STAGE☆113 「ぼっち男の新たな出会い」
「あんたがソウマ? ここのところ単独で、次々にダンジョンを攻略してるって噂、本当なの?」
「誰だよ、あんたは?」
「あら、ごめんなさい。私の名前はリーリン、リーリン・フェアリメント。冒険者よ」
「ソウマ・クラーチだ」
「冒険者になったばかりなのに、もうBランクになったって聞いたわ」
次々とダンジョンを単独制覇する実力者を、ギルドは低ランクにしてはおけない。
なによりダンジョンに入るには、Cランク以上でないとならないとするギルドにとっては、Fランクでダンジョンを潰したソウマを放置もしてられない。
「俺に何の用だ? まさか噂話の確認に来ただけじゃあないだろ」
「もちろん、あんたを勧誘するためにさ」
この町で冒険者を生業としているリーリンのランクはC、ジョブはシーフ。
彼女のパーティーメンバーは他に2人、剣士と魔法使いの少女がいるそうだ。いずれもCランクだという。
「悪いな。俺は俺の名をなるべく多く売って、勇者様に仲間にしてもらうのが目的で、こういった無茶をしてるんだ。俺自身に仲間がいれば、俺が薄れる」
「やっぱりあんたも魔王軍を討伐して、英雄の仲間入りをして勝ち組になるのが目標か。だったら私たちと同じだ。自慢じゃあないけど、この辺りだと、私らを知らない冒険者はいないくらいには活躍している」
名が売れているなら本当に、もしかしたら勇者の取り巻きくらいには、なれるかもしれない。
「なるほどな。勇者の仲間にはなれずとも、一緒に行動することで、そのおこぼれ目当てということか。妙に側にいるヤツが多いわけだ」
「あんたも同じだろ? なにを他人事みたいに……」
目の前の短髪黒髪の少女は身軽そうな軽装。自画自賛するだけの実力はもっているのだろう。
「だが断る。俺は勇者がここにくるまでに、この周辺のダンジョンを全攻略する予定なんだ」
「私たちじゃあ足手まといになるとでも?」
「そんなつもりはないが、俺はあんたらのことを全く知らない。あんたらも俺を知らない。俺はあんたらの邪魔をするかもしれない。そうなって困るのはこっちも同じだ。ダンジョンだからな、どんなことが命取りになるか分からない」
それは確かにそうだ。ここまで3人でやって来たものを、初ダンジョンで連係を変えるのは命取りと、そう言われてもしょうがない気もする。
「……分かったわ。それじゃあ頑張ってね。話ができてよかったわ」
と言って行ってしまったリーリンは、明くる日。
「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね」
仲間2人を連れて、ソウマを先回りして、ダンジョン入り口で待ち構えていた。
「紹介するわね」
「どうも剣士のデレシア・フェアリメントですわ」
黒い髪は短髪、動きやすそうな軽装に細身の剣。
「魔法使いのウランラ・フェアリメント……」
囁くような声、なんとか聞き取ることができた黒髪の少女、短めに切られた髪型は他の2人そっくり、軽装に小振りのワンドを手にしている。
「リーリンは素手だけど、得物は?」
「投剣」
そっくりな顔立ちは髪型も揃えていて、装備は3人とも同デザインで同じ黒。腰に少し大きめのポーチを左右につけているくらいの違いしかない。
「見分けるには、何を持っているかしかないのか」
「長女のデレシアに、次女の私、そして三女のウランラよ」
3姉妹の冒険者パーティー、見た目のインパクトだけでも十分話題となるだろう。
「あと足りないのは実績、ここで偶然出会えたのも何かの縁。一緒に潜りましょう」
なんというかもう、清々しいくらいに打算に満ちている。
「……別にいいが、1つ条件がある」
「条件?」
聞けば三女のウランラが17歳、年子の姉妹は全員が同じ身長、同じ体型をしていて、細かい部分のサイズまで一緒だという。
本当に見分けが付かなすぎて困るので、3人に衣装をチェンジするよう要求する。
一度、町に戻って着替えさせた3人に朝食を振る舞う。
早朝に出発し、中で食べようとしていた手製のパンは好評で、あっと言う間に食べ終わった4人は再びダンジョンに向かうのだった。
「にしても色を変えただけで、また似たような服を」
「しょうがないでしょ。私たち色んな物の好みがいつも被るんだから」
