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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆26 「ぼっちの相棒?」



 ピシュはギブンが部屋の中で張った結界を除去したのと同じく、時間は掛かったが重力魔法の拘束も自力で解除した。


 しかしストールは被ったまま、またギブンが布団に潜り込ないようにした。


「にしても、あなたも少しは成長したみたいね。最初はお喋りもままならなかったのに」


「いや、キミはどうやら声だけでなく、頭の中も子供みたいだから、そんなに緊張しなくてもいいんじゃあないかって」


「ケンカ売ってんの? なんなら本気で勝負してあげるわよ」


「それにしても……」


「おい、無視すんなぁ!」


「それにしても、今まで放置しておいて、なんで急に俺の前に現れたんだ?」


「……あんた、オタオタしてた方が可愛げあったわよ」


 ストールを脱いでやろうかとも思ったがやめておいた。それが子供っぽいと言われてるのだと気付いたから。


「こほん! そう、急にって話よね。えーっと、その……。あなたを放ったらかしにしたのが、ネフラージュ様にばれて、叱られて……、天界から落とされて、帰り道も閉ざされちゃったのよ」


 視線を逸らして縮こまる姿は可愛くも思える。


「堕天使になった?」


「なってないわよ! やっぱり本気で勝負しようか」


「……もしかして? これからずっと?」


「また無視した……。これからはちゃんと、あなたをサポートしてあげるわ。ただし、この子が寝ている間だけだけどね」


 ギブンの異世界生活に関わってくる? この天子様が。


「待ってくれ、そもそもその子はなんなんだ?」


「この子? だから私だって!」


「それで、そもそもその子はなんなんだ!?」


「……本当に可愛げなくなったよね」


 ピシュ・モーガンは本名である。そして彼女は。


「あなたと同じ、異世界人よ」


 しかも転生時期はギブンと同じ。というかネフラージュ様が、彼の1人前に転生させた者だ。


「その名前が気に入って、私も使わせてもらうことにしたの。そうしたら私を落とす場所に、名前の縁があるこの子に、ネフラージュ様が選んでくれたのよ」


 生まれたての天使様は、自らの姿のままでは現世には降りられず、結果、本人の承諾もあり、彼女の体に間借りさせてもらう事になったのだとか。


「……それでこの出会いを演出したのか?」


「それはただの偶然よ。この子が起きている時は、私は見ているしかできないもの」


 外が明るくなってきた。


「もうそろそろこの子が目覚めるは、いいわね。一緒に行動するようにナントカしなさいよ」


 昨日は早々に、ギブンが布団を被ってしまったので、ピシュ・モーガンも早くに眠りについたから、覚醒も早いようだ。


「えっ、ナントカって、もうそっちで上手くやってくれているんじゃあないのか?」


「私はこの子との意思疎通はできないの。私が一方的に眺めているだけだから。それじゃあねぇ……」


 途端にピシュは自分のベッドに突っ伏した。


「おい!」


「うん、……はい?」


「あっ!」


 声色が変わった。


 もう天使は出てこれないのだろう。


 しかし天使は言っていた。この子はすでに事情を知っているはず。


「おはよう、ってまだ薄暗いじゃない。……これはあなたが早々に寝てしまった所為ね。話し相手がいないから、私まで早寝しちゃったじゃない」


 ピシュは気付いた。見たこともないストールを着ている事に。


「なにこれ、なにこれ、かわいい!」


「あ、えーっと……」『それは』


「って、なにそれ、なにそれ。……ああ、吹き出しかぁ~」


 ギブンは言葉に詰まり、無意識に吹き出しを生んだ。いや焦らなくてもいい。彼女には昨日も見せている。


 また吹き出しに頼ってしまった。中身があの天使なら声が出せるが、ギブンの最大の短所は、そう簡単には直らないようだ。


「ふぅ~ん、それって勿体ないね。人と一緒にいるのって、楽しくない?」


『キミには連れがいるのか?』


「い、いないけど」


 かわいいストールが消えてしまった。ギブンが魔力をすすがなくなったからだ。


 ピシュは慌てて、サイドテーブルに置いてあった自分の服に手を伸ばした。


「いったい何なのよ!?」


『わざとじゃあない、わざとじゃあない。ただ意識が保てなかっただけで』


 ピシュが膝を抱えたから見えた足の付け根に、思考が停止した。


「そ、そういうこと……。なるほどね、魔法で服とかも作れちゃうんだ」


