STAGE☆119 「ぼっち男と重要会議」
魔王城に戻り、アビスはピシュに声を掛け、幹部を招集し、会議を開いた。
アビスとエミリア、バサラとビギナにテンケ、それと四天王が顔を揃えた。
「それでピシュは?」
「今も我らが悲願のために、死力を尽くしてくださっている」
参謀官ラージ・レベックはギブンの問いに答える。
魔族の世界は実力主義、魔族軍四天王はじめ、魔王軍がピシュを魔王と認めた事で、魔界を治める立場となった彼女は、向こうの魔王城である儀式を行っている最中だとか。
「この魔王城と向こうの魔王城を繋ぐゲートが完成し、安定すれば、魔界の環境が改善される。間違いないのだな?」
腕組みをして豪奢な椅子に踏ん反り返る将軍ルグラブル・グーブルはまだ半信半疑なようだ。
「ああ、ゲートを通じて、この世界のマナを魔界に送れるようになれば。だよなエミリア」
「ピシュの魔力なら、きっと成功するわ」
それはギブンがこの世界で見聞きし、ネフラージュ様に教わったこの世界の理を元に思いついた事。
相談を受けたエミリアは、バサラのゲート研究の資料を基に、ダンジョン精製の法具を調整した。
「これでもう魔王軍は、人間界に侵攻する必要はなくなるわけだ」
「まだまだですよギブン=ネフラ。我々の目的は繁殖繁栄です」
魔王軍が人間界を乗っ取ろうとするのは、魔界が強者しか生きていけない世界であるため。
大人になるまで生き残れない。そもそも子供が生まれてくることすら難しい環境に、見切りをつけるためだった。
「子孫を残す。当然手を貸してくれますよねギブン=ネフラ。そして……分かってますね、バサラ=ティラムーン」
参謀官に名指しされて、立ち上がる魔剣士は「はっ!」と声を上げて敬礼する。
「はぁ? ワタシですか?」
勢いで返事をしたが、バサラにはなにがなにやら。
「いや、むしろ私が立候補しよう」
環境が改善されて、安全に出産できるようになっても、生まれる子が強い子であることに越したことはない。
「それはさておき」
ギブンは話題を変えた。
「交渉の末、この森はグレバランス国王から、現魔王ピシュに譲渡されたわけだけど」
難色を示していたグレバランスの上位貴族を、幼き王を支えるオバート・フォン・エバーランス公爵が強権を行使する。
反感を示す貴族が他の王子に働きかけるが、エバーランス領主の娘であり、現国王の許嫁であるフロワランスがずっと根回しをしてきた為、誰も味方に付ける事ができなかった。
「じゃあ戦争は終結と言う事でいいんだ」
「戦争らしい事は、ほぼなかったけどね」
ホッとするビギナに突っ込むエミリア。
「あとは勇者だけだな」
この世界の設定が生まれたのは、ギブンが転生するたった数年前。
なのにこの世界の歴史は古い。
創造神がそこまで細かく設定していたのかはともかく、歴史が物語るように、勇者は必ずやってくるだろう。
こちらがシステムの枠をはみ出した事で、これからいったい何が起こるかは想像しようもなく、勇者が責めて来るという、定められたレールは生きたままなのだから。
「最悪の場合、この和平も白紙になる可能性も残っている。か……」
ギブンは会議の議題を敵の戦力分析に切り替えた。
「ここに来るまでにバサラから受けた報告で、勇者のパーティーメンバーでもないのに、協力していた冒険者は無力化したっていう話だけど、バサラ、もう一度説明してもらえないか」
バサラはギブンが勇者ぱーてぃーと遊んでいる間、魔王軍と龍人兵を率いて、ラドメリファ共和国ラドア領都アブレラを襲撃。
地方都市であっても、ラドアには守備隊が存在した。先ずはその兵舎を、龍人達が空から急襲をかけて制圧、その間に魔人達は冒険者ギルドを抑えた。
「住人が避難した住居をいくつか潰して、広場は使えないようにしておいた。復興には時間がかかるだろう」
冒険者達には重傷者もでたが、1人も殺す事はしなかった。
「少なくとも、勇者に付き従い、ここまで来たところで、なんの役にも立てないと思い知らせる事はできたはずだ」
圧倒的戦力差を見せつけられて、それでも戦意を失わないなら、魔王城までやってくるといい。
バサラはそう言葉を残して、アブレラを跡にした。
「そうか、ありがとう」
後は勇者パーティーだが、ジオウの実力の程はギブン自らが直に試した。
「ダンジョンでジオウと別れた、パーティーメンバーの戦闘データは、この宝玉が記録してくれている」
