STAGE☆12 「ぼっちの問題点」
ギブンは馬車に揺られながら、この世界でのこれまでを振り返った。
前世では結局、1人の友人も作れずに、家族とすらまともな会話ができなかった。
それは全てにおいて、自信が持てなかったからだと思っていた。
ある日の街中で思いも寄らず、通り魔事件に巻き込まれて死んでしまった。
神の手により転生をした1人の精神は、二度目の人生を送る事になった。
足りなかった自信も女神様に色々もらい、新しい世界では勝ち組になれるはずだった。
飛ばされたのは人っ子一人いない森の中、そんな場所でも1人で生きていける自信を、魔物を狩る事で手に入れた。
胸を張り意気揚々と人里を目指したが、それでもどうしても直せなかったモノがあった。
対人恐怖症である。
人と、特に女性と言葉を交わすと緊張してしまう。前世の軟弱な神経が災いした。
「ブレリアさん、あなたはどうして、そんなにギブンさんに固執するのです?」
「なんだA級冒険者のオリビアは、こいつの魅力にも気付かないのか?」
「ああ、そういう事ね。ブレリアさんのご先祖様は獣人だったのよね」
「ど、どういう……?」
苦手意識の強い女性に挟まれて、萎縮しながらも声を出せたのは、ギブンにとっては大きな進歩だった。
「ギブンさん、あなた冒険者になって、自分のステータスが見られるのを、まだ知らないんですか?」
冒険者になる前から知っているけど、この場合、首は縦と横のどっちに振ればいいのか。
「まぁ、いいでしょう。今、確認してください」
悩んでいたらオリビアに勘違いされてしまった。
「念じてください。最初は難しいようなら目を閉じて」
言われるままにしてみよう。そんな必要はないけど目を閉じて、暗闇の中にステータスが浮かび上がる。
「筋力、敏捷、耐久、知力とあって魅力と数値が付いているでしょう」
「は、はい」
「たとえば私の魅力は1011あります。スキルを習得してテイマーになれば、使役できる魔獣の数はかなりのモノになるでしょう」
「まぁ、どんだけ魅力が高くても、雌のあたしは、同じ雌のこいつに靡いたりはしないがな」
そんな事より気になるのは、テイマースキルのこと。
魅力が高ければ、人間関係が円滑に行く。そう思っていたギブンだが、どうやらそれは大いなる勘違いであったようだ。
「それにしてもなんて偏ったというか、なぜ知力と魅力だけがこんなに突出して高いのでしょう」
気が付けばオリビアは審判の宝珠を取り出していた。当然見られたのは詐称されたステータスだが、油断も隙もあったものではない。
聞けば神具のレプリカらしいが、その能力は本物と遜色ないという。まさかそんなモノがあろうとは。
いやいや、そもそもエバーランスのモノもレプリカである。ギブンが知ることはないが。
「……にしても」
「どうかしましたか、ブレリアさん」
「いや、この程度の数値の魅力で、こんなに惹かれるモノなのかと思ってさ。アタシは獣人の血が混じっているとは言え、ほとんど人間と変わりないほど、古いご先祖様の話だからさ」
まさか千やそこらの魅力に揺さぶられるはずがない。と言いたいらしい。
これに焦るのはギブン、会話を変えたいが、悩めば悩むほどにテンパってしまう。
「なにも不思議ではありません。生まれつき特化したステータス持ち。という人はいるものです。数字以上の効果を発揮するなんてのも、稀ではないんですよ」
助け船はオリビアから。
「むしろブレリアさんが単純だから、魅力がそうでもない数値の男性にも、シッポを振ってしまってるんでしょ?」
「おいオリビア! いくらお前でも許される事と、許されない事があるんだぞ?」
ギブンを挟んで2人は揉め始め、改めて意見を伝える事の重要さを考える男だった。
北岸ガラレット領、北港都市フォートバーンは、確かに困窮していた。
だがここの住人は海とともに生きる道しか知らず、ほとんどの者が避難すら拒んでいると聞く。
「魔物は全部水生種、とは言え陸でも活動可能なマーマンがメインです」
3人はギルドへ向かい、そこで最低限の情報を得た。
