STAGE☆114 「ぼっち男の受けた呪い?」
「レッドタイラントベア~!?」
「リーリン、それってB級なのでは、ありませんでしたか?」
「リ、リーねえ……」
C級推奨のダンジョンに、それも中間層に現れた上位の魔物に姉妹は慄く。
D級のキックバックネザーランドにも思わぬ苦戦をし、その他にも遭遇したE級モンスターが、やけに強く感じたのも気のせいではない。
ここまでソウマが手を貸す場面はなく、姉妹はよく頑張っていた。
「ソ、ソウマぁ~」
「流石に無理か?」
「そ、そうは言わないけど!?」
人間達がノンビリ作戦会議しているのを、待ってくれる魔物はいない。
レッドタイラントベアーがいきなり襲いかかってきたので、ソウマは思わず剣を抜いて、凶暴な熊を一刀両断にしてしまう。
「やっちまった……これくらいなら、デレシアにもできるんじゃあないか?」
あくまでソウマ・クラーチとしての冒険。
手にする剣はギブン・ネフラがネフラージュ様から賜ったソード・オブ・ゴッデスではなく、今使うのは魔界で手に入れたダークネス・デーモン・キングという禍々しい剣。
でもなく、この町で手に入れたアイアンソードで、B級モンスターを軽く片付けた。
「君の剣だって、魔力を込めれば強度も切れ味も、大幅に上げることができるはずだ」
剣筋は申し分ない。
リーリンが自慢していたように、デレシアには実力がある。
「その他に足らないモノがあるとすれば、魔力に身体強化だな。それができれば直ぐにB級になれるさ」
強化魔法ならウランラが使える。
最初はどちらかにしか使えなかったので、これまでは前衛のリーリンを強化してきたが、術の熟練度も上がっている今のウランラなら、姉2人同時に魔法をかけても問題ないだろう。
「ウランラはもっと自分に自信を持つんだ」
熊肉を解体したソウマは、ウサギ肉で作ったカレーを姉妹に振る舞う。
4層に下りる前に仮眠を取ることにした。
「俺が見張っているから、少しでも回復してくれ」
見張りをするというのは方便。
地図スキルと探索スキルで、このダンジョンは完全把握済み。
この辺りに魔物の気配はないし、念のために結界も張ってある。
みんなが寝たら、自分も寝ようと思っている。
「どうしたんだリーリン」
「興奮して寝られないのもあるけど、悪いじゃない。あなたに任せっきりってのも」
それは口実、姉妹はソウマをパーティーメンバーにしたいのだ。女であることを利用してでも。
リーリンがシャツを脱ぐ。寝る時はそうしている。という訳でもないだろう。
デレシアとウランラも、同じことをしながら寄ってくる。
ソウマは溜め息を溢しそうになるのを堪えて、眠りの魔法をかける。
「おやすみ、短い時間だけど、ゆっくり休んでくれ」
ソウマもまた、瞼を閉じて休息をする。
明くる日、午前中に最下層まで下りてきた一行は、なぜCランクダンジョンに、こんな有り得ない大物がいるのかと、冷や汗を浮かべる。
「あんなの、どうしようもないって!」
「そうだな。流石にあいつに対抗できるとしたら、ウランラくらいかな」
相手に気付かれることなく、離れたところから有効打を当てられれば、魔法使いでなくても戦える。のだろうけれど。
「わたわたわた、むむむ、むりムリむりムリむりムリむりムリ!?」
17歳の魔法使いは青ざめる。
「あの動きを読めれば必ず勝てるさ」
そうソウマに言われたからって、そう簡単に落ち着くことなんてできやしない。
「すぐには無理か……」
3匹いる蛇を、ソウマは火球のマルチショットで瞬殺した。
「これで終わり?」
「そうだな。ダンジョンの縮小化が始まっているし、急いで外に出るぞ」
かくしてC級ダンジョンは完全攻略された。
「それじゃあ、ここの攻略は君たちが達成したと、ギルドに報告してくれ。俺のことは言わなくてもいいからな」
ダンジョンを攻略し続けることで名を売りたいソウマだが、1人なら1日で攻略できたこのダンジョンを、正直これ以上この姉妹に付き合って、ペースを落としたくはない。
「って、思われていそうだね。私たち」
リーリンに見破られてしまったが、それを肯定することなく、無言で立ち去ろうとするソウマの手を、デレシアが掴んで離そうとしない。
「そんなのダメですわ。貴方がいたから私たちは成長できた。成長した実感がありますが、まだまだ足りないのですわ」
今回の事にしたって、自分たちの手柄になんてできないし、どうせ嘘だとギルドには見抜かれてしまうとデレシアは言う。ウランラも首を縦に振る。
「私たちは君の邪魔をしようなんて思ってないよ。けどもう少しだけ、一緒にいたいと言うかぁ~」
リーリンが頬を赤く染める。
デレシアとウランラも同じ顔をしている。服の色を替えてもらっていなければ、誰が誰なのか分からなくなるところだ。
