STAGE☆109 「ぼっち男のリモート会議」
「デタラメなヤツだ。その力、確かに大魔王の名に相応しいと認めざるを得ないな」
ルグラブル・グーブル将軍は膝をついた。
「技は未熟そのものだが、なんて恐ろしい力とスピード、防御力をしているのだ」
将軍と呼ばれる事はあって、剣技も拳技も技のバリエーションも、ギブンとは大人と子供くらいの差があった。
ギブンの剣技はスキルで強化されているが、経験値も加えて考えれば、魔法剣士の参謀官ラージ・レベックにも劣る。
「盾代わりの結界を破れん俺には、最初から勝ち目はなかったのだがな」
力任せに圧し潰そうとしても、ギブンの結界は揺らぐこともせず、将軍がどう回避しようとも索敵スキルで相手の居場所を認知し、未来位置を予測して、遠距離魔法を的確に食らわせ続けた。
「なにより恐ろしいのはその魔力だな」
敗北を宣言し、立ち上がった将軍をギブンは魔法で治療した。
「如何にも、魔王を凌駕する、大魔王の名に恥じぬ、大魔法の使い手であるよな。弟よ」
「そうなのだ兄者、このバンダブル・ベスター、大魔導士の肩書きを返上せねばなるまいよ」
「あなた達、気が済んだ? 彼の実力、分かったでしょ?」
ラージが言う通り、実力を実感したギブンは将軍に目をやる。
ルグラブルの剣は重かった。
上級剣技スキルを全力全開で斬り掛かったのに、1ミリも下がらせることはできなかった。
この世界に来て1年、オリビアから教えられた全てを掛けたのにだ。
大魔導士であるバンダブルは、百を超える魔法を使える。
魔力と想像力は確かにギブンが勝っているが、知識量で言えば彼の十分の一も学んでいないだろう。
千も二千も魔物を従える事ができると言うエーゲブル。彼からも教えを乞いたいと切に望む。
ギブンは技術の面では四天王の誰よりも劣り、誰よりも容量と頑丈さが勝っているに過ぎない。
それでもこのチート能力を前面に押し出し、戦争回避の道を見つけたい。
「俺は大魔王と認められたと受け取っていいのか?」
「そこまで認めてはおらん。魔族のことが一番と語れん汝に、王という地位は任せられん」
将軍の意見ももっともだ。
「とは言え、その力を知った今、敵対されては堪ったものではないがな」
ギブンだって、どちらかに与しようなどと考えてはいない。
「魔族の為に……か」
少し前にピシュと話したことがある。
この世界の人間族はどうかという話。
「正直どちら側でもいいんだけど、あなたとグレバランスを見て回って、この世界の人間に協力しようと言う気が起こらなかったのは確かね」
王族や盗賊に関わることで、この世界の人間に変な先入観を抱くようになった気がするが、だからこそ魔王という肩書を素直に受け入れられたのだろう。
「俺をトップには考えられないか。そいつはしかたないな。だが安心してくれ。魔王軍に敵対したりはしない。俺は俺で自由に動かせてもらう」
どちらの陣営にも与しないつもりだが、勇者の動き次第では、魔族側に付くことにならなくもない。
ギブンは決めたのだ。魔族の問題は解決するが、人間族にも被害を出さないよう働きたいと。
テンケと連絡が取れた。
一緒に行動してくれている、エミリアの新発明によって。
『ようやく、“電波”って物の性質が理解できたわ』
まだクオリティーは低く、ノイズだらけの音声しか拾えないが、有線では開発に成功していた通信が、導線なしに繋がるようになった。
「ナイスなタイミングだ。ちょうど話がしたかったんだけど……」
ギブンは南境バンクイゼへ向かおうとしていた。
オリビアのファンタムバードは、契約者の望んだ場所に跳躍する能力があり、念話を中継する事ができるからだ。
どこにいるか分からないテンケは探せなくても、オリビアなら実家にいる確率が高い。
従魔契約を交わした主が、縁ある者を心に思い浮かべれば飛べるファンタムバードの力を借りて、テンケと連絡を取ろうと考えたのだ。
しかしそこで、しばらく時間をもらえれば完成させてみせる。と言っていたエミリアの言葉を思い出して、先に試みたところ、通信に成功したのだった。
「今、どこにいるんだ?」
『ヒュードイルよ。誰かさんがリューランド島の砦を使えなくしてくれたお陰で、母国の私の研究室に戻るしかなかったもの』
そもそもヒュードイルの動きを制御して欲しい。と頼んで別れたのだから、リューランドにいてもらっても困るのだが。
『あなたから教えてもらったキアツ? を魔法で操作して、雷の精霊が落ち着ける低キアツと高キアツで挟み込んだの。その風魔法を操作して通信できるようになったわけ』
