表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
31/120

STAGE☆31 「2人ぼっちと理解者」



 会場で挨拶を交わした雇い主から、今回の最終報酬と領主様からの招待状が渡された。


 いやそれは直ぐに来いと言う召喚状だった。兵士が豪華な馬車の扉を開いた。


 フビライは別れ際に、町の商業ギルドに言付けをしておくので、後日でいいから顔を出すようにと言ってきた。


 馬車は二人を乗せて走り出す。


「こんなに急いでいるなんて、いったい何なんだろうね? ……なにしてるの?」


 馬車の中にはギブンとピシュの2人だけ、この後の展開は理由はないけどよくないモノになる。ギブンに直感が働く。


「いや、フビライさんと一緒に飲んだお酒が、思いの外おいしかったから、ビンラット村で飲んだフリをして、異次元収納に入れておいた果実酒を飲んどこうかと思ってさ。祝杯会直前でもう飲む口になってたから」


 それはまだ15歳なのにと、もう15歳なんだからという、この世界の成人に対する認識の違いだった。


「まさか、お酒にはまったの?」


「うん、たぶんね。ただこの体は、どれだけ飲んでも酔ったりできないみたいだよ」


「えっ、そうなの?」


「おそらくだけどね。状態異常無効化で、アルコールを毒として分解してるんだと思う」


 体に害がないのなら、おいしいと思う物は飲まないと損だ。


「それじゃあ私も飲んでみようかな」


 果実酒は残り2杯、その乾杯を美味しくいただいたところで2人は宮殿に。


 そして、……地下牢に入れられた。


 どうやらこうなる事は、フビライには分かっていたのかもしれない。


 だから言伝も後日でいいと言ったのだろう。


 ギブンならすぐに釈放される。そう思ってくれているに違いない。


「なんなのここの人、問答無用でこんなことしてぇ!」


「問答無用ってキミ、思いっきり暴れたじゃあない」


「これでも随分と我慢したんだよ。見てて分かったでしょ?」


 確かにピシュは最初はギブンの様子を見て、拳を握り奥歯を噛んでいた。


「俺もキミと引き離されるのは避けたかったし、ムリヤリ身ぐるみを剥ぎ取ろうなんて、盗賊と変わらないもんな」


 できれば無駄な犠牲は出したくはなかったけど、彼女を責める気はない。


 ピシュに殴られた兵士はおそらく、全治1ヶ月以上の怪我を負っただろうけど。


「ギブンが止めるからやめたんだよ。もっと暴れられたのに!」


「やっぱり暴れたいんじゃん」


 こちらが不用意に暴れたからか、ギブン達を見張る兵士達は、こちらの問い掛けに何も答えてくれない。


「黙って従うの?」


「う~ん、けどそんな事をしたら、お尋ね者になるんじゃないかな」


「おお、懸命な判断だ」


「誰?」


 檻の外、白の上等そうなスーツ姿の青年が立っている。


「私はグレバランス小王国、第二王子ゼオール・アウグス・グレバランスだ」


 招待主がギブン達を檻に入れた張本人らしい。


「第二王子様? 初めましてだと思うけど、いったい何なの? 私たちに何の恨みがあるって言うの?」


「ああ、レディー。君を牢に入れるつもりはなかった。だがこちらの兵によれば、キミはかなり暴れてくれたそうじゃないか」


「私、なにも悪いことしてないわよ。兵士の教育も上の物の責務でしょ」


「……キミは何か申し立てはあるか? ギブン・ネフラ」


 周りに人がいては上手く喋る事ができないギブンは、話の流れを見守るのみ。


「エバーランス騎士団団長のアランド・ゲーゼからの依頼だよ。彼は私の古くからの友人だ」


 だんまりのギブンに、黙ってはいられない名が告げられた。






 アランド・ゲーゼからのタレコミには、冒険者ギブン・ネフラに王国転覆の疑い有りという一文があった。


 ギブンには自信の冒険者ランクや、レベルよりも強い魔物を使役する能力があり、先の騎士団が領主から討伐依頼された特級モンスターをテイム、領土外に持ち去った。とある書状を近衛騎士長が読み上げた。


