STAGE☆115 「ぼっち男と勇者パーティー」
ソウマ達4人は10階層に到達した。
リーリン達三姉妹が役に立てたのは3階層までだったが、男がいくら言っても引き返そうとせず、30歩下がって付いてきた。
「3人とも、流石にもうここまでだ」
「な、なに言ってんのよ。そりゃあ、全然役に立ててないけど……」
「リ、リーねえ、あれ」
「あれってなによ。ウランラ……」
妹が指さす方を向こうとするリーリンは、長姉が剣を抜き、ガタガタ震えるのを見て、首を傾げながら振り返る。
「えっ!? あれって本物……」
物陰から覗けたのは、6頭の牛。
二足歩行する牛は、それぞれ手に大きな剣を持っている。
切れ味の程は分からないが、あの太い前足、いや腕で振り回されたら、斬られなくても一撃で骨は砕かれ、肉は飛び散ってしまうだろう。
「ミノタウロスが6頭も!? はんへれ……」
ソウマに後ろから抱きかかえられて、口を押さえられて、別の意味で混乱するが、男に少しだけ抱える手の力を強くされ、リーリンは乱れた息を戻そうと、深呼吸をして男のニオイを堪能する。
「ミノタウロスってAクラスの魔物ですわよね」
「そうだな。それもあの数がうろついているって事は、ダンジョンの異常活性化は起きている。そう考えるべきなんだろうな」
リーリンが上げた大声に牛たちが一斉にこちらを向き、ゆっくりと寄ってくる。
「全部で13匹か」
見えないところにも、まだミノタウロスはいる。
「流石に君らを守りながらは戦えやしない。急いで引き返すんだ。今ならまだ上の階に魔物はいない」
「君はどうするのさ?」
「俺1人ならなんとかできる。そう言ってるんだよ」
抱えていたリーリンを突き放し、ソウマはミノタウロスに向かって走り出す。
「ソウマ!?」
「だ、ダメだよリーねえ」
「そうですわ。今は彼の言う通りにしましょう」
リーリンは姉妹に、上層階へ引っ張られていった。
「……さてと、ようやく静かになったな」
ソウマはミノタウロスを全て瞬殺し、静まりかえった10階層を後にして1人、先に進んでいった。
「ここが発生したばかりのダンジョンか」
リーリン達は急いでフレリンク冒険者ギルドへ戻り、援軍を要請した。
姉妹は見たままを報告した。見たままの尋常ではない状況を突きつけられたギルドは、直ぐにはソウマの救援を送ることはできないと返してきた。
呆然となるリーリン達に、背後から近づいた男が、改めて話を聞いてくれた。
「こいつは今まで挑んだ、どのダンジョンとも違うな」
入り口近く、第1層でまさかのモンスターに出会した。
ここのような巨大なダンジョンも、層の浅い初級ダンジョンも、最初は駆け出し冒険者が経験値集めに使うような魔物が出てくる。
「わ、私たちが入った時は、この辺にはオークがいたのに、なんなのこのバケモノ!?」
オークだって普通はいない。
系統はストーンゴーレム。冒険者の間では、Cランクが妥当とされる魔物だ。
しかもここの個体は、如何にもな厳つい巨体ではなく、人間サイズで体型は細マッチョといったスマートなスタイルをしている。
何より素早いし、とにかく硬い。
「こいつはBランク相当じゃあないか? おもしろいな」
グループの先頭に立って、次々とゴーレムを倒していく男の名はジオウ。
リーリン達の救助要請に応じてくれたのは、あの人間界の救世主だった。
「君たちはもうここまででいいよ。出てくるモンスターもマップも変わってしまっているんだろう? じゃあもう、ただの足手まといだ。ここは俺達パーティーメンバーだけで進むことにする」
仲間を先に行かせ、ジオウが戻ってきた。
ソウマと来た時はまだ、オークやリザードマン相手に、姉妹もまだ戦うことができたが、今回は入ったばかりのゴーレムに、何か1つでもできる気がしなかった。
「諦めましょうリーリン」
「でもおねえ」
「もう、無理だよ。それにソウマなら大丈夫、ウランラはそう思う」
勇者ジオウが邪魔だと言ったのは、フェアリメント姉妹だけではない。
ゾロゾロと着いてきた勇者パーティー「その他ご一行様」にも引き返すように言っている。
「待ってくれ、勇者様。やっぱり納得いかねぇ」
「またかレイズ、お前にもちゃんと説明しただろう」
