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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
18/120

STAGE☆18 「ぼっちと召還獣」



「なんだあれ?」


「見た事あるか?」


「えっ、魔獣なの、あれって?」


 騒ぎ立てる観客、ギブンの手に集中した魔力は魔法陣を浮かび上がらせ、そこから一匹の真っ白い獣を出現させた。


「あいつは!?」


「知ってるのか、旦那?」


「いや、知らんが途轍もない魔力を秘めているのは分かる。おいキサマ、それはなんだ?」


 アビセルの焦りが手に取るように伝わってくる。


 答えてやりたい気持ちもあるが、ギブンが考えをまとめられる状況ではなかった。


『あれはいったいなんなんだ? 突然壇上に現れたようだが、危険な魔獣ではないのか!?』


『あれは召還獣。エバーランスの冒険者、ギブン・ネフラがテイムしたA級魔獣です』


『オ、オリビア・シェレンコフさん!! 解説、ありがとうございます。しかし召還獣ですか、召還魔法なんてレアなスキルを持った人、始めてみました』


『しかし初めての召還で、ホワイトウイングタイガーを呼び出すとは、まったく大したヤツだぜギブン』


『おお、ブレリア・アウグハーゲンさんまで!』


 ホワイトウイングタイガー、あの北港都市フォートバーンの戦いの後で、マーマンの干物を作っている時に、ニオイにつられて出てきたところで、人魚肉を食べたマーマンの干物をあげると、一発でギブンに懐いてきたので、試しに魔法をかけたら契約できてしまったとギブンが語ってくれた。


