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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
110/120

STAGE☆110 「ぼっち男の次の一手」



 魔王城からグレバランス城までは、そんなに距離はない。


「とは言え、知っていれば、こんな遠回りしなかったんだけどな」


 ギブンは南境バンクイゼ領、湖畔都市ベルベックにある第1王子ラフォーゼ・ウルグランド・グレバランスの居城で、国王である第7王子ケーリッヒ・オーセグ・グレバランスとその婚約者、フロワランス・フォン・エバーランスと父、オバート・フォン・エバーランスとの再会を果たしていた。


「ギブン様、お久しぶりにございます」


「フロワランス嬢、元気そうでなによりです」


「フランとお呼びくださいな。男爵様」


 この世界に来て最初に関わった少女に畏まれ、デレてしまうギブンの太ももを隣に座ったオリビアが(つね)った。


「えっ、なに!?」


「なんでもございません。旦那様」


「そうでしたそうでした、ギブン様とオリビアお姉様はご結婚なさったのでしたわね」


 不機嫌そうなオリビアを見て、フランは笑った。


「さて、わざわざ訪れてくれたんだが……」


 魔族との戦争回避は第二王子の時と同じく、王子たちやエバーランス公爵にも却下されてしまった。


 何も進展することなく獣人国へ向かう事に。


 と、その前に食事会が開かれ、穏やかな時間が流れていた。


 ここはゼオール第二王子のようにギブンを捕まえよ! と言われなかっただけありがたいと思うべきだろう。


 なんて思っていたが、ギブンの食事には大量の睡眠薬が仕込まれていた。


 状態異常無効化のお陰で捕まることはなく、思わずオリビアの手を引いて逃げ出した。


 さて、どうしたものか。


「旦那様がお望みなら、私は家を捨てても構いません。いえむしろ私から縁を切りますので、どうかこのまま連れ去ってください」


 彼女の性格を考えたなら、この申し出はしごく当たり前の事に思えるが、本当にそれでいいのか?


「いや、待てよ」


 このまま彼女を置いていったら、今度はオリビアが人質のような扱いをされやしないか?


 ギブンは少し考えた後に、オリビアを馬車に乗せて走り出した。


「すまないオリビア、問題が全て片付いたら、必ず信頼を取り戻すと誓うよ」


 オリビアは男に抱きついた。


 この快適な馬車旅であれば、子作りもできるだろうけど、オリビアは我慢した。


 一度の口づけだけで。






 獣人国に付いた頃、ギブンはグレバランス国内で、指名手配犯にされてしまった。


 手配書がブルーグレラやヒュードイルに届くのは先の話だが、ギブンはブレリアの父である里長にも、グレバランス王家と同じ事を言われてしまった。


 祝言まで済ませた娘婿の願いだからと、バドゥラウン・アウグハーゲンは「聞いてやりたいのだが」と難しい顔をするが、人間の国から不興は買えないと、顔も見なかったことにして、娘付きで逃がしてくれた。


