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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆23 「ぼっちの冤罪」



 シーラと妹のニーナとの夕飯を終えて、小屋に戻ったギブンは本格的に眠りについた。


 この世界に来て一番穏やかな眠りを得た気がする。


 そして朝起きたら、縄で縛られていた。


 開いた目には天井ではなく、良く晴れた空が眩しく映える。


 シーラの声がする泣き声だ。大勢の大人の怒鳴り声もだ。


「ただ大人しく一晩小屋にいる分にはと、宿を紹介してやったがよ!」


「村長がいないからって、子供を襲うなんて!」


 子供を襲う? 一体誰の話だろう?


 どうにも話が見えてこない。


「朝になって村長のところに様子を見に行ったら、2人ともギャンギャン泣いていたんでしょ?」


 大勢が喋っているけど、聞き覚えのある声は3つだけ。


 泣いている女の子2人と、大声で怒鳴りあう中にいるらしい、ギルドマスターの声。


「おい、目を覚ましたぞ!」


 上から覗き込まれて怒鳴り声と一緒に、大量の唾も掛けられた。知らない顔の男だ。


「おい、いつまで横になってやがる。立ち上がれ」


 腕と胴をぐるぐるに縛られて上手く動けないのに、なんて強引な。


 そうか、なにか誤解をしているに違いない。身の潔白を証明すればこの騒ぎは治まるはず。


『……』


 無理矢理ギブンを立たせて怒号を浴びせてくる大人達が怖くて、光の吹き出しを浮かばせる事ができない。


 剣と鎧も取り上げられ、こんな状態で魔法なんて使ったら、ますます反感を買ってしまう。


 恐らくは村人だろう人達の興奮が治まって、子供達が泣きやむのを待つのが得策だろう。


 2人の子供はまだ泣いているが、1人は直に泣き止んでくれそうだ。


 しかしこの状況は恐怖でしかない。ギブンはなるべく怒号が耳に入ってこない様に、無心に努めるが、その態度がかえって群衆の怒りを助長させているようで、どうにも収拾がつかない。


 そして大人が喚く度に、子供の泣き声が大きくなる。


「みんな、何をしてるんだ?」


「おお、アーゼ。帰ってきたか」


 アーゼ・レンネ。シーラに聞いていた彼女の父で、この村の村長だ。


「アーゼ! エネイラ! 落ち着いて聞けよ。こいつはエバーランスから来たって言う冒険者だ。宿泊小屋を貸せと言うから、お前の家を教えてやったんだが、まさかお前らが留守にしていたとは知らなかったんだ」


 大人しくしていれば、一晩くらいはと思っていたそうなのだが、昨晩2人の子供達だけの村長宅から出てきたギブンを見かけて、何かをしでかしたと思い込み、問答無用でふん縛った。などと言っている。


