STAGE☆116 「ぼっち男の仲間たち」
勇者パーティーに潜り込むことに成功した3人。
ネフラことオリビア、ベルエルことブレリア、フラナスカことマハーヌは初参加したクエストで、勇者ジオウに大いに気に入られて、二つ目のダンジョン攻略では、前戦を任されるようになった。
この緊急ダンジョンの少し前に、勇者の加護を受ける事となり、さらなる活躍を期待された。
ダンジョンも5階層。斥候をしていたフラナスカが戻ってきた。
「オーガロードが大量発生しているのですよ。私が確認できたのは38匹だったのですよ」
「ご苦労さんフラン、その様子だと敵には見つかっていないな」
「どういうことなのですよ? 敵に見つかって引っ張ってきた方が、良かったですよ?」
「違う違う。前に同じことを言って、本当に引っ張ってきたヤツがいたんだよ」
ジオウは冒険者に成り立ての頃、仲間にしていた斥候を思い出して、顔を顰めた。
「本当に大変だったんだ。独断で魔物を引き連れて、俺達の待機場所に誘導してきたんだ。全滅せずによく倒せたもんだ」
その後、ゴブリンの巣も潰した勇者パーティーだったが。
「斥候で知りえた情報をただ持ってくるだけで良かった。そうすれば万全の状態で攻略できたんだ」
そう、戦士のガランドに言われて、ジオウは同意した。
しかしあの時、敵を二手に分断していなければ、きっと装備を整え直しても、ギリギリの戦いにいなっていただろうし、或いは全滅も有り得ただろう。
それにあの依頼は、ゴブリンの巣最寄りの農村が危機的状態で、出直す余裕なんてなかった。
ここはゲーム世界ではない。死んだ人間が生き返ることはないのだ。
とは言え、ゲーム干渉力が働いている勇者パーティーには、そう言った危機感が乏しくなっている。
「あいつの暴走は2度や3度ではなかった。俺達もレベルアップしてるのに、いつもいつもギリギリの重労働」
ガランドは辟易して、ジオウに一つの提案をしたそうだ。
「俺達に散々迷惑を掛けといて、分からせてやろうと囮をさせたら、途端にいなくなりやがってな」
ここまで話を聞けば間違いない、その斥候はテンケの事だ。
「なるほど、そのギリギリの経験があったから、勇者史上最速で進軍してこられたって訳だ」
「どういう事だよ、ベル」
ブレリアことベルエルは、その斥候の行動が結果として、短期間でレベルを上げる助けになったのだろう。と勇者に問う。
「俺達の努力の成果だ。勘違い野郎の後始末が、どれほど大変だったと思うよ」
ベルエルはガランドに聞いたわけではない。が、首を縦に振っているジオウを見れば答えは分かる。
「囮にされて、俺達がどれだけの思いをしたか理解したんだろうよ。あいつは死んだわけでもないのに戻ってこなかったさ」
ガランドは囮とするテンケに呪いの鎧を着させた張本人。
「7人まで許されているパーティーメンバーなら、例え死んでも勇者様が神官様と共に、神に祈りを捧げたら生き返せてくれる。それを知っているのにあいつは戻ってこなかったんだ」
甦り、それこそが勇者ジオウが女神アブローシュアンから授かった尤も偉大な加護。
勇者本人が死んでもセーブポイントの祭壇から復活できるという、最大のチートスキル。
「死なないって言うなら、そんなに目くじらを立てる事もないのではないのか?」
オリビアことネフラは、そんな能力があるなら、それを利用して強くなろうとするテンケの意見にこそ共感できた。
「死ぬのってムッチャ辛いよ。あんた達はまだ経験ないけど、本当にやめておいた方がいいわよ」
僧侶のコアンナ。彼女が無事なら、神を祀る神殿があれば、神官がいなくても甦生の儀式は行える。
みんなが庇ってくれるから、死んだ経験こそ一番少ないが、コアンナだって死ぬ辛さは知っている。
騎士ネフラは剣の手入れを終えて、鞘に納める。
「で、どうする? また私とベルとフランで先に飛び出すか?」
勇者の仲間であっても、パーティーメンバーではないレイズ、ルーラン、フスフは死んだらそこで終わり。付いてきてしまったお荷物をどうやって守るべきかが問題。
「やはり彼らも帰ってもらうべきではないのか?」
どう考えてもお荷物を抱えている余裕はない状況。なぜジオウは同行を許しているのだろう?