羽の生えた目玉は、壁に記録した動画を投影しだした。
「ふふっ、私からの贈り物、しっかりと役立ててくれたみたいね」
エミリアが作った記録装置、勇者パーティーと魔物の戦いを再生させる。
勇者ジオウがソロになったところで、隔離した3人を元の場所に戻し、ギブンは上位モンスターを投入した。
『なにあれ?』
『ミノタウロスと、ケンタウロスだろう?』
いち早く魔物に気付いた詐欺師のルーランの問いに兄の暗殺者レイズが答えるが、知っている魔物の姿とは違っている。
『ちょっと、ジオウはどこに行ったの?』
みんなに合流してホッとするのも束の間、いきなりな局面に魔法使いミラウが声を大きくする。
『気が付いたらいなくなってた。だがあいつは勇者だ。1人でも心配ねぇ~。俺達は目の前のやつらに集中するぞ! あいつを捜すのはその後だ』
ジオウがいない時、パーティーを指揮するのは戦士のガランドの役目だ。
戦闘以外の時は僧侶のコアンナが、それこそジオウよりも前に出て交渉事も仕切るまとめ役だが、戦況を後方で観察し、ガランドに伝える役目をしてくれる。
『このプレッシャーは……確かにただのミノタウロスやケンタウロスではないですね』
コアンナの意見はレブルス兄妹と同じ、こちらに気付いているのに近付いてこようとしない、二匹の魔物は普通ではない。
『あれは……上位種であるハイケンタウロスとハイミノタウロスです』
ガンマンのフスフは絵で見た事がある。屋敷の書物庫に資料本があった。
『散開!』
ガランドの号令で前衛のネフラとベルエルが飛び出す。
2人の実力なら、単身でもケンタウロスやミノタウロスを倒す事ができるだろう。
『ミノタウロス如きが! なんてパワーだよ!?』
『ベルさん、だからそれは上位種なんですって、早くこちらへ! まったく、独りで無理しないでください』
無謀にも突っ込んでいき、ミノタウロスの振り回す大戦斧を避けきれず、左腕から出血するベルエルに、コアンナは再生と聖治癒を二重詠唱で使って回復させる。
『サンキュー、まさかこんな深手を負うなんてな』
落ちかけていた腕が元に戻り、コアンナに礼を言うとベルエルはまたハイミノタウロスに立ち向かう。
ベルエルが下がっている間、精霊魔法で抑えてくれていたフラナスカの脇を抜けて、無謀に見える真正面から魔物に斬り掛かる。
『一人で戦ってんじゃないんだぞ、ネフラ』
巨大な槍を使うハイケンタウロスの長いリーチを、ネフラはギリギリで躱して、近接距離でないと届かない細身の剣で、ガランドの目には危なげに見える戦い方を続けている。
ハイケンタウロスの右側にはガランド、左側にレイズがいて牽制しているが、ネフラのように接近することはできないでいた。
『ああ、もう! これじゃあ魔法での援護ができないじゃない。なんでみんなあんなに魔物にくっ付いてるのよ』
ミラウは小さな魔法を放つも、魔物に届く前にキャンセルされてしまう。二匹の特殊なスキルによるものだろう。
しかしこの狭い場所で、前衛が魔物とクロスレンジで戦っていては、大きな魔法を放つ事はできない。
フスフの小銃もそうだ。弾に魔力を込めても、魔法は魔物が打ち消してしまうから、威力はあっても小さな口径の弾丸では、傷1つ付けることができない。
『ララミヤ、ルーラン、あなた達も行きなさいな』
『無理言わないでよコアンナ。あたしの武闘も、ルーランの魔鞭だって魔法が通用しない相手に、なんの役も立たないわよ」
普通のミノタウロスやケンタウロスなら、決して敵わない相手ではないとララミヤもルーランも自信満々に言えるのだが、その気持ちはミラウやコアンナも同じだ。
『はーあ!!』
パーティーメンバーが手を拱いている中、ネフラが目にもとまらぬ早業でハイケンタウロスに斬り掛かる。
『それっ!』
『このっ、クソが!!』
フラナスカがハイミノタウロスへ、水の精霊を通じて生みだした刃で魔物の武器を打ち払い、ベルエルが頭から縦に戦斧を振り落とす。
『そんな、一撃であのハイミノタウロスを……』
ララミヤは驚愕する。頭から胸の辺りまで真っ二つになるハイミノタウロスを凝視して。
『こ、こちらも決着がついたようですわ……』
フスフも瞬く剣技に目を見開き、体中から血を流し、直立したまま絶命するハイケンタウロスの姿を、瞬いた瞼の裏に焼きつけた。




