STAGE☆120 「ぼっち男は決意する」
「なんで、あの二人が倒しちゃうかなぁ~」
映像はそこまでだった。
「結局、勇者パーティーの実力を確認することはできなかったな」
「心配する事ないんじゃあない? 見たもので全部でしょう。勇者が側にいれば、もっと強いはずだっていうあなたの想像を引っくるめても」
勇者の仲間は歯が立たなかった上位の魔物をオリビア、ブレリアとマハーヌは従魔との同調をなしに、あっさり倒してくれた。
勇者のバフが掛かっても、オリビア達が勝てない相手ではないだろう。
確かにエミリアのいう通り、なのかもしれない。
「場合によっては3人とも勇者の仲間として、ここまで来てもらうつもりだったが、そんな小細工は必要ないのかもしれないな。テンケ、悪いが3人を呼び戻してくれないか?」
「任されたっす」
テンケはよく働いてくれる。イヤな顔1つせず。
なぜ勇者は彼を追い出したりしたのだろう?
「あの子、健気よね」
走って出て行くテンケを見送り、腕組みをして、右手をアゴにのせたエミリアは微笑する。
「本当なら勇者の仲間として、敵としてここに来るはずだったんだよな」
「今はああして誰かさんのために、頑張ってるのよね」
「誰かさん? いや、本当に感謝してるよ」
エミリアは溜め息を溢し、それを見ていたビギナは不機嫌顔になり、バサラは苦笑いを浮かべる。四天王ラージはとても楽しそうだ。
それからの1ヶ月は特別な事もなく、ギブンは人間界と魔界を行き来していた。
そう、特に何事も……。テンケが3人を5日で連れ戻してきたものの、三人の勇者パーティー登録は抜けておらず、オリビアとブレリアが暴れるので、エミリアが用意してくれた隔離部屋に入ってもらった出来事以外は。
「この部屋、あと何日もつ?」
魔界に行っていたギブンが戻ってきた。
「この分だと、あと半日といったところかしら」
中ではテンケに騙されて魔族軍に捕まったと、誤認するオリビアとブレリアが暴れている。
「マハーヌは正気なのか?」
「どうかしら? 暴れたりはしていないけど、まだ何とも言えないわね。けれど三人とも、わたしの事は覚えていてくれたわ」
記憶をすり替えられている訳ではない。
ただ何かに支配されているのは間違いないと、エミリアは分析している。
「一番ヒドイのはブレリアね。気性の粗さの違いかしら」
エミリアが話を聞こうとした時には、すでに暴れ出していた2人。
どうにかこうにか個室への誘導に成功し、危険回避のためモニター画面越しに対面したところ。
「私の顔を見た途端に名前を呼ばれて、モニターを叩き潰されたわ」
モニターに仕込んだカメラも同時に破壊され、エミリアは別のカメラにスイッチ、最初にモニターを叩き壊したのはブレリアだったが、オリビアも一緒になって画面をスクラップにする姿が映っていた。
「武器は取り上げられなかったのか?」
テンケが勇者パーティーから離脱して、ギブンと行動していることは3人とも覚えていたそうだ。
それなのにテンケの「ついてきて欲しい」という言葉に、黙って付いてきたと言う。
「これは憶測だけど、勇者はテンケを敵と思ってないんじゃあないかしら」
言われてみれば勇者とは直接話したこともない間柄だったとテンケは言っていた。あの呪いのアイテムもジオウからだと言って、仲間の戦士に渡されたものだったらしい。
「つまり勇者がどう認識しているかによって、ブレリア達の行動が変わるっていうんだな」
となるとエミリアの噂をジオウは知っていると言う事になるのか?
