STAGE☆112 「ぼっち男と再登録」
「もうこんなに小王国に近付いていたなんてな」
ギブン達は人知れずラドメリファに潜入した。
ラドメリファ共和国。元はラドア、メルクリス、リビアド、ファングリアと言う4国家が手を結び、やがて1つにまとまり旗を掲げた同盟国家。
グレバランスは元4国の中でも、一番小さいリビアドとほぼ同じ広さ。
当然4国は小王国も同盟に組ませようとしたが、時の国王は統合に応じなかった。
魔王軍が侵攻してくる地とあって、グレバランス王は小王国の現状維持を守り続けてきた。
「勇者パーティーは東部のファングリア地区から、ラドメリファに入国したんだったよな、テンケ」
テンケが仕入れてきた情報によると、ファングリアは4国の中で最大の領土を誇っていた。勇者は東の海沿いから共和国入国をしたとのこと。
「それがもう中央のリビアド目前まで来ているってのか?」
それはテンケがラフォーを通じて、勇者の足取りを今も追ってくれている情報。
「おかげで焦らずにはすんでいるけど、勇者一行は通りがかった全てのダンジョンを、潰しながら進んでいるんだろ? 本当にビックリだな」
ヴィヴィに乗ってテンケと2人、共和国と南の隣国の間にそびえる連邦の頂上に降り立ち、山を降るのにはヒダカとライカに頑張ってもらい、入国後は人目を避けるために徒歩でリビアドまでやって来た。
入国までは半日もかからなかったが、徒歩でリビアド入りに一週間。その間に勇者に追い越されなかったのは幸いである。
「やっと着いたのね。随分掛かったじゃない」
「サルーアの中でのんびりしていたんだろ?」
「失礼ね。ちゃんと研究も続けてたわよ」
大勢でゾロゾロと目立たないように、最小限で行動するにあたり、問題はみんなをどうやって連れてくるかだったが。
「俺の異空間収納には、空気がないから生き物は運べなかったんだよな」
しかし完全密閉できるように改造されたサルーアに、エミリアは空気清浄機能を搭載し、異空間収納の弱点を克服した。
「快適な旅ができたんだろう?」
「生き物は空気がないと、生きていけないのは知ってたわ。けどサンソとかニサンカタンソだとか、未だによく分からないままでも、風魔法で調整してみろってアドバイスの陰で、湖の中にも入れるようになったわ。まさか水より先に異空間に入る事になるとは思わなかったけど」
サルーアでの一週間は決して悪い生活ではなかったけど、物足りないものもたくさんあった。
「ギブン、今日はなんか作ってくれるよな」
ブレリアは今までも、毎日のように続けてきたセリフを、久し振りに口にした。
「こいつの魔道コンロが作る飯も悪くはないんだが、お前の料理が恋しくてならなかったぞ」
ギブンは収納してある食材を確認しながら話を続ける。
「みんな、簡単な物でもいいかな?」
リビアド領南部にある森の中、短時間なら問題ないだろうとサルーアを出して、みんなを降ろしたが、人目につかないよう、異空間収納の入口はすぐに閉じた。
突然森の中に現れた10人組の団体。ここで火なんて起こせば、誰かに見つかってしまうかもしれない。
「飯はどうにかなるとしても、どうする? 野宿するならみんなはサルーアに戻ってくれていいぞ」
ギブンはスキルを使うため、異空間収納に入るわけにはいかない。
ここまで付き合ってくれたテンケにも、ゆっくりとベッドで休んで欲しい。
「いっそのこと全員で街中に入って、宿でも取らない?」
エミリアの提案だが、貴族令嬢の剣士や獣人、龍人、人魚の姫君、そして白衣の2人の美女。
あまりにも目立ちすぎる面々が、一緒に行動するのは問題に思う。
結局皆はサルーアに、ギブンは野宿をすることになり、出来上がった手巻きずしを摘まみながら作戦を立てる事にした。
「勇者は旅をしながら、仲間を増やしてるんだよな」
そのほとんどが付き従っているだけで、勇者が認める仲間の数は当人を合わせて8人。
もしかしたらその数には、ゲーム設定的に上限があるのかもしれない。
「こちらも、フリュイを入れて8人だな」
ギブンは指折り数える。
「ピシュとバサラがここにいないから、仲間の数は一緒。援軍の黒魔人が100名来てくれれば、数の上でこちらが有利になる」
けれどエミリアとフリュイに戦闘能力はない。
しかしエミリアにはゴーレムのエレがいるし、レドーラも戦ってくれるなら、フリュイにはサルーアで参戦してもらうという手もある。
「……ちょっと考えたんだけど、勇者の仲間になる振りをして、接触するってのはどうだ?」
「どうやってですか」
オリビアの疑問にギブンは「この国の冒険者になってさ」と答えた。
「別に俺は勇者を倒したいわけじゃあないからな。魔王討伐をやめてくれるなら、話し合うのも悪くないだろ」
接触できれば流れを変えられるかもしれない。ゲーム補正が掛からなければであるけれど。
「冒険者、となるともしかしなくても偽名を使うのですね?」