「これは自然の成り行きですのよ」
「……」
見た目はそっくりだが性格には違いがあるようで、今なら色じゃなくても会話をすれば、その違いが分かるようになった。
黒い服の次女が先頭に立ち、赤い服を着た剣士が続き、最後は後方支援担当、青い服の魔法使い。これがこのグループの連係だ。
臨時パーティーの今回。ソウマは好きに動き回って姉妹のフォローをする役目に納まった。
「このダンジョンは縦に続いている。最低層は7階。それぞれはそんなに広くないから、うまくすれば2日で攻略できるはずだ」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「情報は冒険者として、当然用意するべき重要アイテムだ。ランクCまできたのなら、それぐらい分かっているだろう」
と言うのも方便である。
ソウマは索敵スキルを使って、魔物の配置から、ダンジョンの形状をMAP化しているに過ぎない。ここへ来て情報収集なんて、一度もしたことがない。
「先ずはあんたらの実力を見せてもらう。必要なら加勢するから、思う存分やってくれ」
最初に遭遇したのはキックバックネザーランド。狂暴な蹴りウサギだ。
そのキックはホンの少し掠めただけで、馬の頭を一捻りしてしまう力があり、風圧で空中を移動できるほどに素早く鋭い。
脅威度はDレベル、初回に相応しい相手だ。
「こんなにかわいい見た目なのに、なんて凶悪なの」
リーリンは果敢にナイフを投げつけるが、相手が早すぎて、1つも当てることができない。
末妹を庇うように立つ長姉の剣筋も悪くはないのだが、ウサギを捕らえることができない。自身と妹を守るのが精一杯である。
後方支援の魔法使いは無詠唱で魔法を発動できてはいるが、あまり応用ができないようで、早く飛ばしたり、誘導したりがまるでなってない。
「リーリン、君のスピードなら足を使って近接し、斬りつける方がいい。投げる瞬間はしっかり見極めができた時だけにするんだ」
ウサギは確かにすばしっこいが、シーフ少女はそれ以上の足運びを見せている。敵わない相手ではないはずだ。
「デレシア、剣は斬るだけじゃあない。叩くのも有効な手段なんだぞ」
キレは良いがどうにも型にはまりすぎていて、人間相手なら通用するかもしれないが、野生生物の不規則な動きに対処できていない。
「ウラウラは」
「ウランラだもん」
小声すぎて聞き逃しそうになるが、ソウマは反省の咳払いをする。
「ウランラは魔法の発動は早いが、思い切りが足りない。当てよう当てようと考えすぎて、タイミングを失っている。自分を信じて打てばいい」
口で言ったところで、そう簡単に直せるもんじゃあない。ソウマは自分が手を貸す他ないかと考えたが……。
「そうか、こういった場合は臨機応変に」
リーリンは走り回り、投げきったナイフを回収、その勢いのままにウサギを切りつける。
「やった!」
ナイフはウサギの首に食い込み、勢いよく切り裂いた。
「こちらもいけますわ」
デレシアの剣がウサギに当たるようになった。
斬る瞬間に手首を捻る必要がなくなった分、体運びが楽になった。
「これですわ。ワタクシが目指す剣の道! ぐふふふ、殴る感触! 最高ですわ」
ソウマの目にも動きが変わったことが分かる。野生動物の動きに遅れることなく、一撃で斬りすてることはできずとも、ダメージを与え、2度目3度目の振り下ろしで息の根を止めることができた。
「ちょちょっ、ウランラあんた! 今、私を狙ったんじゃあないでしょうね!?」
「そいつは君がちゃんと避けてやれよ。ウランラはちゃんとモンスターを狙ってるぞ」
「うんうん……」
ウランラもアドバイスを受けて、躊躇なく魔法を放つようになり、予測したウサギの移動先に合わせられるようになってきた。
各々が自分の動きの変化で進歩を感じたのはいいが、チームメイトの動きを全く気にしなくなったのはよろしくない。
「残り12匹、この辺りにいるのはそれだけだ。デレシアはウランラと自分のスペースを守るように、リーリンはウランラの攻撃を注意しながら、敵を分断するように好き放題走り回ってくれ。ウランラは魔力の使いすぎに注意するんだぞ」
こんな感じで第3層の奥でレッドタイラントベアに遭遇するまで、ソウマの出番はなく、3姉妹は大いに活躍してくれるのだった。