魔物の巣も海にあり、騎士も冒険者も発生する魔物を駆除するのが精一杯で、岸から10㎞あたりに見えるゲートは、日に日に大きくなっていて、そこから沸いくる魔獣は徐々に強くなっているそうだ。
「結局、第四王子が連れてきた東部アーグルーシア領の騎士団も、ただ食料を浪費しただけで、無駄飯ぐらいはとっとと引き返せと、第三王子に言われたらしい」
同じく王都の騎士団も追い返されてしまい、協力者は冒険者だけになったとブレリアは聞かされた。
「フォートバーンに残った騎士隊は、第三王子アレグア・ルブラン・グレバランス様率いる近衛騎士と魔法師団のみ」
人間相手の戦には強い騎士や兵士でも、魔物の相手は冒険者の方がよっぽど成果をあげてくれる。
無駄に兵士が浪費していた食費を報酬に上乗せされると聞いて、冒険者のみんなは士気を高めているが、それもいつまで保つのかと言う話になっている。
「魔物だけでゲートが消滅するならいいけど」
「どういう事ですか、ギブンさん!」
しまった。つい心の声が外に漏れてしまった。
「……あなたは魔族を見たのではありませんか?」
オリビアの疑問系ではあるが、その問いは確認を意味している。
「あなたがなぜ、実力と実績を隠したがるのかは分かりませんが、これは重要な事なんです。包み隠さずに教えてください」
「魔族は、いた。俺を見て、油断した。先手を許さ、れて、剣で、討ちとった」
2人はテーブルを挟んだ反対側に座っていてくれて、目を瞑ればギブンでも少しは落ち着いて話す事ができた。
「なんとも辿々しい喋り方だな」
「ブレリアさん、それは今はいいんです。ギブンさん、あなたはやはり数値だけでは計れない人のようですね」
この後3人は現場に赴き、魔物討伐に参加するのだが、そこでオリビアが提案した。
「私とブレリアさんは他の冒険者と合流します。ギブンさんは自分の判断で行動してください」
これに反論をしたのはブレリアだった。
「いいえ、ブレリアさん認めましょう。ここからは、(私たちは)足手まといです」
「……そうだな、確かに(ギブンは)足手まといだ」
参加する冒険者のほとんどがB級以上。
異例の飛び級冒険者とは言え、ギブンの経験不足は否めない。
「分かった。ここまで連れてきちまって悪いが、後は自分の判断で行動しな」
ギブンはまだ気軽に話し掛けもできないが、信用はできると思える2人と討伐にいける。
そう思っていたのに、結局今日も一人きり。
2人に置いて行かれて、自分1人で他の冒険者に声を掛ける。なんてできるはずもなく。
「とにかく海に行ってみよう」
2人の跡を追って現場につくと、辺りで一番高い建物をよじ登る。
「飛行魔法が使えるのは1人だけか? 空中歩行を使える人はいないのかな」
おそらく元は漁船だったのだろう木片が、港いっぱいに浮かんでいる。
砂浜で騎士や兵士と戦うのは、人の形をした魚の魔物〝マーマン”。
魔法を得意としない冒険者も一緒に戦っている。
「攻めてきている魔物のほとんどは、マーマンのようだな」
他にも大型の海獣が数多く泳いでいる。こちらへの対処は魔法がメインとなる。
第三王子の魔法士団と、魔法主体の冒険者が担当している。
「しかしこれはなんて非効率的な。せめて空中歩行ができる術士が5人もいれば……」
とは言え空中歩行はおろか、飛行魔法も使えないのはギブンも同じ。
しかし水中への攻撃手段が全くないわけではない。
「ぶっつけ本番だけど、今の風魔法レベルならやれるはずだ」
岸壁へと移動して海面を眺める。波間に岩肌が覗いたりしない。
風壁で風の結界を周囲に巡らせると、ギブンは思い切って海に飛び込んだ。
岩に叩きつけられることなく着水したギブンは、結界の中で呼吸ができる事を確認して、スキルで索敵を開始する。
「ウジャウジャいるな。大きな反応は海獣だろうけど、この小さな反応の全てがマーマンだとすると、こいつら一気に攻めるつもりじゃあないのか?」
ギブンが狙うはマーマン。大型魔獣は後回しだ。
水魔法で推進力を得て、剣を片手に魚人よりも早く泳ぎ、魔物を次々と切り刻んでいく。
ここへ来た理由の一つは魚料理。
だが討伐後に出される料理に、ここの魚肉が使われるのではと、ギブンは危惧し、「どうかそれだけは……」と祈る。