『それは魔法の練習で遊んでいた時に、たまたま……』


「へぇ~」


 ギブンは今になって思う。吹き出しでならあまり詰まることなく、考えを伝える事ができるようになっている。


「あなた、私が人と一緒の方がいい。と言っておきながら、ぼっちの私を心の中で笑っているでしょ」


『なんで俺が人の事を笑えるって思えるんだ。人を気に掛ける余裕なんてないから』


「ふぅ~ん、そうなんだ。……私ね、ここまで一緒にいた冒険者パーティーを追い出されたの。この町に着いた途端」


 ピシュは天使ピシュによれば異世界人。


 女神様からチートレベルの加護を受けた転生者。


『そうだ! 1つ、変な事を聞いてもいいか?』


「な、なによ」


『キミは異世界人なのか? まさか日本からやってきたのか?』


「えっ? ええー! まさかあなたが女神様が言っていた、もう一人の異世界人なの!?」


 よかった。もし彼女がギブンのように、自分の正体を隠そうとしていたのだとしたら、迷惑をかけるところだった。


「はっ、しまった。私、自分の正体を隠すつもりだったのに」


「……」


 ピシュは手に入れたチート能力が気味悪がられて、中級冒険者のパーティーから追い出されたのを思い出した。力を極力隠して生きようと心に決めていたのに。


「でもお仲間ってならいいか。そう、あなたが女神さまが言ってたギブン・ネフラだったのね。よろしく」


 ピシュ・モーガン、15歳。女神の加護は魔法を中心に振り分けている。後衛担当者。


 まさかのぼっちになって途方に暮れていたが、接近戦をメインとしているギブンとコンビを組みたいと言ってきた。


「ギブンには裸も見られたし、責任も取ってもらわないといけないからね」


 脅しているつもりだろうか? それはここの宿代で片付けると言っていたのに。


 少し考えてギブンは了承した。その証に、宿に泊まるからと移相に戻ってもらっていたハクウを紹介した。ピシュは嬉しそうにモフモフし、ハクウも悪くない顔をしている。


「なんなら夜も仲良くしてあげてもいいよ」


 という言い回しをするが、日本の義務教育が終わったばかりで、こちらに飛ばされてきた彼女には、男性経験なんて一度もない。


 それにだ。彼女は義務教育課程を修了はしていても、学校生活をほとんど経験していない。


 前世の最後の記憶は、長年眺めてきた病院の天井だった。


 ピシュの言動の根本は、いわゆるオタクと呼ばれる文化によるものだ。


 彼女の名前もまたギブン同様、ゲームのアバターに付けた物。


 無粋なので、本名はお互い聞かない事にした。


 ギブンはピシュと2人で、町に出て高級そうなお店で朝食を取ることにした。


「奢ってくれるの?」


 ピシュは所持金がほとんどない。


 前パーティーでも、所持金管理は仲間にやってもらっていた。


 追い出された時、それまでの働きを考えれば、もっと割り当てがあってよかったはずだ。


 しかしギブンと同じくらい人付き合いをしてこなかった彼女は、人の悪意に気付けず、ほぼ無一文でクビにされてしまったのだ。


「依頼を遂行中なんだもんね、しばらくは一緒にいられない? だったら私も雇ってもらえばいいじゃん」


 ピシュは冒険者ランクB。確かに雇ってはもらえそうだけど。


 だけど直ぐにフビライに聞くことはできない。


 合流時間と集合場所以外は何も知らない。明日までは顔合わせができない。


「大丈夫だよ。私なら間違いなく雇われるから」


 自信満々なピシュは、都町の観光をしようとギブンを誘った。


「生まれて初めてのデートだよ。前世では叶わなかった夢が、こんなに次々と叶っちゃうなんて、私、一生分の運を使っちゃってるかも」


 それは文字通り、転生して前世の一生分の不運を、ここで払ってしまえたのだろう。ギブンはそう思った。


「素敵な彼氏までできちゃうし」


『素敵!? 彼氏!?』


「うん、素敵だよ。若いのにこんなにお金持ちなんて! 裸見た責任、今日は私の彼氏なんだからね」


 だから宿代で精算したと、言い返そうとしたギブンの左腕は捕らわれ、絡めてきた彼女の両手だったが反射的に払いのけてしまった。


 ピシュは頬を膨らませるが、前世を引き摺ったままの彼を、責められないのは分かっている。それでも寂しさが募る。


『すまない、キミの夢を潰したのなら謝るよ。お昼は好きな物を食べていいから』


「それじゃあ宿に戻って、あなたの手料理を食べさせて」


 ピシュは性懲りもなくギブンに抱きつくが、即座に拒絶されて、また膨れっ面になるのだった。

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