表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ぼっち  作者: Penjamin名島
29/120

STAGE☆29 「ぼっちの大乱闘」



 蟻の相手はサラマンダー親子に任せた。


『いや、蟻程度なら、ヒダカとライカだけでいけるか』


 子サラマンダーの火焔があれば、グランドアントだって簡単に焼いてしまえる。


『ピシュ、ハクウとのコンビで蜂は倒せそうか?』


「あんな攻撃、飛べる私たちには当たらないし、状態異常だって無効にできるんだから、心配しなくていいよ」


 ピシュは風魔法で蜂の羽を引きちぎる。


 ハクウもピシュが気に入ったようで、すでに連係プレーも完璧になっている。


『任せたぞ』


 戦闘と索敵を同時にこなすピシュは、ビクトリーサインをする。


 カブトムシの相手はコマチにやってもらう。


 まだ百や二百残っている蟻や蜂に比べると、カブトムシは3体のみ。


「怪獣戦争だな。巨大カブトムシ対巨大サラマンダー」


 ギブンはこの場を、ピシュに任せて、彼女が見つけてくれたゲートへ向かう。


 この分なら、北の海の時みたいに、デカ物が出てくる前にケリが付けられそうだ。


 しかしその算段は、ゲートに魔法を打ち込んだ瞬間に崩れてしまう。


「よし、ゲートの消滅をかくに……ん? 間に合わなかったか」


 ゲート消滅直前、最後に出てきたのは人の形をした何者かと、羽の生えた大蛇。


「人間か、脆弱な存在が一人で俺の前に立つか」


 その雰囲気には覚えがある。


「魔族……」


 ゲートを生み出し、魔界から凶悪な魔物を送り込んでくる張本人。


「ツァール、ここは俺が暇潰しに遊んでやるから、お前は近くにいる人間共を滅ぼしてこい」


 以前に会ったことのある魔族は、ギブンを嘗めていて実力を見誤り、一撃で滅んだ。


 そう言う増長をこいつはしてくれそうにない。


 それよりもだ。


「来い! ヴィヴィ」


 ゲネフの森で、一カ所だけ寄り道をした場所は湖だった。


「なに? キサマにも眷属がいるのか」


 ヴィヴィはギブンの思考を読んで、羽蛇を追っていった。


 名付けまえにハクウが暴れた事があって、北の海で初めての従者契約で、仲間になったレヴィアタンを召還してヴィヴィとした。


「まさかレヴィアタンと二度も戦うとは思わなかったけど、あれだけの力があれば、羽蛇にも負けないだろう」


 名前さえ付けてしまえば、ちゃんと言う事を聞いてくれるし、従者契約の魔力共有で相互的に強くなる。


「俺も最初の魔族を相手にした時よりも、強くなっているんだ。……たぶん」


「ぶつぶつと、いつまで待たせるんだ! まぁいい。我が眷属共はまた魔界から喚べばいい事。おい人間、俺は慈悲深い男だ。痛みを感じるま!?」


「えっ?」


 魔族というのは、どこまでも人間を見くびる愚か者なのか?


 相手がまだ言葉を続けているとは思ってなかったギブンは、目を瞑って格好を付けている魔族を、決闘開始前に横凪ぎしたソード・オブ・ゴッデスで、上下真っ二つに斬ってしまった。


