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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
32/120

STAGE☆32 「2人ぼっちと思わぬ再会」



 城から戻ってきた2人は宿を取って、約束の料理教室を開いた。


「ごめんなさい、また焦がしちゃった」


「あはは、食べられない訳じゃあないし、保存は避けたいけど、これで晩ご飯にしよう」


 ご飯を鍋で炊くのはギブンの担当。


 解体済みの鶏肉を切るのは任せろ。と言うのでピシュに任せたら凄く綺麗に切り分けてくれた。


 次は野菜も切ってもらうと、……ギブンは何とも表現しづらい顔になる。


 理由は簡単。ピシュは手先が不器用で、肉のように適当に切るのは問題ないが、タマネギの微塵切りなんてしようものなら、イライラしてしまって怪我をしないかとハラハラするので、ギブンは早々に包丁を取り上げた。


 材料を揃えてやれば、炒めるくらいはやれるだろうとお願いすれば、準備した半分くらいがスキレットの外に飛び出した。


 料理はほぼ初めてと言う事で、味付けはギブンが受け持ったが、最後の仕上げ、玉子を焼いてもらえば。


「玉子を焼くのって、火加減が難しいんだね」


 いや、ピシュはギブンよりも魔法制御が上手いのだから、緊張さえしていなければ、火加減を失敗するなんてあるはずがない。


「うえ~ん、フワフワ玉子のオムライスになるはずだったのに」


「はい、これはピシュの分。キミが作ってくれたオムライスは俺が食べさせてもらっていいだろ?」


「うぇっ、ふぇっ、ごめんなさい。ありがとう……」


「謝らなくていいって。さぁ、冷めないうちに食べよう。そんで今日はノンビリ休んで、日の出と共に出発しよう」


精神的ダメージの大きいピシュを、どう慰めればいいのだろう?


