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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆24 「ぼっちの護衛依頼」



 ギブンが村を出て行こうとするタイミングで、大商人を名乗る男の率いる旅団が、ビンラットに通りかかった。


「いやぁ~、本当に助かります。あのゲネフの森を通り抜けられるほどの冒険者に、こうして護衛についていただけるなんて」


 街道を歩くギブンを引き留めて依頼をしてきた。


 連れ込まれた馬車の中には、恰幅のいい金持ち感を醸し出した中年がいた。商人の名はフビライ・ハンスと言った。


「隣国リデアルド王国で商会を設けています。普段は私自らキャラバンを率いることはないのだがね。今回の依頼主がゼオール・アウグス・グレバランス第二王子様とあってね」


 前領主の時はギブンの向かう町にあった都が、第二王子が西嶺ウエルシュトークを統治するにあたって、北岸ガラレットとの領界にほど近い、クラボー連山ラヴフゥ山の麓にある、山岳都市ビレッジフォーへ遷都された。


「かなりの長旅にあたって、多くの冒険者も雇ったのですが、ここまでで2度ほど盗賊に襲われまして」


 雇った冒険者の数が、心許なくなってしまったというのだ。


 そしてなによりギブンを雇いたいのは、ビンラット村民が好意を抱く冒険者だと聞かされたからだ。


 商人は安全を確保するために、どの地方でもルートは可能な限り多めに用意するものだが、山岳部の多いウエルシュトークは、どうしても通れる道が限られてしまうので、大盗賊団が生まれやすい。


 経費は嵩んでも多くの冒険者を雇うのだが、犠牲が増えれば不安も募る。


「自分は談話が苦手だ」


 と断った上で、光魔法の吹き出しを作り『これでも大丈夫か?』と聞いた。


 フビライは動じることなく「もちろんです。むしろ見た事もない魔法を使うあなたの能力を期待します」と返しながら握手を求めてきた。


 フビライはそこで人を呼び、ギブンを他の冒険者に引き合わせるようにと指示を出した。


「なんですか、この若者は? ただの足手まといではありませんか?」


 そんなに年が離れているとは思えない剣士、マジキザ・ビビリスD級冒険者。


「私の邪魔だけはしないでね~。他の連中にも言ってることよ、気にしないでぇ~」


 厚化粧の魔法使い、タカビィ・ケヴァイE級冒険者。


「顔合わせ? どうでもいいよ。どうせまた、すぐに死んじゃうんでしょ」


 両刀の短剣使い、小柄な暗殺者のスタンラ・サンシタE級冒険者。


 他にも7人ほどが出てきたが、全員がギブンを見て鼻で笑った。


「それじゃあギブンさん、行きましょうか」


 ギブンはフビライの待つ馬車に戻る。


 外観はホロを被った他の馬車と同じに見えるが、中に敷かれた絨毯は特級品。


 座椅子も立派な革張りで、贅を凝らした内装がこの男の内面を映しているようだった。


「あの連中の事なんて気にしないでください。前金だって払っているのに、報酬ばかりを気にして、依頼半ばでリタイアしていくような輩です」


 当然達成料は支払わないが、亡くなったからと前金を回収したりはしない。


 懐をまさぐるのはいつも、同じく雇った冒険者達だ。フビライはそれを黙認している。


「キャラバンの中央に立派な馬車があるでしょ? あれには私の影武者に乗ってもらってます」


 最初に紹介された3人が影武者を護衛しているが、フビライ自身がそこまで信用していないので影武者を置いている。


「ギブンさん、あなたの実力は気になりますが、期待してますよ」


 ギブンは他の冒険者同様に前金として銀貨40枚を受け取った。


 全行程の20%毎に護衛料銀貨20枚が支払われる。今は3分の1を超えたくらい。


 片道を踏破した時には、金貨1枚が支払われると説明された。


「今回は運搬する商品の質も数も半端ではないので、護衛にもしっかり経費を掛けています」


 これだけの商隊を引き連れての移動はかなり目を引く。


 ビンラット村を出て半日、前もって要注意として警戒していたポイントで、100人を超える大盗賊団に道を阻まれる。


「盗賊を蹴散らした人数だけ、ボーナスを用意しています」


 ギブン以外の10人の冒険者が、盗賊を見るなり飛び出していった。


 影武者をほったらかしに、例の3人も飛び出したていった。


『いつもこうなのか?』


「報告によればそうですね。けれどあの3人を雇うようになって3度目の遠征ですが、彼らは危ない場面はあっても、ちゃんと生きて戻ってきているのです。私も僅かばかしですが彼らには期待もしております」