その実験をと考えていた時に偵察に出ていたテンケが戻ってきて、いざと言うタイミングでギブンから回線を開いてきたと。
「それで空が急に曇ったのか。そしてこのノイズは雷を利用したからなんだな。それにしてもこんな広い範囲にどうやって魔力制御を? 俺だってこんな広範囲に魔力を張り巡らせるなんて、できっこないぞ」
『仕組みの話、今する? そんな時間あるの?』
ギブンは改めてテンケに替わってもらった。
「それじゃあ、勇者はもうラドメリファ共和国に入ったんだな」
『そうっす。と言っても共和国は広いから、まだグレバランスまでは距離はあるんっすけど』
「想定よりかなり早いな」
ネフラージュ様の話を基に考えるなら、全行程の半分くらいが妥当だと思っていたのだが、勇者は思ったよりもずっと早く進んできていた。
ゲームとしての決戦の地、グレバランスに近付けば近付くほど魔物は強くなる設定のはず。
「けど普通に考えて、冒険者はC級以下でもグレバランスで仕事をしている。プレイヤーに課せられる攻略条件と言うのが存在するにしても、やる気のある奴なら、そんなに苦労する旅路でもないのかもな」
『こうりゃく……なんすか?』
「ああ、わるいわるい。こっちの事だ。それで、メンバーは増えていたか?」
『それなんすけど……」
テンケは口籠った。
「な、78人~!?」
意を決して情報を伝えるテンケに、ギブンは唖然とした。
真なるメンバーとなったのは3人、テンケの目にはそう映った。その他の75人は勇者を敬い、勝手に付いて来ているようだと言う。
しかしその誰もがB級冒険者以上ではないかと、テンケは観測している。
「この短時間にそこまで調べたのか?」
『えっ、オイラ言いましたよね? オイラも鑑定スキルはレベルCだけど持ってるって』
そう言えば聞いた事がある気がする。レベルCだと、相手のランクとレベルが読めるようになる。
「つまりスキルや得意魔法なんかは分からないのか」
『め、面目ないっす』
「あっ、いやそう言うつもりじゃあなくて、相手のランクが分かるのは大いに助かるよ」
ネフラージュ様の加護のお陰で、隠蔽鑑定のスキルがレベルSより上にあるギブンは、つい失言をしてしまい慌ててお礼を言った。
「しかし純メンバーが3人も増えたって、その3人は他の75人と何が違うんだ?」
『距離感っすよ。勇者様は真に心を許した相手しか、近付けさせない心の距離感があるっす』
男1人に女2人。
『男は投げたナイフを魔法で操作して、自分は短剣と小さな盾で武装してるっす。どんなスキル持ちか、他にどんな魔法を使うかは分からなかったっす』
冒険者としてのレベルもかなり高いと読むが、仲間になる経緯を調べられるほどの時間はなかった。
『長身の女性は鞭を使ってたっす。まるで生き物みたいに振るうのも、たぶん魔法を使ってるんだと思うっす』
新入りの男性と仲良さそうな素振りが見られたと言うことで、連係も注意しなくてはならないかもとテンケは付け加えた。
『最後に小柄な女性っすけど』
『その子については私が説明するわ』
エミリアが割り込んできた。
「銃って、俺がエミリアに喋ったあの?」
『そう、それよ。そんな国家機密を持つ冒険者なんて、おそらくはガーラ帝国の権力者か何かじゃあないかしら』
火薬の研究が盛んだという大陸中央にある帝国には、エミリアも技術協定国として、難度か訪れた事があるらしい。
そこではまさしくギブンが知る銃の研究が進んでいて、その女性は短銃から小銃まで使いこなす名手であるとのこと。名手云々はテンケからの報告だ。実際エミリアが見たわけではない。
『それで調べてみたんだけど、帝国の銃は火薬で鉛弾を撃ち出すだけでなく、魔石に魔法を溜めて、魔力弾を打ち出すこともできるらしいの、技術協定って言っておきながら、機密事項の多い魔道具なのよね』
『その銃使いが魔法まで使うかは、まだ分かってないっす』
テンケは謝罪するが、情報収集は十分すぎる成果を上げてくれた。
他の有象無象もB級以上の冒険者揃い、侮れない一団である。
勇者として仲間を集めるのは想定していたが、メインになるメンバーの他に、セカンドに位置するメンバーがいるとは予想してなかった。
「俺、ちょっとグレバランス城に寄ってから、オリビアに会って、獣人国へ向かうことにするよ。テンケ、エミリアもブルーグレラまで来て欲しい」
今ならまだ、ゼオール殿下もグレバランス城に到着していないだろう。
とにかく今は、勇者の戦争介入を阻止しなくてはならない。
そして願わくば、魔王軍との戦争回避も望んで。




