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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
111/120

STAGE☆111 「ぼっち男の展望」



 普段は思考の妨げになると言って、一滴も飲まないエミリアだが、別にアルコールを嫌っているわけではない。


 気分を発散させる材料として、体を壊さない程度に飲むことは、むしろ好ましく思っている。


 ただ普段全く飲まないだけに、少量でしっかりと酔うことができるようだ。


「私たちに全く添い寝権がないって、不公平じゃあない?」


「私たちって、私もですか?」


 こちらは初めてお酒を口にしたビギナ、果実酒のほろ苦さに顔を顰めつつも、その奥にある甘さと芳醇さを気に入り、ついつい飲む量が増しているが、彼女は全くのシラフだ。


「あら? 分かっているのよ。あなたもまた、この理不尽の塊が、異性として気になっているって事」


 エミリアの目は据わっている。


 いつもは考えてから喋ることを心掛けている彼女だが、今は思いのままに深層心理をさらけ出している。


「考えてもみなさいな。もちろんA級だとか、S級だとかって冒険者との間に生まれる子供は英雄ともなりえるかもしれない。じゃあ希代の天才、この私との間に生まれた子供なら? しかもU級の子となれば、それはもうどのような天才が生まれるか、これはもう人類の英知のため、進化のために必須の行為が求められている」


「エ、エミリアさん?」


「止めないでくださいビギナさん。室長は今、日頃の鬱憤と共に枷が外れて、隠してきた欲望を全てさらけ出しているんです」


「フリュイさん、でしたっけ。あなたも相当に酔ってません?」


 フリュイは笑い上戸。

 常日頃から助手として共に行動する上司ではあるが、その実は下僕に近い扱いをされている彼女にとっても、今の状況はストレス発散をしている状態。


「いいでしょギブン、私とビギナもあなたのお嫁さんにして頂戴。なんならフリュイも付けるから」


「わ、私はえっと、えっ? なんで私も!?」


 シラフなのにまともな思考ができないビギナは、「私もギブンさんが好き?」「私もギブンさんが好き?」と繰り返し、フリュイは1人でチビチビと日本酒(ギブンが用意した)を飲み続け、エミリアはくだを巻き続けた。