 フビライに直接は言っていないが、たぶん雇い主は察している。ギブンに殺人経験がない事を。


 前世はゲームで対人戦闘物も、モンスターハント物もプレーしてきた。


 ホラー映画やパニックムービーなんかも結構楽しめる方だった。


 この世界に来て2ヶ月、それなりに魔獣に血は流させた。でもまだ経験値が足りない。


「フビライ様、既に3人の冒険者がやられました。敵はまだ20人も減っていません」


 雇い主の馬車を任せられた御者が報告する。


『行ってくる』


「よろしくお願いします。どうかキャラバンを護ってください」


 ギブンが出てきたところで、冒険者の数は所詮8人。余裕はどこにも見当たらない。


「隠している場合じゃあないな」


 ギブンはハクウを元の大きさに戻して、商隊の後方を護らせる。


「ここでマザーサラマンダーのコマチを召還すると、大騒ぎになりそうだな」


 ギブンはチャイルドサラマンダーのヒダカとライカを呼んで、フビライの影武者が乗る馬車を中心に防御を任せた。


「なんですか? あの魔獣たちは!?」


「あの新顔が呼び出したんだよ。マジキザの旦那。あんな立派な剣を持ってるのに、テイマーだったんだ」


 剣士マジキザの問いに、暗殺者スタンラが答える。


「脳なしではありませんでしたか、負けてはいられませんね。タカビィさん!」


 盗賊団の本隊を狙うマジキザは、タカビィの魔法援護を避けながら、向かってくる連中を斬り刻む。


 暗殺者スタンラもまた、タカビィの攻撃魔法の間隙をついて前に出る。


 戦い方としてはバランスの良いチームと言えるだろう。


 しかし彼らの目標はボーナスのみ。


 フビライはキャラバンの被害を軽減するようにと指示を出しているのだが、いつも討伐ボーナスばかりを狙っている。


 だが今回はフビライのその悩みの種を、ギブンが摘んでくれるので安心していられる。


「やはり彼は本物でしたね」


 ギブンはやられてしまった3人の冒険者を癒し、ハクウたちと協力してキャラバンを護る。


 多勢に無勢でもギブンの魔力なら、魔法だけで盗賊を追い払うことができる。深追いもする必要もない。


 E級魔法使いには真似できない。連続魔法攻撃を喰らって、盗賊たちはクモの子を散らすように逃げていった。


「ちっ、まだ半分以上残っていたのに、なに逃がしてんだ! ……とんだ疫病神だな」


 余裕ぶった口調を崩して怒るマジキザだったが、雇い主が顔を出したので剣を収めて髪の乱れを直した。


「ご苦労さまでした。よく頑張ってくれましたね。助かりましたよ」


 フビライの影武者が顔を出した理由、それは今回のボーナスの精算のためである。


 当然、先頭で戦っていた3人が、討伐ボーナスは1番多かった。


 10人の冒険者に報酬を渡し、最後にギブンの前に立つ。


「なぜ、そいつのボーナスが一番高いのですか!?」


「此度の遠征で初めての被害ゼロです。その立役者の功績は高いと判断しました」


 マジキザは仮雇い主に食ってかかるが、約束のボーナスを取り上げでもされたら、たまったものじゃあない。しばらく影武者を睨み付けた後、受け取った報酬を袋に入れて引き下がった。


 当たり前の様にギブンも睨んでいく。


「お疲れ様です。いやぁ~、すごいですね。脅威度の高い魔獣を使役しているとは、本当に恐れ入りましたよ」


 本雇い主から拍手を受けて、馬車に入るとフビライは小型化したハクウに関心を持つ。


「ウイングタイガーに小型のサラマンダーが、どのくらいの脅威度の魔獣かは知りませんが、並の人間では手も足も出ないというのは分かりました。では食事にしましょう」


 長距離の護衛依頼は、中級冒険者には人気が高い。


 その理由の1つが食事付きである事。


 ギブンは時間ができると自炊して異次元収納に入れているので、他の冒険者ほど重要視してはいない。


「うまい」


 素直に心から出た言葉に、自分が一番驚いた。


「お気に召した様でなによりです」


 商隊は雨が降りさえしなければ、外で食事を取るのが通常。だがフビライだけは馬車の中で食べる事にしている。


 そこにギブンは同席を求められた。


 料理を持ってきた調理担当者が毒味を済ませて、外に出て行くと、フビライはグルメ遍歴を披露し始め、合わせてギブンがどんな物を好むのかを聞いてきた。


 話の流れから、ギブンはアツアツのデミグラスハンバーグを振る舞う流れになる。


「これがシチューと言う物ですか?」


『いや、これはハンバーグという』


 フビライは毒味もされていない、ソースたっぷりのハンバーグにかぶりついた。


「なるほどなるほど、確かにこれはおいしいですね。けどね私、この味に覚えがあるんですよ」


 ビンラット村で聞いた話で、フビライがギブンについて一番気になったのが、彼の料理だった。


「ギブンさん。あなた、異世界人ですね」


 ギブンのスプーンを持つ手が止まった。

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