 ようやくギブンにも事情が見えてきた。


 子供達は両親が帰ってきて、幾分落ち着いた様だが、ギブンの拘束が解かれるには、今しばらくの時間が経過してからだった。


「……本当にすまなかった」


 母親が子供達から話を聞いてくれた。


 優しい冒険者とお話をして、2人の夜が寂しいだけでなかった事に感謝する。


「オーネル、お前は興奮すると凶悪犯丸出しになるから気をつけろって、いつも言ってるだろう」


「アーゼ、てめぇ、いい度胸してるじゃあねぇか。この俺にケンカを売ろうってのか?」


 酒場の店主は、明るいところで改めてみると、確かに堅気かたぎには見えなかった。


 興奮すると声も大きくなって、いつもいつも村の子供達を、意味もなく泣かせてしまっているそうだ。


「まぁまぁ、アーゼも人の事は言えないんだから。オーネル、ウチの子達を気遣ってくれてありがとうね」


 2人をなだめる母親の身も蓋もないフォローで、騒ぎは治まり締めくくられた。


 ギブンの疑惑も解消されて、村人達は居心地悪そうに解散した。


 場所を酒場に移して、村長家族とギブンは会食の場を設けた。


「ねっ、スゴイでしょ、お兄ちゃんの吹き出しの光魔法」


 シーラが間に立ってくれたので、筆談もすんなり受け入れてもらえた。


 エバーランスでは可能な限り使わないでいようと思っていたが、やはり便利な筆談も、やり方次第で問題なく受け入れてもらえる事をギブンは学んだ。


『というわけで、冒険者登録のできる町を、目指している』


「へぇ、エバーランスの貴族様に目を付けられたねぇ。そう聞かされると、なんだか親近感を覚えるね」


 隣に座るアーゼは、村に起きた事件を知るギブンの肩に腕を回す。


「聞いていたかオーネル! その直ぐに思い込む癖、今度こそ直せよ」


「ああ、うるせぇ。さっきちゃんと謝っただろう!」


 ここの食事は店主持ち。せめてもの謝罪の気持ちだ。


「そうだ! お兄ちゃん、昨日のシチュー」


 シーラはお父さんとお母さんにも食べさせてあげたいと、夕飯の時に言っていた。


 異次元収納から寸胴を取り出して、まだ2日くらいはあると思っていた残りを振る舞った。


「お母さん、これ作ってぇ」


「ええっ!? すごくおいしかったけどお母さん、この料理知らないわよ」


「えー、ねぇねぇ、お兄ちゃん。お母さんに作り方を教えてあげてぇ」


 それは困った。エバーランスはここに比べると大都会と呼べる町だ。


 いろんな調味料やスパイスが揃っていたから、この味が出せたのは間違いない。


「これがレシピ? ……聞いた事もない材料が多いわね」


 オリビアからもらった筆談用の紙が残っていたので、細かく作り方を書いて渡したが、予想通りこの村では手に入りにくい調味料が結構ある様だ。


 ギブンは手持ちの調味料を渡した。


「あら、いいの?」


『これから向かう町で、補充すればいいだけ、なので』


 どう考えても他に手はない。シーラの期待の目に応えるためには。


 酒場の厨房を借りて、エネイラにシチュー作りを披露する。


 当然店主のオーネルも横目で覗き見をし、後にシチューはビンラット村の風土料理として、調味料も自給できるようになるのだった。


「と、それにしてもギブンくん。君は歩いてエバーランスからやって来たと言っていたね。8本の馬車が運行しているとは言え、週に2本しかない乗合馬車でも5日ほどかかる道程を徒歩でなんて、常識では考えられないのだが」


 馬を休まず走らせても2日かかる距離。


 異次元収納があるとは言え、余程の粋人でも選択しない旅路だろう。


『ゲネフの森はご存じか?』


「ああ、エバーランスとの領界もある深い森だね。かなり強い魔物が棲息しているという」


『あそこには森を突っ切れる、歩くのがやっとの小道がある。順調に行けば3日で、歩いて来られる』


「なんと、そのような近道が? なるほど君はかなり上位の冒険者の様だね」


「いいや、そいつはD級。あの森の魔物とも戦えなくはないが、3日も彷徨うろつけるほどの実力ではないはずだぜ」


 流石はギルドマスター。無理矢理やらされているとは行っても、最低限の情報は頭に入れているオーネルを誤魔化せそうにない。


 ギブンは村長とギルドマスターに、子供達と遊んでいるハクウを呼んで紹介する。


『運良くテイムできた魔獣です』


「ほぉ、小さいがこいつはそんなに強いのか?」


 詳しい話はしない方が良さそうなので、オーネルの問いに、ギブンは笑顔だけを返しておいた。


 食後にコーヒーを頂き、ギブンは立ち上がった。


「えー、もう行っちゃうの?」


 別れを告げるとシーラとニーナが泣き出してしまった。


 10歳になるシーラはすぐに落ち着いてくれたが、5歳のニーナはぐずついたまま泣きやんでくれない。


 子供の慰め方なんて知らない。


 ギブンは抱きついてくれるニーナが、泣き疲れるか落ち着いてくれるかを待つしかない。


「ほら、ニーナ。お兄ちゃんにあれ、上げるんでしょ?」


 泣きやむのを待たずして、シーラに助けられた。


「……これ、あげる」


 ニーナから差し出されたのは小さな花が一輪。


『いいのか?』


「うん、だからおにいちゃんも、ニーナのことわすれないでね」


 忘れられるわけがない。家族以外からもらった初めての贈り物。


 可憐な白い花は放っておけば、すぐにも枯れてしまうだろう。


 けれど異次元収納の中なら、時間が経過する事はない。


 でもどうせなら時々取り出して、眺めたいとも思う。


『押し花にしてもいいか?』


「うん、いいよ。いいよねニーナ」


「うん!」


 ようやく笑顔を取り戻してくれた。


「なぁ、お前さん。冒険者の登録はここではしてやれんが、用事が済んだら、この村に帰ってこないか?」


 あれほど冒険者を毛嫌いするギルドマスターが、ギブンを呼び戻そうとするなんて。


「それはいい。君が戻ってきてくれるというなら、それまでに村人全員に理解してもらっておくよ」


 自由でいられる居場所を望むギブンに、それは理想の申し出と言えるのではないか?


 けど先の事なんて分からない。


 平和でいられた日本とは違うこの世界で、破りたくない約束をするなんて……。


「無理にとは言わんが、考えておいてくれ」


 ギブンの表情を読んで、オーネルは冒険者の背中を叩いて大きな声で笑った。


 怖がるニーナが泣き出したのは、良くある光景だという話だった。

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