「ああ、勇者の仲間としての恩恵を受けられるのは、7人だけって言うんだろう」
勇者の固有スキルによって、底上げされる人数は本人を入れて8人。
ラドメリファ共和国に入って間もなく。
増え続けるご一行様の中に、勇者が認める3人が現れた。
メンバーは入れ替えられ、暗殺者レイズ・レブルスと詐欺師ルーラン・レブルス、それに狩人フスフ・ウルラ・ラトラタンが外された。
「分かっているんだろう。自分でも」
「ああ、あいつらの実力は認めるさ。けどだからって、こいつら半端もんと同じ扱いをされるのは、納得がいかねぇ」
引き返そうとする、フェアリメント3姉妹と一緒に還させようとする、レイズはジオウに物申す。
「バフなしの実力のみで、付いて来るというのか?」
「今だって役立って見せたはずだ」
「まだ入り口だからな。……いいさ。好きにするといい。俺はもう帰れとは言わない。だがここからは自己責任だからな」
妹のルーランも意見はレイズと同じ。
なによりお金を愛する詐欺師の妹は、勇者の偉業達成の分け前を、喉から手を伸ばして欲している。
「私も同行します」
「フスフさんはダメだ。俺はあんたを守る義務がある。ここではなにが起こるか分からない。一緒に連れて行くわけにはいかないんだ」
大陸最南端にあるユーナ法帝国の大貴族。ラトラタン家の令嬢であり、勇者の冒険の後見人として裏方支援を続け、ジオウを支えてきた才女。
「私はあなたのために技を研きました。確かに横に並んで戦うことはできなくとも、この銃の力で後方から支援いたします。魔物なんかに負けたりはしません」
ジオウに出会うまでは冒険者になるなんて、考えもしなかったフスフだったが、彼の側にいるためには、魔法使いミラウ、格闘家ララミヤ、僧侶コアンナのように強くなくてはならない。
生活支援役として旅に同行はしてきたが、彼の仲間となり、隣に並ぶ3人娘を羨み、ここに来るまでに特技を見つけ、実績を重ねて、旅半ばを過ぎたあたりでようやく冒険者としての実力を付けることができ、ようやく真の仲間と呼ばれるに至った。
フスフは先ほどのレイズと同じように、新入りの3人の実力は認めている。それでも!
「ジオウ、フスフさんのことは私に任せてください。僧侶である私の結界の中にいれば安全です」
フスフと同じく、ジオウを異性として意識するコアンナだが、こんな形で恋敵を排除するつもりはない。
「彼女に拗ねられると後が大変ですよ」
「コ、コアンナさん。私はそんなに子供では……」
「子供だよな」
「そうだね。フスフが一度ぐずったら、後々面倒だもんね」
「ララミヤさん、ミラウさんまでヒドイです。私、そんなに面倒くさいですか?」
「はい!」
こういった時、魔法使いのミラウは気を遣ったりしない。
旅はずっと厳しかった。
建て前ばかりではいつか破綻する。
言いたいことはズバッと言う。旅の始めに決めたことだ。
「フスフさんも連れていく。いいよねジオウ」
ミラウは本気だ。こうなってはジオウが何を言っても無駄。
それは戦士ガランド・オーガストも同じ考えだ。
「はぁ……、分かった分かった。とにかくレイズ。お前は妹とフスフさんを守ってやるんだぞ。コアンナはフスフさんとついでに、レイズ達にも魔法を掛けてやってくれ」
話が纏まったグッドタイミングで、前衛に立ち、ゴーレム達を掃除してくれていた3人が戻ってきた。
「ここを抜ければ下の階に行く通路があるぜ、ジオウの旦那」
ブレリア・アウグハーゲン改め、ベルエル・グレラが戻ってきて、先の様子も教えてくれた。
「ちょっとだけ下の階を除いてきたのですよ。下りて直ぐにゴーゴンスネークがいて、ビックリしたのですよ」
石化のスキルを持った蛇、これもCランクとされる魔物だが、ここのヤツは冒険者ギルドが把握しているよりも素早く、統率の取れた群体行動をしてくる。マハーヌこと、フラナスカ・オーセンは注意を促す。
「ビックリしたのは無理もないけれど、私を置いて逃げ帰るってのは、ナシではありませんか?」
最後に戻ってきたオリビア・フォード・グラアナではなく、ネフラ・シェレンコフは剣を鞘に納める。
新たに勇者の仲間入りをした3人を前に、パーティーから外された3人は、険しい表情で剣士と重戦士と武術家を睨み付けるのだった。