グレバランスで指名手配を受けている立場で、今ある冒険者登録証を使うわけにはいかない。
新規に登録をする場合、神に祈りを捧げて、身の潔白を証明しなくてはならないが、こちらには何と言ってもネフラージュ様が付いている。
諸々を偽証しても問題はないはずだ。
「とは言え、全員で一緒に同じギルドに行く。わけにはいかないよな」
ちょうど8人いるので、2人ずつに別れようとしたのだけれど、フリュイがエミリアと別行動はイヤだと言うので。
「こうなる。ってことか」
オリビアとマハーヌ、ブレリアとビギナ、テンケがエミリア達と。
当然レドーラはビギナに付いていき、ゴーストゴーレムのエレはエミリアと共に行動をする。
「獣人と龍人とドラゴンって、ちょっと目立ちすぎないか?」
「だからって、冒険初心者のビギナと、人の姿にまだ慣れていないレドーラを、二人にはできないだろ」
亜人族である獣人と龍人が一緒にいるのは、確かに目立つだろうが不自然ではない。
「じゃあこっちは? 4人もいるんならさ」
「この3人をエスコートできるのは、たぶんオイラだけっすよ。ギブン」
エミリアとフリュイ、それとゴーレムのエレ。確かにテンケの言う通りだ。
「それなら……」
今一度オリビアとマハーヌの顔を見る。
どちらが1人行動を取れるかと言えば、方向音痴のマハーヌではなくオリビアが単独となるだろう。
けれどギブンとマハーヌが二人っきりで行動することに、当の人魚以外が首を縦に振るはずがない。
「……俺が1人で決まりなんだな」
男はまたぼっち行動を余儀なくされた。
次にどのグループから、勇者パーティーに接触するかなのだが。
「ギブンは最後がいいだろうな」
ブレリアがまとめる。
「最初はオリビアとマハーヌに接触してもらって、次はあたし達だな。テンケは接触しないほうがいいだろう。エミリア達とバックアップに回ってくれ」
「オイラの事なんて忘れてると思うっすけどね。勇者様は」
「それでもだ。万が一、見つかっても言い訳できるように、冒険者登録はしておいてもらおう」
ブレリアの案に異議はない。
勇者とは会わなくてはならないギブンは、テンケ達と行動するわけにはいかない。
「それじゃあ」
ブレリアから主導権をバトンタッチされ、ギブンはオリビアの方を見る。
「オリビアとマハーヌは連中が滞在している町に行って、そこで冒険者登録をしてもらう。そして偶然に勇者パーティーと遭遇した。と言う流れでいこう」
「分かりましたわ。確か勇者ジオウは、その町を拠点にダンジョンを攻略しているのでしたね」
「ああ、多少は時間があると思うけど、急いで向かってくれ」
ブレリア達はその手前の町で、勇者を待ってもらう。
「それじゃあ俺は……」
勇者がダンジョンを1つ1つ潰しながら進んでいるのだとしたら、まだ時間的余裕はある。
北西部に位置するラドア領に行って、その辺りにあるダンジョンを潰して名を売ることとする。
明くる朝、1人となったギブンは全力で走り、ギルドが開くと同時にラドア領にある、フレリンクという大きな町で、受付を終えて簡単な依頼を受けた。
それを午前中に達成し、本登録を終えた。
「グレバランスと登録条件が違うんだな」
ギブンが偽証したレベルは28。
そのレベルに合わせた依頼を達成したことで、無条件で最下級のFとなるグレバランスとは違い、一つ上のEで登録されることとなった。
「それじゃあ仕事をしますか」
展示された依頼の中あるダンジョン攻略の紙を眺める。
「Cランク以上でないと受けられないのか」
それでもダンジョンに入ること自体は禁止されていない。浅い所で採取をする程度は、Eランクにも認められている。
「入ってしまえば、どうとでもなるだろう」
新人冒険者として登録から7日、ギブンは4つのダンジョンを攻略していた。
ダンジョンはグレバランス同様、瘴気が高まれば自然に発生する。
今、共和国ではあちらこちらにダンジョンが発生しているのは、グレバランスの汚染度が高まっているからだろう。
「共和国はまだ、小王国で言うところの初期段階レベルといったところか」
その程度のダンジョン攻略なんて、ギブンにはピクニック気分で達成できる案件。
フレリンク冒険者ギルドに依頼達成の報告をする。
「すごい活躍ですねソウマ様。はいこれ、Dランクのギルドカードです」
1つ目の攻略は依頼も受けずに単独制覇をし、ギルドからは強めの警告をされた。
2つ目の攻略で実力を認めてもらい、ギルドからは例外的に、Eランクでもダンジョン攻略の依頼を受けられるように配慮してもらい、此度は最速でDランクへの昇格を果たした。
ソウマ・クラーチという偽名もフレリンクの町で、それなりに通るものになってきた。
「もしもし……」
5つ目のダンジョン攻略を開始しようとした時に通信が入り、オリビアとマハーヌが勇者一行に加わったことが報告された。