 まさかこんな強行軍になるとは思っていなかったので、まだエミリアとテンケとは合流できていない。


「この辺りで一番高い場所と言えば、やはり獣人の谷か」


 厳密には谷のある山、獣峰山を登ることになるのだが、その道中にファムの存在に気付き、ギブンはエミリアの所までファンタムバードを飛ばし、思念派を繋いでもらった。


『やっぱり通信技術の完成は、まだまだ遠いわね』


 ファムを通じての念話のクオリティーの高さに脱帽のエミリアは、あと半日もあれば合流できると言って通話は終了した。


「オリビア、もう一度ファムを飛ばしてくれないか?」


 仕事を終わらせて、戻って来たのファンタムバードをもう一っ走りさせて、その従魔が帰ってきたので馬車に入った。


「今日は俺が晩飯を作るよ」


 ここのところ料理をする時間が取れなかった。ゲームやラノベのないこの世界に来て、残された趣味は料理だけ、食材はいっぱい残っている。


 馬車の中の小屋にあるキッチンに立ち、ウキウキ気分のギブン。


「ブレリアさん、ちょっといいですか……」


 オリビアとブレリアが外に出て行った。


「2人はどうしたんだ?」


 ブレリアと共に獣人国にやってきていたビギナは、珍しいものだらけの小屋の中を観察して回っていたが、ギブンに声を掛けられて近寄ってきた。


「はい、食事前にお腹を減らす。と言って出て行きましたよ」


 なんだかヤな予感もするが、仕度する間が静かなのも悪くない。


「う~ん、もう少し量を増やすかな」


 この後やってくるエミリアとテンケの分、もしかしたら開発室長の助手であるフリュイも一緒かもしれない。


 ギブンはすき焼きを用意を終え、みんなが揃うのを待つことにした。


「そう言えばレドーラはまだ、何も言ってこないのか?」


 従魔契約をした魔獣とは、特殊なスキルがなくとも、相棒を感じる事ができる。


 しかも人型になれるレッドドラゴンのレドーラとは、ビギナは念話で話をすることもできる。


「結局生き残りの仲間を見つけることも、凍結竜を発見することもできなかったようです」


 今は他の群れの巣を訪れて、危険を報せ回っているらしく、ビギナの許へ帰還するのは数日後だと言っているそうな。


「苦労しているみたいだな。けどギリギリでも、勇者がやってくる前に合流できるならそれでいい」


 外に出た二人が戻らないまま、エミリアが到着した。


 案の定、移動要塞サルーアで現われて、運転手代わりのフリュイも連れてきた。


「あれ、テンケは?」


「もっと有力な情報が必要だろうって、勇者のいる共和国に潜入したわ。途中まで送ってきたから合流が遅れたわけ」


「1人で? 情報収集ぅ!?」


 あれほど無理はしないようにと注意したのに、テンケがギブンに感じている恩は、こんなものでは返せないと言っていたそうだ。


「まったくテンケのヤツ……。帰ってきたら、たっぷりのご馳走で労わないとな」


「その労い、私にはもらえないのかしら?」


「もちろんエミリアにも感謝している。俺の身内になったわけでもないのに、テンケといい、本当によくしてもらっている」


 割り下もできて後は外の2人が戻ってくるのを待つだけ。


「どうしたエミリア」


「いえ、なんかとても悲しくて、そうね。私もようやく分かったわ」


「なにを?」


 急に涙ぐむエミリアに焦るギブン。


「えーっと、その……エミリア?」


 何かを言わないと。そう思ったちょうどその時、オリビアとブレリアが小屋に入ってきて、話は中断する。


「なんだなんだ、凄くいい匂いがするじゃあないか」


「おかえり、2人とも……、直ぐにでも食事にと思ったが、先にシャワーを浴びてきたらどうだ」


「ええ、そうさせてもらいます」


 腹減らし程度の運動ではなかったようだ。いや、なんとなく分かっていたけど。


「オリビア、なんだか上機嫌だな。逆にブレリアはちょっと塞ぎ込んでるか?」


「はい、今夜の重大事項を決めて参りました。詳細は後ほど」


 数分後、訓練という名の真剣勝負をしてきた2人が、シャワーを終えて食卓に着いた。


「くそぉ、かなりいい所まで追い込んだのに、最後の最後に逆転されてしまった。まったくツメが甘かったぜ」


「ふふん、最後に物を言うのは冷静さ。どれほど追いつめられようが、諦めることなくチャンスを掴む冷静さが重要なんですよ。ブレリアさん」


 ところで、すき焼きをスタートする。


「真剣勝負。と言うことは何かを賭けていたのかした?」


「今夜どちらが妻として、旦那様と添い寝をするかを決めてきたんです」


「ぶっ!?」


「おい、ギブン汚いぞ」


「す、すまん……」


 思わず噴き出したギブンの背中をブレリアがさすってくれる。


 そこからは上機嫌のオリビアが夢見心地のまま箸を進め、ブレリアがヤケになったように酒を呷った。


「美味しかったわね」


 すき焼きをすると肉が一番売れるのはどの世界でも一緒、ギブンは肉野菜のバランスを考えて、次々と食材を鍋に足していく。彼が食べ始めたのは、みんなが食べ終わった後だった。


「いいですよね。添い寝」


「……それじゃあ3人で寝ようか」


 添い寝だけならとOKするが、勝負をなかったことにする提案に、ブレリアは頭が外れそうなくらい何度も縦に振り、ため息の後にオリビアも了解した。


「それなんだけどね。この人の奥さんに、なぜ私たちが加われないのか。寝る前に話し合いたいと思うわけなのよ」


 エミリアはぼそりと言った後、真っ赤になってワイングラスを空にした。

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