 場所は第二王子の執務室。


「もしかしてサラマンダーの事?」


 ピシュは別室へ呼ばれたがいう事を聞かず、また暴れられても困ると、王子の許可を得てここにいる。


「ほほぉ、やはり事実であったか」


 ギブンを理由も告げずに拘束したのは、ステータス以上の能力がある可能性が高い冒険者を、警戒しての事だと聞かされてピシュも納得した。


「どうなのだ? アランドの言っている通りなのか?」


『話す前に、この光魔法での筆談を認めてもらいたい』


「おお! なんだか知らんが面白い。敬語も不要だぞ。思うまにま話せ」


 アランドはギブンがエバーランスを発った直後に火口を調査させた。


 毒をどうしたかは分からないが、サラマンダーを隈無く探したが見つからなかったと報告してきた。


 もう少し時間が過ぎた後なら、言い逃れもできただろうけど、タイミング的に誤魔化せそうにない。


 なにより、ピシュがサラマンダーの事を王子に教えてしまった後だし。


『ほとんどが書状のままだが、俺は国家転覆を目論んだりしない。何をすれば身の潔白が可能だろうか?』


 ギブンの横柄な態度は不敬罪にも値するが、王子が構わないと言っている以上、近衛騎士長も目をつむる他無い。


「身の潔白か。ならサラマンダーを私によこせ」


『それは無理だ。と言うか、どうすれば従魔契約が解除されるのかを知らない』


「ふむ、そうかそれは残念だ。確かに私も従魔契約の解除法は知らんな」


 第二王子は魔法の研究者でもある。


 実はギブンを城に来させたのも、サラマンダーを見てみたいというのが本音。


 城の中庭でコマチを召喚すると、王子は上機嫌になって祝杯会場で食べ損ねた以上の、豪華な料理を用意させて、ギブンと酒を交わした。


 明くる朝2人はかなり打ち解けていた。と言ってもギブンが吹き出し会話をやめる程ではない。


「さてギブン・ネフラにピシュ・モーガンよ。お前達に1つ冒険者としての仕事を任せようと思うが」


 昼まで寝て食事を済ませると、2人は謁見の間に呼ばれた。


 ぐずぐずだった身だしなみを整えた王子は、玉座から2人に話し掛ける。


 依頼の内容は、北の山脈に出現したというダンジョンの調査。


 冒険者ギルドから、多数の魔獣の発生が見られると報告があった。


 発生源の穴はダンジョンになっているのではないかと、騎士団の出動を要請してきたのだ。


「場所が場所だから、サラマンダーのような強力な従魔は出せないと思った方がよいだろう。それでも引き受けてくれるか?」


 これは決定事項で、ギブン達が断っても冒険者ギルド総出で調査する事は決定している。


 騎士団の出動はその後になる。


 つまりギブンたちは、この町でも冒険者登録を済ませている以上、どのみち参加することになる。


『わかった。やらせてもらおう。ただできれば、ギルドとは別行動をとりたい』


「なぜだ? ギルドにはA級の冒険者もいる。彼らの手を借りないと生還率がかなり下がるぞ」


 いくらギブンが自分に自信が持てなくても、そろそろ気付くというもの。


 ギブンには恐らくA級をはるかに凌駕する力がある。


 しかしそれをピシュ以外には知られない方がいい、今の段階では。


『ギルドの調査日程は?』


「3日後だ。私はお前がこの町に来てくれた事は、神の思し召しと感じたが、買い被りだったのかもしれんな。好きにするが良い」


 そう言うと王子は謁見の間から出て行った。


 2人の剣や杖を預かっていた騎士団長が、2人に武器を返してくれて城の宝物庫へ連れて行った。


「王子からの言伝だ。この仕事に使えそうな物、必要な物は自由に持って行っていい、食料も用意する。だそうだ」


 有り難い話だが、ギブンは食材だけをもらい、出発は明朝にすると言い残して、ギルドへ行って宿をとった。


 フビライの用件を先に済ませようとも思ったが、だいたい言われる内容の想像はついているので、それは調査の後にする事にした。


「それじゃあ今から、明日以降のフードストックを作っていこうと思う」


「それって手伝ってもいいんだよね」


「もちろんだ。キミの手料理が食べられるようになると、俺もうれしい」


 昨日、そして今日も食べた宮廷料理。


 あれに勝る物を作れるわけではないが、最高の食材を手に入れた。


 親の手伝いがしたくて、小学一年生が1人遊びに選んだのは料理の修行だった。


 15歳で死んでしまったけど、料理歴は8年。


 いつか近い将来にも、あの宮廷料理を再現してみせる。


 ギブンはその前に、思いの外不器用な相棒を慰めるスキルを習得したいと、切に願った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