 いつの間にか眠りにつくまで……。


「う~ん、あれ? もう朝か」


 伸びをするエミリア、頭が痛い。


 添い寝がどうとか言う話はどこへやら、皆が集まって鍋を突いていたリビングで、ギブンを中心に全員が雑魚寝で明くる日を迎えた。






 テンケが合流した。なぜかマハーヌも一緒に。


「道に迷ってたんで、連れてきたっす」


 方向音痴なのに自信家で、それでいてかなりの強運。


 何にしても合流できて本当に良かった。


「それでどうだった?」


 敵の戦力分析。テンケが勇者パーティーを離れてからの、知らないその後というヤツ。


「やばいやばいやばい、やばいっすよギブン。勇者パーティーの成長はハンパないっす」


 ラドメリファ共和国にも強力な魔物が大量発生し、広範囲に大きな被害が出ているらしい。


「魔王城がフォロー界に進出してきた所為ね」


 グレバランスの歴史も研究しているエミリアが、共和国を襲う脅威について分析する。


「どの魔王の時代でも魔王は、進軍した人間界で魔王城を建築、大きな戦争になって、女神アブローシュアン様の啓示を受けた勇者が現れ、魔王を退治する」


 それがゲームの設定。だったのだろう。


 魔王も勇者も異世界人である必要はなかったのだろうけど、顕現した2人の女神は設定どおりに、それぞれが選ぶ異世界人をこの世界に招き入れた。


「正直に言って、オイラが一緒にいた頃の勇者パーティーは、まだそんなに強くはなかったっす」


 それが今、共和国を闊歩する高ランクの魔物を物ともしない、途轍もない強さを見せているという。


「オイラの鑑定眼でみた数値だけで言うと、魔王軍は間違いなく滅ぼされるっす」


 この世界がゲームを基とする証拠の1つに、レベルとスキルとステータスの存在が挙げられる。


 如何にもご都合的に戦力を数値化できる鑑定スキルなんてものの存在。


 それはネフラージュ様からもらったギブンの専売特許ではなく、この世界の出身者でも習得できる者が稀に現れるユニークなスキル。


 ただ現世界人の鑑定スキルは、観察対象が能力を解放した時にしか鑑定できない。


 様子見だった前回は測定できなかった敵戦力、今回はじっくりと戦闘を観察したテンケが、見せてくれたのは、驚きの鑑定結果だった。


「オイラのスキルじゃあギブン同様、勇者様の能力は測れなかったっすが、他の人達の実力はこちらの皆さんに負けず劣らずだったっすよ」


 ギブンが見たテンケの鑑定スキルは、女神の加護を受けないモノとしては最高位に位置する。


「勇者様が認めた7人の仲間はもちろん、その他の75人も実力者ばかり。正面からぶつかれば、オイラ達に勝機はないように思うっす」


 ギブンがグレバランス王家の説得に失敗していることは、テンケもエミリアから聞いて知っている。獣人の国からも同じ答えが返ってきたことも。


「そうだな。魔王軍侵攻阻止を手助けしてくれた龍人の手を借りられれば、数の上での不利は解消できるんだろうけどな」


 現状のギブンがアテにできる可能性があるのは、もうそこくらいなのだが……。


 こんな事なら魔王軍侵攻が抑えられたからと、帰ってもらうのではなかった。


「それで、勇者御一行はすぐにでも、グレバランスに来るようっだたか?」


「そいつはちょっと読めないっすね。共和国は今、グレバランス並みにダンジョンが多数発生してるっすから」


 ダンジョンとは、レベルアップにもアイテム採取にも重要なクリアポイント。


 勇者パーティーはそれらを攻略して、更にレベルアップしてから進行してくるだろうとテンケは睨んでいる。


「……もしかしてグレバランスでも、また多くのダンジョンが発生しているのだろうか?」


 大事な会議なので、魔王城とも通信は繋いでいる。


 エミリアが改めて調整したが、まだクリアな音声が届くわけではないけれど。


 バサラに確認したところ、ダンジョンの発生は16カ所、把握しているとの事。


「なんで教えてくれなかったんだよ?」


『うん? 聞かれなかったからな。そんなに重要な事とも思っていなかった』


 ダンジョンでは外よりも強い魔物が発生すると言うが……。


 勇者達は勇者パーティーらしく、魔物の脅威から共和国を救いつつ、レベルも上げて来るのだろう。


『そうだそうだ。ダンジョンが発生したお陰で人間の軍がその対処に人手を取られてて、魔王城に向ける人手が揃わないという報告が届いたぞ』


「だからなんでそんな重要な事を早く言わない?!」


 魔王が人間界に降臨したことで活性化された魔物達。


 グレバランスのダンジョンともなれば、せめてB級以上の冒険者でないと対処できないだろう。


 強力な個体が相手となると、A級以上が対処にあたるしかない。ダンジョン攻略にはS級冒険者も手を取られてしっているそうだ。


 確かに魔族と戦争なんてしている場合ではないだろう。


『数人の黒魔人が各ダンジョンで、魔物を外に追いやる作業に当たっているが、人間共に比べれば、数人の人手で事足りている。お陰でこちらは余裕も生まれているが、なんならそちらに人手を貸そうか?』


 渡りに船だ。


 これからビギナに付いてきてもらい、魔界に行って龍人戦士に要請したところで、また力を貸してくれるという保証はない。だったら!


「わ、私だって役立ってみせます!」


「ビ、ビギナ?」


 引き留める間もなく、ビギナは出て行った。


「獣神の谷が近いからな。1人でも魔界に戻れると判断したんだろう」


 まだ会議も終わってないのに、ギブンが追いかけて行く訳にはいかない。


「だからって、1人で行かなくても……」


「ご安心ください」


「うわっ!? ビックリした。ってレドーラじゃあないか」


 ビギナと入れ替わりに入ってきたレッドドラゴンのレドーラ。


「キミが行ってくれるのか?」


「はい、お任せください」


 それは心強いのだが。


「凍結竜はどうなったんだ?」


「時間がないので手短に。私はあれ以来、かの災厄に出会すことなく、周辺の仲間達に警告をして回ることができました。一通り回れましたのでこちらと合流する事にしたのですが、この馬車に入る方法が分からず、途方に暮れていましたら、ビギナ様が出て参りまして、お急ぎと言うことでしたが、皆様に挨拶だけでもという、私を待っていただき中に入って参りました」


 一通りの説明を一度に詰め込んで、言いたいことだけを言って、「それでは」とレドーラは出て行った。


「そ、それじゃあ、魔人の手配よろしくバサラ」


『ああ、良いところを見繕って向かわせるよ』


 もう、これ以上勇者パーティーがレベルアップする前に、決着をつけなくてはならない。


 ギブンは魔族軍からの増援を待つことなく、共和国に向かうのだった。

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