから、間違いないのでしょうね」
「お前、仕返しかよ」
「魔法で身体能力を強化していたみたいだけど、俺の目にも強化している意味はなかったと思うよ」
魔人は人間を見くびるあまり、戦い方を研究していないのでは?
「おそらくは最下級の兵士だろうから油断はできないけど、今日くらいの相手なら、中級冒険者でもなんとか戦えるはずだよね。オリビアさんはどう思う?」
「ええ、あなたの言う通りだと思います。少なくとも私の相手にもならなかったでしょう」
3人目が出てこれずにゲートが消滅したのが、魔力量に関係するとしたら、色んな事が説明出来る。
どのみちこの件は今度こそ、偉い人に報せる必要があるだろう。
「では二手に分かれましょう。私とブレリアさんはエバーランス領主、オバート・フォン・エバーランス様にお伝えします。ですからギブンさんは第二王子にお話ください」
「そうですね。問題を一緒にまとめない方が懸命でしょう。では報告内容をどこかでまとめましょう」
4人はオリビアとブレリアが調査依頼を受けた村に向かい、昨晩泊まった宿で、もう一度1部屋借りるのだった。