軍需国ヒュードイルの風変わりな研究者として、エミリア・ラズヘイドは悪名高い。
そんな彼女が魔王軍と共にいるとなれば、噂は瞬く間に広がり、旅をする勇者が噂を耳にしていても、なんら不思議はないだろう。
「って、そんな噂程度で、そこまで激怒するもんか?」
「もしかしたら私が、ここ最近あなたと仲良くしてるのが、あの二人は気に食わないのかもね」
「友達と仲良くしてるからって、そんなことで怒るか?」
ギブンはとにかく話をしようと、三人が隔離される部屋の中に入っていく。エミリアが機嫌を損ねている事に気付くこともなく。
「おかえり、三人とも」
「ギブン・ネフラ!?」
男の顔を見るや否や、ブレリアが斬りかかってくる。
ブレリアの戦斧が自分に向けて振り下ろされるのも、懐かしいくらいに久し振りのこと。ギブンは剣を両手で支え、正面から受け止める。
「こいつはシャレになってないな」
初見で、油断していたとしたら、ギブンの手の中に剣は残っていなかっただろう。
ギブンは更にパワーアップの身体強化魔法をかける。
「そんな大きな斧を、よくあんなスピードで振り回せるもんだ」
魔力にはまだ余裕があるので、ついでにスピードアップもする。
「これなら、なんとか、なるか!」
最初は受け止めるどころか、彼女の動きを目で追う事もできなかった、出会って間もない頃を思い出す。
あの頃より数段重い一撃が、あの頃より素早く、そして鋭く切りかかってくる。
「なっ!? 待てよオリビア!!」
「いつまでブレリアさんとだけ遊んでいるのです。この浮気者」
2人の間に割って入ってきたオリビア。彼女の剣筋も出会った頃とは比べ物にならないほど鋭くなっている。
「あなたを殺すのは私ですよ」
限界まで魔力強化してようやく、なんとか凌げる程度だ。ギブンは魔法に頼りきりで、技はスキル任せにしてきたことを少し後悔する。
「だがこの速度ならなんとか……」
ブレリアとの対峙で握力が落ちている。これ以上あの戦斧を受け止めるのは辛かったが、オリビアの剣圧ならまだ耐えられる。
「はん、オリビア替われ! お前の力じゃあギブン・ネフラは倒せん!!」
「あなたの目は節穴ですか、私の剣が彼を追い込んでいるのが見えませんか?」
ここで一番避けたいのは二人同時に相手する事。いずれもジリ貧だが、1人ずつならまだなんとかなる。
「いいえ、次は私の番なのですよ。そして私とは魔法で勝負するのですよ」
オリビアとブレリアが揉め始めるのを見て、それまで静観していたマハーヌが出てくる。
ギブンは剣を収納する。どうやら彼女たちは一対一をご所望のようだ。
「マハーヌの使うのは精霊魔法。それも属性魔法ではなく、精霊から力を借りる魔法だったよな」
人魚は魔力を込めた両手を合わせて祈りを捧げる。
「サラン、お願いなのですよ!」
マハーヌに喚ばれて出てきたのは、日本のオモチャ売り場で見た事のある、“着せ替え人形”と同じくらいの大きさの人型をした火の塊。
同じような形をしたその複数の人型はギブンの周りを飛び回り、無数の火の粉をぶつけてきた。
「どうですか? 私の魔法はあなたを殺せますか?」
魔力障壁を解けば、あっと言う間に消し炭になってしまうだろう。
3人とも本気でギブンを殺そうとしてくる。
なのに連携したり、従魔を喚び出したりしてこないのはなぜか?
けれどそのお陰で、ギブンにも隙いる余裕が残されている。
「邪魔をするな、ギブン・ネフラの首はあたしがとる!」
「いいえ、私です。私の剣が男の首を落とすところを見てなさい」
「サラン、次の一撃でキメるのですよ」
ブレリアが斬りかかろうとするのをオリビアが食い止め、マハーヌが今一度サランに命令する。
指向性のある爆風が飛び掛かってくるのを、魔力障壁で逸らせてやり過ごす。
「いつまでものらくらと! いいかげん誰に殺られるか決めろよ。いや、あたしにササっと殺されな」
正面に戦斧を担いだブレリア、左後方に剣を構えたオリビア、右後方でマハーヌが水の精霊を喚びだした。
今度こそ一斉に襲いかかってくるのか、流石に反撃なしでは躱しきれないだろう。
剣を出して構えるギブンの頬に冷たい汗が流れる。
「さぁ、誰を選びますか?」
「みんな、その答えを聞きたかったのですよ」
感じる殺気は本物、3人とも本気でギブンを殺そうと考えている。
ギブンは誰に刃を向けるのか……。
「おれは……」
ギブンは答えを迫られる中、3人との出会いの場面を思い返す。
「オリビア、ブレリア……」
この世界に来て初めての大仕事で、まだコミュニケーションがうまく取れずにいたギブンの面倒を見てくれた2人は、その後も何かと気遣ってくれて、好意を寄せてくれた。
「オレは……、マハーヌ」
生まれて初めて出会った人魚は、大量発生した魔物に怯えながらも、ギブンと共に仲間のために奮闘した。
師匠である海の魔女から修行を受けて、苦手だと言っていた精霊魔法をものにした。
極度の方向音痴なのに、奇跡的な再会をした事も。
「俺は……」
ギブンは覚悟を決めて言葉を返した。