「もう一度でいいから、君の手料理を食べさせてよ」
次女の要求に姉妹は同調して、首を縦に振る。
「分かったよ」
と言った流れでギルドへの報告も4人で向かい、その後は姉妹が泊まる宿に連れて行かれ、ソウマはデミグラスハンバーグを振る舞った。
「この白いのはなに?」
「ライスって言うんだ。パンでももちろん合うとは思うが、いいから食ってみてくれ」
ライスに軽く塩をふって、ソウマは真っ先に箸を動かした。
不思議そうにライスを眺めていたリーリンが、スプーンに白米を乗せて口に運ぶ。
「う~ん、なにこれ!? おいしいぃ~~~♪」
お米はギブンが以前、リデアルド王国の商人であるフビライさんから買ったもの。十分な量を仕入れられた訳ではないので、これまではピシュ以外のみんなには黙って、こっそり食べてきたものだ。
これで最後だからと言う、リーリンの言葉を信じて、今まで食べたことのない物が食べたいと言われ、ハンバーグだともしかしたら、食べたことがあるかもと思い、白米を振る舞うことにした。
「ぷはぁ~、美味しかったぁ~~~」
3姉妹が大満足したところで、お暇しようとするソウマだったが、リーリンはシレっとアルコールを出して男を座らせた。
「それにしてもあのダンジョン、どこがC級なのよ。私たちは運良く君に出会えた良かったようなものだけど、これどうにかしないと、死人が出るよ」
「それなんだけどな」
話の内容的に知らん顔で帰るわけにはいかなくなった。
「まぁなんだ、あまり心配はいらないから」
今回のダンジョンがランクアップしてしまったのはソウマが、ギブン・ネフラが足を踏み入れたからに相違ない。
魔界の神ネフラージュの眷属であり、魔王をも凌ぐ真の魔王が放つ魔力が魔物に力を与えた。
その結果なのだ。
正直、この世界に来たばかりの頃は、まだレベルも低くて苦労もしたけど、強化された魔物と戦い続けてきたお陰で、ギブン・ネフラは短期間で頂上まで登り詰めることができた。
とは言え、確かに今日のあれは笑って流せる状況ではなかっただろう。
「大丈夫。俺がいなければ、ギルドが調査した通りのダンジョンに挑戦できるよ」
「はぁ? 何を突拍子もないことを」
「呪いを受けているのさ。だから俺は誰とも組まずにダンジョンを攻略している。勇者様ならそれくらいの困難は、逆に成長の糧にしてくれるだろうけど、今の君たちでは……」
「ただの足手まとい。あなたのプランの邪魔でしかないのですね」
デレシアは大袈裟な身振り手振りと、深い溜め息をこぼした。
「なに言ってんのよ、お姉。これはかつてないチャンスじゃん。ソウマ、勝手なのは分かっているけど、これも何かの縁じゃない。私たちのレベルアップに付き合ってよ。ソウマはソウマの判断で、無理だと思ったら、さっさとダンジョン攻略を終わらせてくれていいからさ。私たちを上層階の魔物の露払いに使ってよ」
リーリンは簡単には引き下がらない。
それでも強めに突っぱねれば、諦めてくれるだろう。が今回の様にこっそり付いてくるかもしれない。
「……分かった。この周辺にダンジョンはあと四つ。俺の指示に従うのであれば、その間は付き合っても構わない。けどパーティーは組まない。それでよければ」
「交渉成立ね。いいでしょお姉、ウランラも」
次女の独断専行に、姉妹は一瞬の戸惑いを見せるが、すぐに満面の笑みで首を縦に振った。
この日から勇者ジオウがラドア領に入る半月の間、フェアリメント3姉妹とダンジョン攻略を共にすることになる。
大都市フレリンクの周囲にあるダンジョン攻略を、依頼として臨時メンバーのソウマを入れた冒険者グループ、フェアリメントが踏破したことで、姉妹はBランクに昇格し、ソウマはSランクの称号を得た。
そんな、今フレリンクで一番の注目株であるパーティーに、ギルドからの指名依頼があり、ダンジョン全踏破でお別れになるはずだった姉妹と、最後にもう一仕事することとなった。
「まさかこのタイミングで、こんな大物ダンジョンが発生するなんて」
場所はフレリンクから北にある、ラドア領都アブレラ近くの湖。
「30階層あるのか。深いな」
「本当に規格外だよなソウマって、探知スキルを持った冒険者に会うのは初めてだけど、聞いた話では、そんなに精度の良い能力ではないはずなのに」
ソウマは必要な力なら、隠さず使うことにした。
時間短縮が一番の理由だが、リーリン達を信用し、そして彼女たちのレベルアップのために全力を尽くした。
「4日だな、それだけあれば潰せる」
「またそんな無茶を……」
「と言いながら、ここまで俺のペースに付いてきたじゃあないか」
本当なら3日でクリアしたいんだけどなと、これ以上の反論は受け付けない事を態度で示して、ソウマを先頭に一同はダンジョンに入っていった。