「俺も一緒に前へ出るぜ」
レイズは前戦で走り回るのが本来のスタイル。言いたいことは分かるが……。
「だったら私とコンビを組むのですよ」
格闘家フラナスカのフォローがあれば、死亡フラグは格段に減る。
ジオウはフラナスカに「よろしく頼む」と言う。
「分かったのですよ。レイズさんは私が守るのですよ」
まだ謎の多い状態だが、3人はうまい具合に勇者パーティーに溶け込んでいた。
「どうかしたのか?」
「いや、5層も突破されたな。と思ってな」
ソウマ・クラーチはギブン・ネフラに戻り、最下層で待っていたバサラ・ティラムーンと合流した。
「立派な黒魔人に戻ったな」
「まぁな。けどなんだろうな。この黒い肌が誇りだったのに、今はもうそんなに執着もないし、事が治まったらまた、白い肌に戻りたいと思っているよ」
バサラがここへ来たのは、魔王軍の兵士をギブンに合流させるため。
「本当はこのまま、魔王城に戻ってもらう予定だったんだがな」
「気にしないでいいよ。私はあんたのサポートをしに来たんだ。予定もなにも私らの全部は、あんたが何をしようとしているかだろ」
勇者パーティーの懐に3人が潜入し、只今このダンジョンを攻略中。
他の仲間はと言うと。
「テンケは勇者ご一行の監視を続けている。ビギナとレドーラは魔界へ龍人の助っ人を呼びに行った。と言う事だ」
「エミリアから連絡があったのか? それで開発室長とその助手は?」
「ちょっと単独行動をするそうだ。理由は教えてくれなかった」
ビギナの行動は想定外ではあったが、概ね予定通りに事は運んでいる。
「それじゃあバサラは、テンケと合流して、その他ご一行様の事を頼むよ」
「本当に始末しちまっていいのか?」
「構わないさ。ただし、戦意を喪失したり、逃亡するようなら見逃してやってくれ」
「面倒くせぇな。そんなもんどうやって見極めるんだよ。フリだけして闇討ちみたいな事をされるのは、勘弁して欲しいぜ」
それを避けるためにテンケと合流させるのだ。
「確かにあいつは優秀だからな。どいつがどんなヤツかって、ちゃんと分類できてるだろうからな」
もしかしたら、あの3姉妹もいるかもしれないが、状況の見極めができないようなら、遠からず冒険者として朽ち果てるだろう。
賢明である事を祈る。
「けど本当に1人で良いのか? 真の勇者パーティーを相手にギブンはどうするつもりなんだ?」
「なんにも。ただ勇者パーティーの実力を見ておきたいだけだよ。決戦は魔王城でないといけないはずだから、ここでは何もしない」
バサラ達が出発したら、ギブンは勇者ジオウの元へ行く。
1人なら隠蔽スキルもフル稼働できるし、ダンジョンの制御に集中できるだろう。
そう、この突然発生するダンジョン。これは魔王城を突然人間界に築城したのと同じ技術で、歴代の魔王が作った物。
そして行く手を阻む魔物達も、ギブンがオーダーした通りに配置できている。
ここのレベルがひどく厳しくなっているのも、全てギブンの采配。
「この水晶に魔力を込めれば、自由自在に設定を変更できる。かなりの量の魔力が必要だというのに、お前なら問題ないだろうと思っていたが、ここまで自由に扱えるなんてな」
バサラから制御用の水晶を手渡され、ギブンは数時間でモノにした。
「ピシュに数日掛けて魔力を入れてもらったけど、ここを作ったのはいいけど、もう空っ欠でしばらくは使えねぇと思ってたんだがな」
大型ダンジョンを作るのなら、確かに数日掛けて魔力を充填しなくてはならないだろうけど、少しずつ弄るくらいなら、そんなに力は必要ではない。
「それじゃあ行くよ」
「外の事は任せた」
魔王軍を引き連れて、バサラは地上へ向かった。
「こういった物も作れたんだなぁ。魔王軍も」
ダンジョン精製の法具、2代目の魔王は魔道具作りに長けていたという。
「こいつに魔力を込めて、人間界に放り込むとダンジョンが発生するってわけだ」
バサラが本当に研究していたのは、この水晶球について。その一環でゲートの事も調べていたのだ。
ギブンが魔力を込めると水晶球が光り、一行を映し出す。
「おお、映った映った。……これが勇者だな。横にいる3人と合わせて中核となって、前に立つ4人が先行組、後方支援がこの3人ね。先ずはどうにか分断してみようかな」
できる事なら勇者を一人にして、様子を見てみたい。
先行する4人は簡単に分断できるだろう。あの3人ならきっと、ギブンの考えを直ぐに理解してくれるだろうから。
「後方支援を引き離すのも……たぶん問題ないな」
中核の4人だけにできたとして、そこからどうやって勇者だけを孤立させるかだが……。
「あとで考えるか。さぁて、パーティー登録外の3人が、うまくばらけてくれているな。……やってみるか」
先ず狙うは後方組。
そこで勇者パーティーにぶつけたのはエレメントの群れ。
火のエレメントと土のエレメントをそれぞれ5体を先行組にぶつければ、当然中核も前を向く。更にそれぞれ5体を追加投入。
次第に先鋒も次鋒も関係なく混戦になる。そうなれば後方支援も攻撃のチャンスを窺い、注意が散漫になっていく。
ターゲットは勇者の恩恵を受けていないガンマン。
「2匹で襲わせるか」
前衛が火と土に気を取られている間に、水のエレメントを追加して後衛に向かわせる。
「あの銃使い、この上の階層で、水魔法の弾丸を使ってたよな」
水のエレメントは深い霧を発生させて視界を奪う。
死んだら復活できないガンマンは慌てて乱射するが、水魔法の弾丸は霧の中に消えてしまう。
僧侶と魔法使いは風魔法を使おうとするが、呪文が完成する前に、霧に紛れたエレメントが二人に水の弾丸をぶつける。
完成寸前の風魔法が暴発して、僧侶と魔法使いを吹き飛ばす。
突然の爆音にパニックになるガンマンがしゃがみ込む。
ギブンは岩を動かして、3人を閉じ込めた。