「えーっと、終わったのかな?」


 いや、まだ終わりではない。魔人が眷属と呼ぶ魔物が残っている。


 ギブンはハクウの空中歩行を共有し、自ら宙を歩いてヴィヴィを追いかけた。


 遠くにキャラバンが見える。さらにはヴィヴィの姿。


 レヴィアタンが空を飛べると知って驚いたが、今回は本当に助かった。


「あれ? ヴィヴィだけ? 羽蛇は? なに? 食べちゃったのか!?」


 流石は悪食のレヴィアタン。何はともあれ、これで一安心。


「ではない。あの煙は? まさかキャラバンが!」


 ギブンはレヴィアタンの能力で自らも飛べるようになっているが、ヴィヴィに乗って急行した。






「なんだよ。1人でやるって行ってたくせに、どこへ行きやがった、あの透かした鎧男は!」


「まずいよ、マジキザ。あいつら玉砕覚悟だ」


「マジキザ、スタンラ、盗賊は私たちを皆殺しにするつもりよ」


「……潮時だな、ずらかるか」


 実力者を演じる余裕もないマジキザ達は、キャラバンを離れた。3人が抜けて残りの冒険者は2人。


 襲い来る盗賊の数もこの旅でも一番多い200弱。


 フビライの影武者が乗る馬車も燃え尽きた。


 野盗は1人1人はいつも通り、さほど強くはない。


 腕っ節だけで剣を振るい、魔法もほとんど使えないゴロツキは冒険者の敵ではない。


 ただし冒険者1人に10~20人が襲いかかってきて、あっと言う間に護衛は動かぬ肉の塊になる。


「はっ、はぁ~~~! 護衛はもういねぇ! 承認を蹂躙するぞ!! ぐわっ!?」


「なにっ! 水魔法だぁ~!? まだ冒険者が残ってやがるのかぁ?」


「お、おい、あれはなんだ?」


 ギブンは燃える馬車の火を水魔法で消火して、ヴィヴィを盗賊にけしかける。


 上級冒険者でも苦戦するレヴィアタンに命知らずが挑むが、動かぬ野盗が増えるだけ。


 ヴィヴィは一身に盗賊の注意を引き寄せている。だが敵はまだ多く、なかなかキャラバンから引き離せない。


「まずいな……」


「ギブン!!」


 ギブンが先を急ぐのを見て、ピシュは機転を利かせた。


『ピシュ、……虫を引き連れてきたのか!?』


「うん、レングラントに来る前にも、盗賊に襲われた話を聞いてたからね。数には数をだよ」


 蟻と蜂とカブトムシは合わせて50匹くらい、ピシュにはこれくらいなら、マズいと感じた瞬間にでも間に合う自信がある。


 ギブンとピシュは宙空で高みの見物。


 ハクウとコマチが虫たちを上手く誘導してくれている。


『ピシュ、みんなを助けよう。今なら蘇生できる人も居るはずだ』


 ピシュは再生魔法を使った事はない。


 一人目をギブンに手伝ってもらい、要領を掴んだところで二手に分かれた。


『フビライ殿! ……間に合わなくてスミマセンでした』


 幸い、依頼主の蘇生には間に合った。


 息を吹き返す中年を馬車に戻し、ギブンは他の人に飛びつく。


「あと何人だ? ……この展開はそろそろ止めにかかるか」


 野盗の数が減ってくると、逆に虫たちが商人を襲い始める。


 蘇生はピシュに任せ、ギブンは虫を退治する。


「盗賊はもう残ってないか……ピシュ?」


「どうだろう? もしかしたら、その辺でこっちの様子を窺ってるかもしれないよ?」


「いるかもしれないけど、もう襲ってはこないんじゃあないか? あれだけ数を減らしたら」


 ギブンは念のために、従魔に半径10キロの警戒を命令した。


 2人はフビライが起きるのを待って、まずは被害の確認をし、移動は諦めて野営の準備を始めた。


『フビライ殿、すまないことをした』


 ギブンが寝坊をしなければ、盗賊には襲われただろうが、魔物に出会す事はなかったのではと後悔する。


「いやいや、あなたはこうして我々を助けてくださった。命の恩人だ」


 ギブンは回復魔法があるとフビライに告げて、再生魔法の存在を隠した。


「まさか生き残れるとは思ってませんでした。影武者を引き受けてくれた従兄は亡くなってしまったのに」


 ギブン達の蘇生スキルは、死亡からの時間経過と傷の具合によって成功率が変わる。


 この時ばかりは、フビライも商隊の皆と食事の場を一緒にする。


「あの3人組の冒険者とは、長い付き合いなのですけどね。うまく逃げ延びてくれていればいいのですが」


 助けられた冒険者は4人。土に返した3人はマジキザ達ではなかった。


 どこにも姿形のない連中は逃げたものとされた。


 生き残りの食事会は寂しい物だった。


「それにしても商材がほぼ無傷で済んだのは、商人として喜ばしいことです。ビレッジフォーに着きましたら、報酬は弾ませてもらいます」


 フビライはいつも以上に酒を飲み、明るく振る舞った。


「よかったね」


「そうだな。間に合ったって、胸を張ってもいいよな」


「うふふ、ギブン気付いてる? あなた、私と会話してるんだよ」


 そう言えばいつのタイミングだったか、吹き出しを作らなくなっている。フビライの話を聞いている時は、相槌にも光魔法を使っていたのに。


「嬉しいな。ギブンって想像通りの、素敵な声でお喋りするんだね」


 ピシュの膝の上で、見回りから帰ってきたハクウが、気持ちよさそうに眠っている。


「ギブンさん、ギブンさん」


「どっ、」『どうなさったか、フビライ殿?』


「ふふっ♪」


 ピシュの微笑みを見て、赤くなるギブンは咳払いを一つした。


「なにか良いツマミはありませんか? 私、あなたの料理のファンになりました。レシピは色々頂いていますが、あなたの料理を食べたいのです」


 かなり上機嫌な雇い主、酒の肴と言われて1番に思い出すのは。


『こんなのはどうだろうか?』


 異次元収納から取り出したのは、北港都市フォートバーンで作ったあれ。


「なにそれぇ~、腐ってるんじゃあないの? ギブンの異次元収納こわれてるよ」


「ほほぉ、なんともクセのある香りですな。なんともそそられますぞ」


『マーマンの干物だ』


「干物? マーマンを乾かしたのですか? ふんふん、この香りがあのマーマンの臭みだとしたら、これは驚天動地ですね。まさかこんなにそそられる、香しい物になるとは……」


 鼻をつまむピシュは、最後まで口にする事はできなかった。


 しかしフビライとギブンはツマミを囲って、夜遅くまで楽しそうに飲み明かすのだった。


 ちなみにこの日が、ギブンが初めてお酒を飲んだ記念日となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