『これで数の不利はなくなった。ここからの戦い、目が離せなくなったぞ!!』






 召還獣であるホワイトウイングタイガーは、主と精神で繋がっている。


『2人には感謝する』


 契約を交わした魔物を従わせるためには、名前を付けなくてはならない。


 オリビアが教えてくれなかったら、2人を相手に模擬戦をしたあそこで、逆にホワイトウイングタイガーに襲われてしまっていたかも知れない。


 そう言うのをサポートしてくれるはずだった、あの天使に見捨てられたギブンだったが、ギリギリのところで運に見放されずに済んだ。


「ハクウか。いい名前じゃあないか。それになにより強そうなのがいい」


「ブレリアさん、ハクウはギブンさんの召還獣ですよ」


「分かっているさ。しかしこうして契約が成立したって事は、ギブンはこいつの固有スキルを使えるようになったって事か」


 ハクウの固有スキルとは? ギブンは食物図鑑を見るが、ホワイトウイングタイガーに食べられるところはないようで、詳細は一切載ってなかった。


「翼のある白虎……、もしかして、浮遊ですか? ブレリアさん」


「正解だオリビア、こいつの翼は伊達じゃあない。こいつは海を渡れるほどの飛行能力があるんだぜ」


 ただしホワイトウイングタイガーは翼はあっても、鳥のように羽ばたくわけではない。


『空中を蹴って飛んでいる』


 ハクウは飛ぶのではなく、宙を跳ね回る事ができるのようだ。


「こいつは確かに羽ばたかないが、滑空はできるから、結構早く移動できるはずだぞ」


 虎人族であるブレリアにとっては、ハクウは同族も同然。お陰で色々と詳しく聞く事ができた。


「それはそうと、こいつが食べたという、その絶品の干物は、あたしらには食わせてもらえないのか?」


 こうして王都に到着するのが遅くなったが、アビセルとラビアスを待たせずに済んだのは幸いだった。


 難癖を付けられないように急いで闘技場まで来て、流されるままに壇上に登ったギブンだったが、決闘イベントは既に大詰め状態。


「ダメだ旦那。悪いけどアタシはここで降参させてもらうぜ」


 召還された魔獣を頭上にして、ラビアスは戦意を喪失した。


「ちょっと待ちたまえ、ラビアスくん。これは世間知らずに制裁を加える為の催しだ。あのような魔物が出てきた以上、力を合わせて……」


「悪いな。そもそもアタシはあんたほど、こいつに敵意はねえんだよ」


 ブレリアがお気に入りにする男が、どんなモンなのかを見たかっただけなのだから。


「……まぁいい。新人の1人くらい、私だけでも!」


 ギブンのランクは別として、A級の魔獣を従えていては、さしものS級に匹敵する実力を持ったアビセルでも、一人で勝つことはできなかった。


「流石でしたね。ギブンさん」


 闘技場を後にしようとするギブンは、観衆に揉みくちゃにされた。


 流石に人の群れに卒倒しそうになるギブンだったが、精神で繋がるハクウは主人の危機を感じ取り、観衆の中に舞い降りた。


 パニックを起こす人だかりの中からギブンを助け出し、まだ闘技場にいるオリビアとブレリアの元へ連れて行った。


「面白い出し物だったな。……それはそうと、用が済んだのなら早く還してやれよ、ハクウをよ」


『それが、なぜか還りたがらなくて……』


 ハクウはギブンの側で、喉を鳴らして首周りを擦り寄せてくる。


「はははっ、そうかそうか、お前の気持ちは分からなくもないぞ。でもその姿のままだと、間違いなくギブンに迷惑だからな。ずっと側にいたいって言うのなら、自分でどうにかしろ。その翼を折りたたんで小さくなるんだな。なれるのよな」


 ブレリアの言葉を理解したハクウは翼を隠し、子犬サイズになった。


『おおー、スゴイ』


「なぁ、なっ、なっ、なっ」


 感動するギブンとハクウの間にオリビアが割り込んできた。


「かぁ、かっ、かっ、かっ、……かわいい~~~」


 子犬、いや、大きな仔猫を抱きかかえて、もふもふするA級冒険者。


 これなら街中を一緒に歩いても、騒がれる心配はない。


「本当にびっくり箱みたいな男だな」


「びっくり箱と言えば、フラン嬢だな」


 オリビアは我に返るが、ハクウをもふもふする手は止めようとしない。


 エバーランス領、領主令嬢フロワランス・フォン・エバーランスとは、この闘技場で思わぬ再会をした。


 この国、グレバランス小王国では15歳で成人となる。


 まだ11歳の第七王子は形式上は国王として公務をこなしているが、即位は4年後という状況だ。


「まさかとは思いませんでしたが、このタイミングでの婚約発表には驚きましたね」


 フランはこの後、エバーランスの邸宅まで、ギブン達が送り届けることになっている。


 3人は王宮へ行って国王に挨拶をした時にそう言われ、フランを乗せた馬車は走り出した。


「なんなのです、なんなのです、ギブン様、この子ください!」


 それは想像通りの反応だったが、小さくなったハクウは女性陣に大人気。


「お嬢、そいつはギブンの側から離れらんねぇから、貰うのは無理な話だぜ」


「ならばギブン様は私専属の騎士になって頂くという、兼ねてからの私の願いを聞いて頂くまでです」


 聞き分けのいいお嬢様ではあるが、強引で先走る癖がある。コミュニケーション能力の皆無なギブンは、ここまで振り回されてばかりだった。


「残念ながら、エバーランス冒険者ギルドが、許してはくれないと思います」


「なぜですの、お姉様?」


「それはギルドに付いてからの話です。そんなことよりフラン嬢、婚約の話ですが……」


 トークは女子向けの物に切り替わり、ギブンはいつも以上に声を出せず、苦笑いを続けるばかり。


「……!」


 徐にギブンは窓の外に目をやる。


「気付いたか、ギブン!」


『はい、魔物ですね』


 ギブンは索敵スキルをオンにしたままだから、かなり離れた場所の集団にも気付く事ができるが、ブレリアの方が先に察知したみたいなのには、正直驚かされた。


「どんな魔物ですか?」


「そこまで分かるはずがないだろう」


『マンティコアです。ハクウが教えてくれました』


「へぇ、こいつそんな能力もあるのか」


 いや、索敵はギブンのスキルで、ハクウには魔物の正体を聞いただけだが、勘違いしてもらっておいた方が何かと助かる。


「マンティコアですか、人の顔を持つ獅子の魔獣で、サソリのしっぽを持っているヤツですね」


「毒持ちかよ、マズいな」


『ブレリアさん、どうしたんですか?』


「ギブン、お前毒消し持ってるか? 或いはアンチドーテ魔法を使えるとか」


『いいえ、どちらも……』


「毒消しはマーマンとの戦いで使い切りましたからね」


「王都で補充するはずが、忘れてしまったからな」


 マーマンは毒を持っているわけではないが、毒消しが消臭効果があることは有名である。


「どうしますか、ブレリアさん?」


『俺が行きます』


「待て待て、マンティコアの出すのは猛毒なんだぞ!」


『大丈夫です。俺は後からハクウに乗って帰りますから、先に行っててください』


 オリビアとフランも引き留めようとするが、勢いよく音を立てて扉を閉じたギブンは走り出した。

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