「もうダメだ。お料理は諦めた。こうなったら私は大陸1の冒険者になって、ギブンを大陸1の幸せなお嫁さんにしてみせる。だから私を見捨てないで!!」


 逆プロポーズ? ギブンは微妙な笑顔で「ありがとう」と言って、料理の話題には「しばらくは俺の横で見ていると良いよ」と閉めた。


 その夜、久し振りに駄天使様が降臨した。


「あんたには、この子の気持ちを教えてあげたはずだけど?」


「えーっと、本当にキミを信用してもいいのかな、って?」


 ギブンはオブラートに包むことなく、ダイレクトに気持ちを伝えた。


「わ、私は天使なのよ。嘘なんて言うわけ無いでしょ!?」


「目的のためなら、言い訳の1つくらいは平気だもんな」


「当たり前でしょ。私が良いと言ったら、もう憶測でも妄想でも」


 つまり駄天使のやりたい事を、やりたいように! 結局ギブンの言う通りではないか。


「まったく、もう子供ではないんだから、欲望に身を任せればいいじゃない」


「ピシュに教えてもらったんだけど、心の奥から真剣に祈りを捧げたら、女神様に通じることもあるんだって。今の言葉を聞いてもらおうか」


「ぎくっ!? なっ、なによ。この私を脅すつもり?」


「脅すか。俺なんかがキミをはめようと、ネフラージュ様に嘘はつけないだろ? いったい何で脅せるのかな」


 ぬぬぬっ、と唸った駄天使は、ピシュの体をベッドに戻して、意識を閉ざした。






 ピシュは大概、一晩寝ると機嫌が戻る。


 ギブンは空がうっすら白くなってきた頃に目を覚まし、速やかに準備を終えて、彼女を起こすと外に出る。


 まだ日の出を迎えたばかりで、町には野良犬くらいしか歩くものがいない。


「おまたせ」


「行こうか。目的の方角は2人で行った温泉のさらに向こう。エバーランスとの国境近くだそうだ」


「うん、ギブンは地図スキルも持ってるんだよね? 便利だな。だいたい不公平だよ。女神様から10個もスキルをもらうなんて、私、8個だったよ」


 女神ネフラージュがなにを基準にして、加護の大きさを決めているのかはしらない。


 だけどギブンがもらったのが、同情ボーナスなんだとすれば、2人の不幸の差を比べると、ピシュの方が手厚くあるべきだと思う。


「相手は女神様だもん。男の子の方を、かわいがりたくなるのはしょうがないよね」


「流石にそれは罰がアタルかもよ」


「けど今思うと、異次元収納とか自動地図作製とか、本当に便利だよね。食物図鑑は私だと上手く活用できないから、いらないけど」


「キミは自分に合った、バランス良い選択をしてるじゃあないか」


「だからだよ。後二つの枠があったら、異次元収納と地図作製をね」


 それは隣の芝は青いというものだ。


「俺が使っているところを見る前にそれを選べてた? キミの性格だと女神様の前で、全部のスロットを埋めてしまったんだろ?」


 ギブンも結局初期に10個全部を設定したわけだが、冒険を始めてから選択した分、自分の選択にあまり不満を抱いてはいない。


「……ギブンって、優しいけど厳しいよね」


「えっ?」


「こういう場合の正論って、本気で凹むから止めてよね」


 2人でお喋りをしていると移動も、あっと言う間に感じる。


探索スキルで魔物の分布を確認。


「多くがゴブリンかオークだな。クレイジーボアやタイラントベアみたいな魔獣もかなりいる」


「えっ? なんでそんな事まで分かるの?」


「ああ、食物図鑑とヒモ付けると索敵制度が曲がるって、1人で歩いている時に思いついたんだ」


「やぁ~ん、やっぱり食物図鑑も役に立つんじゃあない!」


 安全に降りられる場所は、ダンジョンになった穴からかなり遠い麓付近。


「ピシュ、いきなり囲まれても面倒だし、ここは急がば回れに従おうか」


「待ってギブン、あそこ」


 ピシュの指さす方向。


「人が襲われている!?」


「えっ? ……あれは冒険者じゃあないのか? あれっ?」


 背中合わせの冒険者が2人、他に人影はない。


「斥候とか、先行隊とかじゃあなさそうだよな」


「助けよぉ!」


「そぉ、そうだね……」


 ギブンの歯切れの悪さが気になるけど、周囲の魔獣の数は災害レベル。ピシュは広範囲に風魔法を放った。


 空からの援軍に、戦闘中の冒険者は魔獣から視線を逸らして顔を上げた。


「やっぱり……」


「えっ、なにギブン、知ってる人?」


 今はそれどころじゃあない。


「一気に叩く。ピシュはハクウの上から援護を。それから……」


「……分かったわ」


 ギブンはピシュに耳打ちをした後、群れの後方で獣たちをけしかけるように魔力を撒き散らす、一際大きいタイラントベアに斬り掛かる。


「今だ!」


「まったく、森の中で火魔法を使えなんて無茶ばっかり言って!」


 火をコントロールして魔獣だけを焼く。一歩間違えれば森が炎上するというのに、気軽に言ってくれる。


「ピシュ、流石だな」


 今のができれば、料理の火加減くらい朝飯前にやれるはずだ。


「無茶させたんだから、夕飯はお酒も出してよね」


 獣たちはパニック状態。


 囲まれて動けなくなっていた2人も獣退治に参加し、周囲の魔物は瞬く間に掃討される。


「ありがとうございます。ギブンさん」


「ギブン、お前とこんなところで会えるとは思ってなかったぜ」


「2人はなぜここに?」


「あら、吹き出しでなく、普通に話し掛けてもらえるなんて」


「お前も変われた。って事か」


 オリビアとブレリアは久し振りの顔の、大きな成長を喜んだ。


「あなた達がギブンが気にしていた冒険者? ……やっぱり女の人だったんだ」


 降りてきたピシュはオリビアの前に立ち、ハクウはブレリアにわしわしされる。


「あなたは?」


「ピシュ・モーガン、ギブンと冒険者パーティーを組んでる相棒です」


「パーティー!? そっかぁ、そうだよね。やっぱりそうしておけばよかったな。あっ、私はオリビア・シュレンコフだ」


「あたしはブレリア・アウグハーゲンだ。よろしくなピシュ」


 こんなところで知己に会うとは、思っていなかったギブンも揉みくちゃにされる。


 そう言えばピシュは、ギブンの知り合いを気にしていた事があった。


 駄天使が言っていた事が本当なら、余計な反発があるかもしれない。緊張の瞬間だったが、特にその心配は無用のよう、ギブンはホッと胸を撫でおろした。


「色々と訪ねたい事がお互いあると思うが、話はダンジョン調査の後だ」


 オリビアは剣を鞘に納めるが、ここは危険なダンジョンの側、再会を喜ぶのは後回しにして、お互いの目的を確認し合う。


「やはり目的は同じだな。それではここからは私たちもパーティーに加えてもらおう」


 ピシュはギブンの答えも聞かずに、彼の手を取るオリビアを見て頬を膨らませる。


「お前もあたしと同じ想いか。あの女は相手の気分もお構いなしに、ああ言う事のできる奴だ。油断せずに見張っておこうぜ」


 ブレリアはピシュの手を握り、語り合うことなく強敵ともとなった。

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